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第54話 あの。私の記憶がなくなるという話はどうなりました?

「私がダイカルと結婚することは、確定なの? 」

(私の一生はもう決まっているんだろうか。)

 思わず漏れた質問に、女神リーアは首を横に振った。


「馬鹿馬鹿しい、神が人の運命を確定なんかできるものですか。」

 自身が神でなかったら冒涜ともいうべき言葉がリーアから飛び出して、私は驚いた。


「それができるのなら私は神になっていないし、ガシュミルドは人間になろうなんて思いつきもしなかったでしょうね。


 アスリーの幽体が掠われたときに私が打てる手はいくつかありました。

 その中でセイラの幽体をアスリーの体に入れる選択がセイラが安泰な人生を送れる蓋然性が高いことを知って、そうしただけよ。」

「確率が高い、それだけのことなのね。」

 私が確認すると、リーアが頷いた。


(よし、なら話は別よ。)

 ダイカルを受け容れるかどうかは私が選んでいい。

 それよりも──


「セラムと私はどうなるの? 」

「それぞれが幽体として独立するしかないだろうな。

 セイラの意識は人間本来の容量へと成長していっている。

 2人で1人分の容量になるようにセラムの意識量を抑えようとしたら、セイラの大きな意識にセラムの意識は吹き飛ばされてしまうだろう。

 つまり、セラムとセイラの意識の総量はもう1人の幽体の中には収まらないんだ。」


「そんなことができるの? 」

「普通はできない。

 1つの幽体を2つに分けるには大きな神的なエネルギーがいる。

 そのエネルギーをどうやって手に入れるかの提案をしたいというのが、今回、俺とリーアがアンパーに来た目的なんだ。」


(また難問を持ってきたんでしょ。)

 自分が消えなくてもいいらしい話の展開に安堵の息を吐きながら、何を言われるのかと身構える私にリーア、いや人間ぽいアイリさんがにこりと笑う。

「その話は後にして朝食をいただきに行きましょう。

 伯爵が渾身のメニューを用意させて待ってくれているみたいよ。」


◇◆◇◆


 みんなで連れ立ってトルキア伯爵のところで朝食をいただき、話題はミッシュとアイリさんのこと、トルキア伯爵の結婚の予定や私たちがフェリアスさんと会う手順などの多岐(たき)(わた)ったけれど、私はほとんど聞いてはいなかった。


(セラムと姉様が2人に分かれる。

 私はどうしたら良いの。)

 その問いがぐるぐると頭の中を巡っていた。


 これまで姉様と一緒になれることだけを目指してきて、私が男性になる手段があるかもしれないと知って、これで姉様が男性になっても女性のままでも結ばれることができると、私は天にも昇る心地だった。

 その一方でセラムと姉様の2人の意識のどちらが残り、残らなかった方はどうなるのかはすごく気になることではあったけれど、その解決は姉様自身にしかできないことだと私が極力触れないように努力してきた。


 だから、姉様が男性と女性に分かれて2人ともが存在できるのなら、私はそのことを喜び恋人関係にあるセラムの手を取るのが順当なんだろう。

 なのに、自分で満足に物事の判断もできない状態になってしまう姉様を誰かの手を取るのに任せて、私はセラムと幸せになるんだと考えたら、堪らなくなった。

 だって、今朝震えていた姉様の様子が胸を(えぐ)って消えないんだもの。


 それに何より──

(姉様を人に取られるのは嫌だ。

 セラムを取られるのも嫌だ。

 だって、2人は同じ人なんだもの。

 半分で満足なんかできやしない。)

 理屈がおかしいのは分かっている。

 だけど心が納得しなかった。


◇◆◇◆


「さて、それでは続きを話そうか。」

 ミッシュがそう切り出して、私はティルクとともに部屋に戻り、再びテーブルについて相談を始めた。


「そうね。

 幽体を2つに分けるには膨大な神的なエネルギーが必要です。

 フェリアスは、魔王だったフェリオスが眷属の力を投げ打つことと引き換えに幽体を分けたの。」

「そんなことをして、大丈夫なんですか。」

「フェリオスは魔人族の国を統一したけれど、在位期間が短かった原因になったわ。

 フェリオスは王朝崩壊の混乱の中で判断力の覚束ないフェリアスを庇って亡くなったから、フェリオスが命を落とす原因にもなりました。」


(フェリアスさんを庇って、フェリアスさんは亡くなった…… )

 フェリアスさんの境遇に最近起こった私の境遇を重ねて、フェリアスさんの心情に思いを馳せようとしていた私に、リーアは悪戯っぽい視線を向けた。

「そんな思いはしない方が良いわよね。

 それでどうやって神力を得るのが良いか、ガシュドに相談していたのだけれどね。

 あなた、新しい魔法属性を創造しない? 」

「はい? 」


「新たな魔法属性の立ち上げは私がするのだけれど、私は新しい魔法の開発には向いていなくて。

 あなたが新しい魔法の定義を1つの属性魔法に落とし込む作業を受け持ってくれると、とても助かるの。」

(私の職業が剣士だって、リーアは忘れているんだろうか。)

 私に魔法の才能が無くて職業が剣士になっているから、この世界で生きていくために、母様にあんなにしごかれたんだけど。

 そんな思いが漏れて、ちょっと視線が冷ややかになってしまった私にリーアが平然と説明を始めた。


「ああ、異世界に由来する能力は、この世界の定義から外れているから表示されないのよ。

 だからフェリアスから遺伝したティルクの魔法属性もセイラの魔法属性も表示されていなくて、魔法が使えることは職業欄に反映されないことになっています。」

「「え? 」」

 ティルクと私の声が揃った。


(リーアはこの世界の神なんだから、システム管理者みたいなものでしょ。

 ”なっています”じゃなくて、システム更新して反映させましょうよ。)

 リーアをつい睨んだら、リーアが視線を逸らした。

(……あれ? )

「リーアは私にオートモードの魔法を授けてくれましたよね。」

 念のために聞いてみる。


「……オートモードは私なりに研究した、フェリアスの魔法の劣化版です。

 それでもうまく働かないから、オートモードとオートモードリバースの2つのバリエーションに分けて、それぞれオンオフがあるの。」

(500年経っているんですよね。)

 リーアの首が回ってそっぽを向く。

 どうせリーアにはもう伝わっているけれど、ティルクのことがあるので黙っていることにした。


「セイラのいた世界には、数学、物理などの科学が発達していて、プ、プロブラン?、プログラン?、とかいうのも学校で手ほどきしているんでしょう?

 そうした知識を使って、セイラはサミュルの近くにいたときから魔法を作り出していましたよね。

 あのやり方は今回の作業に最適らしいわ。」

 リーアがちらりとミッシュへと視線を遣りながら言う。

「要は、リーアの苦手分野なんだ。

 セイラが手伝ってくれたら助かる。」

 横からひょいとミッシュが口を挟んで、それから手伝いをしたそうなティルクには首を小さく横に振って牽制する。


「もう夏までそんなに時間も無いのに、今からどんな魔法を作ろうというの。」

「今、欠損した肉体なんかを修復するのには、闇魔法と神聖魔法を同時に使わないといけないから難度が高いでしょう?

 それを1つの属性で回復できるようにしたいの。

 そうすれば回復と修復の難度が劇的に改善する。

 セイラが魔法属性を付与して回れば、戦力の大幅な向上になるわ。」



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