第49話 妹属性? そんなもの要らぬ
話自体は先週にできていたのですが、違和感があって作り直していました。
大変遅くなりすみません。
ティルクたちが北に去った後も少年は北への道を眺め続けていた。
(あの鬼人族を取り込みたいのはやまやまだが、ミシュガルドに私が北で仕掛けようとしていることに気が付かれるのは拙い。)
魔人族を中心地とした攻撃を仕掛けるに当たって、分かり易い攻撃をまず東に仕掛けてそちらへと注意を向け、次にそれを陽動とした、気付かれるかもしれない攻撃を西に仕掛けた。
魔人族たちはその2つの対応で手一杯になるだろう。
(次の手を進めるためにも北へ行く必要はあるが……
多少進行が遅れることになっても、今近寄るのは止めるべきだろうな。)
少年は微かに首を振った。
今はまだ駒も不足している。
そもそも魔族の王を始末し、今は指導者として魔族の多くを意のままに操れる立場にいるが、今の自分の肉体は魔族ではない。
魔族の王として魔族全体に号令を掛けるために依り代となる体を探して、やっと手に入れた王になれる素材はあまりに幼かったが、幸運なことに一卵性の双子だった。
まずは成長を促進させて一刻も早く大人の体にして、できれば肉体の持つ能力も強化させるために、肉体の特徴が同一で才能に劣る弟を実験体として使い潰せば、兄の肉体は素晴らしい素体となるだろう──
父親と兄から弟に関する記憶が潜在化するように誘導し、弟の体を自由に使うために、コールズの幽体を切り離したのと同じ魔物ズィーダの腹に寝かせた弟の幽体を切り離し、自分の幽体と紐付けした上で弟の幽体を喰うことに成功した。
だがその経過を父親に発見されて、父親は記憶の戻らないままに兄を連れて逃げ出した。
手駒が足りないために自分が弟の体の保全作業に没頭している間に父子は逃げ、差し向けた配下は父親を殺したものの肝心の兄を取り逃がした。
以来、なぜか行き先を探知することもできなくなっている。
(……あるいは、兄の方は魔族の手勢から逃げおおせた後に、人知れず死んだか。
魔力7割の素養を持つ肉体というのは奇跡のようなものだ。
勿体ない、あの体があれば、できることも劇的に増えるというのに。
今のこの体の能力を強化しても王への道は開かれるが、捨てても良い覚悟で無茶ができない。
せいぜいこうやって誰にも気付かれない場所で体を使い、成長を促進し馴染ませるのが精一杯だ。)
兄ジューダの体を手に入れられなかった運命の皮肉に溜め息を吐きながら、魔族の指導者──今の名乗りはジョズ──は東に向けて足早に立ち去った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
コールズさんの直感は未だに発現していない。
コールズさんの焦りが深くなるにつれて、私と力の劣るウィーナさんが相手をするだけでは訓練の量が足りないと言い出して、最近では体力の続く限り、他の皆とも訓練をしている。
受けと攻めの1回1回が直感を発動する機会となるため、とにかく力のこもった攻防を1回でも多くやりたいと、最近は私以外の相手とするときには1対3や4で組み手をしていることも多い。
集中力が続くならばコールズさんの言うとおりなのだけれど、ときおり挟む食事と休憩の時間以外はずっと一日中やって集中力が続くわけもなく、気合いの籠もらないままやっている場面が時々見受けられる。
コールズさんにはそれとなく指摘してみたけれど、今のコールズさんには忠告に耳を傾ける余裕もなく、一向に直感が発動する気配もない。
「もうすっかり春めいてきて、夏にはシューダ討伐があることを考えると、時間を無駄にしてもいられないと思うの。
ねえ、これからどうしようか。」
コールズさんが直感を得るのは時間の問題だし、今の状態は単に時間を浪費しているだけなんじゃないかという気がして、これからの行動を今いる仲間に問いかけてみたのだけれど……
”そう言うセイラはどうしたいの? ”
そんな視線が集まってきて戸惑う。
もちろん腹案はある。だけどセラムと私がまだ別れる前には、同じことを言ってもそんな流れにはならなかったと思う。
それに最近までは、議長役というか、私が提案すればそれぞれが意見を言って、その様子を見ながら肯定するか修正する形で提案をすればそれがたたき台になって、意見の統一ができていた。
(みんなが母様を私のバックに見て議長役を受け容れてくれていたということも、相手が眷属の冒険者たちだったからということも、もちろんあっただろうけれど、今のこのメンバーの反応の仕方が違うのはきっとそれだけじゃあないよね。)
なんとなくモヤモヤとしながら女性陣を見回して、それから左横に視線を向ける。
「ねえ、言ってみて。セイラちゃんはどうしたい?
セイラちゃんがやりたいことをやって、それで問題ないようにできるだけみんなでサポートしてあげる。」
一番の違いは、にこにこしながら私を妹扱いして猫かわいがりしようとするウィーナさんで、何故かみんながそれに乗っかった。
威城のメイドのみんなも、確かに前から多少そんな空気はあったんだけれど、私の妹分的な扱いが加速している。
メンバーの序列がコールズさん、ウィーナさん、威城のメイドのみんな、離れて私とソバット君、また少し離れてジューダ君みたいな位置付けになっているのを感じるのは気のせいだろうか。
ユルアとノーメは私と同い年なのに、なんで私がそんな扱いになるかな。
ともかく、私の問いかけに対する返しが誰からもなくて話が進まないので、自分から提案する。
「コールズさんの訓練は旅を続けながらでもできるわけだし、私としてはフェリアスさんに一度お会いして、いろいろとお話を聞いてみたい気がしているの。
本当だったら早く帰ってみんなに直感のことを伝えて、みんなが直感を覚える時間を確保したいところだけれど、ほかにも何か知っておくべきことややっておくべきことがないか、フェリアスさんに聞いてみたいかなって。」
私が話すとウィーナさんがみんなの様子を見てマイナに視線を向けると、マイナが軽く頷いて話す。
「コールズさんのことは私も同じ意見だし、フェリアスさんのことは確かに気になるよね。
私たちが知らない各国の王の力が全盛期だった頃の知識をたくさん持っている人だもの、何か役に立ちそうな話を聞けるかもしれないね。
で、フェリアスさんのところへ行くんだったら、トルキア伯爵の意見とご都合を伺いに行こうよ。」
(ほら、ウィーナさんが司会進行役でマイナがまとめ役みたいになってる。
パーティリーダーは私なんだけどな。)
威城のメイドのみんなはビアルヌにいたときは私の指示に従っていてくれたし、この間までもそうだったじゃない、と私が考えている間にマイナがコールズさんたちを呼びに行った。
「セイラ姉ちゃん、ほかの姉ちゃんたちにどこに連れて行ってもらうの? 」
(私は幼児かっ。)
むかっときたのを抑えて、入れ違いにやって来たジューダ君の手を取ってみんなの方に向かおうとしたところに、空から何か大きなものがドンッとぶつかってきて、私は仰向けにひっくり返った。
ジューダ君と繋いだ手は引き千切られるように離れて、ジューダ君は私の手に引っ張られた勢いのままに転んでいる。
(気配を感じなかった! 反撃を…… )
体に纏わり付く何かの生き物を引き剥がしたいけれど、腋の下に潜り込まれてホールドされていて身動きが取れない。
腹部全体に手が届かないどころか相手の体に触ることもできなくて、もう急所をがっちりと押さえられてる。
これは拙い、重傷を負う前に何かの魔法で攻撃をと考えているうちに、胸の間から何かがにゅうと突き出てきた。
「姉様っ! 見つけた、姉様だあっ!! 」
そこにはボロボロと涙を流しているティルクの顔があって……。
「あ、ああ、ティルクだったの。」
「ようやく会えたのに、姉様が冷たいーっ! 」
脱力した私の呟きを拾ったティルクがさらに泣き出して、私の顔や胸に涙が零れ落ちてきた。




