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第48話 上げ底? 残念でした、ちゃんと中身が詰まってます

 翌朝、王室のリビングでガズルさん夫妻と合流して外に出ると、母様が用意したジャイアントワーウルフ3頭が待っていた。


 移動手段として一般的には馬を使うのだけど、戦闘力を加味したいときや悪路が予想されるときには魔獣の方が使い勝手が良い。

 ただ、狼系統の魔獣は犬と同じで、主人と認めた相手には忠実だけれど、主人と認めさせるだけの実力がないと乗りこなすことができない。


 私が一番大きなジャイアントワーウルフを選んで一睨みすると、ワーウルフはぺたんとお座りをして頭を下げてきたけれど、後の2人はと見ればワーウルフと睨み合いをしていて、しばらくした後にワーウルフはようやく服従することにしたようだ。


「ティルク。私とアスリーは王城でダイカルともう少し打ち合わせをしてからビアルヌへ戻るよ。

 遅れないように夏までには帰っておいで。」

 母様の指示に私は頷いた。

 リルとフェンはビアルヌで借りたフェンリルとともにまだお城の中庭でゴロゴロしているから、母様たちは帰りもあの2頭に乗って、もう1頭は伴走でもさせて帰るつもりだろう。


 季節はもう春めいている。

 私は母様と後のアスリーさんに頷いて、行ってきます、と声を掛けて3人でジャイアントワーウルフに騎乗して出発した。


◇◆◇◆


 アンパーまでの旅は順調で、ガズルさん夫妻は新婚と聞いて、道中、さぞイチャイチャと見せつけられる覚悟をしていたのだけれど、夫妻はほど良い距離感で仲睦まじくて、もう何年も夫婦をしているような落ち着きがあった。


 何でも2人は幼なじみで早くから恋仲だったけれど、お互いの家の事情から逃れるために駆け落ち同然に逃げ出して冒険者になったのだそうだ。

 冒険者になって結ばれたのかというと、もし子どもでもできると家の承継権を巡って余計に問題が複雑化する可能性があるからと、清い関係を維持してきたらしい。


「でも、最近になって両方の家が僕たちのことを諦めて兄弟姉妹を後継者と決めたので、この年になってようやく結婚して、里帰りをするところなんだ。」

 ガズルさんは苦笑いでそう説明してくれて、チィーダさんは少し恥ずかしそうに微笑んでいる。

(ああそうか。お互いが20歳を超えて初婚なんて珍しいもの。

 当然、訳ありだよね。)


 姉様はびっくりしていたけれど、この世界の人族の平均寿命は30歳半ば。病気や怪我、魔獣などに襲われて亡くなる人は多い。

 だからみんな早くに結婚して子どもを産んで、子どもが路頭に迷わないようにしようとする。

 鬼人族なら近くの人か親戚が面倒を見るけれど、農村が魔獣に群れで襲われたときなどは甚大な被害が発生する。

 親に死に別れた子どもが生き延びられる可能性は高くないのだ。


 ドワーフは意外に力があってタフだけど、ほかの人族の12、13歳くらいしか身長がなくて、大きな魔獣などを相手にすると体格負けすることは割とある。

 駆け落ち同然で冒険者になってA級にまで辿り着いた2人の道のりは平坦ではなかったはずなのに、実家に対してまで筋を通しきって結ばれたことに私は感心した。


(やっぱりこの2人はすごいなあ。)

 私はガズルさん夫妻の男女としての筋の通し方にも感心して、私の護衛でなく旅の仲間としてぜひ仲良くしてほしいと頼んで了解してもらっている。

 それに、今の私はお母さんから聞いた私の魔法の強化で姉様との関係が大幅に進展する希望が見えていて、2人の夫婦の落ち着いたやり取りやあり方は、自分と姉様の将来の姿を妄そ、でなく想像する良い刺激になって、何だかニヤニヤ笑いが止まらない。


 ガズルさん夫妻が食事をしている今の姿だって、セラムだったら自分好みの味付けに私に温かい視線を向けてくれて、私はきっとそれだけで幸せだろうとか、もし私が夫になるのなら、私はきっと姉様が照れて顔を赤くするまで姉様の料理をべた褒めするだろうとか……


(どっちにしろ、姉様とはたくさん子どもを作るんだ。)

 もう願いが叶ったような気分で1人でテンションを上げている私を見遣って、私には熱愛中の恋人がいると母様から内緒で聞いていたガズルさん夫妻が、やれやれといった風に顔を見合わせて苦笑していたことに、私は気付かなかった。


◇◆◇◆


 黒いフードを被った少年がぴくりと足を止めて周囲を窺っている。

 やがて少年は大きなワーウルフを連れて道の脇で休憩している3人の男女が数百メートル先に居るのを見つけ、自分がその1人に反応したのだと知った。


(……強い。おそらく最強クラスだ。

 それがこんなところに、たいしたことのない戦力と寡勢(かぜい)でいるおあつらえ向き、是非とも手駒に欲しい。)

 少年が見詰める先にはピンクの頭髪の少女がいて、少年は少女に意識を集中してそっと神性魔法を張り巡らせて調べ、いくつかのことを知った。


 まず少女はビアルヌでシューバを討伐したメンバーの1人であること。

(ならばミッシュが関係している。手を出すのなら慎重にやる必要があるが…… )

 少年は少女の目的地を知り、そちらの情報を探り、少女の行く先で仇敵が待ち受けている可能性が高いことを嗅ぎ取った。


(これは下手な手出しをすると気取られてこちらの手の内の情報が漏れてしまうな。

 だが…… )

「上手くやれば良い。」

 少年はそう呟くと、収納空間から小さなゴーレムを取り出した。


 ゴーレムはスライムを素体に虫の意識を封じたもので、指示した手順を機械的に熟す程度の意識しかないので、偶然に触れることでもなければ探知はほとんど不可能で、さらにゴーレムには透過して周囲の風景と同化する擬態の能力があった。


 少年は黒い石のようなものを取り出すとそれをゴーレムに与える。

(ミッシュは確率で将来に起こる出来事を読むが、いつどこでそれが起き始めるかを予知するのが精一杯だろう。

 この卵が仮死状態で眠り続けて条件が整って孵化すれば、ミッシュには何が原因でそうなったのか、きっと手遅れになるまで分からないだろう。)


 少年はにまりと笑ってそっとゴーレムを放つ。

 ゴーレムは周囲と同化してどこに居るのかも分からなくなり、10分ほど後にピンクの髪の少女が脇に置いていたポーチの中に黒い小石のようなものを落とすと、そのまま分解して消えていった。


 

◇◆◇◆◇◆◇◆


「はっ! やあっ! 」

 気合いとともにソバット君がマイナに向けて剣を上、下と狙いを変えながら向かっていくのを、マイナは手の白い靄で衝撃を殺しながら受け役に徹して技と技を繋ぐ習熟訓練の相手をしてくれている。

 今はまだ受けだけだけれど、ソバット君の熟練度がもうちょっと上がったら、軽く攻撃を交えてくれることになっている。


 ソバット君は連日の訓練でレベルは600を超えてD級冒険者となり、私が最初に目安としていた水準はクリアしていて、ようやく剣技が形になりはじめたかなと思いながら、私は2人の訓練を観察していた。


 それにしても、と対戦している2人を見ながら思う。

(こっちの世界の人はみんな筋肉が発達しているよねー。)

 マイナさんは城でメイドをしていた頃より胸自体は少し小さくなったようだけれど、冒険者になってから体が引き締まってメリハリから来るボリューム感がすごい。

 一方で、ソバット君はまだ少し体が小さくて発達中なんだろうけれど、訓練で長く激しく動いている効果が現れてきて、日に日にしなやかな上質の筋肉が体を覆っていくのが分かる。


(日本には便利な道具が沢山あったから筋肉が付かないのは仕方ないけれど、やっぱこっちの人たちの方が、体のかっこ良さは断然上かな。)

 いつも冒険者たちと一緒にいるせいで、この世界でも特に絞り込まれた体の人たちを見ているので、余計にそう思うのかもしれない。

 元の世界では肘を曲げて、たらんと腕を投げ出すように歩いている人が時々いて、何が原因か分からなかったけれどすごい違和感があったのが、今なら運動不足で脇が締まっていなかったんだと分かる。


 そんな影響を受けてか、最初は邪魔だと思って小さくしていた自分の胸が淋しく感じてきはじめた。

 特にアスリーさんがシューバ戦であの豊満な体格で戦う感覚を共有した後では、なるほど、あればあるなりに、と戦闘面でも納得してしまった。

 で、実は少しだけ胸のボリュームを増やしてみていたりして、春になってアンパーで新しく服を買い替えられる機会ができたのを機に思い切ってボリュームアップした。


 こっそりやったつもりだったけれど、女性は体の変化には目敏(めざと)い。

 ウィーナさんは何も言わなかったけれど、威城のメイドの、特にノーメとユルアからはニヤニヤと意味ありげな笑い顔を向けられて、私は顔を赤くしながらそっぽを向いた。

 だって、やっぱり(ふく)よかなバストは女性の憧れなんだもん。



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