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第47話 んふふ。お母さんの私への態度が、嫁入り前夜みたいでちょっとくすぐったい

 お母さんの用は、私が母様たちと共に王都に戻ってきたという噂を聞いて、私に会いに来たということだった。


「だって、”また次のお妃候補が現れた、王様は最初にアスリー様を迎えられて、女性に歯止めが効かなくなっているんじゃないか”、なんて噂が流れてきてね。

 マイルガの鬼人族が、噂のお妃候補が鬼人族らしいと言って騒いでいるのを側で話を聞いていて、どうもうちの娘のことらしいと気が付いたら、母親としてはじっとしていられないでしょう?

 ティルクに会って噂の真相を確かめようと思って、お父さんに無理を言って魔物の討伐隊のお休みをもらって、マイルガを通りかかった商隊に頼んで王都までは連れてきてもらったんだけれど、王家に単身乗り込むのにさすがに気後れがして、王城の入口でどうしようか迷っているところだったの。」


 お母さんがここにいる理由にようやく話が繋がって、これからどうするのかを聞いたら、平気な顔で”明日にも帰るわよ”と答えてきた。

「だって、お父さんが魔物たちと一生懸命戦っているのに、弟や妹の世話まで押しつけて、いつまでも王都にいられないでしょ。

 でも、欲を言うなら、ティルクのその姿も可愛いけれど、帰る前に少し成長しただろうティルクの本当の姿をもう一度見ておきたかったわね。」


 私だって変身魔法は使える。母様にこの姿にしてもらったのは、私が自分の姿を思い切って変えるのが難しかっただけだもの。

 私がすぐに変身魔法で元の姿に戻ると、お母さんは感心して言った。

「へえ、セイラさんってすごい魔法使いなのね。」

「え!? お母さん、それ、どういうこと? 」


 私がきょとんとして言うと、お母さんは呆れたように言った。

「ティルク、あなた自分の魔法特性を知らないでやって……

 ああ、そう言えば、まだ早いと思って教えなかったわね。」

 お母さんは少しばつが悪そうな顔をして、私の魔法特性を教えてくれた。


「私たちの血統の魔法の力はほかの人たちとは少し違うみたいなの。

 私たちの魔法はね、自分が恋愛感情を向けた人の持っている魔法や体術を、心が通じた程度に応じて写し取るのよ。

 だからティルクが変身魔法が使えるのなら、それはセイラさんの魔法だし、ティルクとは相当に親密な関係にあることは間違いないってわけ。

 自信を持ちなさい、ひょっとしたら恋愛感情とは少し違っているかもしれないけれど、セイラさんの心はティルクに近いところにあるのよ。」


 お母さんが自慢げに教えてくるのを聞いて、そこが一番大事なところなんだけれどな、と思いながらも、私は胸を反らしてドヤ顔をしてみせる。

「だって姉様は私の運命の人だもの。」

 良い格好をしたくて口から飛び出してしまった言葉に気恥ずかしさが込み上げてきて、ちょっと言い過ぎたかな、と私が反省していたら、お母さんはしげしげと私を見回して溜め息を吐いた。


「子どもが手を離れるのは寂しいものね。

 でも、ティルク。

 辛くなったら、いつでも帰っておいでね。」

 私は、うんと応えて、それからは手の込んだ美味しい食事に舌鼓を打ちながら、2人でいろんな話をして過ごした。


◇◆◇◆


 その晩、私は母様に念話で許可を取って、お母さんと一緒に宿で眠った。

 翌朝、お母さんと2人で朝食を摂ってから、街中でマイルガに行く商隊を探す。


「私、A級の冒険者ですけれど、今回はマイルガにある家まで同行させてもらえるなら、食事の配給だけで、護衛の依頼料は無料で構わないです。」

 お母さんがポケットから取り出した冒険者票は紛れもない銀色で、私は思わず吹いた。

 お父さんと夫婦なんだから、相応のレベルがあるのは分かっていたけれど、ちらりと見えたレベルは4,600台。

(あれ、お母さん、そんなに戦ってたっけ? )


 今さらな疑問を確認するのを躊躇(ためら)っているうちに、お母さん商隊と合意して、契約書を持って行って冒険者ギルドで契約の登録をした。

 それからは出発の時間までお母さんと私は付近のお店を冷やかして、私は弟や妹たちにお土産を見繕って、伝言と一緒にお母さんに託した。

 それと、お母さんには側面に目立ちにくい黒い宝石の付いた髪留めをプレゼントして、お母さんが意味ありげな笑みを浮かべて監視している中、お父さんには良いお酒を2本買って渡したら、仕方ないわね、と受け取ってくれた。


 商隊のところに戻って、お母さんは別れ際にもう一度私を抱きしめると、じゃあ、くれぐれも元気でね、と軽く手を振って、とびきりの笑顔を私に見せて帰っていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 王家に戻ったら、母様が待ち構えていた。

 私は母様に、お母さんがここに来た経緯を話して、詳細は省略して、ブラディアに私の能力の手掛かりがあるらしいことを伝えて相談した。

 

「フェリアスの時代にブラディアは国自体がなかったはずだから繋がりが分からないけれど、ティルクのお母さんからの情報なら行くしかないだろうね。」


 愛血族の国ブラディアはガルテム王国と獣人国の国境の少し北にあるのだけれど、獣人国はガルテム王国の南西寄りなのでガルテム王国のほぼ東に位置していて、ガルテム王国とブラディアとの国境沿いを北に行くとドースデンというドワーフの国があるそうだ。 


 母様は私を1人で愛血族のところへ行かせるのは気が進まないようで、誰かをお供に付けたいみたい。

「私より強い人なんてそんなにいないだろうし、姉様だって1人で送り出したじゃない。

 そんなに心配する必要ないのに。」

「セイラだって、鍛え直すためだと随分悩んで1人で行かせたんだ。

 ガーダさんにくれぐれもと頼まれたティルクを理由もなく1人で行かせるわけには行かないよ。」


 抗議したけれど、母様の決意は固かった。

 ホーガーデンさんを通じて色々と当たったようで、夕方には一組の男女を紹介された。

「こちらのご夫婦はガズルさんとチィーダさんといって、ちょうどドースデンにお帰りになるところだったそうよ。

 ガズルさんご夫妻はA級の冒険者でもあるから、行きはおふたりとアンパーまでご一緒してちょうだい。

 どうせしばらくの間はアンパーにいるんでしょうから、状況を伝言してくれれば、迎えの手配が付くようにしておくから。」


 ガズルさんは身長140センチくらいでくすんだ赤茶色の髪に濃紺の瞳をしていて、ドワーフというわりに毛深くない。

 チィーダさんは身長が130センチくらいで群青の髪に黄色い瞳。

 2人とも人間に比べて少しだけがっちりとしているけれど、人間とそんなに変わらない感じで、年は私より5つ、6つ上なのかな。


「「よろしく、ティルク様。」」

「あわわっ、ティルク様だなんて止めて下さいっ。

 こ、こちらこそよろしくお願いします。」

 ──あ。

 不意の様付けに慌てて、抗議するつもりがうっかりよろしくと言ってしまった。


(むう、せっかく1人で自由にやれるチャンスだったのに。)

 以前の私ならば、世間のことをあまり知らなかったから、一人旅なんて考えなかったかもしれないけれど、母様や姉様とともに旅をして、今の私ならば大丈夫な自信はあるんだけどな。

 だけど受け容れてしまったものは仕方がない。

 母様が足の速い乗り物を見繕ってくれると言ってくれているので、言葉に甘えて3人で行くことにした。


(……姉様と早く合流したいのに、なんだかどんどん遠ざかっている気がするな。)

 そんなことを考えながら、明日を出発日と決めて、旅の準備をすることにした。



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