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第46話 ストーカー言うな! 姉様だって、きっと合意してくれるもん!

 お母さんがなぜ私が好きな相手が男か女かなんて聞いてきたのか、そのことに私は驚いて、そしてちょっと混乱していた。

 私がセラムと一緒になろうと思っているという意味では的外れではあるけれど、でも私が姉様を恋愛対象として見ていないかというと、見ている。

 私は相手が姉様であれば、その性別が男か女かを区別していないから。


(さっきの短い私の沈黙で、なんでお母さんはそこをピンポイントで聞いてくるの。)

 お母さんの言葉にそんな疑問に湧き上がってきて私が沈黙している理由を、私の好きな相手が女性だからだとお母さんは思ってしまったようだ。


「ティルク?

 好きな人が女の人だったとしてもおかしなことではないのよ?

 あのね…… 」

 お母さんは言葉を切ると周りを見回して、どこか二人きりで内緒話ができるところがないかと聞いてきた。


 それなら、と私が王家の部屋を借りようと言うと、お母さんは首を横に振って私を引き留める。

「王家はだめ。私たち家族の大切な話なの。

 王家の人に聞こえたら大変なことになるかもしれないもの。」

 お母さんの大仰(おおぎょう)な言い方に首を傾げながら、私は護衛の人が街角からこちらを窺っているのを見つけて先に帰るように手で指示すると、近くにあるレストランにお母さんを誘った。


 王城の前にあるだけあって、そのレストランは王都でも一番高級なお店らしいけれど、指輪を見せて私の名前を言ったら、飛び込みでも受け容れてくれた。

 ドレスコードについては見逃してもらって、案内の人についてお店の中へと進んでいく。

 ちらりと、幾らくらいするんだろうと思ったけれど、たぶんそれを払えるくらいのお金は母様にもらって持っているし、足りなければ後で王室で払えば良い。


 ふええ、と気の抜けた声で豪奢(ごうしゃ)なレストランの中をキョロキョロと見回しているお母さんの手を引いて案内の人について行って、とにかくお母さんに個室のテーブルに座ってもらって、注文とテーブルの準備が整ってからお母さんに水を向けると、お母さんはだんだんと落ち着いてきて話をし始めた。


「私と子どもたちの名前が全員、男にも女にも付いてておかしくない名前だというのは、ティルクは気が付いているでしょ?

 これはね、意識して付けてあるの。

 フェリアスの血を継ぐ者は、好きになる人が異性かどうかをあまり区別しない傾向があってね、同性の人に運命を感じる人が、(まれ)にいるらしいの。

 そのときに困らないように、子どもの名前は男でも女でも使える名前を付けてあるのよ。」

 お母さんの話に私は、あ、と共感を覚えた。すごく良く分かる。


「私の場合も、初恋の人は隣の家のドールズの奥さんのシャリア。

 でも私はそこまでシャリアに強く惹かれることはなくて、やがてお父さんを好きになって結婚したのよ。」

 お母さんの話を私が息を詰めて聞いているのを見て、お母さんはいよいよ私の好きな人が女性だと確信したのだろう、励ますような声で私に話す。


「ティルク、どうしてもその人が好きなら、道はあるわ。

 魔王フェリアスは元は男性だったけれど、好きな人と添い遂げるために魔法の力で女性になったって言われているの。

 その魔法はティルクにもきっと引き継がれているわ。」


(え? )

 私はお母さんの話に一瞬あっけにとられた。

 それから母様の話してくれた言葉を反芻する。


「この問題に関しては、愛血族が力を貸してくれると祖先から伝わっている。

 愛血族の国ブラディアにあるアンパーを尋ねてみたら、きっと詳しいことが分かるわ。

 困難かもしれないけれど、何に代えてもその人が大事で護ってあげたいと思うなら、諦めないで、頑張って。」


 だんだんとお母さんの話の内容が頭に染み込んできて、あり得ない可能性と解決策があることが、私にも理解でき始めた。


(セラムではなくて、セイラ姉様とも、一緒になれる? )

 そう考えたとたんに、私の全身を熱い血が駆け巡るのが分かった。

 セラムより姉様を好きだということではない、2人は同一なんだから。

 だけどいま教えられた可能性が、姉様自身を私の伴侶にできるという新しい考えを生み出して、私は体を熱くした。


(姉様を抱きしめて、愛の籠もった微笑みを向けてもらって、そして…… )

「ティルク? みっともないから、だらしのない顔はお止めなさい。」

 お母さんに揶揄(からか)うように(たしな)められて、私は我に返った。

(ヤバい、想像の姉様があんまりにも可愛らしくて…… )

 口に出せない言葉を呑み込んで真面目な顔をしたつもりだったけれど、お母さんには十分ではなかったみたい。


「やれやれ、そんなに頬を緩めて、よっぽどそのお嬢さんにぞっこんなのね。

 で、相手の人との関係はどうなの?

 その…… 」

 お母さんがそこまで言うのを聞いて、私はようやく夢から覚めた気分になった。


(私ったら、お母さんに姉様のことを何にも話してないっ。)

「あ、あのね、お母さん、違うからっ。

 えっと、一言で説明はできないんだけれど、お母さんの思っていることは部分的には当たっているけど違うの。

 私が将来を約束する前提でお付き合いしている人は、セラムっていう男の人なんだよ。」

 お母さんが豆鉄砲を喰らったような顔をするのに構わず、私は話を進める。


「でね…… 」

 私はお母さんにミッシュや魔王妃に関することは省略しながら姉様のことを説明した。

 お父さんが母様の旅に私を同行させてもらうように頼んだときにいた女の人が姉様で、私より1つ年上であること、訳あって今の姉様の体は借り物で、いずれ自分のための体を見つけなければならないこと、そして姉様には男性と女性の人格があることなどを話して、私は一息を付いた。


「姉様の体が見つかるのか、見つけた体が男女どちらで年がどれくらいかとか、まだ分からないの。

 だから姉様は自分の体を見つけたときに、男になるか女になるかを含めて自分がどうするかを決めるんだと思う。

 もし男になったときには、姉様はセラムとして私と一緒になることを考えてくれている。

 でも女になったときに、姉様は恋愛対象を明確に異性と考えているから、たぶん私のことは妹分としか思ってくれないわ。

 だから、お母さんが私が男になれるかもしれないと教えてくれたことは、私にとって、ものすごく大切なことなの。」


(そう、私がどんなに姉様が好きでも、姉様が女の人でいる限り私の気持ちの行き場はなくなってしまう。

 だけど私も男になれるのなら……私が男になって姉様を口説き落とせば、姉様が男と女のどちらになっても、私と姉様は、一緒なんだ! )


「あらあら、そんな顔しちゃって。

 そう、やっぱり私は娘を失っちゃうかもしれないのね。」

 お母さんが私を見ながらぽつりと(こぼ)した言葉に、私ははっとした。

 改めてお母さんの顔を見ると、安心したことに、お母さんの顔には悲いとか寂しいといった感情はなくて、ただにまにまと私の顔を見詰めていた。


「そんなにその人のことが大事なのね。」

「うん、お母さん、ごめん。

 私、命懸けで頑張って、でもそれだけじゃ、性別を超えて姉様の心の全部を私のものにするには足りなかったの。

 だから、今度は命と引き換えにしてでも姉様の残りの心が欲しい。」

「ティルク! 」


 お母さんの心配そうな顔に向けて、私はにっこりと笑った。

「命懸けなのは本当。

 でも、私は姉様の思い出になるのは嫌。

 お母さん、心配しないで。

 私、真正面から姉様の心を奪って、きっと2人でお父さんとお母さんに会いに行くから。」

(そう、姉様は絶対に私のものだもん! )


「はあ、ティルクはガーダに似たのね。

 私がシャリアとのことを諦めて降参するまで攻めてきたときのお父さんに、今のティルクはそっくりだわ。」

 私が何十回、何百回目かの覚悟を決め直していると、お母さんの(つぶや)く声が聞こえてきた。


(お母さん、それで宗旨(しゅうし)替えしたんだ。)

 思わず笑みが溢れる。

(私は姉様の宗旨替えまでは望んでいないもの、きっと上手くいく。

 姉様、覚悟しててね。)

 絶対に逃がしてあげないから。



第37話前後で、セイラがティルクと呼ぶ声が聞こえて振り返ったら男性のことだったというエピソードを入れるつもりが、ついうっかり忘れました。

一度公開したお話は、原則として致命的な部分の修正や表現修正だけに限ることにしていますので、張り損ねた伏線や回収し損なったエピソードのオチが幾つかあるのです。


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