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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第2話 ”ヨメ”ッテ、ナンデスカ?

 気が付くと、俺はどこか柔らかい場所で仰向けに横たわっていた。

 薄暗くて分からないが、自分1人ではなく誰かがいて、覆い被さられている気配がする。

(え、何だ?)

 自分が窮屈な体勢になっていることを感じて状況を確認しようとしたが、何が起こっているのかを把握する前に、いきなり下からすごい衝撃が襲ってきて俺の意識は再び途切れた。


◇◆◇◆


「……リー、…スリー、頼む、もう一度目を開けてくれ。」

 必死に話し掛けてくる誰かの声が聞こえて、意識がだんだんとはっきりとしてくる。

 猛烈に体中が痛くてだるい。特に腰から胴体に掛けての痛みが酷くて、意識がまたどこかに飛んでいきそうになるのをぐっと(こら)えて、俺はようやく薄く目を開けた。

「アスリー!! 気が付いたか! 」

 明るい部屋の光の中に、目の前で小さな声で、しかし力強く呼びかける男の姿が浮かび上がる。

 俺はその男へと視線を向けて、驚愕に凍り付いた。

「……ひっ。」

 目の前に魔王がいた。

 しかもどアップで。


(こ、こいつ、魔王! )

 手の幅ほどの距離で見る魔王に俺は()け反ろうとするが、寝たままでは身を強ばらせることしかできず、しかも体中から激痛が襲ってくる。

 目に涙を浮かべてなおも近づいてこようとした魔王が、苦痛に体を強ばらせ身悶えする俺の様子を見て体を起こすと周囲へ厳しい調子で声を飛ばした。

「早く回復を! アスリーはまだ完全に回復していない! 」

 俺が痛みに耐えていると周りから何人もが走り出てくる気配がして、全身が暖かい光に包まれて、体の痛みが少しずつ和らいでいく。

 その心地よい感覚に包まれて、俺は眠りに呑まれていった。


◇◆◇◆


 再び目が覚めると、薄明るい場所にいて、体はほとんど感じないくらいまでに痛みがなくなっていた。

 何だか魔王を至近距離で見た気がするんだが、と俺は周りの様子を確認しようと顔を回し始めてすぐに固まった。

 右隣に、魔王が寝ていた。

(うおっ、何でこいつ俺の隣で寝てるんだよ、びっくりするじゃないか。)

 俺はラスボスが目の前で無防備に寝ているのに呆れながら、俺と並んで寝ている魔王を観察する。

(うわ、男のくせに睫毛(まつげ)が長いな。)

 くそお、やっぱイケメンは滅ぶべし。

 あ、でも、さっき魔王が泣いてた様な……。えっと、これ、どういう状況?


 女神様と出会ってからの記憶を整理しながらじっと魔王の顔を見つめていると、気配を感じたのだろうか、魔王が目を覚ました。

 こちらを見てにこりと笑う。

「おはよう、アスリー。具合はどうだい。」

「陛下、おはようございます。おかげさまで、もう大丈夫ですわ。」

 この声! それに「わ」?

 魔王の呼びかけに自動的に自分が反応していることに驚き、発した鈴の転がるような軽やかな声と言葉遣いに動転している俺を、さらに混乱させることがおきた。

 俺の体がついと身を起こすと横たわる魔王の肩へ片手をかけて、ベッドに付いたもう片方の手を曲げて、目を瞑ると屈み込むように魔王の唇へ軽く(ついば)むようなキスをする。

(キ、キキキキキスしたっ! 男とキスしたっ! )

 俺は酷く動揺して、魔王を放り出して逃げだしたかったのだが、俺の体は魔王を覗き込むようにしたまま小首を傾げて微笑んでいる。


 さっきから俺の意思に関係なく体が勝手に動く理由を必死で考えて、俺はようやくオートモードの存在に思い至って、オートモードを早く解除しようと、つい大声で詠唱してしまった。

「オ、オートモードオフッ! 」

 声と共に体のコントロールが効くようになり、俺はしゃーっとシーツの擦れる音を立てながら広いベッドの端まで後ずさり、勢い余ってベッドの縁から転がり落ちた。

 ふかふかの絨毯に後頭部を埋もれさせ、顔の上に被さってきた白い服を掻き分けながら横に転がったところへ、つい目の前に差し出された手を取ると、そのまま手を引っ張って引き起こされ、またもや魔王の顔と至近距離で向かい合う。


 魔王は手を握ったまましげしげと俺の体を検分し、表情を険しくした。

「体はアスリーに間違いない。だが、アスリーの体を占拠しているお前は誰だ。」

 魔王の語調は厳しく向けられた視線は氷のようで、その迫力に俺は圧倒された。これは下手な言い逃れは許してもらえそうにない。

 この世界に来て、ほとんど間も置かずに魔王に直接詰問される今の状況になってしまってはどうしようもない。

 俺は進退(きわ)まって、正直に話すことにした。

 ただ、アスリーという名の、恐らく魔王と親密な関係の存在の体に入っている俺が男だという事実だけは、魔王の反応が恐ろしくて言えなかった。

「お…私は明日葉静羅、です。異世界から、なんとか王国に勇者として召喚されたと女神様から説明を受けたんだけど、目が覚めたらこうなってたんだ、です。

 それで、…… 」

 俺は、異世界に転移したいきさつと勝手に勇者候補として呼び寄せられた被害者であることをたどたどしく、洗いざらい説明した。


◇◆◇◆


 ベッドの端に並んで座り、俺の説明を聞いて魔王は考え込んでいた。

「セイラさん。あなたの言うことを信じない訳ではないが、他の可能性もある。ステータスを開示してもらえませんか。」

 俺には開示するしか方法がない。女神様に教えてもらったとおりにステータスを出して魔王に開示する。


 名前 セイラ ガルテム

 種族 人間

 称号 魔王妃

 職業 剣士

 Lv   1

 経験値 0/15

 HP   4

 MP  14

 体力   3

 魔力  12

 強さ   1

 早さ   1

 器用さ  1

 特技 オートモード 魔王の加護 魔王の眷属

 魔法属性 -

 


(あれ? 名前が……。)

 俺が表示された項目に首を捻っている間に、開示されたステータスを見て、魔王が安堵の息を吐く。

 魔王は幾分表情を緩めて、その理由を俺に説明してくれた。

「セイラさんはレベル1で経験値が何もないのを見れば、あなたが異世界から来た人であることは間違いない。それに、状況を見れば、アトルガイア王国が勇者召喚を使ってセイラさんをアスリーへ転移させた訳でないのも分かります。

 というのも、勇者召喚は転移される者のステータスを奪う形で行われますから、勇者召喚でセイラさんがアスリーを乗っ取ったのなら、今のセイラさんはアスリーのレベルになっていないとおかしいんです。

 その場合はアスリーの幽体──アスリーの意識や能力を司る部分です──は消滅する。

 もちろん、アスリーは勇者召喚の防御対策を講じていたから、セイラさんが直接アスリーに勇者召喚されていたら、今頃消滅しているのはあなたの方になっていたはずです。

 つまり、アスリーは少なくとも勇者召喚で殺されてはいない。」

 勇者召喚で俺が消滅していたかもしれない。

 さらりと恐ろしいことを告げられ、俺はぞくりとした。


「セイラさんがレベル1でアスリーに入っている事実からすると、まずアスリーの幽体が何者かに掠われ、幽体が空になった体にセイラさんが勇者召喚から逸脱して入り込んだ、それしか説明が付きません。

 幽体だけになった存在の扱いは難しくて、しっかり管理しないとすぐに元の体に戻ってしまうし、幽体のみの存在を殺すことはできません。

 アスリーのレベルは7,856だから、他の体に幽体を転移させれば私の他に敵う相手はまずいないし、すぐにここに帰ってくるはずです。

 ならばまだアスリーは生きて誰かに幽体のまま管理されていて、すぐに命の危険はない可能性が高い。

 セイラさん、あなたに私達に対する害意がなく、勇者召喚の被害者であるとの言い分は信じましょう。」

 俺は魔王の態度が友好的な方向へと変わっていることにほっとした。


 さて、それで、と魔王は続ける。

「今さらだが、改めて名乗りましょう。私の名前はダイカル ガルテム。ガルテム王国の国王であり、魔王の称号を持つ者です。

 セイラさん、異世界人であるあなたにはまず現在の状況と私の事情をご説明しなければなりません。」

 魔王がここで言葉を切り、視線がわずかに泳いで頬が赤くなる。

 俺は、何だろうと思いながら魔王の説明を待った。


「昨日、私はアスリーと結婚し、彼女をガルテム家に迎え入れる契りを結ぶはずでした。

 だが、昨夜の騒動で間違いが起こった。

 実際のところ、契りの行為自体は完了していないんですが……

 セイラさん、ガルテム家の魔力はあなたを当家の嫁として受け容れました。」

「……は? 」

 魔王から聞き慣れない単語が出てきて、俺は内容が理解ができずにぽかんと口を開ける。

 ──”ヨメ”ッテ、ナンデスカ?



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