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第33話 そういえば最近、”おむすび”って言葉、あんまり聞かない気がする

「おにぎり、ありがとうございます。」

「いやいや、むしろこちらがお礼を言いたいよ。

 お弁当として売れば売り上げが伸びそうだし、応用が利きそうな料理でけっこう良い商売になりそうだ。

 またお礼をしたいから、次にこの辺りに来ることがあったら寄ってくれ。」


 翌朝、昨日の食堂でお店の人ににこにこ顔でおにぎりをもらって、私たちはホルターの町を出た。


 いつもどおりに私とコールズさんは魔獣や魔物を探索しながらときおり2人で対戦し、それ以外のメンバーは魔獣や魔物を狩っていった。


 お昼になって、簡単なスープを添えて、もらったおにぎりをそれぞれに分けて食べる。

 中に入っていたのは昨日作った肉や煮物の味を濃くした物やピクルスなど。

(昨晩も思ったけれど、ご飯に合わせるためかおかずの味が尖らずに優しくて、日本に通じる感性を感じる。

 だけど、やっぱり和食じゃないんだね。)

 敢えて言えば、和風洋食を具にしたおにぎり。


「セイラねーちゃん、これ、ねーちゃんも作れる? 」

 ジューダ君が私に突き出してきたのは中に鳥肉を甘辛いソースに絡めたおにぎりで、私も気になったやつだ。

「うーん、ソースの再現が難しいよねえ。似たようなのを作ってもたぶん敵わないけれど、私も気に入ったから頑張ってみるね。」

 そう応えると、ジューダ君は、頼むねー、と軽く言ってくる。

 いやこれ、結構大変そうなんだけど、とは思うけれど、まあ自分も食べたいから仕方ないか、と曖昧に笑って返しておいた。


◇◆◇◆


 昼食が終わって食休みをしていると、背の高い中年の紳士が1人、難しい顔でやって来た。

 見晴らしの良い場所を選んでいたはずなのに、人が近づくまで気が付かなかったことにびっくりする。


 私たちのそばで立ち止まったその人は、ぱっと見に種族不明で、背の高いがっしりとした体つきに暗色のコートにズボン、靴に身を包み、黒髪、灰色がかった黒目と口ひげが白い顔に深い陰影を生んで、存在感のある人物だ。


「そなたたち、どこから来た。」 

「これは愛血族の方。私たちはサミュルの町からドースデンへ向かうところですわ。」

 受け答えはウィーナさんが買って出た。

 こういう場面では、年の功というか、ウィーナさんが卒がない。


「それは単に来た方向であろう。

 桁違いのレベル2人を含む人族3人に魔人族4人。そして獣人1人に偽装しているが魔族1人。

 人族至上主義の人族がなぜ他の種族を束ねて動いているのか、教えてもらえるかな。」

「この子の変装は、魔族がやらかしてる今の情勢でこの子がトラブルに巻き込まれないようにするためだ。

 それから俺たちが魔人族たちと一緒なのは、俺たちがアトルガイア王国との関わりを絶って、人族至上主義とは関わりがないからだよ。」


 口髭の男はそれを聞いて唇の片方を釣り上げて微笑んだ。

「なるほど、一見、尤もらしい言い訳だな。

 だが、お前たち2人のレベルにある者たちをアトルガイア王国が手放すことはあるまい。」


 男が言葉を終えると共に暗色の服を着た愛血族10人ほどがすうと景色から滲み出るように現れて私たちを取り囲んだ。


 感じるレベルは2,000から3,000。最初の口髭の男は4,000程度。

 私とコールズさんだけなら訳ないけれど、他のみんなだと互角か少し格上で少々辛い。

 特にソバット君はまだレベルが500に届かない。戦えば一番最初にやられるのは彼だ。


 私たちはソバット君を真ん中にして円形に布陣して、口髭の男の正面に私、後ろ側にコールズさんが付く。

 さあ、誰から来るの、と構える私たちに、布陣を見て口髭の男はやや戸惑った様子だったが周りに合図をして、襲ってきた。


 私の掛けた上からコールズさんが二重に空間魔法で結界を張り、魔法に備える。

 魔法は飛んでこなかった。

 私の後方、コーズさんの方で何か動きがあったと思ったらいきなり結界魔法が弾け、それを合図にするように周囲から男たちが踏み込んできた。


 布陣してすぐにこっそりと詠唱を始めていたユルアの支援でみんなのステータス全般が少しずつ押し上げられ、私の左横にいたマイナが白い靄を厚く広げた盾を斬りかかってきた男にぶつけ、右横のシャラが2人の男に左右の掌を向けて掴む動作をすると横に引く。

 だけどマイナの盾は相手を受け止めたものの弾くことはなく、逆にシャラの見えない手は弾き返されて、後にいたジューダ君がシャラの影から2人の男に向けて放った火弾が、男たちに切り裂かれた。


「「「「 !! 」」」」

 両脇の仲間が驚きで動きが一瞬止まったのを感じて、私は両脇の男たちに属性変化の魔法を放ち強度を上げた結界を3重に張り直しながら正面の口髭の男の様子を窺う。

 口髭の男は私が周囲の男たちの戦いに介入したのを見て私に斬りかかってきた。


 結界は口髭の男だけでなく周囲の男たちからも攻撃されていて、1枚、また1枚と弾けていくが、3枚目が弾ける前にコールズさんがウィーナさん、ノーメ、ソバット君を2枚の結界で覆ったのを感じて私は残りの4人を3枚の結界で覆った。


(敵の攻撃が何か変だ。

 剣技以上の何かで魔法や剣技に対抗してて、このレベルの相手が私たちの結界を破れるわけがないのにあっさりと突破してくる。

 コールズさんが集団を分けて調整をし易くしてくれなければすぐにもぼろが出ただろう。

 でも、──さて、どうしよう。)


 相手の攻撃の特性が分からずこちらの攻撃があまり効かない状況で、下手に出られない。

 打つ手が思い浮かばないで様子見になっているところへ、口髭の男が一歩前へと進んできた。


「では、抜かせてもらうぞ。」

 ぐいと剣を引くと一直線に私に向かって剣を突き出してくる。

 3重の結界が弾けて口髭の男が間合いに入ってきたけれど後にはみんながいる、完全に避けてしまうわけにはいかない。

 突き立ててくる剣を(かが)んだ体勢で躱しながら距離を詰めると剣の柄頭(つかがしら)を口髭の男の鳩尾(みぞおち)に叩き込む。


 ぶうっ、と口髭の男が詰めていた息を漏らし後へと吹き飛ぶ隙に、マイナとシャラに向かおうとする男たちに土弾を撃ち込むと、男たちも土弾の勢いを殺しきれずに吹き飛んだ。

 改めて結界を4重に張り、再度男たちと阻む体勢を整える。


 だが、口髭の男は立ち上がると仲間の男たちに向けて手を振り始めた。

「待て待て待てっ! こちらの誤解だっ! 戦闘を止めろっ!! 」

 あれ?、と私が変わった流れに首を傾げながら見ていると、口髭の男は仲間の男たちが戦闘を中止したのを確認してから、私に向かって胸に手を当てて頭を下げてきた。


「私の思い違いだ、申し訳ない。

 至近距離になるまで気が付かなかったが、この血の香り。

 神格からして神使……ではないにしても、あなたが使徒の体を使っておられることを理解した。

 女神リーアの使徒を使っておられる方が我々の敵であるはずがない、

 全面的に謝罪します。」


(血の香り? ああ、私の匂いか。)

 そこまで考えて、私は衝撃を受けて思わず肩を寄せてクンクンと嗅ぐ。


(え? 私、そんなに臭い? )



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