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第29話 母様、アスリーさん。ダイカルへ、私に代わってお仕置きを!

遅くなりました。

「失礼します。……ケイアナ様、アスリー様、無事にお帰りになり何よりです。」

 扉がノックされてホーガーデンが入って来て、母上とアスリーを見ると破顔しながら頭を下げる。


「ホーガーデン、心配を掛けたわ。」

「ホーガーデン、あなたも無事で良かった。ジャガルも王都に? 」

 母上が弟のジャガルのことを尋ね、ホーガーデンがジャガルたちも王都に戻ってきていることを伝えると、母上の顔に安堵の笑みが広がる。


「ダイカル様。

 アイザル様とティルク様はダイカル様との会談後に宿を出て行かれようとしておられましたので、ご指示のとおり、セイラ様へのアプローチをダイカル様が容認したということですよと宥めて宿の方へご案内致しました。

 それからケイアナ様。ティムニアが、ライラとサファを引き続きアスモダでお使いになられるか伺いたいとのことでした。」

 チクリと刺さる胸の痛みを隠しながらホーガーデンの措置に私が頷き、母上はライラたちをアスモダに止め置く旨を伝えた。


「ビアルヌにはセルジュ兄さんもいるのにアスモダのスタッフがほとんどいないもの。

 2人がいないと回らないわ。」

 ホーガーデンは、ではそのように、と答え、私たちの後ろに引き下がり、新しいお茶の用意を始め、私は母上から王都を出てからの一部始終を聞き始めた。


 テーブルを囲んで、向かい合う母上と私の椅子の間にはアスリーが座って、私が母上たちの冒険譚を詳しく聞いている様子に注意を払い、母上の話や私のコメントにときどき相槌を打ちながらい微笑んでいる。


 そして、フェアリィデビルのマーモと遭遇してからの話になるとアスリーが嬉しそうな顔になった。

「マーモは私の幼児期の記憶を封じたフェアリィデビルで、セイラさんと母様が可愛がってくれたので、マーモはセイラさんのことをお母さん、母様のことは優しいおばあさまと思って、おふたりには随分と甘えさせてもらいました。」

「アスリー、その話はおよし。」


 アスリーがマーモのことを話し始めるのを母上が制止して視線を逸らした。

(優しいおばあさま? 母上が甘やかした? )

 母上が優しい人なのは知っているが、私の子どもの頃の記憶では我が儘に厳しい人で甘えるというほどの距離感はなかったように思う。

 アスリーの意外な感想に母上を見詰めていると、うっすらと頬が赤く染まり始めて、私が違和感のまま母上に視線を向けていると、アスリーから念話が入った。


『母様ったらマーモに相好(そうごう)を崩して暇があれば遊んでくれて、セイラさんには早く孫の顔が見たいって無茶を言ってらしたんですよ。

 この件が終わりましたら、私が産んで差し上げますのに。』


 私が思わず紅茶を吹き出したのを見てアスリーが私に念話で話している内容を察したのだろう、母上がアスリーに憤りの視線で一瞥してから不機嫌な声で先ほどまでの話の続きを話し始める。


(ああ、母上とアスリーの距離が随分近く感じるのは、そんなことがあったからなんだな。)

 私はアスリーと母上の間にあった以前の緊張感を思い、今、2人の間に漂う仲睦まじい空気に居心地の良さを感じていた。


◇◆◇◆


 話を聞き終えて、私は聞いた情報を整理していた。

 魔族の指導者と呼ばれる正体不明の存在が魔族を戦いに駆り出しているだけでなく、シューバという魔物に勇者コールズの幽体を憑依させて支援させていて、それに先立ってアスモダの奥地で魔獣や魔物を追い立てているシューダには父ザカールが憑依させられている可能性が高いらしい。

 それらの行動はガルテム王国への侵略を意図したもので、さらにアトルガイア王国と連携して侵略を進めようとしているとの情報がある。


「母上、王都の魔族討伐が終わったら一度アスモダを訪れようと思っていたのですが、それは叶わないかもしれません。

 今、アトルガイア王国の情報を集めていますが、もし私がアスモダへ行けない場合は、母上が戻られる際にアスモダの獣王ゴーフに宛てた親書をお預けすることにしたいと思います。」


 母上が了承して、私は魔王の能力について整理をし始める。

 魔王は眷属のレベルの合計が10万を超えると真魔王となり、魔王と魔王妃はそれぞれ1人、魔王の魔王神装及び魔王剣ヴィガール、魔王妃の魔王妃月装及び魔王妃杖メザルバを所有して装備できる。


 また、眷属の力は魔王と魔王妃が分け合うのだが、半分ずつを初期値としてその割合は魔王の側で加減ができる。


 現在、魔王と魔王妃は2人ずついるはずだが、父ザカールはどういう事情かカウントされておらず、私に属する魔王妃2人、いやセラムを含めれば3人がいることになっている。


 セラムの意識は消滅したものの、ミッシュの働きで夏頃に復活すると言うことだが──

 セラムの意識は一度消滅している。セラムを真魔王妃とした指定はまだ有効なのだろうか。


「ところで、セラムがシューバとの戦いの時に一時的に男になったんだけれど、ダイカルに変化はなかったのかい。」

 母上が私が触れられたくない話題を口にした。


「……。」

 私が口を噤んでいると、後からホーガーデンがこほんと咳払いをする。

「これは内緒でございますが、ジェゴス宰相から、ダイカル様はケイアナ様のお若い頃にそっくりだったと伺いました。」


「あらあら、それは機会があればぜひ見てみたいものだわねえ。」

「我が君、私も見たいです。」

(冗談じゃない!

 あんな不安で落ち着かない思い、二度とするものか。)

 私が唇を引き絞って視線を逸らすと、くすくすと2人の笑い声が耳を撫でるように響く。


(アスリーが母様とタッグを組んで、私は弄られ放題になってないか。)

 以前のアスリーならば、王家の意思の疎通は問題なくとも、王家にはもう少し乾いた空気が流れていただろう。

 それがこの雰囲気。

 母と妻に弄られるという、以前の関係なら起こらなかっただろう状況に、私は少し動揺していた。


◇◆◇◆


 翌朝、昨夜のことはさらりと流してアイザルとティルクさんに出席してもらって会議を開き、私はアイザルから、ミッシュがニルグの魔物と何をしようと考えているかの説明を受けた。


「アスモダの北東部は獣人たちには”入らずの地”と呼ばれ、海の接する場所に300メートルもの高い岩山がそびえ立つために、わずかですがやや台地状に広がっているそうで、海側から侵入することができず、木々の植生が豊かで高温多湿なために多数の魔獣や魔物が住みついていて、人の開発の手がほとんど入っていない未開の地だそうです。


 シューダはその一番奥深いところで生まれ、アスモダの王都の方向に向かって同心円状に支配領域を増やしているために魔獣や魔物が押し出されて、王都やガルテム王国に被害が出ているわけです。

 ただ、そんな中で”入らずの地”に残ることやシューダの討伐に拘った力のある魔物たちが高地ニルグに立てこもっているんですが、彼らは力があるだけあって皆レベルが高く、我々と意思の疎通が可能です。


 また、位置的にも北部のニルグと、南西からしか”入らずの地”に入れない我々とが協力すればシューダを挟撃できることもあって、ミッシュはニルグの魔物とわれわれが連携してシューダを討伐するための交渉の下準備をしてくれていました。


 で、私ですが、ミッシュの薦めでニルグの魔物たちと面談して、当面の人間側の代表と見做すとの了解を得ています。」


 アイザルの報告に、新たな援軍の取扱いをどうするか、アスモダと確認が必要だと私は思ったのだが、その件は現地で叔父のセルジュがすでに交渉に当たって好感触だと聞いた。


 シューバへの対応は魔族への情報漏洩を防ぐために現地で判断すべきことが多くなる。

 アトルガイア王国への備えが必要な前提で、私がアスモダへと行けない可能性を織り込んで、母上やアスリーとはよく相談をしておかなければ、と思い視線を巡らせると、母上とアスリーは目に理解の色を浮かべて私にこくりと頷いた。



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