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第28話 第1回セイラ争奪会議開催。あの、私の意思は?

「これは国王様、いつも父がご贔屓(ひいき)に賜りましてありがとうございます。

 私はミゼル商会副会頭のアイザルです。」

 この男にはどこかで会ったことがあると思っていたら、ミゼル商会の跡継ぎだったのか。

 それにしても、と私は思う。

 

 商人の人懐こい笑顔には父親を凌ぐ懐の深さが感じられ、またそれとは裏腹にアイザルの商人とも思えぬ動きはどこまでもしなやかで隙がない。

(こんな人物に出会えば、必ず記憶に残っている筈なんだが。)


 今、この部屋には私のほかには母上とアスリー、ティルクさんにこのアイザルの5人がいるわけだが、それぞれから感じる強さから推し量って、この国の最強メンバーが会していると言って良い。

 なぜ私はこの男のことを見落としていたのだろうか、と考えていると、アイザルがふ、と微笑んだ。


「私の一方的な想いで出しゃばることに内心、忸怩(じくじ)たるものはございますが……陛下、明言を頂戴したく存じます。

 セイラさんは陛下の真正の婚約者ではない。

 そうでございますね。」

(──セイラさんのために変わったのか。)

 (にこ)やかに笑うアイザルに、私はこの人物をよく記憶していなかった謎が解けた気がした。

 この男はセイラさんを欲している。それならば正直に言おう。


「セイラさんを婚約者と公表した主たる目的は、セイラさんが魔王の加護を使う理由を説明し、ガルテム王国の関係者にセイラさんを魔族から護ってもらうためだ。

 私の想いの幾分かが入っていることは否定しないが、それを本人に一方的に押しつけるつもりはない。」 


 アスリーへと視線を向けて私は答えたのだが、溜め息を吐いたのは母上だった。

「ダイカル、その言い分が世間に通ると思うのかい。」

「……セイラさんに、よほどの意思がなければ通せないだろうな。

 そして、私はセイラさんが性別の問題さえ脇に置けるならば、どうしてもというほどには私のことは嫌っていないと思っている。」


 アイザルの顔が微かに、ティルクさんが感情を剥き出しにして怒りの感情を見せるのを見遣りながら、私は彼らに慈しむような笑顔を作って見せた。

「私は王だ。望むものは全て手に入れる権利を持っている。

 セイラさんが心底私が嫌だというのならば引こう、それは結局手に入らない結果になる。

 だが、セイラさんに妥協の余地があるのなら、私は彼女を手に入れる。

 これは隠し事のない私の本音だ。」


 2人、特にティルクさんから激しい憎悪が向けられるのを意識しながら、私は2人に宣言した。

「それが嫌ならば、セイラさんを護って、心を奪ってみせろ。

 見事奪い(おお)せたならば、私は惜しみない賞賛をセイラさんとその連れ合いに向けるだろう。」


「当然よ。」

「承知しました、我が王よ。」

 2人は異口同音に告げるとティルクさんはずかずかと、アイザルは母上と視線を交わし、私に一礼してから部屋を辞した。



「ダイカル、やり過ぎよ。」

 母上の叱責に、私はもう1つの本音を漏らした。

「母上。私としてはセイラさんが私との結婚を望まないのであれば、その道をぜひ切り開いて欲しいと思っています。

 実は、シューバを討伐したことを切っ掛けに、セイラさんのことを調べる者たちが現れまして、魔王妃の儀を受けたのがセイラさんだったことが国民に明らかになりました。


 王都でも流行りだした恋歌のイメージがあるものですから、セイラさんについては、国民、各国に対する私の面目を保つためにアスリーとして私の妻を演じて魔王妃の儀を受け、魔族との戦いのために王都を離れられない私に代わって母上と共にシューバやシューダの討伐に立ち向かっているという認識が固まってしまっています。

 そのために、愛する国王のために我が身を投げ打って王宮の窮地を次々と救う健気で献身的な女性として、今、国民の間で爆発的に人気が広がっているんです。


 で、そんなセイラさんとの結婚をもし私が取り止めようものなら、私のことは、セイラさんを利用し尽くした挙げ句にないがしろにする不実な男と国民は見るだろう、場合によっては私への不信と不満から暴動すら起きるのではないかというのが、心を許せる幕僚たちの一致した意見です。

 今の私には、セイラさんとの結婚を回避する手立てがないんです。」


 母上は、私の顔を覗き込んで、はあ、と大きく溜め息を吐いた。

「なぜそんなことになったの。」

「セイラさんの恋歌を織り込んだ物語を作って名を上げたいと考えたある吟遊詩人が、アスリーの幽体が掠われた切っ掛けになった香油の調査を我々が行っていたことを突き止めて、魔王妃の儀の前夜にアスリーがすでに掠われていたことを織り込んで美化したセイラさんの物語をあちこちの酒場で歌って回ったんです。」


 そう、と呟いてまた母上が溜め息を吐く。

 母上のこんな姿は初めてだが、それを言えば母上の後で母上の背中を優しく撫でているアスリーもそうだ。


「そういえばアイザルとティルクさんの2人を、なぜ母上は王都にお連れになったのですか。」

「アイザルは新たに(あらわ)れた魔王よ。

 何より彼は器量がすごい。

 あなたの(あお)りにも動ぜずにアイザルが最低限の臣従の言葉を口にしてくれて、ほっとしたわ。」


 ”承知しました、我が王よ。”

 気付かなかったが、あれは確かに臣従の言葉だ。

 私は新たな魔王が顕れたという事実と彼の器量に衝撃を受けながら、一度彼とはじっくりと話をしてみたいものだと思った。


「それからティルクのことだけれど、後でよく言い聞かせるから勘弁して大目に見てあげておくれ。

 あの娘とセイラとの関係はさっき言ったとおりで、ティルクはセイラ本人と恋愛関係になれるのならばセイラの性別は気にしないという、ちょっと変わったところのある娘なんだけれどね、以前はあそこまで露骨ではなかったの。


 だけど……詳しくは後で話すけれど、シューバ戦であの娘はシューバに首を刎ねられてね、それをセイラが戦いを放り出してまでティルクの救援に駆け付けて、ティルクを元の体へと復元して命を繋いだということがあったのよ。

 それ以来、あの娘の頭はいつもセイラのことで一杯で、セイラのために何でもやって、自分とセイラとの恋を成就させるんだと考えるようになってしまったの。」


 ──なるほど、あれは狂おしいまでに相手を求める情念の眼差しなのか。

 器量で魔王に至った者と情念で道を切り開こうとする者。

 もしセイラが本当に私との結婚を望まないとすれば、それを実現するのは彼らかも知れない。



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