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第26話 アスリーさんと称号を交換してもらいたい私がいます

 剣士の直感。

 その聞いたことのない言葉にコールズさんたちの方を見るけれど、コールズさんたちも(かぶり)を振っている。


「ジューダ君、魔法使いや剣士の直感ってどういうことか、詳しく話してくれる? 」

「えー、僕、詳しいことなんか知らないよ。

 僕が知ってるのはさ、魔法使いの直感って、幽体の才能を鍛えたら、何かをしたいときに魔法をどう使えばいいかが、感覚で分かるっていうこと。

 だから、剣士の直感っていうのもどう戦えば良いのかが直感的に分かるんじゃないの? 」


 私たちは首を傾げた。体をどう動かしたらいいか分かるって、それって当たり前じゃないの?

「あ、いつだったか、ミッシュが僕に、今はすぐに直感が働く人間は珍しいんだって言ってた。」

 ミッシュがそう言うのなら、もっとすごい別の何かなんだろう。


 でも、そうか、ジューダ君は珍しい(たぐ)いの人間なんだ。

「ジューダ君、すごいんだね。」

「……うん。お父さんは直感が働くことは魔族には絶対に隠せって僕に言ってた。

 あ、そうだ。これ、ミッシュから預かってきたんだ。」


 ちょっと声を落としてジューダ君がお父さんの話をするのを聞いて、ジューダ君の存在にも何か秘密があると知らなかったことを認識した。

 これ、きっとミッシュは知ってたのに黙ってたんだよね。

 詳しく聞こうかと思ったところに、ジューダ君がミッシュから預かったという、デザインがいろいろのネックレス10個ほどを差し出してきて、見るとジューダ君や威城のメイドのみんなはすでに同じようなネックレスをしていた。


 何だろうと首を傾げながら受け取ると、ジューダ君が自分の黒い石の付いたネックレスを手で摘まんでぶらぶらさせながら見せた。

「ネックレスに付いている石には、探知不可の魔法が付与してあるんだって。

 姉ちゃんの同行者には、全員付けさせてくれってミッシュが言ってた。」

 探知って……魔族の指導者!

 私は急いでコールズさんたちを呼んで3人にネックレスを渡す。

 コールズさんとウィルナさんがすぐにネックレスを身に付けて、ソバット君が迷っている間に、ジューダ君がもう一度ネックレスの機能を繰り返して説明してくれた。

「値段なんか気にしなくて良いからソバット君も付けて。

 男がアクセサリーを付けるのが気になるなら、服の下に見えないようにで良いから。

 これは私たちを探そうとする相手から身を守る物だから、身体を清めるときにも絶対に外さないでね。」


 それぞれがネックレスを装着して、他に何か聞くべきことがないか、ジューダ君たちに確認しようとしたときだった。

 急にコールズさんの魔力が膨れ上がるのが感じられて、私は思わず身構えた。

 でも、コールズさんから感じられるのは攻撃の類いではなく、地力が上がる感じ。

 私が眷属の総意を発動したときとよく似た感覚に、何ごとかとコールズさんを見ていると、コールズさんも不思議そうな顔でステータス表を表示して変化の内容を確認する。


「あ。」

 コールズさんが声を上げて固まり、私はその理由を知りたくて、コールズさんの側へと近寄った。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 私は数名の家臣を連れて、王都の外れにある王家所有の兵士の待機所へとやって来ていた。

 母上からアスリーと一緒に戻ってきたとの連絡を受けたのは昨夜のことで、母上たちは取り敢えず王都に入るのを遠慮して1つ手前の町で駐屯している兵士に声を掛けて先触れを寄越してくれた。


 アスリーが魔族に掠われたことは、王都の情勢が逆転した時点で魔族侵攻の事実と共に国民には公表している。

 シューバを討伐して救出されたアスリーが国民に知られることなく王都に帰還すると言うのはあり得ないが、公的に帰還行事をやると母上たちから詳しい話が聞き取れるのは何日も後になるために、私がそっと王都を脱出して母上とアスリーに会いに来たというわけだ。


「我が君、大変ご心配をお掛けしました。」

 そう言って私の前で手首を交差させて手を組み、少し頬を赤らめ恥ずかしそうに立つアスリーを前に、私は目の前にいるのが誰なのか、判断に迷っていた。


(これは本当にアスリーだろうか。

 ”我が君”という呼びかけといい、隙のあるなしを度外視した女らしい仕草といい、まるで自覚なくやらかしているときのセイラさんのような…… )

 シューバから解放されたアスリーの性格が少々変わってしまったという報告は受けている。

 しかしそれでも、アスリーからはこれまでと同様に”ダイカル、隙を突かれて不覚を取ってしまい迷惑を掛けた。すまなかった。”というようなやや格式張った謝罪の言葉を受け取るのだろうと思っていたのだ。


「あの、”我が君”というのは、セイラさんが私の代わりに魔王妃の儀を受けて下さったときに使ったダイカルへの呼びかけ方だと聞いていますが、おかしかったでしょうか? 」

 なぜアスリーが私のことを”我が君”と呼ぶのかは分かったけれど、私はまだアスリーに声が掛けられない。

 アスリーの微笑みが初めて見るもの、というよりセイラさんの微笑みにそっくりだったし、ひょっとしたらアスリーはどこか別の場所にいて、アスリーがいない隙にセイラさんに揶揄(からか)われているのではないかという考えが頭を掠めたからだ。


「ははっ、安心おし。そこにいるのは正真正銘、アスリーだよ。」

 母上にそう笑われて、私はようやく迷いを振り切ることができた。

「お帰り、アスリー。無事で何よりだ。」

 私の言葉にさらに柔らかく微笑むアスリーに、私はなぜアスリーがこんなにも変わってしまったのか、是非とも詳しく聞き出そうと誓ったのだが、その誓いは見送られることになった。


 アスリーの魔力が急に膨れ上がったのと同時にレベルが一気に上昇するのが感じられた。

 私が目を瞠りアスリーの状態を確認しながら身構え、どうしたのかと状況を見守る中、アスリーは自分の状態異常を素早く確認して特別な対応が不要なことを見定めてからステータス表を開いて内容を確認すると、雰囲気を一変させた。


「我が君。今夜にも魔王妃の称号を授かりたいと思っていましたが、どうやら見送らなければならないようです。

 勇者の称号を捨てるわけにいかなくなりました。」

 そう言ってアスリーが私に開示したステータス表の特技欄には”憂国の忠義”という初めて見る項目が表示され、レベルは15万に達していたのだが、レベルの横には”(1/3)”という注記がされていた。


 ”憂国の忠義”というのがどういう条件で得られるものかは分からないが、魔力が急に増加したことから、きっと魔王の場合の”眷属の総意”に相当する能力だろう。

 そしてレベルの横に3分の1と表示されているのは、本来得るはずの力をコールズとアスリー、それとトールク アスバインとかいう現勇者との3人が均等に分割して得ているとみていいはずだ。

 つまり本来アトルガイア王国のトールク(なにがし)が得たはずの力は今の3倍で、レベルもそれに見合ったものだったということだ。


  もしアスリーが勇者を捨てれば、コールズとトールク某が半分ずつの力を得ることになる。

 アスモダから聞いた報告で、コールズが私たちに(くみ)することになったというのは僥倖(ぎょうこう)で、アトルガイア王国との戦いがあるかも知れない前提で考えるならば、勇者の力の3分の2がこちら側にあるというのは実にありがたいことだ。


 私がアスリーに頷き返すと、アスリーはやや複雑そうな笑みを浮かべる。

「私とセイラさんがそれぞれ違う能力で我が君を支えられるというのは嬉しいことですが、魔王妃の力を振るうのが私ではないというのは悔しいですわよ、我が君。」

 アスリーが私を恨みがましく見てそれからついと視線を逸らすのに私は困惑した。


(”憂国の忠義”が発動した際の対応を見る限りではアスリーの性格の本質は変わっていないんだろうが、アスリーの女らしい反応が以前と違いすぎていて、底が見えない。

 私はどう対応したらいいんだろうか。)


 アトルガイア王国への対応を忘れそうになるほど集中を掻き乱されて、私はアスリーの反応のいちいちが気に掛かったが、気分は悪くなかった。

 アスリーは以前に増して私を理解し支えてくれるだけでなく、生活に一層の彩りを与えてくれそうだと、確信めいた予感がしていたからだ。



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