第25話 魔力の方が高い私がなぜ剣士なのか、ずっと謎でした
翌日、私はソバット君に今日から私たちと一緒に行動をするよう伝えた。
「はい、師匠。俺、頑張りますっ。」
伝えてからソバット君はテンションが上がってしまって、装備はどうしましょうかとしきりに聞いてくるので、そのままで良いから食事を済ませてからまた私の宿屋へと来るように言っておいた。
”過剰装備は動きが悪くなるし、甘えが出るからね。”と言って、母様は必要最低限の装備しか認めない主義だけど、私もそれに同感。
ソバット君は皮の帽子と一体になった頬宛てに革鎧を着ているから、それで充分。
全員が合流したところでいつもの広場へと向かう。
「ソバット君、今日、これから経験することは絶対に人には話さないように。」
私は口止めをしてから、今日から光魔法と神聖魔法を覚えてもらうことを告げた。
ソバット君の魔力は多くはないけれど、A級くらいまでレベルが上がれば光魔法と神聖魔法の複合魔法が数度は使えるようになるはず。
いつまで一緒にいられるかは分からないから、今のうちに将来役に立つ種を仕込んでおくつもりだ。光魔法単体で使っても、怪我の回復くらいならできるんだし。
ただ、今のソバット君のMPだと一日で魔法を覚えるという訳にはいかない。1つの魔法を覚えるのに3日くらいかかることを最初に伝えておいた。
私がオートリバースで属性魔法を送って、はい、はい、と声を掛けるのに合わせてソバット君が魔法を発動しようとするのだけれど、当然最初は何も起きなくて、ソバット君はこれで本当に魔法が覚えられるのかを疑っていた。
なので、ソバット君にステータス表を出させて、魔法を使うごとに魔力とMPが減っていることを確認させると、ソバット君は随分と驚いて、それからやる気になった。
でも結局、この日、ソバット君は魔法が発動したらしい兆候は何もないまま終わって随分とがっかりしていたのだけど、翌日にはぶしゅぶしゅと魔法の不発の音が鳴り始めて、予定どおり3日で覚えることができた。
「師匠、他人に魔法を教える方法なんて初めて聞きましたが、どんな特技や属性があればできるんですか。」
ああ、そりゃ知りたいよね。でも、オートリバース以外でそんなことができる方法は私も知らないから、答えられない。
「うん、ちょっと事情があってね、ほかに覚えてる人がいないはずの技能なの。
だから私がこんなことができるなんて知れたら大騒ぎになるから、黙っておいてね。」
「ほかに使える人がいないって凄いですね。
もしこんなことができるって分かったら、師匠を掠ってでも、なんて考えるヤツが出てきそうですよね。
師匠は強いから直接は無理でも、弱みを握ってなんてヤツは必ずいて……あ、俺が狙われたりするのか。
分かりましたーっ。」
ソバット君は自分が危険と判断して納得してくれたんだけれど、ソバット君が人質になったらどうするか、か。
そこで折れてたら、シューバ戦の時にティルクがやられた時と同じだよね。
うーん、ソバット君を切り捨てるべきか、何かすごい方法を編み出したりするのか。
ちょっと悩んでみていたりするのは、ソバット君には秘密。
◇◆◇◆
『なあ、思ったんだが、魔法攻撃に比べて戦士の攻撃や防御が弱すぎると思わないか。』
ソバット君がいるのでコールズさんが念話で話し掛けてきた。
『そうなのよね。今のレベルの強い魔法が1発当たったら、レベルは同等だったとしても肉体が重大な損傷を受けちゃう。
でも、勇者は戦士系も魔法系も同等に評価されるんでしょ。
だったら何か肉体を強化する方法があるんじゃないかと思うよね』
その発言が戦士の攻撃力と防御力の開発に取り組む発端になった。
戦士は魔力が少ないから魔法を使うことができない。
だから魔力やMPに関係なく肉体を強化できる方法があるんじゃないかとおもうんだけれど、それが見つかってないのよね。
私は日本にいた頃に読んだ漫画の知識で”気”とかがそれじゃないかと思ったのだけれど、気を込めたつもりでやっても効果はなかったし、気が精神集中の類型なら戦士の専売特許ということはないだろう。
魔法使いだって使えるはずだし、魔法使いが使えてしまえば結局魔法使いが優位に立つことになる。
何か他の要素があるんじゃないかと思うけれど、でも、それって何。
そこで私たちは煮詰まってしまったのだけれど、その何かは、思いも寄らないところからやって来た。
「あ、いたいたっ。おーい、セイラ姉ちゃーんっ。」
向こうから男の子が私に向かって手を振りながら駆けてくる。
雰囲気が違うので最初は誰だか分からなかったけれど、私をセイラ姉ちゃんと呼ぶ子は1人しかいない。
「ジューダ君、こんなところへ、どうしたのっ。」
ジューダ君は魔族特有のカメラレンズのような目を闇魔法で偽装していて、人族の子にしか見えない。私のところへ辿り着くと、ボスン、と腰に抱き付いてきた。
周りを見回すと、木立の向こうからマイラたちが現れて私に手を振っている。
私もジューダ君の頭を撫でながらマイラたちに手を振り返すと、ノーメがにへらとした笑い顔で、おーい、と返してくる。
私の横で、セイラ姉ちゃん?、と呟きながらソバット君が首を傾げているのは取り敢えず放置して、威城のメイドとジューダ君の5人に念話を送る。
『もう遅いけどさ、そこのソバット君には”キャセラ”って名乗ってるあるの。周りを見てから呼びかけようね。』
5人が一斉にふいっと目を逸らして、コールズさんたちは何ごとと思ったみたいだけど、うーん、これはソバット君に説明しないといけないよねえ。
「ソバット君、実はね…… 」
仕方がないので、ソバット君に簡単に事情を説明する。
といっても、魔法を教えるときにした話に付け加えて、シューバの件があるから名前と顔を変えないと大騒ぎになるからとだけ話して、顔を元に戻して見せただけ。
「……。ああ、そうですか。」
ソバット君は最初なぜか素の顔で、それからしばらくしてぽつりと言った。
「俺、シューバを倒したセイラさんの弟子ってことですよね。」
まあ、そういうことね、と私が答えると、ソバット君はだんだんと嬉しそうな顔になる。
で、ソバット君のことは置いて、次はマイラたちの相手をする。
「それで、どうしたの? 」
「んー、キューダさんたちはシューダ討伐のための特訓を始めちゃってね。
ほら、私たち、彼らと少しレベルが違うじゃない。
どうしようかって相談しているところにセイラが元気になったって聞いたからさ、顔見がてら、こちらに合流しようかって。」
そうそう、とジューダ君が頷くけれど、私だって別に遊んでいる訳じゃない。
あ、そうだ、シューバに追われた魔物はそんなに強くないから今のみんななら対応できるだろうし、魔物狩りを手伝ってもらって、ついでにソバット君を押しつけよう。
そんな算段をしていて、ふと、どうやってみんなが私を見つけたのかが気になった。
「ん? 姉ちゃんたちがセイラ姉ちゃんの居場所が分からないっていうから、僕が空間魔法と闇魔法で探知したんだ。」
こともなげに言うジューダ君に、探知の魔法なんていつ覚えたのと聞いたら、そんなもの、憶えることでもないじゃん、とジューダ君が平然と答える。
「こう、やりたいことをイメージしたら、自然と魔法の組み合わせが思い浮かぶから、あとは使うだけだよ。」
私たちが頭を突き合わせて考えて片端から組み合わせてみて、ここ数日一生懸命やって来たことは思い浮かべればすぐに分かると、ジューダ君は当然のように言った。
「え、何故そんなことができるの。」
「魔法使いは使いたい魔法があれば直感でどうやれば使えるかが分かる。
剣士が直感で攻撃や防御ができるのと同じだろ。」
え、剣士の直感って何。




