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第23話 私の事情。女神様は参加しませんでした

「び、びっくりしたっ。

 いつもソバット君やコールズに近距離で平気で接しているから、いける口かと思ったら、セイラさん、すっごいねんねだった。」

(いける訳ないでしょうがっ。

 私、男と仲良くなるつもりがないんだからっ。)


 心で反論しながらも、すごく怖い思いをしたのでなかなか涙が止まらない私を、ウィーナさんはそっと抱きしめてきた。

 今度の抱擁には性的な雰囲気は一切なくて、私は大人しく抱かれて、ウィーナさんの胸に頭を預ける。


「ごめんなさい、私、セイラさんの力になれそうと思って1人で力んじゃって、やり過ぎたわ。

 ……許してくれる? 」

 ウィーナさんの胸の中でこくりと頷く私の頭をウィーナさんが優しく撫でてきて、不思議と気持ちがだんだんと落ち着いてきた。


(こうしていれば少し年の離れたお姉さんみたいなのに、私が自分の体に変なことをしないように律するための最終防御壁を簡単にぶち破ってくれちゃって…… )

 ウィーナさんに撫でられながら、ぶちぶちと心の中で文句を言う。


 私が自分の体に変なことをしたらそのまま死んじゃうかもしれないというのは、私自身に対する最大の抑止力だった。

 だってあられもない格好で恥ずかしいことの最中に死んでしまって、それを人に見つけられたりしたら、きっと死んでも死にきれない。


 それが、どさくさに紛れて女神リーアのノーカン宣言が出てしまって、跡形ないまでに最終防御壁を破壊されてしまった。

 まあ、あのまま続けたら、ウィーナさんには神罰が下った可能性が高いけれど……


(あれ? そういえば女神リーアがやけに人間くさいというか、フレンドリーだったような気が…… )

『あ、ばれちゃった?

 ほら、この間、使徒に憑くと人間だったときの記憶に引っ張られるって言ったでしょ。一度引っ張られると、しばらく影響が残るのよ。』


 リーアからいきなり砕けた表現で回答があって、ちょっと驚いた。

(そんな大変なことになるのに、本当に使徒が穢されるのが嫌というだけでわざわざ来たの? )

 私の疑問に、リーアは答えてくれなかった。

(ひょっとして、私のために『その先は考えちゃダメ。私はあくまで使徒を護りに行った。そういうことよ。』)


(何かの制約があるんだ。)

 私は慌てて考えるのを止めて、話題を転じた。

(またお話をしても良いでしょうか。)

『そうね、許される範囲でなら、しても良いわ。じゃあね。』

 そう言うと、リーアの声は聞こえなくなった。


 私がウィーナさんの胸から体を起こすと、ウィーナさんは優しい目で微笑んだ。

「セイラちゃん、可愛いわあ。ね、セイラ……じゃなくて、キャセラちゃんって呼んで良い? 」


 さすがに”ちゃん”付けは遠慮したけれど、男1人に女2人の組み合わせは目立っていて、冒険者ギルドなどで冒険者の間で3人の関係にいろんな憶測を呼んでいるらしいのは知っている。


 今はウィーナさんは若返って20歳過ぎくらいにしか見えないこともあって、私はウィーナさんのことは姉さんと呼ぶことにした。

 で、ウィーナさんは私のことを”キャセラ”と呼び捨てにすることにしたのだけれど、後で気が付いたら、ウィーナさんからは戦いの時を除いて半分以上の割合で”ちゃん”付けされることになった。


「あ、そういえば、ウィーナ……姉さんとコールズさんのレベル、合ってないですよね。その、大丈夫なの? 」

 ウィーナさんは困ったように笑った。

「大丈夫じゃないわよ。でも、そこは私の前の職業があれだし、テクニックでいろいろとね。

 コールズも無理をしなくて良いと言ってくれているけれど、私としては、やはりちゃんと結ばれたいじゃない。」

(ああ、だからレベル上げにあんなに頑張っているんだ。コールズさん、本当に愛されているんだなあ。)

 まあ、今の私には到底分からない努力ではある。


 そうして、ウィーナさんの話も大体終わって雑談に入った頃を見計らって、コールズさんが戻ってきた。


「その、セイラさんにはどうも大きな秘密がありそうだ。

 一緒に活動をしていくなら、それを知っておいた方が良いと思うんだが、人の過去なんて、強要して話してもらうことでもないとは思っている。

 だから、その、俺たちの過去も知ってもらって、セイラさんにいくぶんかでも話してもらって、俺たちにも背負えるものはないかとウィーナと相談したんだ。


 俺たちの過去なんか取るに足りないものだし、重さが釣り合わないんだろうが、話せる部分だけで良い、セイラさんのことを教えてくれないか。」

 要は、私が2人と心の距離を近づけたいと思ったのと同様に、2人も私と心の距離を近づけたいと思ったということだった。


 さっきの2人の話からして、コールズさんとウィーナさんは私に話してくれた内容をお互いに話してはいない。

 だけど2人は恋人としてお互いを求め合っていて、心の距離は近い。

 私との接点の少なさが私を同行者に止めさせて、なかなか心の距離が縮められないことを気にしての行動だったようだ。


(さて、どうしよう。)

 私は少し迷って、結局、私に起こったことは全部話すことにした。


 アトルガイア王国に次の勇者の体を乗っ取って勇者となるために異世界から召喚されたこと、自分が異世界では男だったこと、召還時に魔族の攻撃で幽体の抜けたアスリーの体に入ってしまったこと、自分がレベル1だったせいで体が破裂・復元されたどさくさで魔王妃の称号が付いてしまったこと、王都が魔族と戦う時間の猶予を生み出すために、魔族に操られている偽装を始めたダイカルから逃げようとした母様が私を連れて戦闘力を鍛えたこと。

 そこまで話して、一息を入れた。


「一年足らずで、レベルをここまで上げたのか。一体、どうやって…… 」

 コールズさんの感嘆混じりの質問に私は答える。

「母様の指導が的確だったことと、アスモダから逃げ出した魔獣に追われて弱い魔獣からだんだんと強い魔獣が押し寄せて来て、結果的にレベル上昇に合わせるように強い魔獣と戦ったから、すごく効率的にレベル上げができたこと、それから、レベル上げの転換期に魔族と戦ったことが大きいわ。

 結果的に、レベル上げのための環境を用意されたみたいなことになったのよ。」


 はあ、と感心するように溜め息を吐く2人に、私は続きを話し始めた。

 そうして、男性の意識が減っていく中で、たぶん自分の意識と行動の一貫性を護ろうという抵抗から男女の意識のそれぞれに対応して人格が男と女に別れたこと、運よく女神リーアから使徒の体を使うことの許可を得てシューバとの戦いに臨んだこと、シューバとの戦いでセラムの意識が消滅したことまでを話すと、コールズさんが罪悪感に顔を強ばらせた。


「大丈夫、どうやってかは私にも分からないけれど、セラムは復活するわ。

 私はセラムが戻ってくるまでに、シューバ討伐のときに自分に負けてしまった精神力を鍛え直すためにこうやって修行をしているの。

 もう二度と、自分を見失わないためにね。」


 全てを話し終えると、コールズさんが改めて頭を下げてきた。

「シューバで俺がやったことについては、本当にすまなかった。

 セイラさんを女神リーアが支援しているとなれば、誰が正しいかは明らかだろう、俺の疑念の残りも完全に払拭された。

 改めて、シューダ討伐には全面的に協力する。」


 コールズさんの言葉を受けて、やれやれ、随分と遠回りになったと思いながら、私はようやくソバット君のことを2人に話して、魔獣討伐に参加することの了承をもらった。



というわけで、前話の彼女の事情の後の(1)は削除します。


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