表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/233

第19話 母娘は似る scene2。母様に扱かれ慣れてちょっと感覚がズレ始めてるかもしれないです

 その日の朝、ソバット君が宿に迎えに来なかった。

 前日の様子でもソバット君は意欲に燃えていて、サボるような気配はなかったのに、なぜ、と私は取り敢えずいつも訓練を付けている町の外の広場まで出てみることにした。


 広場で待っていると、ぞろぞろと4人の男が出てきて、その後に縛られたソバット君が引き摺られている。

 あ、これ、揉め事だ、とがっくりときた私に先頭の男がにやにやと笑いながら私に話しかけてくる。


「姉ちゃん、朝早くからこんなところまでご苦労だな。

 昨夜は愛しいツバメが忍んでこなかったから、今日は朝から体が淋しかったんじゃないか? 」

 ぶわははっ、と周りの男たちから下卑た笑い声を浴びせられて、私はこいつらが何を想像しているのかを察した。


「目障りだから、彼を自由にしてどこかに行っちゃって。」

 私が声を抑えて帰れと命じても、当然彼らには従う気なんかない。


「おい、幾ら強い男がバックについているか知らないが、今はお前1人なんだぜ。

 知らねえだろうが、俺たちはB級3人にC級が1人だ。敵うもんじゃねえ。」

 男はそう言いながら、私の体を舐めるような視線で見てきて、私は不快感を感じると同時に怒りが湧き上がってくる。


「なあ、あの女に男を取られそうになって、体を持て余してこんなことをしてるんだろう?

 こいつの代わりに俺たちがたっぷりと相手をしてやるから、(ねんご)ろになったあとで俺たちにも小遣、ひぐっ」


 寝言を(さえず)る男の間合いに一気に踏み込んで、背が違いすぎて顔に手が届かないので、柄と剣の腹に手を当てて剣の腹で横殴りにすると男は派手に吹き飛んだ。

 足を引いて向きを変えて剣を放り出して次の男を殴り、3人目、剣の柄に手を掛けているのを上から押さえて足を払って倒れていく頬に肘打ちする。

 4人目は剣を抜きかけていた肘を下から叩いて、動作を中断させてがら空きになった懐に入ると下から掌底を突き上げた。


 それから転がる男たちには目もくれずに剣を拾ってソバット君のところへ行き、縄をナイフで切る。

 男たちに殴られてボコボコにされていたので、ソバット君を光魔法で治療していると、ソバット君が周りを見回して呟いた。


「昨日の午後にこいつらに捕まっちゃって、師匠、すみません。

 ……でも、やっぱりとんでもない強さですね。」

 ソバット君は、あれ以来私のことを師匠と呼ぶ。

「大丈夫、君もそのうちあんな奴らのことは雑魚(ざこ)と言えるようになるよ。

 で、昨日の成果は? 」

 私が尋ねるとソバット君の表情が曇って、悔しそうな顔をする。


(10に足りないのは分かるけれど、幾らくらいだろう。

 午後に捕まったと言っていたから、多分、3か、4か。それくらいね。)

 昨日捕まってから飲まず食わずだったろうソバット君に水筒を取り出して渡して、ソバット君が飲む間に私はこれからのことを考えた。


「これから特別に直に組み手を教えます。私がこうやって教えるのはこれが”最後”になるから、気を入れて掛かってきてね。」


 毎日レベルを10上げられなければ訓練は終わりだとソバット君には最初に言い渡してある。

 ”最後”という言葉に、ソバット君は何か言いたそうにしていたけれど、ぐっと唇を噛み締めて、結局言わずに剣を構えた。


(うん、状況を理解した上で言い渡された厳しい処置に言い訳をしない。

 立派に男の子だね。)

 私は内心でにまりと笑って、ソバット君の限界まで攻めて受けを教え、反撃の隙を作って打ち込ませては攻撃の粗を修正させた。


 私たちが訓練をしている間に、男たちは様子を伺い、警戒しながら逃げていった。

 開始から1時間が経過して、ソバット君が動けなくなったのを見計らって、私は訓練の終了を告げた。


 訓練が終わって、唇を噛み締めるソバット君にレベルの確認をする。

「昨日からで、レベルは幾つ上がった? 」

「昨日から? え、ええっと、12です。」


「よし、特別に昨日の分は今終わったことにしてあげる。

 私が融通を利かせるのはこれが”最後”だから覚えておいてね。

 今は動けないほど疲れているだろうけれど、今日も頑張って10上げるのよ。」


 私の言葉にソバット君は(うずくま)ったまま、ぱあっと顔を輝かせ、後半を聞いて少し項垂(うなだ)れた。

(んふふ、母様に比べたら、まだ可愛い方なんだから、頑張ってね。)

 まだ可愛い方、と考えた時点で私も母様に毒されているとは、そのときはまだ気が付いていなかった。


(彼もそろそろレベルは300を超える。

 シューバに追われた魔獣たちの相手にさせる訳にはいかないけれど、一緒に連れて行って、普通の魔獣を相手させるくらいはしても良いか、コールズさんたちに聞いてみることにしよう。)

 私はそう考えながら、ソバット君にはまだそのことは言わないでおいた。


◇◆◇◆


 その日、コールズさんと対戦形式で訓練をしていたときだった。

 いきなりずしんと大きな力が湧き上がってきて、コールズさんの脇に撃とうとしていた光ビーム砲が暴発した。


 ビュルウッ!!


 照準をとっさにずらしたけれど、幅20センチほどのとんでもない威力のビーム砲が走って、それがいきなりコールズさんの手前で普通の威力に戻ってコールズさんの側を通り過ぎた。


「あ、危なかった。……びっくりしたあ。」

 もし飛んだ先がコールズさんの側で、魔王の効果がビーム砲の威力を打ち消してくれていなかったら、どこかに当たって大きな被害を出して火災を引き起こしていただろう。


 へたり込んでいる私のところへ、コールズさんが怒りの表情で駆け寄って来た。

「おいっ、何があった。」

「ごめんなさい。いきなり大きな魔力が突き上げてきて制御が甘くなってしまいました。」


 ステータス表を見ると、レベルが30万に達している。

 慌てて確認すると、”眷属の総意”がリアルになっていて、いきなり眷属の力が増えた影響で、急激に上がったレベルの影響が抑えられなかったようだ。

 また事故があると困るので、取り敢えず”眷属の総意”を固定に設定し直す。


 レベル30万と言っても肉体的な力は直線的に伸びていかずに、幾ら魔法なんかで強化しても人の4,5倍くらいのところに集束していく。

 魔法も同様であって欲しいのだけれど、こちらも直線的に伸びる訳ではないけれど、レベルが上がっても力が伸び続けている状況にあって、強い魔法に遭遇するのが怖いったらない。

 コールズさんが怒るのも当然だ。


(何だってこんなに眷属の力が急に集まったの。)

 原因を考え込んでいたら、私の様子を窺っていたコールズさんが、あ、と声を上げた。


「そうか、ガルテム王国だ。

 ガルテム王国の国民にシューバを討伐した話が公開されたんだろう。」

「え!? 」

「つまりだな、キャセ、…ガルテム王の婚約者であるセイラさんが、王太后様の協力を得てシューバを討伐した事実がようやくガルテム王国のセレモニーだかで一般に披露されて、それに熱狂した人たちが眷属になったんだろう。」


(眷属になるって、4分の1で20万のレベルアップだから全体では80万上がったってことよね。

 普通の人のレベルって100とちょっとだったっかしら。

 普通の人たちだけだったら8万人相当くらい?

 そんなすごい数の人たちが一斉に魔王の眷属になったってこと? )


 魔王の、と考えたところで何かが引っかかって、さっきコールズさんが話してくれた言葉を反芻(はんすう)する。

”ガルテム王の婚約者であるセイラさんが……”


(ちょっと待って! )

 私はコールズさんの言葉に動転しながら抗議する。

「何で私が主語になってるんですかっ!

 私と母様が皆と協力してシューバを討伐したんでしょうよっ。」


「え、そうか?

 王太后様は粘菌が広がらないようにしていただけで、シューバを討伐したのはセイラさんだろう。」

 討伐された本人の言葉に、私はたじろいだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ