第18話 創造魔法、Lv.1。雰囲気で言ってみたかっただけ
更新が遅くなり申し訳ありません。
……コロナのワクチン接種で熱が出た人のしわ寄せがこっちに来たという、くだらない原因でした。
「それでコールズさん、あのシューバがいろんな魔法をでたらめに撃つ魔法──私は”乱れ打ち”って呼んでいるんですけれど、あれの属性って分かっていますか。」
「だから俺はそういうのが苦手なんだよ。
その、乱れ打ちだが、俺が持っていない属性の魔法も撃つから知りたいとは思っていたんだ。」
(やっぱりパソコンできないおじ…お兄さんか。
コールズさん、脳筋そうだものねえ。)
「乱れ打ちは、空間魔法と闇魔法を同時に発動して使っているんです。
乱れ打ちを覚えたのに魔法属性が増えなくて、私、なぜだろうと思って解析をしてみて分かりました。」
ドヤ顔にならないように注意しながら説明すると、コールズさんは感心したような顔をしてくれた。
(うくく…唇が釣り上がったら目も緩んでドヤ顔に……堪えろ、私。)
くだらないことに精力を使う。
「それに気が付いてから、この10日間くらいずっと複数の魔法を組み合わせて何かできないか試してみていたんです。
……やりたいことと属性魔法の組み合わせが一致しないと発動しないので、試行錯誤の連続になっちゃったんですけれど、いくつか新しい魔法を開発できました。」
私は薄く笑みを浮かべると興味深げに見てくるコールズさんとウィーナさんに私の見つけた魔法を披露する。
「まず光魔法と水魔法、または光魔法と空間魔法の組み合わせで作るビーム砲。」
幅1センチもない元の光のビームが直径5センチほどに強度を増したビームが迸る。
2度閃いたのは、光の周りに水で反射鏡を作ったものと周囲の空間の空気の厚さを変えて反射鏡にしたものとの2種類を撃ったから。
効果はほとんど同じだけれど手法が違う。
「この魔法のように、違う魔法の組み合わせで同じ効果が得られるものもあります。
大事なのは何をしようとして、その効果をどんな魔法属性の組み合わせで実現するかってことなんです。」
コールズさんが感心したような顔をするけれど、残念ながら万能っていう訳じゃない。その実例をやってみせる。
「土魔法と神性魔法と金魔法。」
土が灼熱し溶けて余分な部分が溶け落ちて徐々に姿を変えて、堆く積み上がった土ガラの上にカラン、と音を立てて地面に落ちた剣を見てコールズさんとウィーナさんが驚いている。
「土を精製して、金属を作り出すこともできるようになりました。
ただ残念ながら、あれは剣の形をしてはいますが、私にはまだ硬くなりすぎて脆いか柔らすぎるものしか作れません。
武器として実用になる段階まで鉄を精製するには、私が鍛冶のやり方を理解して織り込むことが必要みたいなんです。」
話しながら剣の形をしたものに土弾を打ち込んで、クニャリと曲がるのをコールズさんたちに確認してもらいながら、私はまだこの世界では存在を聞かない刀へと思いを馳せる。
(この魔法で日本刀が作れれば、私の戦い方ももう少し進歩するのかもしれないんだけれど。)
「キャセラさんは自分の魔法を人に教えられると言っていたな。
ならばキャセラさんが覚えた魔法は俺たちも使えるようになるわけだ。
ただ、俺やキャセラさんはともかく、ウィーナはあんまり魔力が高くないから、2種類の魔法を同時に起動する魔法を数回使うのが限度だろう。
少ない魔力で立ち上げられてMPの使用量が少ない魔法、そんなのが見つかれば最高なんだが…… 」
ウィーナさんのことを思いやるコールズさんに内心、ご馳走様をした私だったけれど、コールズさんは私の心の内に気付いたようで、少し照れた笑いを浮かべた。
「でも、やりたいことのアイディアが実現可能ならば魔法の組み合わせで身につけられるこということだな。
キャセラさんには苦労をかけるが、皆でアイディアは出してみようじゃないか。」
(よかった、コールズさんは私の狙いを分かってくれた。)
私がほっとしていると、コールズさんは私が思ってもいなかったことを言ってきた。
「勇者の俺がここにいるんでなけりゃ、魔法を作り出す力はキャセラさんの魔王妃の能力かと思うところなんだがな。
魔王妃の力は魔王の能力に沿ったものになるらしいが、ガルテム王の魔法の力は何だ? 」
(え? あ、私、知らない。)
ダイカルが魔王妃の力を発現する重要なヒントを持っているらしいことを知って、私は母様たちと連絡を取ろうとしたのだけれど、母様、ティルク、ミッシュの誰からも応答はなく、セルジュさんとも連絡は取れなかった。
母様たちには報告したいこともあるしまた後日連絡することにして、今日のところは2人に光魔法と神聖魔法を覚えてもらうところから始める。
その日の午前中は光魔法を覚えてもらうことに費やして、午後からはコールズさんたちと私が二手に分かれて魔獣たちを退治しに行く。
それからは、午前は魔法の習得と訓練、午後は魔獣たちの討伐というのが私たちの日課になった。
◇◆◇◆
「やあ、もう随分と崖を登ったけれど、まだニルグまではあるのですか。」
俺は絶壁の隙間に手を差し込んで足場を保持すると、ジュアナに手を差し伸べながらミッシュに問うた。
『これで半分ほどだな。簡単に登れるものなら、ここの魔物たちは今頃シューダの餌になっているだろうよ。』
岩棚に器用に立っているミッシュは俺にそう答えながら、必死で壁に取り付いているジュアナを見ていた。
ジュアナは体力的には俺を凌いでいるはずなのだが、落ちる恐怖から全力で岩棚にしがみ付いていて、俺がジュアナの手を掴んで岩棚から引き剥がすようにして引っ張り上げて、ようやく足が動き始めている有様だ。
「……怖くない、怖くない、怖くない。」
真っ青な顔でブツブツと呟いているジュアナは、ミッシュからこの上の幅1メートルほどの岩場で今夜は野宿だと聞いて悲鳴をあげた。
『高いところが苦手のくせによく来たな。』
ミッシュが含み笑いを響かせるのをスルーして、俺はジュアナを引っ張り上げて手掛かりとなる岩の裂け目に手を導き、空回りする足を乗せる足場の指示をする。
「ところで、王太后様やアスモダの方たちでなく私とこの上の魔物たちとを引き合わせるというのはどうしてですか。」
『取り敢えずは、ここを登れて魔物と落ち着いて今後の話をできそうなのがアイザルとセルジュしかいなかったというのが理由だな。
セルジュはガルテム王国とアスモダとの連絡や折衝に忙しいから、消去法だ。』
ああ、商人としての自分の交渉力を見込まれたのか、と理由に思い当たって納得している俺に、ミッシュがジュアナを見ながら言う。
『アイザルもガルテム王国でダイカルと面談すると聞いたからな、俺がいなくてもガルテム王国、アスモダの人間側とニルグの魔物が連携できるように彼らと繋ぎを付けておいて欲しい。
魔物たちとある程度の信頼関係ができれば、ケイアナたちのところまでエトンのピューラに乗せて2人を送らせる。』
「エトンって、鷲の!?
嫌よ、私、そんなのに乗らないからね!
アイザル、もう止めて帰…… 」
眼下の絶壁を覗き込んでジュアナが絶句した。




