第17話 姉様は絶対私のもの。姉様、信じてるからね
コールズさんと別れて魔獣たちの討伐に向かい、私が魔獣2頭と魔物1頭を討伐してウィーナさんたちのところへ戻ってくると、まだコールズさんは帰ってきていなかった。
「お帰り。この訓練、真面目にやるとけっこう疲れるね。」
ウィーナさんがそう言って迎えてくれて、見るとソバット君は膝がガクガクして体の軸がブレまくって、上半身だけでナイフを振っている有様だ。
疲れたまま訓練しても基礎ができていない今は意味がないことをソバット君に教えなければと、私はソバット君を止めて、こまめに休憩を取って形式的な作業に流れないことを注意してから、最後に渾身の1回をやらせて今日の訓練を終了した。
座り込んでウィーナさんから渡された水筒を飲みながら、ソバット君はステータス表を確認して、驚きの声を上げる。
「え、4? 今日の訓練で4上がりました! 」
「明日からは10が目標だから、精度を落とさないように頑張ってね。」
ソバット君が頷くのを見て、私はまあ大丈夫だろうと少し安心した。
やがて帰ってきたコールズさんは魔獣4頭を仕留めたそうで、もう暮れ始めた冬の森を、私たちは急ぎ足で町へと向かった。
冒険者ギルドで換金したお金はけっこうな金額になって、私とウィーナさんとソバット君は武器屋で装備を買って、私は無事に宿に泊まることができた。
結局、今日のところはコールズさんとの訓練や魔王の特技の確認もできなかったため、母様たちへの連絡はまた明日のことに回した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ティルク、ほら早く。もう出掛けるわよ。」
はぁい、と私は生返事をして、もう一度思い切り念話を飛ばしてみるけれど、やはり姉様からの返事はない。
(王都に行ったら確実に1ヶ月は会えないし、冷たくしたことをお詫びして、行ってきますの挨拶だけでもしたかったな。)
可能性を考えると、姉様が行った方向はビアルヌの南方しかないというのは分かっているけれど、ちょっとぐるりと飛んでみたくらいでは念話は届かなかった。
(大丈夫とは言われたけれど、やっぱり姉様が男の人と一緒にいるというのは…… )
姉様が取られてしまわないかという込み上げてくる焦燥感を抑え込むけれど、あんな別れをしたまましばらく姉様に会えないことが私の不安を煽る。
姉様と会話したミッシュに姉様のいる方角が分からないか聞いてみようと思ったけれど、ミッシュはシューダ対策で出掛けてしまっていた。
「ティルク! 」
母様に再度呼ばれて、私は重い腰を上げて、姉様の親衛隊たちの間を通り抜けて玄関へと進む。
表では、ビアルヌ男爵が手配してくれたジャクという名のフェンリル1頭とフェンとリルが待っていて、母様がリルに、アスリーさんがジャクに、そして私がフェンに乗って街道を駆けていくことになっている。
フェンはまだ1歳で少し小さいし知能は残念な状態だけれど、気立てが良いし頑張り屋なので、リルが気をつけて監督してフェンに合わせて行けば問題はないだろうということになっている。
まあ、私は飛ぶこともできるので、時々は飛んでフェンの負担を軽くしてあげようとは思っている。
後ろ髪を引かれる思いで私がビアルヌ男爵たちに挨拶を終えてフェンに跨がると、母様が出発、と声を上げて3頭が走り出す。
『姉様、待っててね。私、すぐに帰ってくるから。』
姉様に届かない念話を発して、私はビアルヌを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、ソバット君がやってくるの待って宿を出て、町の外のほど近い空地でソバット君が武器を剣に替えて型を演じてみせる。
私はブレをチェックをして修正した。
「じゃあ、成果は明日の朝に確認するから今日から頑張ってね。」
そうソバット君に告げて、今日の生活費に金貨1枚を渡す。
普通なら、C級以上にならないと1日に金貨を稼ぐことはないらしくて、甘いだろうけれどまあ懐の余裕は大事だからと自分を納得させた。
それから宿に戻って朝食後にコールズさんたちと合流して出発した。
まずは昨日の空地を目指して、昨日できなかった魔王の効果の確認から始める。
結果、コールズさんと手を繋いでから空を飛ぼうとして、問題なくコールズさんごと宙に浮かんだ。
つまり、シューダ戦ではザカールさんの反射の能力が追加されることを織り込んでおいた方が良い。
だが私が自分の風魔法を魔王妃の効果と思っていたことをコールズさんに話すと、コールズさんは首を捻った。
コールズさんは先代の魔王ザカールさんが反射の能力を持っていることを知っていて、自分の勇者の能力が反射を防いだためにザカールさんへの奇襲が成功したと考えていたんだそうだ。
「俺とキャセラさん、両方の主張を満たす結論は1つだな。
キャセラさんは、まだ魔王妃の能力を発現していない。」
「……え? 」
「他に得意なことは? 」
「ええっと……複数の魔法を同時に発動することですかね。」
コールズさんの提起と質問に私はしどろもどろになる。
「複数って、3つ? 」
「最大でシューバ戦の時に4つです。」
「……それはすごいな。やって見せてくれるか? 」
コールズさんの要望に応えて、風、火、水、土の魔法弾を規模を小さくして同時に撃つ。
「うん。俺が側にいて使えるっていうことは、それも違うね。
そう言えば、俺がシューバにいたときに、キャセラさんはシューバの魔法を模倣したよね。あれがそうなんじゃないか? 」
「いえ、あれは女神リーアから授かった力ですので、違います。」
(あれ? これ、私の能力がコールズさんに丸裸になってない? )
私がちらりとそんなことを考えていたら、コールズさんは、そうか、と言って自分のステータス表を開いて私に見せてきた。
(疑ってごめんなさい。)
内心でコールズさんにお詫びを言ってからステータス表を見る。
ずらりと並んだ数字はMPと魔力が私より低いほかは大差なくて、特技の欄は勇者だけ、そしてその下の魔法属性の欄を見る。
魔法属性/空域魔法、火魔法、水魔法、水流魔法、光魔法、闇魔法
(空域魔法?に、あ、ヅィーニたちの使う水流魔法がある。)
開示された内容を吟味しようとしたら、コールズさんも特性と魔法属性の欄を指差してきた。
「俺は元々火魔法と空間魔法しか持っていなかったんだが、残りはシューバに取り込まれた影響で付いたものだ。
それに、俺も勇者由来の能力をまだ発現していない。」
え?、と私はコールズさんの顔を見た。
「シューダを討伐するには、持てる力の全てを出し切らないと勝てないだろう。
魔王妃と修行をするなら、俺の勇者の力も早く見つかるんじゃないかと思ってな、協力してくれるよな。」
(勇者の力が発動して、私の能力が打ち消されて見つかりにくくなるってことはないですよね。)
ちょっと嫌な想像をしていたら、コールズさんに重ねてお願いをされた。
「それに幸いというか、シューバから解放されてみたら、俺の強さも魔力も劇的に上がっていたんだが、俺にはどうも魔法関係がよく分からん。
キャセラさんは魔法が得意そうだから、解析して俺に教えてくれないか。」
(パソコンが苦手なおじさんみたいなこと言ってる。)
思わず連想してしまったが、私にはオートモードがある。
使い勝手の良さそうな能力は、コールズさんの許可をもらってから、ばんばんコピーさせてもらうことにしよう。




