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第16話 ボーイ ミーツ ガール。…終われませんでした

 ウィーナさんとの訓練を1時間ほど続けて、ウィーナさんがへたり込んだ。

 まあ、これまで長い娼館生活で大した運動もできていなかったのだろうから、いきなりこれだけ動けただけでもすごいと思う。


 もう時間的にはお昼で、私たちが訓練している間にコールズさんが猪の処理を終えて1頭はブロック肉にまでしてくれているので、這うような格好で手伝うと言うウィーナさんには休んでもらって、少し遅めになりそうな昼食の準備を始める。


 先日もらった野菜とお肉、それにウィーナさんが買い込んでくれていた調味料があって、煮込む時間はないので焼くことにする。

 土魔法で作った石のボウルに肉と調味料を混ぜ入れ、風魔法で空気の層を作ってボウルの中の気圧を下げて下味を染み込ませるようにして準備完了。

 それから土魔法で作った(かまど)の上に薄い石の板を作って載せて火魔法で下から熱し、脂分の多そうな肉からジュウジュウと焼いていく。


 辺りに良い匂いが立ちこめて、コールズさんたちが集まってくる。

 俺も食べられるよね、とキラキラと期待を目に込めてお座りわんこ状態で様子を窺っているソバット君も手招きして、私の前で立ち止まらせる。

 私もキューダさんたちで大分耐性が付いたけれど、一緒に食事をするには少々臭いがきついからね、浄化をかけてから食卓へと案内する。


 その頃にはウィーナさんも動けるようになっていて、コールズさんに焼けた肉や野菜を装っては渡して、2人で和気藹々(あいあい)と食べ始める。

 あっちがいかにもな男女カップルを始めると、勢いソバット君の担当は私という場の雰囲気が色濃く流れているのを感じるけれど、私は敢えて雰囲気を強行に無視して、肉や野菜を石板に供給する担当に専念する。


……だけど空気が詰まってくるから、仕方なくまあ会話くらいはサービスしてあげることになる。

「キャセラさん、全然強いですよね。

 俺とそんなに年が違わないと思うのに、どうやったらそんなに強くなれるんですか。」

「私の場合は強い師匠に出会って厳しく仕込まれたから。」

 ほらきた、と敢えてさらりと答えるけれど、ソバット君は考え込んだ表情になる。


「その人、俺に教えてくれたりしないですよね。」

「今ここにいないし、忙しい人だからムリね。」

「……それならキャセラさん、俺に教えてくれないですか。」

(やっぱりそうくるか。)

 そう思いながらソバット君の装備を見る。


 大きめのナイフはそれなりの物で手入れはしてあるようだけれど、服は擦り切れたつぎはぎ、靴はボロボロで穴が開いたのを無理に厚い皮を当てて補修していて、あれでは靴底はでこぼこだろう。

 危険を承知でこんなところまで薬草採取に来るくらいだから、赤貧(せきひん)の状態にあることは一目瞭然、寒さもまだ緩んでいないのに、寝泊まりもちゃんと屋根があるところでしているんだか。


(うーん。シューダ討伐までに自分たちを鍛えなきゃならないし、正直、相手をしていられないんだよね。)

 だけど知り合ってしまって目の前にいれば気になる。

 考え込んでしまった私の様子をコールズさんがちらちらと面白そうに見ているのも(しゃく)に障るけれど──


「コールズさん、あの猪、2頭ばかりもらっていい? 」

 まずはコールズさんに確認して、それからソバット君に話し始める。

「責任を持って強くなるまでという訳にはいかないわ。

 でも、どうしてもと言うならば、私たちがここにいる間だけでも基礎くらいは仕込んであげる。

 それで良い? 」


 ぱあ、と顔を明るくして頷くソバット君に、それなら、と私は指示をする。

「まずは猪2頭をあげるから、それできちんとした装備を揃えて宿を取りなさい。健康管理ときちんとした装備を持つことは大事よ。

 今日のところは食事の後に型をいくつか教えてあげるから、それを毎日レベルが10上がるまで続けること。

 レベルが10上げられていない日があったら修行はそこで終了します。


 冒険者ギルドの依頼を受けるのは一切止めて、1日、型を身に染み込ませるレベル上げだけに専念して。

 それで毎朝、陽が出たら私のいる宿、サイガン亭を訪ねてきて。

 町の外で朝食の時間まで手合わせをして型の修正をして、生活費は保証してあげる。」


 ソバット君は私が毎日レベル10を上げると口にした途端、そんなことが可能なのかという不安を顔一杯に表した。

「型の練習だけでレベルが日に10も上がるものですか? 」

「血反吐を吐く覚悟がいるけれど、正しい型を正しいやり方で1日10時間も訓練すれば上がることは私が経験済みよ。

 それを積み重ねてレベル600を超えたら、十分ではないけれど注意をしながらならば、この辺で採取活動をしても一応は大丈夫でしょう。」


 ソバット君は難しい顔をしている。私の言うことを信じようとして、信じ切れないのだろう。

「あの、失礼ですが、キャセラさんの冒険者ランクは。」

 私が無言で金色の冒険者票を取り出すと、ソバット君は冒険者票を凝視してゴクリと唾を飲んだ。


「やります。」

 ソバット君はギラギラとした目で冒険者票を睨みながらしっかりとした声で返事をしてきた。

(うん、さすが男の子。)

 ああ、やっちゃったあ、と思いながらも、私はソバット君の覚悟を決めた態度に満足だった。


『大甘だな。』

 コールズさんがわざわざ念話で感想を伝えてくる。

『分かってますよ。

 だけど、私も母様に拾ってもらったんです。仕方ないじゃないですか。』


 ダイカルがおかしくなった偽装を始めたときに、母様は牢屋で魔族に襲われていた私を助けて連れて逃げてくれて、さぞ足手(まと)いだったろう私に訓練を付けてくれた。

 (そで)振り合うも多生の縁、仕方ないでしょ、と自分に言い訳をして、コールズさんにも、ソバット君がいたら、どうせ今日はコールズさんとの訓練はできないし、と言い訳をした。


 食事の後は後片付けをして少し休み、ソバット君に型を教え込む。

 私がして見せた型をまずはぎこちなくソバット君が真似て、馴染んできたら精度を上げて違っているところを修正していく。


 ソバット君に並んで一緒に型の訓練を始めたウィーナさんは、さすがに様になっているけれど、少し隙に繋がる癖があったので修正する。

(ウィーナさんと一緒なら、ソバット君は大丈夫かな。)

 そう判断して、私はコールズさんに相談を持ちかけた。


「ビアルヌからこっちに来ている強い魔獣や魔物はシューバが原因だと思うの。

 で、それを全部退治していきませんか。」

「俺がここしばらくサミュルの町でやっていたのがそれなんだが。」

 私が提案すると、コールズさんはそう言って苦みの混じった笑いを見せた。


そういうことなら話は早い。

 私はコールズさんにすでに退治した地域を確認して、今日これから退治する地域をそれぞれに割り振る。


 コールズさんも収納空間が使えて、もう毎日冒険者ギルドで収納空間を披露しているそうなので、取り敢えず猪を全部収納してもらって、今日の魔獣退治で狩った魔獣たちを冒険者ギルドに引き渡す役もコールズさんに頼んだ。

 大容量の収納空間があるってことは強いってことでほぼ間違いないし、ものすごく目立つからね。


 あとはここに戻ってくる大凡(おおよそ)の時間を決めて、もう時間も残り少ないのでそれぞれの受け持った地域へと急いで出発した。


「おい、何だよ。自分だけ(ずる)いぞ。」

 私が空に浮かんだのを見てコールズさんが叫ぶのを、ごめーん、と笑って手を振って出発する。


 風魔法の盾で全方位を覆ってから、私は自分が丸腰なのに気が付いて、溜め息を吐いた。

(今日帰ったら、狩った魔獣たちを換金して剣を買わなくちゃ。)

 連日の宿泊でもう残金もほとんどない。


 もし高位の魔獣とかに出くわさなかったら、今夜はソバット君と並んで野宿かな、と苦笑いをしながら、私は周囲を探知しながら飛んでいく。



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