第14話 新パーティ結成。まおy(ゲホゲホッ そんな凄いものじゃありません
コールズさんたちと3人で宿を出て、まずはウィーナさんの冒険者の登録に行くことにした。
冒険者ギルドに着いてコールズさんが受付に行くと、カウンター越しに受付の女性に密着しようとでもするかのように距離を詰めて、コールズさんが話し掛ける。
「俺の冒険者登録とランクアップの申請とパーティ登録を、奥の部屋でお願いしたい。」
そして、周囲に見えないようにコールズさんが懐から銀色の冒険者票を取り出して受付の女性に見せる。
「え、A級のランクアッ……。しょ、少々お待ちくださいっ。」
受付の女性の声が少しうわずって大きくなるのをコールズさんが口に人差し指を当てて静かにするように促すと、担当の女性は途中で言葉を切って待つように言うと、パタパタとカウンターの奥に走って行った。
しばらくすると受付の女性は戻ってきて、どうぞ、と私たちを案内する。
それまで私は2人とは少し距離を置いて立っていたのだけれど、コールズさんとウィーナさんに続いてカウンター横の通路に入ろうとして、フロアの方から私たちを見た冒険者の罵る声に気が付いた。
「けっ、なんだよ、ハーレムパーティかよ。」
違うわよ、と反論したかったけれど、そんなことをすれば目立つだけなので、ぐっと堪えて我慢する。
この体に不埒なことをしようとすると、神罰が下るんだからね。
通された部屋の奥では、ギルド長のドスティという人が待っていて、お互いの紹介を終えてテーブルに向かい合う。
「まずはランクアップの申請から処理して頂きましょうか。」
コールズさんが銀色の冒険者票をまず取りだして、それからステータス票をギルド長に向けて開示した。
名前 コールズ/種族 人間/称号 勇者/職業 剣士
「ゆ、勇者。」
ドスティさんの顔色が変わるが、コールズさんはドスティさんの反応を無視してゆっくりとした言葉使いで話し始める。
「俺はアトルガイア王国からは死んだと思われていて、ガルテム王国に嫁いだ勇者は俺の後任に当たるんだ。
俺は今後とも勇者として活動をするつもりはないので、俺の称号のことは是非とも内密にお願いしたい。」
「……一介の冒険者に徹するということですかな。」
ドスティさんはコールズさんを見詰めて表情を見極めようとするように確認したあと、コールズさんのレベルを睨みながら難しい顔をした。
きっと、人材として欲しいという気持ちと厄介ごとにならないかという気持ちの間で揺れ動いているのだろう。
「それで、冒険者登録をなさるというのは? 」
私です、とウィーナさんが手を上げてステータス表を開示した。
ドスティさんはウィーナさんの称号欄を見て、ああ、と声を漏らし、それから私の方へ、あなたも?、と問うような視線を向けてきたので、私は首を横に振った。
「そうですか。
それで、パーティ登録もなさるということですが、リーダーはコールズさんで、メンバーは女性2人でよろしいのですね。」
「いや、パーティリーダーはここにいるキャセラさんです。」
私も驚いたけれど、ドスティさんの驚きはそれ以上だったようだ。
「いや、それは……
コールズさん、どんな事情がおありか知りませんが、S級冒険者がいるパーティでS級冒険者がリーダーでないというのは、世間が納得しませんよ。」
ドスティさんの抗議にコールズさんが私に視線を向けるので、仕方なく私も金色の冒険者票を取りだしてテーブルに置くと、ドスティさんの顔が知らずにびっくり箱を開けてしまったような驚愕の表情になる。
「あの、それでキャセラさんのステータス表は…… 」
恐々といった口調で訊いてくるので、内緒ですよ、と断ってから、私はこれも仕方なく開示した。
名前 セイラ ガルテム/種族 人間/称号 魔王妃/職業 剣士
「は? 」
ドスティさんは甲高い奇声を上げると目をこれでもかと見開いて、ステータス表と私とを交互に凝視する。
「シューバを倒した噂の魔王妃と勇者のパーティ…… 」
ドスティさんが意味が分からないという顔をして、とっても事情を聞きたそうにしているけれど、私もどうしてこういう顔ぶれでパーティを組むことになっちゃったのかよく分からないので、微笑んだまま説明はしない。
無言のまま数分が流れて、ドスティさんが折れた。
「……分かりました。事情と身元は内密にして、承認します。」
それから、恐る恐るといった感じで懇願してくる。
「あの、お願いですから、依頼を失敗したりしないでくださいね。」
ドスティさん、顔色が白くなって涙目だけれど、大丈夫かな。
◇◆◇◆
冒険者登録を終えて、取り敢えず今日のところは依頼は受けないで訓練ができるところを探すことにした。
まずは2人に魔法を覚えてもらいたいし、それぞれの力も分からないのではパーティプレイも上手くいかないしね。
それに、魔王殺しに特化しているという勇者の能力がどんなものなのかは、前から興味があった。
だが、その前に……
「ウィーナさんの職業、魔法剣士になっているんだけど、どういう戦い方をするの? 」
私もコールズさんも戦闘中に魔法を使っているし、私なんかは魔法のスキルがかなり高い。
なのに私もコールズさんも職業は剣士だ。
魔法剣士とは一体何なのか。
「私、剣や盾を介して魔法を使うのが攻撃や防御の主流なんです。」
何でも魔法を使う場合に、例えば炎の範囲使用をイメージしながら剣を振ると、剣を起点にして炎が攻撃範囲に広がったり、防御をイメージしながら盾を構えると風魔法や土魔法などの防御が盾に上乗せされるんだとか。
魔法を別に使うこともできるけれど、いちいち別に魔法を使わずに攻防の中でシームレスに魔法が使えるのは効率が良い。
「ただ、魔物によっては毛皮に価値があったりするので、そういうときは意識して抑えていないと、うっかり火魔法を使っちゃったりして台無しになるんですけれどね。」
でも対戦でこれをやられたら、こちらはその都度対応の一手が余計に掛かることになるので後手に回りがちになって堪らないし、これは一度魔物とかを相手に戦い方を見てみたいかもしれない。
話しながら街道から離れて進むうちに先日話し合いをした場所に出て、ここなら魔法の威力を抑えれば人目に付かずに訓練ができそうだと判断した。
で、まずは勇者の能力についてコールズさんに聞く。
「勇者の特殊能力は、魔王の特技由来の能力を全て封印するんだ。
俺がシューバにいたときには魔力がシューバ由来のものだったせいか発動しなかったんだが、今なら見せてやれる。
シューバと戦ったときのように戦闘レベルを上げて向かってきてみな。」
ならばと、眷属の総意を発動して、2万ほどのレベルでコールズさんに向かってみる。
魔王妃の装束が現れて、ウィーナさんが、わあ、と感嘆の声を上げる中コールズさんに打ちかかったのだけれど、コールズさんを間合いに捉えた途端に魔王妃の装束が消えて力も元に戻った。
「通常の魔法や剣の攻撃はそのままだが、魔王由来の効果は全て打ち消される。それが勇者の力なんだよ。」
にやりと笑ってコールズさんが言うのを聞きながら、私は呆然としていた。
もしシューバがコールズさんの勇者の力をも引き出せていたら、私と母様の増幅された力は全て封印されて、一方的な攻撃を受けてひとたまりもなく敗北していただろう。
よかった、と安堵の息を吐きながら、あ、と私は気が付いた。
能力的にシューダも同じ特性なのか、ぜひ確認しておく必要がある。
それと同時に気が付いたのが、ザカールさんの能力だったという反射の力が、魔王の力によるものなのか、ザカールさんの魔法の特徴なのかを見極めておかないと、シューダ討伐の難易度が全然異なってくるということ。
私で言えば、空を飛ぶこともできる風魔法の力が魔王妃の力なのか私個人の魔法の特徴なのか、あまり区別して考えたことがなかった。
これまでは漠然と魔王妃の力で強化されたものと思っていたけれど、考えてみれば私の魔法をコピーしてティルクも空を飛んでいた。
ミッシュなら抜かりなく調べている気もするけれど、きちんと確認して見極めておく必要があるわ、と私は思った。




