第13話 身分を隠した聖女は……ああ、違います。使徒です、使徒
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投稿時間を守ると、たぶんこの投稿も明日の夕方に公開されることになって、筆者に余裕が生まれる代わりに皆さんの待機時間が増えると思うんです。
なので、できた時点で投稿、これで行きます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承願います。
『昨日、シューダ討伐の確率が急に少し上がったのに気が付いて、ビアルヌに戻ってケイアナに話を聞いて、その理由がコールズの参加だと当たりを付けたんだが、実は今朝からその確率が揺れているんだ。
何か変わったことが起きていないか。』
ミッシュからの念話に、私はこれ幸いと飛びついた。
コールズさんとテリーナさんに、シューバやシューダ討伐に協力してくれているアスリーさんの使い魔だとミッシュの説明をして、今の事情を話す許可をもらってからミッシュに訳を話す。
『ああ、そういうことなら簡単だ。
セイラなら名前や職業の変更ができるぞ。』
『はい!? 何で私にそんなことができるの? 』
(私にそんな属性、なかったと思うんだけど。)
『ステータス表の変更は神の権限に属していて、基本的には項目の変更には神の権限が必要になる。
アスリーやセイラの得た経験値を俺が振り直していたのは、まだ俺が神だった時代に持っていた権限のうちの数少ない残りのひとつを行使していたんだ。
だが、ステータス表の名前や職業の一部などの変更は、神の権限の代行者である使徒に委託されていて、神殿の高官は修行によって神力をわずかに高めることで使徒の権限の代行者として権限を分与されている。
で、セイラはいま使徒の体を使っている訳だから、神の権限の本来の代行者として名前や職業の変更ができるのさ。』
使徒を私の体として使わせてもらっているというのは、やっぱりとんでもないことだった。
『セイラの体のことは神殿には内緒だし、できるだけ神殿には近づくなよ。
下手をすると神殿に聖女の噂を流されて、最後に囲い込まれる恐れがあるからな。』
『あ、はい。』
こくこくと頷きながら、ミッシュに神力の使い方を教えてもらう。
「コールズさん、テリーナさん、問題は解決しました。
私がステータス表の変更ができます。」
ミッシュとの念話を終えて、テリーナさんの正面に立つと、両手の親指と人差し指、それに左手の薬指に右手の小指を合わせて掌で三角形を形作り、目を瞑り祝詞を唱える。
「万物の長たる女神リーアに使徒セイラが願い奉る。
神の愛し子の1人であるテリーナの有り様のひとかけに正しき神の道を指し示し給え。」
祝詞を唱え終えてテリーナさんが表示しているステータス表を見詰めていると、名前と職業の欄が薄れて新たな文字が現れ、ついで職業上の売り物であったろう下世話な称号が消えて置き換えられた。
名前 ウィーナ/種族 人間/称号 勇者の恋人/職業 魔法剣士
「私の人生なんか、終わったと思ってた。
それが、女神が認めてくれて、勇者の恋人…… 」
テリーナさん、いやウィーナさんが称号欄を見て呟き、やがてじわりと涙が流れる。
コールズさんは変更されたステータス表に目を見開きウィーナさんを抱き寄せながら、私の方へちらりと視線を向けてきた。
「女神リーアの使徒…… 」
コールズさんの呟きが聞こえて、私が唇に人差し指を当てるとコールズさんはこくりと頷いた。
◇◆◇◆
『ステータス表の変更は終わったけれど、シューダ討伐の確率はどうなった? 』
ミッシュに念話を送るとすぐに返事が来た。
『ああ、安定した。やはり要因はコールズだったようだ。』
ミッシュの返事にほっとして、私は自分のステータス表のことも聞いてみた。
『ねえ、テ、ウィーナさんの改名ができるのなら、私の姓も明日葉に戻せるよね。』
『できるが、今は止めとけ。
改名と同時に離婚したと認定されて魔王妃の称号がなくなって、シューダ討伐が拙いことになる。』
(あー、そこに影響しますか。)
まあ、でも魔王妃を辞める方法が見つかったと思えば良いかと納得した。
側ではウィーナさんがようやく落ち着いてきて、これからの話ができそうな様子になってきたけれど、私は食べてきたけれど2人は何も食べていないようなので、まずは朝食をしてきてもらう。
その間に私は収納空間の中で準備運動をすることにした。
ミッシュから従魔の仮契約を解除されて以来、半月近くやっていなかったけれど、体に染みついちゃったのか、何となくやらないと変な感じがするからね。
まずは体の各箇所の筋を伸ばして解してから、立ったまま地面に両手を付き、付いた両手で支えて足を開くと腰の位置を空中に固定したイメージで手で床を歩くようにしながら股の間を潜り抜け、足は股関節からくるりと回してそっと腹ばいになる。
それから手足を反って両手で両足首を掴むとさらに円形になるようにもう一段反った反動を利用して、胸と顔を潰さないよう脇腹のラインから二の腕のラインを接地させてころりと回転して足先が床に当たったところで回転と伸ばした膝の勢いを利用して立ち上がる。
右から左からとクルクルと3回ほど繰り返したところで、ミッシュから再び連絡があった。
『使徒の魔力を送ってくれるとはありがたい。
最近忙しかったからな、お陰で活力が充填されて助かるよ。』
『あれ? 従魔の仮契約は終わったって言わなかった? 』
私の疑問に、こともなげにミッシュが答える。
『内緒だぞ。従魔契約は世間の目を欺く偽装だ。
俺のような姿の魔物がうろうろしていると怪しまれるからな。
従魔契約を交わしていると調べれば反応が出るから、安全な存在と認知されて動きやすくなるんだ。』
『じゃあ、仮契約が満了したというのは…… 』
『セイラを1人で出発させるための方便だな。
そもそも半神を契約で縛ったりはできんよ。』
(うわー、何かムカつくけれど、あのときのことを思えば仕方ないのか。)
ミッシュがいつも言うことを利いてくれなかった理由を納得しながら、いろいろと助けてくれているお礼に、これからも定期的に魔力を送ることを約束した。
程なくしてコールズさんたちが帰ってきて、これからのことを相談する。
私からはコールズさんがシューダ討伐に参加することを母様が了解したことと、私が今は母様たちとは離れて別行動をしていて、取り敢えずは修行をしていることを話した。
「そうか、セイラさんは修行をしているのか。
それならば、俺たちも修行に参加させてくれないか。
まずはウィーナを冒険者登録して鍛える必要があるし、俺もシューバから戻ってきたときに覚えていた武術や魔法の力を馴染ませたい。
セイラさんの良い練習相手にもなると思うんだ。」
実は、ウィーナさんは今は若返っているけれど、元々の回復力は年相応なのでこのままではだんだんと元に戻っていくことは分かっていた。
なので、コールズさんかウィーナさんに魔族に狙われるかもしれないリスクの説明もした上で、光魔法と神聖魔法、できれば神性魔法までを覚えて今の若さの状態をキープしてもらうよう相談したいと思っていたので、そのことを2人に話した。
「私、私が覚えます。
新しく魔法が覚えられるなんて嘘みたいだけれど、若さの維持は自分のことだし、何よりコールズに何かあったときの助けになるのなら、ぜひ私が覚えたいわ。」
「それなら俺も覚えよう。2人で覚えたならば、何かあってもお互いにサポートができる。」
(ああ、はいはい、ごちそうさま。)
何だかこの2人と一緒にいると、独り身が心に沁みて寂しくなるんだけど。
でも、私の相手を男性に求める気にはまだならないし、かといって女性というのも……
悩ましい、と思ってしまったのは仕方がないことなのかもしれない。




