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第6話 あー、姪とアイザルの態度の両極端が辛い。きっちり躾けなくちゃだわ

「初めまして。私はジアールの娘のジュアナと申します。

 S級の冒険者です。」

 私はS級冒険者だというジアールの娘を見た。

 茶髪だが勝ち気な瞳にはジアールを思い出させる色があるかなと思う。


「おや、王都で尋ねてきてくれない姪にこんなところで対面するとは。」

「王宮には強い親戚の方々がいるとは聞いたけど、対人戦にはあまり興味がなかったので。」

 王都では理由を作っては尋ねてこなかった姪に私が微笑みながらちくりと皮肉を言うと、ジュアナは済ました顔でけろりと答えた後で、怖いおばさんに(しご)かれたら(たま)らないし、とぼそりと(つぶや)くのが聞こえて私は溜め息を吐いた。


(表向きの理由を作っていたのはジアールね、この娘にはそんな世知すらなさそうだわ。

 本人が望みもしない修行を付ける気はないけれど、私の姪を名乗るからには最低限の礼儀作法は身につけてもらわなくては。)

 私は事が終わったらジアールにジュアナを礼儀見習いに寄越すよう申し入れることを決めた。

(きっちり仕込んであげる。)

 私は微笑みながらジュアナから視線を移してアイザルに話し掛ける。


「わざわざシューバのいるところへ行こうとしていたのは、力試しのため? 」

「ケイアナさんたちがシューバ討伐に向かわれたと聞きましたので微力ながらお手伝いができたらと思ったことと、実はケイアナさんに折り入ってご相談があって参りました。

 それと…… 」

 アイザルはA級冒険者であることを示す銀色の認識票を見せながら、言葉を濁して頭を掻いた。

(セイラに会いにね。)


「セイラはちょっと事情があって、シューバを討伐した後に別れたの。

 当分、そうね、数ヶ月は帰らないと思うわ。」

「……そうですか。残念ですが仕方がありません。」

(王都からセイラがいなくなった際のアイザルの有様は威城のメイドたちから聞いていたから、きっと取り乱すと思っていたのだけれど、へえ、これは化けたわねえ。)

 溜め息を吐いて目に寂しげな色を漂わせながらも堂々としているアイザルに私は目を(みは)った。


 会話が途切れたタイミングに、私はこちらのメンバーを紹介して、アイザルが和やかにそれぞれに挨拶をするのに比べてジュアナの挨拶はやはりなっていない。

 ギャジャ王子には一応マシな挨拶をしたことにはほっとしたが、後は勝ち気な上から目線が目立つ。

 なので、王都に行ったらすぐにジアールにジュアナを礼儀作法に寄越すように申し入れることにした。


「それで、私に何の用だったかしら。」

「その、ここではちょっと。ケイアナさんにご一緒して、改めて後ほどご相談したいと思います。」

 私はアイザルの提案を受け容れてビアルヌまで同行することにした。


 道中、アイザルはメンバーのそれぞれと如才なく話をして、シューバが100体以上もいたことやヒスムが新たに獣人族に加わった魔物であるであることなどを聞き出して、いちいち驚きの相槌を打ちながら情報を集めていて、アイザルに対する私の評価はさらに高まったのだった。


◇◆◇◆


「それで、私に相談というのは何かしら。」

 ビアルヌについて一頻りの整理が付いてから、私はアイザルを個室に呼んで話を聞くことにした。

 これだけ成長したアイザルがわざわざ私に相談を持ちかけてくるのならば、セイラを説得してくれなどというくだらない内容ではなさそうだ。


「実は、ステータス表にこれが現れました。」

 アイザルが見せてきた彼のステータス表には”魔王”の2文字が表示されていた。

「アイザル、これを誰かに見せた? 」

 ジュアナなどが見ていたら騒動が大きくなる。そう思って聞いた私だったが、アイザルは首を横に振った。


「そう、よかった。よく私のところへ来たわ。」

 魔王の称号はそれなりの支持者がいる新たな勢力の台頭を示していて、迂闊な振る舞いをすると国に反逆する者として反逆者の汚名を着る恐れがある。彼はそのことが分かっているようだった。


「ちょうど王都へ行こうと考えていたところなの。

 アイザル、あなたも一緒に来てダイカルに会ってちょうだい。

 そこで臣従の誓いを立てれば、ひとまずあなたが他から誤解されることはなくなる。

 それで良いわね。」

「シューダは討伐しなくてもよろしいのですか。」

 私の確認にアイザルは返事を保留して質問をしてきた。


「そのために王都に戻るのよ。

 シューバは私の手に負えるような魔物ではなかったけれど、シューダはさらにシューバの10倍の強さがあると想定されているわ。

 国を挙げて、いいえ、各国が協力して対応することが必要なの。」

「ケイアナさんが手に負えない相手をどなたが討ったのでしょうか。」

「最後はシューバと戦って、という訳ではなかったけれど、セイラよ。」

 私の答えにアイザルは顔色を変えて黙り込んだ。

(ああ、これはセイラが私よりも遙かに強くなったと思っているのね。)

 想う人よりも強くありたいというアイザルの心の内が手に取るように表情に現れているのを見て、私は内心で微笑む。


 なので、私は少し補足することにした。

「セイラが私より強くなった訳ではないわ。」

「というと……魔王妃の力ですか。」

「詳しいことはダイカルの許可がないと話せないわ。」

 アイザルが頷いたのを見て、私がアイザルに再度王都への同行を促すと、アイザルは少し考えてから了承した。


「よろしい。

 あなたのことを信じて言える範囲のことで悪いけれど、魔王の力は魔王妃が揃って初めて発揮されるものが多いの。

 あなたが魔王妃を伴わずにシューダ討伐に参加しようとするのは危険よ。」

 私の言葉にアイザルはまた考え込む目付きになった。


「その、セイラさんは国王様の婚約者になられたとか。」

「セイラ本人の意思ではないわ。

 たぶんダイカルが旅先のセイラを保護しようと一方的に発表したのだと私たちは想像しているけれど、婚約者という地位は軽々しく与えられるものではないから、ダイカルに何らかの思いはあるでしょうね。」

「そうですか。セイラさんの意思でないことをお聞かせ頂ければ充分です。」


 晴れ晴れとした表情になったアイザルに、私はセイラの秘密を教えておくべきだと感じた。

「いい、これから話すことは他言無用よ。

 私の責任で話して、セイラには後で私から了解を取っておくわ。」


 そうして私はセイラが異世界から召喚された男性であり、アスリーの体に入った影響で今は意識が男性と女性に別れていて、女性の意識だけで活動していること、本人は男性に戻ることを目指していることを話した。


「どう? 失望した? 」

「……正直、どう言っていいか。そうですね、戸惑っているというのが正しいと思います。

 ……ただ、伺うとすれば、私が王都でお会いしたセイラさんはどちらのセイラさんでしょうか。」

 アイザルは考えながら訥々と話す。


「そうね、メイドをしていた頃のセイラは、男女の意識がまだ分化していなかったわ。

 女の子の体をしている自分を受け容れようと女の子の生活や習慣や考え方に慣れようとしていたというところかしらね。」

「お話を伺って、私も今はそう思います。

 でも、その時点でもセイラさんは充分に魅力的だったし、女性的な優しさに溢れていると私は感じました。

 その、女性の意識だけの今のセイラさんはそれ以上でしょうね。」


 今のセイラさんに会えないのは実に残念ですが、と言うとアイザルは軽やかに笑った。

「セイラさんが男性と女性のどちらかを選ぶ選択はセイラさんの意思で行うべきことです。

 ただ、私はセイラさんが男性に戻るのを思い止まる存在でありたい。

 それは結局、セイラさんに自分を選んで欲しいという私の元々の願いと、何も変わっていないのです。


 魔王妃のことは承りました。

 その上で私はケイアナさんとともに行動をして、セイラさんの帰りを待ちたいと思います。」


(あくまでセイラに(こだ)って、魔王妃に(めと)ろうというわけね。

 全く、大化けしたわ。

 私に娘がいたら無理にでも彼のところへ嫁に()じ込むのに。)

 私は思わずそう考えていた。



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