第5話 性格が明るくなったとよく言われます
前話の投稿時に忘れました。
誤字報告をたくさん送っていただいて、ありがとうございます。
それで、新たな間違い報告なのですが、
第2話で方角を間違えました。
ケイアナたちの帰る方向 北東 × 北西 ○
セイラの向かう方向 南東 × 南西 ○
西も東も分からない作者でございます(-"-;)
第3話1行目で、”黒いシューバ”と書きましたが、正解は”白いシューバ”です。
物の白黒も分かっていませんでしたorz
お詫び申し上げます。
『マーモ、あなたの母様は今頃きっと元気にしている。
安心して安らかに眠ってね。』
私は墓に向かって祈りを捧げると、そこに眠っているフェアリィデビルたちに思いを馳せた。
フェアリィデビルたちは私の幽体を保管するためだけに、当時魔族の指導者に精神を操作されていたゴダルグさんが用意したもので、力が弱い方が管理がし易いという判断もあって、生体を維持するための必要最低限の幽体しか残されずに、残りの幽体はどうやってか、立ち合っていた魔族の指導者に全て処分されていた。
ゴダルグさんが項垂れながらそのことを打ち明けてくれて、マーモだったフェアリィデビルを意識もなく食事も取れずに衰弱死させるよりはと、私が自ら役目を買って出て処分して、フェアリィデビルたちをここに埋めたのだった。
精神の均衡を失っていたセイラさんには、与えるショックを慮って、マーモだったフェアリィデビルをどうしたかは知らせていない。
マーモをはじめとしたそれぞれのフェアリィデビルの記憶は、全て私の中で落ち着く先を探して馴染みつつある。
それでも私は後ろ髪を引かれる心持ちでフェアリィデビルたちの墓を後にした。
道中、ギャジャさんたちに内緒の所々は母様から念話で補足を受けながら、私の幽体が掠われて以降の情勢がどうなっているかの説明を受け、ついでセイラさんが異世界から勇者候補として召喚されてここまでやって来た詳しい経緯を、セイラさんの幽体の秘密も含めて聞かされた。
『それでセイラ、特に男のセラムの方は、自分がアスリーの体を使っていることをアスリーが嫌悪して許してくれないんじゃないかと、随分気にしていたよ。』
『あら。殿方に、と考えればそうですが、経緯を知ればやむを得ないことと納得できます。』
(セラムさんはもう消えてしまった方なのだからノーカウントでもいいと思うのに、何故わざわざそれを知らせるのかしら。)
私は不思議だった。
「ねえ、アスリーさん。この旅の間はアスリー姉様とお呼びして良いかしら。」
ティルクさんが聞いてきて、身寄りなく育ってきた私は、喜んで了承した。
「えーっと、年の順番としては、最初がアスリー姉様で次がセイラ姉様ということになるのかしら。」
ティルクの呟きに母様が微笑みながら頷くのを押し止めて、私は異議を申し立てる。
「いえ、長女はセイラさんですよ。
セイラさんは私の恩人だし、マーモが母様と慕っていた方なんですから、当然、セイラさんが姉様です。」
母様が私をまじまじと見ながら私の言い分に反対してきた。
「アスリー。魔王妃の序列のこともあるから、アスリーがセイラを姉と言えば、第一王妃にしなければ収まりが付かなくなるよ。」
「当然でしょう。何か、問題がありますか。」
『アスリーさん、そんなことしたら、姉様が男に戻れなくなっちゃうじゃないですかっ。』
ティルクさんが念話で抗議してきたが、私には母様とティルクさんがさっきから何に拘っているのか理解できない。
『セラムさんという男の意識は消えてしまってセイラさんは女性として生きていかれるのですし、すでに国王の婚約者として公表されているのですよね。
私個人としては夫であるダイカルさんに思うところはありますが、一連の問題が解決すれば、セイラさんが国王の寵愛をお受けになるのに問題はないでしょう? 』
理路整然としていると思うのだけれど、母様とティルクさんが困った顔をした。
(何か問題があるの? )
私が首を傾げていると、母様が念話で、セラムは夏までに復活するのだと、詳しい事情を説明してくださった。
『え? セラムさんは復活なさる。で、私の体の…… 』
そこで言い淀んだ。
私がフェアリィデビルに入っていたとき、体の感覚は全て私のものだった。発情期には湧き上がる欲求に悩まされる個体があったりして……
『そのっ、セラムさんが私の体を使っていたということは、私の体の感覚…も知っていると…… 』
母様とティルクさんが揃ってこくりと頷くのを見た瞬間、私は頭が沸騰した。
「…スリー、大丈夫かい? 」
フリーズした私を抱くようにして母様が声を掛けてくれて、私は自分が立ち止まって棒立ちになっていたことに気が付いた。
慌てて歩き出しながら、どうしようかと悩み始めた。
(セラムさんを始末するというのは、セイラさんと一心同体の方なんだからあり得ないわね。
あれ?
セラムさんは私の体に変なことをする方ではなくて、だからこそ私の反応を気にしていた訳で、それは記憶を共有しているセイラさんの私を見る反応からも証明されているんだわ。
それに……あ、そもそもセラムさんは、セイラさんと同じ記憶と同質の精神を持っているんじゃない! )
『そうですね、問題はありません。だって結局のところ、セイラ…姉様と同じ方なんですもの。』
気を取り直して、にっこりと笑って歩き始める。
気持ちに整理が付いたせいか肩の力が抜けて、つい鼻歌が漏れる。
歌は、私の幽体がフェアリィデビルたちの中にいたときに聞いて覚えた、セイラ姉様の恋歌だ。
「おお、その旋律はもしやセイラさんの。アスリーさんは歌もお上手なのですね。」
ギャジャさんたちが鼻歌にニコニコとお世辞を言ってくれるのでお礼を言っていると、側で母様とティルクが肩を並べて何か内緒話をしている。
「……立ち直りが早いのは良いけれど、魔王妃の順位のことはバッサリと忘れた。以前より物事の整理が雑になったね。
それに、アスリーは少し音痴だったはずなんだけれど。」
「そうですね。物腰は違うけれど、開き直り方に姉様を連想させるところがあります。」
母様とティルクさんの2人がひそひそと相談しているのが切れ切れに耳に入って、そういえば私は音程を取るのが下手だったことを思い出した。
これもマーモがセイラ姉様の歌を熱心に聴いてくれていたお陰かしら。
「その、場合によっては、王室に姉様が2人いることになっても大丈夫ですか? 」
ティルクさんが何かを母様に囁いて母様の叫び声が聞こえた気がするけれど、私は気にしない。
2人は本当に母娘のようで、きっと母様はこの旅がさぞかし楽しいにちがいない。
◇◆◇◆
2日後、私たちがビアルヌを目指して歩いていると、向こうからやって来た男女の2人連れと遭遇した。
(こんなところに来るなんて、何者なの。)
「おや、ミゼル商会の……。驚いた、逞しくなって、見違えたわ。」
母様が男性に声を掛けたところをみると、知り合いらしい。
「ああ、これは王太后様。ご無沙汰しております。」
男が跪礼をしようとするのを母様が押しとどめて、この度の間は普通に接してくれるようにと指示をした。
「それでは、ケイアナさん。……セイラさんはご一緒ではないのですか。」
隣でいきなり眉間に皺を寄せて硬くなった女性を見て、私はその女性の関心がどこにあるのか、セイラ姉様をどういう存在と見ているのかを察して、内心であらあらと微笑んだ。
女性の雰囲気が変わったのを察知して、まだ自己紹介をしていないことに気が付いたのだろう、男性がやや慌てて自己紹介をした。
「皆様、初めまして。私はミゼル商会副会頭のアイザル、こちらは…… 」
「初めまして。私はジアールの娘のジュアナと申します。
S級の冒険者です。」
母様の弟君の娘さん、つまりは姪御さんだった。




