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第3話 はい、誠に申し訳ございません

2話を同時に投稿しています。

第2話の方からお読みください。

 気が付くと私は空を見上げていた。

 顔と胸が冷えて痛い。視線を下に向けると半分剥き出しになった胸が見えていて、側で、はーっ、はーっ、と粗い息が聞こえる。

 激しい運動を終えた息の調子に、起こって、終わってしまっただろうことを想像する。


(私…… )

 涙が(あふ)れてきて、身を起こそうとして、視界に入る黄色い髪の人物が予想よりも随分と小さいのに気が付いた。

 え、と二度見をしたら、そこにいるのは髪も服も乱れた女性だったことに驚いて、それから、ああこの人も被害者なんだ、と思ったところで女性が身を起こそうとしている私に気が付いた。


 視線が合った途端、女性は体の向きを変えて私の側まで膝立ちで来ると、フルスイングで私の頬を張った。

 バチーン と派手な音がして、仰天している私に女性が声を張り上げる。

「あんたね、私の大事な使徒を、投げやりになって(けが)させようとするんじゃないわよ!

 穢されれば神罰を与えられるけど、そんなの我慢ができなくて、あんたが諦めたときには本当に慌てたんだからねっ!! 」


 怒鳴って話された内容を咀嚼(そしゃく)して改めて女性を見ると、何となく見覚えがある。

「女神リーア……ですか? 」

「そうよ。使徒に乗り移って駆け付けて、神力は制約があって使えないから、殴り合いの肉弾戦よっ。

 私っ、人間だった時を含めて、人と殴り合うのなんか初めてなんだからね! 」


 憮然とした様子のリーアに私は思わず呟いた。

「神様って、使徒で殴り合いができるんだ。」

 私の言葉を聞いたリーアが頬を膨らませて説明してくれた。

「元から神だったガシュミルドと違って私は元は人間だからね。

 神格を下げて使徒に憑くと、人間だったときの記憶に引っ張られるのよ。」


 そうですか、と呟く私に、リーアは再び肩を怒らせて私に説教を始める。

「いい? 女で生きていくって、大変なのっ!

 あなたはまだ経験が浅いかもしれないけれど、もっと自覚してちゃんと生きなさい!

 そもそも…… 」


 懇々と説教をされて、私はリーアの言葉にいちいち頭を下げる。

 教えられないまでも、私がこの世界で生きていくためにリーアの計略込みではあるものの、いろいろと面倒を見てもらっていることは感じている。

 それが油断から招いた乙女の危機まで救ってもらったとあっては、本当に頭が上がらない。


(……そうか。私は皆に助けられていたんだ。)

 たまたまミッシュに助けられて力を授かって、母様に鍛えられて強くなって、皆より上の立場にいるような気になっていたけれど、それもこれも皆が助けてくれたから。

 私がきちんとしないと、皆が引っ張り上げてくれた、せっかくの私の力が台無しになる。

 セラムはきちんとしてたじゃない。私だって、せめてできるところまではやらなくちゃ。


 説教をされてこんなに気が落ち着くなんて、ひょっとしたらリーアがまた何かしてくれているのかもしれない。

(うん、きっとそう。力を貸してくれているんだ。)


 顔を上げた私を見てリーアが頷く。

「よし、少しは頭が冷えたみたいね。

 じゃあ、そこで伸びてる2人、私は直接手を掛けられないから、処分しちゃって。」

 え、と驚く私にリーアが当然という顔をする。


「私の使途を穢そうとしたんだもの、当然の報いよ。

 それにこの2人は近くの町で強盗目的で何人も殺して、この周辺さえ越えれば後は魔物たちがシューバに追われていなくなっていることを知って、一か八かで逃げてきたお尋ね者なの。

 死んでも問題はないわ。」

 それを聞いて、私は下半身丸出しの青髪と下穿き姿の黄髪の下半身の一点を狙って土弾を撃つ。

 びくりと身体の跳ねた2人の下半身を、優しい私は光魔法で治療してあげた。


「セイラ、あなた元男のくせに、怖いことをするわね。」

「ふん。こんな奴ら、逃げ延びて、一生後悔して生きればいいのよ。」

 リーアがちょっと引いているけれど気にしない。

 私、怒ってるんだから。


 気を持ち直したらしい私の様子を見て、リーアは用は済んだと判断したようだ。

「セイラ。色々と勝手に背負わせているけれど、世界の運命はあなたとセラムの振る舞いに多くが掛かっているの。

 諦めないで、着実に。ね? 」

(私とセラムに?

 セラムはもう務めを果たして消えてしまったはずなのに、なぜ今またセラムの名を?

 ひょっとして…… )


 可能性を考え始めた私に、リーアはにこりと微笑んで、すうと薄れて消えていった。

(うん、どうやってかは分からないけれど、あり得るのね。

 とにかく私は少し自分を見つめ直して、気持ちを切り替えないといけないわ。)


 少ししゃんとした気持ちと頭でこれからのことを考える。

(うん、この近所かどこかにちょっとの間でも籠もって修行をしよう。

 きちんと身体の調子を整えて考えを整理して、それからどうするかを決めよう。)


 倒れている2人は放置して、解体した肉を収納し椅子やテーブルや皿などを土に戻す。

 周囲をもう一度確認してから身体の全部を風魔法で覆って空高くへと飛んだ。

 周囲を見回すと、徒歩で1日ほどの距離に町が見える。


 なるほど、町から山に入ってビアルヌを目指すと尾根と尾根の間に私がいた広場があって、だからガルチとシャルツの2人に遭遇してしまったのだと分かった。

 草が生えずに広場のままになっているところからして、きっと広場を利用するために手を入れている人たちがいるのだろう。


(修行をするなら、場所を移さないと駄目ね。)

 周囲を見渡して高度を下げてから森が深くて誰も来ない場所を探して北西へ飛び、町から2日の場所にちょうど良さそうな空き地を見つけて、周囲の様子を確認してから着地した。


(ここで修行をしよう。)

 空地に手を入れて竈や調理道具一式を土魔法で作って置いて、雨の備えがないけれど、当面はこれで良しとする。

 剣もないので硬そうな木を選んで握り部分をナイフに水魔法を(まと)わせて削って木刀を作った。


(まずはシューバと戦っていたときに覚えた体捌(たいさば)きや剣捌きに魔法を練習して自分のものにしなくちゃ。)

 上着を脱ぎ、ひゅんと音を鳴らして木刀を振って体を動かそうとして、脚にスカートが纏わり付いて転びそうになった。

 溜め息を吐いて訓練用の服に着替える。


 再び訓練を開始して、魔法は威力を抑えた。

 セラムと融合してシューバと戦っていたアスリーさんの動きをイメージして、まずはその再現を目指す。

 動きをシャープに、またはフェイントを入れて、アスリーさんの動きを反復し、シューバから盗んだ属性変化の魔法を思いどおりの属性の組み合わせで発動できるように練習する。

 身体が苦しいけれど、ときどき光魔法と神性魔法で治癒をしながら訓練を続ける。


 食事と雨に備えて少し環境を整備する時間以外、日のある間は訓練を続けて、日が落ちてからは各属性魔法に新たな可能性がないかを確認することにして1日を過ごし、夜は収納空間の中で眠った。



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