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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第91話 うちの嫁、強いっ。これが噂の姑いびり

第90話作成中に、シューバ本体を討伐するシーンを誤って削除してしまっていたのを気付かないまま閑話に進んでしまいました。

今話は後ほど第90話と閑話の間に挿入し直しますので、ご了承ください。

 コールズの幽体が宿っていた戦闘体を母体に子実体を作るために、シューバは蓄えていたほとんどの力を使い果たしてシューバツリーは急激に痩せて切れ切れの枯れた木の根となり、シューバが枯らしたほかの木の根とあちこちで交差していてシューバツリーを手繰って本体を探す作業は思いのほか難航していた。

 もう時刻は3時を回るくらいになっていて冬山で日が落ちのは早いために活動できる時間はもう限られてきているが、ここでシューバ本体を逃がすといつかまた同じような被害が起きるだろうことを考えると放置はしておけなかった。


 夕食の支度はエグリスに頼んである。

 戦力的に微妙ではあるがゴダルグを一応護衛として残してきていて、周囲の魔物はシューバに追われて移動してしまった後であるので、ケイアナはそちらの心配はしていなかった。


(やっぱりセイラも連れて来るべきだったかねえ。)

 進展しない捜索にケイアナがそんなことを考えていると、横手から近づく気配があり、見ればアスリーが周囲を捜索しながら近づいてきていた。

 シューバツリーは本体を中心に放射線状に張り巡らされているので、大分本体がいたはずの場所に近づいてきているらしい。

 アスリー、とケイアナが声を掛けると、アスリーもケイアナに気が付いて小走りに近寄って来て一礼をする。

「これはご母堂、ここでお会いしたと言うことは、いよいよシューバ本体がいるのでしょうね。お供します。」

 そういうとアスリーはケイアナと並んでシューバツリーの捜索を始めた。


「アスリーは、あれに取り込まれていたときの記憶はないのかい。」

「私の幽体は前勇者のコールズに制御されていたそうで、そのせいでしょうか、朧気(おぼろげ)に戦いをしていた記憶ばかりが蘇ってくるだけで、それ以外のことはほとんど覚えていないのです。」

 そう話すと、しばらく黙っていたが、アスリーは躊躇いがちに言葉を繋いだ。

「セラム様でしたか、幽体が失われてしまったとお聞きしました。

 私のために、申し訳ないと思っています。」

 再びアスリーが頭を下げてくるのを押しとどめて、ケイアナは抑えた口調で、ことさらにシューバツリーに視線を向ける。

「シューバを討伐するのは人々を護る意義のある行為だ、私も不甲斐なかった。

 アスリーのせいではないよ。」

 それより、とケイアナは話題を変えた。


「アスリーこそ、幽体をバラバラにされていたんだ。具合の悪いところはないかい。」

 アスリーは何かを確かめるように視線を小刻みに動かす。

「私の意識は幽体が分けられていた期間のそれぞれのフェアリィデビルの記憶を統合しているところです。

 魔族のフェアリィデビルへの酷い扱いが記憶に大きく残っていましたが、私もアトルガイア王国では勇者にするために幼少期から厳しい扱いを受けていましたから、それほど影響しないと思います。

 ──それよりも、」

 アスリーは小首を傾げてケイアナを見詰める。

 ケイアナは、生真面目で格式張ったアスリーには珍しい態度だと思った。


 恋人としてダイカルから紹介されて以来、ケイアナがアスリーと王室で共に過ごしたのは婚約から結婚式までの短い時間ではあったが、このような砕けた態度が取れるような娘ではなかったはずだが、とケイアナが戸惑っていると、

「私の幼少時の記憶を持ったマーモに対して、セイラさんとご母堂が優しく接していただいたことはよく覚えています。

 早くに身寄りをなくして幼少期に甘える相手のなかった私には、マーモが楽しく過ごせたことが、今では私の幼少期の記憶として強く心に残って、私自身が救われた気がしています。」

と多少ぎこちないながらも、アスリーは口角を上げて柔らかく笑った。


 これまでついぞ見せたことのなかったアスリーの女性らしい笑顔にケイアナが驚いていると、アスリーは目を細めて悪戯っぽい表情をみせる。

「マーモはセイラさんは母親のような存在で、ご母堂のことはお祖母様だと思って慕っていましたよ。」

(お祖母様! 私、39歳になったばかりなのに、嫁にお祖母様って言われた! )

 ケイアナが衝撃を受けている様子にアスリーはくすくすと笑う。


「ご母堂、あくまでマーモの主観です。

 ご母堂のことは、改めて”お母様”とお呼びしたいと思いますが、この旅の間はセイラさんやティルクさんと同じに”母様”とお呼びしてよろしいですか? 」

「当然だ。アスリーは私の家族で本来の娘なんだからね。」

「はい、母様。」

 気を取り直したケイアナが微笑んで応えるとアスリーも微笑む。


(これは幼少期の記憶が満たされる方向に変わって、アスリー自体の性格に影響を及ぼし始めているんだろうねえ。

 さて、嫁の性格が変わってしまって、ダイカルはどう思うかね。

 ──惚れ直すような気がするねえ。)

 ほころび始めた花のようなアスリーの笑顔は、記憶が統合されるにつれて、やがて咲き誇るようなものへと変わるだろう。

 その変化する様をダイカルに見せてあげられないのは残念だとケイアナは思った。


◇◆◇◆


 シューバ本体のところへ辿り着く前にミッシュが合流してきた。

『ギャジャたちにも一応シューバの戦闘体を討伐した状況は伝えて、戻ってケイアナたちに合流するように言ってある。

 暗くなったら無理はしないように伝えたから、明朝には着くだろう。』

 ケイアナは了承して視線を先へと巡らせる。


『シューバ本体はまだこの先にいる。

 蓄えていた力を使い果たして大分弱っているから、このメンバーでも討伐できるだろう。』

 ミッシュが探知した結果を告げるとケイアナが安堵の息をついた。


 セイラは?、と聞いてくるミッシュに、ケイアナは表向きは休んでいると応えながら、ミッシュだけに念話を向けて事情を説明した。

『そうか。シューバ討伐の確率予測でセラムが必要と出たのは、やはりセイラに原因があったのだな。』


「何かいる! 母様、あれではないですか。」

 確率予測とは?、と聞き返そうとしたケイアナだったが、その疑問はアスリーがシューバ本体らしきものを発見したことで遮られた。 

 地面に穴が開いて周囲が盛り上がった場所の側に、干からびた芋状のものが下部を糊状に広がって、ゆっくりと脈打つように(ぬめ)らせている。

 おそらく本体は移動を前提にしていないのが無理に移動して破滅から逃れようとしているのだろう、その動きは酷く緩慢で、前進はしているのだろうがほとんど動いているように見えなかった。


『子実体をばら撒いてしまえば世代交代することを前提にしているからな、本来はもう役目を終えているはずでほとんど力も残っていないんだろう。

 だが、動けない何かを取り込んで力を得る機会があれば、再び成長する可能性がある。

 アスリーが収納空間で本体を隔離しながら中に風を送り込んで、ケイアナが炎魔法で燃やし尽くしてくれるか。』


 ミッシュの提案に従って、2人がシューバ本体を始末することにした。

 アスリーが収納空間でシューバを包んで空間を圧縮すると、シューバの干からびた身体がぼそぼそと潰れていく。

 やがてアスリーからの合図でケイアナが収納空間の中に炎を生じさせると、ぼうんっ、と爆発が起こり、アスリーが収納空間を維持しながら風を送り込むと、バラバラになったシューバ本体は盛大に燃え上がった。

 燃えるものがなくなってシューバ本体が黒い細かな灰になるまで2人は魔力を注ぎ、その後でシューバが出てきた穴に向けても同じことを繰り返して、ミッシュが完全にシューバ本体の痕跡が無くなったことを確認してシューバ討伐は終了した。


 もう辺りはすっかり暗くなっている中、ミッシュが光魔法で周囲を照らして、ケイアナたちは帰路についたその頃、皆がシューバ本体の討伐を行っていることを知ったセイラは、慌ててケイアナたちの元へ向かおうとしていたところだった。



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