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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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閑話:後始末と準備

手違いで第91話の後にくる話が先に投稿されています。

順番を変えられるはずなのですが、具体的な手順がよく分からずに修正できないでいます。

お手数ですが、第91話を先にお読みください。

 ダイカルはステータス表の魔王妃の欄から”セラム ガルテム”の名前が消えて、再び表示されたセイラの名前を首を傾げて見入っていた。

 表示が変わって、吸い上げられた力も戻って1時間ほども経ったということは、戦闘はもう終わったと考えて良いのだろうと、ダイカルは公務を止めての待機を打ち切ることにした。


(セラムというのは誰だったんだろう。そして、なぜその名前が消えて今は元に戻っているのだろう。)

 セラムを真なる魔王妃に指定したときに変更できないと感じたのは間違いだったかと思い返して、真相はすぐにアスモダから報告させようとダイカルは考えた。


 セラムを真魔王妃に指定したすぐ後にいきなり自分が女の身体になって、どうしたらいいのか分からなくて狼狽えているところへ、女性化に伴って背が縮んで30センチほども低くなった視界を覆うように宰相のゴシアント ジェゴスから至近距離で見下ろされて動揺した。

 思わず本能的に身を引いて両手を交差させて胸を隠してした姿を、外見がそっくりなくせに母が絶対にしない表情と動作だとゴシアントに面白がられて、男の姿に戻って落ち着きを取り戻したダイカルは、ゴシアントに女性化したことの口外禁止とさっきの自分の仕草を忘れることを命じた。


 幼少の頃から叔父のように接してきたゴシアントだからこそ敢えて表に出して見せた反応だろうが、ダイカルはこれが他の者だったらと思うと冷や汗が出た。

 そして召喚されたばかりのセイラがどれほど不安だっただろうかと改めて思い、勝手に自分が婚約者扱いしている現状をどう受け止めているだろうかと気遣った。


(国内の掌握は概ね終わっている。

 出来るだけ早く体制を整備して、私自身がアスモダに赴く必要があるな。)

 アスモダで直接状況を確認して、もう自分が女になることはないと確認するのは人に任せられないし、またいつ女になるか分からないでは公務に支障が出る。

 何より自分が落ち着かない。

 そんなことは起こりようがないと否定しながらも、もし何かの間違いでセイラの妊娠騒動が自分に降り懸かるようなことがあったら、きっと自分には堪えられないと、心のどこかで考えていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「おい、そっちへ行ったぞ! 逃がすな! 」

 濃いハシバミの色の服に黒い革鎧を着た兵士が出口に向かって叫び、揃いの制服を着た兵士たちが四方に散って捜索している。

(へっ、おあいにく様、こっちだよ。)

 必死で探している兵士たちを尻目にコールズは薄ら笑いを浮かべると、建物の梁の上から周囲を見渡して魔族の本拠地から脱出する機会を窺っていた。


 コールズは指導者が子宮を培養器に改造した、元が何だったか分からない魔物の胎の中で目覚めて、数部屋先にいた歩哨を襲って服を奪って逃走を始めて、想定外だった内部からの襲撃に兵士たちが右往左往する隙を突いて指導者の建物から脱出したところだった。

 シューバに囚われていたコールズの知らないことだったが、指導者はシューバとセイラ達が遭遇するのを確認した後にガルテム王国方面に向けて旅立っていて、運良く指導者が不在だったために、コールズの体内に埋め込まれた爆発物を起動されることなく逃走ができる条件が整っていた。


 逃走が可能になった条件はもう一つ、シューバに囚われたことが原因でコールズに魔法属性が備わったこととレベルが上がったことがある。

 コールズは魔力は高めだったが元々魔法属性に恵まれず純粋な剣士だったのだが、シューバに押し込められてアスリーと幽体を合成された副産物として魔力は2倍になり、シューバとアスリーの魔法属性を獲得していた。

 実はジァニの魔法属性も獲得しているのだが、水流属性という表示と水属性の違いが分からずに、コールズはまだそのことを意識していない。

 また、剣技に関してはアスリーの剣技を吸収して剣士としても戦力が倍以上も上昇していて、目覚めてみればレベルは元の3,306から7,425にもなっていた。

 指導者の建物にいた魔族にコールズに太刀打ちできる者はいない。


 夕暮れまで待って、多少の戦闘を経てコールズは難なく魔族の囲みを突破して、魔族の住むガズヴァル大陸から人族の支配するナズム大陸へと逃走を開始した。


 コールズの当面の目的は2つ。

 1つはアトルガイア王国と魔族に関する正しい情報を得ること。

 最後の戦闘を通じて認識をセイラ達から聞いた情報と自分がシューバにいて得た知識や経験は、コールズがこれまで信じていた認識とあちらこちらで大きく異なっていて、コールズは情報を集め検証して事実を確認する必要を感じていた。

 もし戦闘で見聞きしたことが事実であるならば、自分が魔人族と対立する理由はないとコールズは感じていた。


 もう1つは、魔族の指導者がコールズの体内に仕掛けた爆発物を除去して自由の身になること。

 逃走のチャンスを窺って建物の梁に潜んでいる間に、指導者は数ヶ月の間戻らないのでコールズの体内に埋め込まれた爆発物でコールズを始末することができないという魔族の会話を拾って、その時に初めてコールズは体内の爆発物のことを知って衝撃を受け、魔族の指導者のことを信用できないと感じもした。

 どうすると考えていて、シューバとしての戦いの時に、あのセイラとかいう性別不明の人族が、コールズが首を刎ねた連れの女の首と胴体を繋げて回復させていたのを思い出していた。


(シューバから解放してもらった上に爆発物まで取り除いてもらったんじゃ、俺の借りはでかくなるばかりだが、なに、それだけ役に立って見せりゃ良いんだ。)

 コールズとセイラに対立する理由がないならば、どうにかしてセイラに接触して爆発物を摘出してもらうように頼もうと、コールズはケイアナの両手を斬り落としティルクの首を刎ねたことなど戦いの中の些細なことと押しやって、楽天的に考えていた。


 夜になるまで建物の梁で待って、コールズは逃走を開始する。

 暗闇に紛れて移動し、手薄なところを突いて最小限の戦闘で魔族の兵士を仕留めて街道の上手から山に入り、尾根を目指す。

 兵士たちの会話から予想したとおり、指導者の建物はガズヴァル大陸の端にあったようで、向こう側に微かに明かりがいくつか灯っているのが見えていて、あれがナズム大陸のはずだとコールズは思った。

 ガズヴァル大陸とナズム大陸との接合部分は、山に挟まれ曲がりくねった細長い街道ひとつだけで魔族の目をかいくぐって通ることが困難なのだが、その直線距離は短い。


(俺は泳ぎは得意な方だし、流されたとしてもどこかに辿り着けば、なに、多少の時間はある。)

 コールズは笑みを浮かべて険しい山の稜線のできるだけ低いところを探すと、一気に海に飛び込んでナズム大陸を目指して泳ぎ始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


『今確認してきた。ミシュガルドの使者たちはシューバを討伐したぞ。』

 アスモダの北東部ニルグで鷲の魔物エトンのピューラは旋回しながら魔物たちに告げた。


 ビューラはミッシュの依頼でフォースたちフェアリィデビルをセイラの元に届けた後、離れた木の上から戦いの一部始終を確認し、セイラがコールズの宿る戦闘体を焼却し、ケイアナたちがシューバの本体を倒したところまでを見極めてアスモダの北東部の台地ニルグまで戻り、シューダの浸食から避難していた魔物たちにセイラたちの戦勝を報告したのだった。


 ニルグは断崖絶壁の上にあるため、通常ここを訪れるのは、珍しい薬草を採りに岩登りをするごく一部の腕利きの冒険者の他に人間はいない。

 また、シューダも絶壁に根を這い上がらせることができずにシューダの縄張りの奥地にぽつんと飛び地として取り残されているため、ここにはニルグの地理条件を超えることのできる能力か力を持った知能の高い魔物ばかりが集まっている。


 かれらはシューダに対抗する意思はあったが力が及ばすニルグに孤立し、翼のない魔物はシューダ討伐への戦力を減らしじり貧に陥ると知りながら、飢えのために他の魔物に戦いを仕掛け初めていたのだが、その尻すぼみの状態に歯止めを掛けたのはミッシュだった。

 ミッシュはテュールとともに岩山伝いにやって来て、収納空間に溜め込んだ食糧を分け与えて、シューバ討伐後のシューダ攻略に協力させることを約束させていた。


『テュール、我らが太刀打ちできぬシューダの幼体を討伐する力を、ミシュガルドの使者である人間たちが持っていることは確かに確認した。

 シューダ討伐には我らも協力する。』

 ニルグに残っていたテュールは魔物たちの申し入れに頷くと、ミッシュに念話で報告をした。



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