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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第16話 何ですか、この仕打ち。酷いと思います

誤字報告、2件を頂きました。ありがとうございます。

前話の尊敬語と謙譲語と丁寧語ですが、時間を掛けてじーっくりと手を入れる必要があるとの結論に達しました。

後日、直します。

 アイザル様の求婚の件は、帰宅後すぐに同室のメイド達に広まり、盛大に揶揄(からか)われた。

 というか、マイラさん、アイシアさんから聞いて知ってたってどういうこと?

 何でもアイザル様は正直にアイシアさんに説明していたらしい。

 で、メイドというのは年頃の娘の集団だ。良い縁談と判断される限り水は差さない、らしい。


「まあまあ、奥様。あんまりお()ねになると、せっかくの美貌に触りますわよ。」

 うっせい。

 せっかく妊娠騒動から解放されたのに、今度は結婚騒動って……。

 メイド修行もまだ半月ほど、あと半月も残っているのに、こんなことが魔王の耳に入ったら、連れ戻されちゃうじゃないか──。

 そこまで考えて、俺は、はっと気が付いた。 

 あ、この件が魔王の耳に入ったら、ミゼルさん達はどういう風に魔王に見られることになるんだ?

 魔王の目が届かなくなった途端に、アスリーの体に言い寄ってきていた悪い虫?


「ヤバい。」

「え、何? 」

 思わず呟くと、俺はちょっと出かけてきます、とマイラさんに告げて王家へと急いだ。

 お母様に事情を話して、助けてくれるようにお願いして、何かできることがないか、知恵をお借りしてこよう。


◇◆◇◆


 メイド詰め所を出て王家へ向かおうとして走っていると、正門から王の間へと続く廊下が何だかざわざわとしていることに気が付いた。

 何かあったかな。そう思いながら、王家へと走る。

 王家に着くと、ホーガーデンが、丁度良いと言って招き入れてくれた。

 アイザル様から買った果実のことで分かったことがあるらしい。

 俺の姿はお母様の変身魔法でアスリーさんとは違う姿になっているため、いつものように居所に入ることができない。そのため応接室に通されてソファに座り、ライラがお茶を持ってきてくれた。

「この果実は、未開の森の奥、と言っても、私達のナズム大陸と海峡で結ばれている隣のガズヴァル大陸と呼ばれるところで取れると言われているアルザという実で、非常に珍しい物です。

 そして、ガズヴァル大陸は人族の住むアトルガイア王国とは我々魔人の国以上に遠い場所です。

 我々でもごく一部の好事家や専門家しか知らないガズヴァル大陸の産物を人族が知って、アスリー様を掠うために使ったとは考えづらいのです。

 そのため、国王様は重臣と会議を開いて、どういう可能性があるのかを検討しておられるところです。」 

 へえ、アトルガイア王国とは関係ない勢力がアスリーさんを掠っているのか。そうすると、俺がアスリーさんの体に入っちゃったのは、たまたまの偶然ってこと?


 考えていると、何だか騒がしい物音がする。

 なんだろうと思っていると、武装した近衛兵が5人ほどで雪崩れ込んできた。まだ向こうには何人もの姿が見えている。

「セイラを発見した! セイラ、怪我はさせないようにと命令を受けている。抵抗せず大人しくしていろ! 」

 あっけにとられていた俺はもちろん抵抗など考えてもおらず、手枷を嵌められると引き立てられた。

 後ろでホーガーデンが、心配そうな顔でこちらを見ていて、俺と視線が合うと、大丈夫、と言う形に大きく口を動かして、決意の籠もった視線で大きく顎を引いて頷いてくれていた。

 たぶん、ホーガーデンなら、何か手を打ってくれる。


◇◆◇◆


 俺は近衛兵に囲まれたまま城の地下へと歩かされ、手枷を外されると地下牢へ放り込まれた。

 その間、何も説明はなく、黙ったまま連れられて地下牢に放り込まれたため、なぜ地下牢へ入れられることになったのか、さっぱり分からない。

 看守は一応女性だったが、牢の中には視線を遮る物が一切なく、トイレも外から丸見えだった。

 薄暗くて時間も分からず、鉄格子は太さ6センチもあるような鉄が15センチくらいの間隔で縦横に組まれた頑丈な物で、逃げる余地など塵ほどもない。

 看守に話し掛けても何も答えてはくれず、ときおりスリット状になった穴から差し込まれるマズい食事の回数と体を拭くためのお湯とタオルと着替えが出されたところを見ると1日は経ったのだろう、誰も来ず、放ったらかし。

 仕方がないので、ミッシュにMPを送るために硬い石の床の上で簡易魔方陣の体操をして、無駄にふかふかの寝具で寝た。

 簡易魔方陣の体操は看守の目を盗んで素早くやらないと長い棒で突いて妨害される。それだけでなく、体を動かそうとしたり、布団を広げて体を隠しても棒で突かれて妨害される。何もできない。

 だが、そのうちに誰かが来てくれて、好ましいかどうかは別にして何かが始まると思っていた。


 でも、たぶん1週間くらい、何にも起きない。ミッシュも来ない。ただぼうっと座っている。

 これ、どうなってるんだろう。


◇◆◇◆


 寝ていたら、物音で目が覚めた。

 顔を上げると、2人組の男がいて、看守が倒れていた。

「ちっ。目が覚めやがった。」

 久しぶりに聞く会話が、これか。

「あんた達、誰。」

 立ち上がると、さあな、と返事があって、長くて太い槍が男2人の腰の辺りから生えるようにして出てきた。


『ミッシュ!! 牢屋で男達に襲われてる! 助けてくれ!! 』

 俺はミッシュに助けを求めたが、反応がない。

 男達は槍を構えて先端を鉄格子越しに突き込んでくる。迅い。

 躱しきれずに魔王の加護が立ち上がった。

「やっぱり魔王妃を持ってるという話は本当だったか。」

 男の1人が言うと、2人で同時に槍で突いて来始めた。魔王の加護が光るが、その光が強い。かなりの負荷が掛かっているのが分かる。

 ──これ、下手したら、そのうちに破られるんじゃないか。

 俺は2人で同時にに攻撃されるのを防ぐ場所はないかと周りを見回したが、牢内にはトイレくらいしかないので諦めて、なんとか左右に走って攻撃が重なるのを妨害する。


「ああ、埒が明かねえ! 」

 男の1人が倒れている看守の体を調べたあと、ちょっと待ってろ、と言って出て行った。恐らく牢の鍵を探しに行ったのだろう。

「ねえ、なぜ私を襲うの。」

 残った男に聞いてみたが、男はにやりと笑うだけで返事がなかった。

(牢屋の中で襲われたら、きっともう助からないな。)

 逃げ出す方向が見つからないので、必死でミッシュに呼びかけてみるが相変わらず返事はない。

 かなり長い時間が経ったように感じられ、上で気が付いてくれたのかなと期待をし始めた頃、男が戻ってきた。


「よう、待たせたな。」

 にやりと笑う体には血糊が付いている。戦闘があったようだ。

 男が牢の鍵を開けて、ギギイッと扉を開けたところで、後ろから黒い影が男を襲った。

「うおっ。」

 ミッシュの攻撃をとっさに躱して、男がミッシュに向き直ろうとする。もう1人はその間にミッシュを槍で突いて躱されていた。

 もう一槍、ミッシュへ突き入れようとしたところへ、階段の方から太い稲妻が走り、ズガン、と音がして男を弾き飛ばす。

「セイラ、待たせたね! 」

「お母様! 」

 ケイアナが寝間着のまま階段から駆け下りてきて雷撃で倒れた男へと剣を振るい、男に槍で受け止められる。

「ああっ、強い奴らだね。こいつら、たぶんレベル3,000は超えてる。セイラ、気をつけるんだよ! 」

 気をつけるも何も、牢の出口で男2人が戦っているのだから俺にはどうすることもできない、のだが、俺は男達の注意がミッシュとお母様へと向いていることを確かめ、お母様が剣を振るうタイミングを見て目の前の男に体当たりをした。

 魔王の加護が立ち上がり、男が弾かれて体勢を崩したところへお母様の剣が男の腕を切り裂く。

「よくやった! 」

 お母様が男を切って振り向きざま、後ろから来た男の剣を受け止めようとしたが、切られた男はもう一方の手で握っていた槍を突き出した。

 お母様は男の向こうだ。前後から攻撃を受けてはどちらかの攻撃はかわせない。

「お母様! 」

 俺が叫び、間に合わないと思った瞬間、ケイアナの周りに魔王の加護が立ち上がった。

 俺とお母様の魔王の加護に挟まれて身動きが取れない男をミッシュが首に襲いかかって止めを刺し、魔王の加護に阻まれて驚きの表情を浮かべたもう1人の男は、そのままお母様の剣で貫かれた。


「はあ、はあ、ミッシュに呼ばれて急いできたけど、運動も最近までしなかったし、年だね。」

 荒い息をしながら呟くお母様に俺は駆け寄ると抱き付いた。

「無事で良かった! お母様、助けに来てくれてありがとう。」

 俺はお母様に礼を言うと今し方の疑問を口にする。

「お母様、魔王が死んでも魔王の加護はあるの? 」

「いや。ザカールが谷に落ちた後、魔王の加護を試したけれど、起動しなかったの。

 私も今の今まで、ザカールが生きていたとは知らなかったよ。」

 お母様は目に涙を溜めて、こちらを見てにまりと笑う。


「それよりセイラ、逃げるよ。

 ダイカルの馬鹿は、アトルガイア王国で次の勇者が現れたという報告を受けて、アスリーさんの霊体が消滅したと思い詰めて、セイラを信用するのを止めちまったんだ。

 今、あの馬鹿はアスリーさんの弔い合戦のことしか考えていない。」

 そう言うと、お母様はこちらを見てくすくすと笑った。

「ザカールが生きていることが分かったんならちょうど良い。

 私もザカールを探すことにするよ。一緒に逃げようか。」

 お母様はそう言うと俺の手を引いて階段へと向かう。

 振り返ると、一言を付け加えた。

「修行は厳しいよ。へこたれるんじゃないわよ。」

 こうして俺とお母様は、王都を脱出することになった。



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