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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第87話 窮地(2)


 コールズの魔法の性質が刻々と変わる、その法則が分からずに俺は防戦一方になった。

 たとえば火属性の魔法に対して水属性の魔法は相性がいいが、風属性の魔法はよほど威力に差がないと火を煽って逆効果になる。

 このため、俺は大概の魔法に強い土魔法で防御をして反撃の機会を探っていたのだが、ときおり水魔法のカッターが土盾を貫通して俺の体を(えぐ)っていった。

 行動の邪魔にならないように頭部と心臓だけを2重に防御して、抉られた身体を修復しながら俺はコールズの魔法の仕組みを探ろうとしたが、皆目見当もつけることができない。


「セイラ。こっちは少しずつ()してる。しばらくして(けり)がついたら加勢するから、それまでは集中を切らさないで持ち堪えて。」

 母様の応援というか指示を受けて、俺は改めて気合いを入れてコールズに向き直って防御を厚くして切り込んでいく。

 3発、コールズの火魔法のニードルと光魔法のレーザー、水魔法のカッターが収納空間を突き破って左腕と左脚、脇腹を貫通したが、その瞬間を意思で堪えてすぐに治療してコールズに向かって斬り上げ、受け止められた剣との接触部を起点に風魔法でくるりと回転してコールズの頭上で真上に飛びそのままコールズ目掛けて加速を懸けて落下の圧を懸けて突いていく。

 コールズが慌てて後ろに下がった隙に理想の3手で切り裂くと、またコールズと向こうのシューバとが入れ替わっていた。


「コールズ、シューバも随分数を減らしている。

 お前こそ、もう諦めたらどうだ。」

 コールズの魔法は何とか躱すことしかできていないが、取り敢えず致命傷を避けて圧している。

 俺はその事実に支えられて戦いの継続の意思を再度コールズに問うた。

「ふん。使いたくはなかったが、まだ俺には奥の手があるのさ。」


 コールズが答えたすぐ後から、大きな力が起動するのが感じられた。

 ドンッ。

 空気を震わせる衝撃が走ったと思うと、コールズの身体が膨らんで巨大化し体色がますます濃くなって、黒光りするように光沢が掛かり始めてくるのにつれ魔法の出力が上がってきて、俺の土魔法を貫通し始めた。

 俺は土魔法の外側に収納空間を置いて魔法を吸収しようとしたのだが、コールズの魔法は水、土、光、火とクルクルと種類を変えてくる上に強力で、収納空間の入口を弾き飛ばして盾に突き進んでくる。

 顔と心臓の防御を厚くした上で全体にも二重、三重に土魔法を展開して土魔法の間を金魔法で分厚い鉄板を作って埋めたが、それでも盾を食い破られるのが時間の問題になってきた。

 盾への貫通箇所を補強して歯を食いしばって堪えながら、俺はじりじりとコールズに向けて距離を詰めようとしていたのだが、ふいにコールズの方からずしずしと近づいてきて、無造作に振り上げた剣を叩き付けてきた。


 ガゴン、と鈍い音がして、その一撃で俺の防御は吹き飛んだ。

 荒れた地面に叩き付けられ、衝撃で身体が痺れて動かないのを、肘を突っ張って無理に動かして身体を起こし、力の入らない腕で次の一撃を受けようとする間にもコールズの肩当たりの左右から魔法が飛んでくるのが見えて、とっさに土魔法と金魔法の重ね張りを3倍にして張って魔法と攻撃に何とか耐える。

 無茶苦茶な威力にもう攻め入る隙が見当たらなくなって、俺は尻餅をついて身体を起こした体勢のまま防戦一方となり、魔法の負荷に耐えかねたのか、俺の周囲でパリパリと音がし始めて、何ごとかと身体を見遣ると、どうやら俺の身体の線が揺らぎ始めて輪郭がブレ始めているのが分かった。

(ヤバい、男の姿が維持できなくなっている! )

 男の姿が維持できなくなれば、またパワーが落ちるのだろうかと危惧しながら魔法に集中するために立ち上がろうとしている俺の前に、コールズが再び立ちはだかってきた。


「お前と魔王妃を倒せば、俺に与えれた役割は一応終わりだろう。

 俺は元の体に戻って、隙を見て自由になるつもりだ。

 さあ、覚悟は良いか。」

 大きく腕を引いて剣を打ち付けようとするコールズと、刀を構え魔法を起動しようとしている俺との間に、俺の後方上空からピィーッという笛のような音を響かせながら何か大きなものが割り込んできて、コールズにぶつかり腕を切り裂きながら通り過ぎた。

 コールズが衝撃でぐるりと一回転した後、裂かれた腕を押さえながらふらふらと後退るのを視界の隅で捕らえながら、通り過ぎた正体を確かめる。

 見ると体長2メートルはありそうな、猛禽類と思われる細長い体躯の鳥が旋回していて、今度は俺に向かって飛んで来る。

 迫る鳥の速さに思わず防御態勢を取った俺を、鳥は襲うでもなく掠めるだけで飛び去って行った。


『届け物は確かに届けた! 』

 くちばしの鋭い空色をした流線型の猛禽類から伝わった思念に釣られて周囲を見渡すと、俺の右側に4頭のフェアリィデビルがいて、一番小柄なフェアリィデビルが、ちょうど女の姿へと戻ってしまった俺へと駆け寄ってきて、きゅきゃきゃっ、と鳴きながら腕に抱き付いてくる。

「マーモちゃん! 」

 俺は思わずマーモちゃんの頭を撫でながら、こちらへ視線を走らせているフォースちゃんを見遣る。

『駆け付けてくれてありがとう。』

『私は、自分の身体に戻るチャンスを逃したくないだけ。』

 フォースちゃんに声を掛けると、落ち着いた声が返ってきて、いつものようにマーモちゃんを背中へと回しながら、そうだよね、と俺は思わず頷いた。


「おい! お前、化け物か。男か女か、はっきりしろよ! 」

(失礼な奴だな。)

 コールズが怒鳴りながら男の姿、装備から魔王妃月装を纏った女の姿になった俺をじろじろと見ていて、特に胸と腰の周りに視線が集中しているのが気に触ったが、取り敢えずは無視してフォースちゃんとの会話を続ける。

『ねえ、これが私の分体が入っているシューバよね。』

 コールズを見ながらフォースちゃんが確認してきて、頷く俺を見て溜め息を吐いた。

『参ったわね、シューバが強すぎる。

 この身体の私たちじゃ、手も足も出ないし、シューバに囚われてる幽体を取り戻したとしても、元の体では太刀打ちできないわ。』

(それはそうだろ。幽体が欠損していなくてもアスリーさんのレベルは6,000強だ。レベル10万を超えるコールズに敵うはずがない。)

 欠損した幽体はコールズの、というところまでを考えて、俺はある考えが浮かんで、良いアイディアのような気がした。


 幽体の欠落、それはアスリーさんの幽体の一部であるフォースちゃんたちだけでなく、男の幽体の欠損部分を女の俺の幽体で補っている、今の俺にも当てはまる。

 そして、俺はアスリーさんの戦闘知識を持っているコールズとの戦闘に手を焼いていて──

『フォースちゃん、相談がある! 』

 俺がフォースちゃんに自分の考えを説明すると、フォースちゃんは考え込んで、それから俺の背中にいるマーモちゃんに指示をした。

『マーモ、あなたが来ると、たぶん容量オーバーになる。セイラさんの背中にしっかりしがみ付いて、離れちゃ駄目よ。』

 そうして、フォースちゃんは他の2人と頷き交わすとコールズに向けてそれぞれに空間魔法を発動させて飛びかかっていった。


 いきなり4体も増えたフェアリィデビルに目を配りながら、再び俺との戦闘を再開しようとしていたコールズに真正面から飛びかかっていけば、当然のことながら敵いっこない。

 止める間もなく行動したフォースちゃんたちは、目標に忠実に、防御措置もろくに取っていなかった。

 もろにコールズの攻撃を浴びて黒焦げや肉片になったフォースちゃんたちの幽体は、依り代を失って元の体である俺のところへと集まってくる。

 フォースちゃんたちがコールズに飛びかかっている間に慌てて女の俺の意識を眠らせて、俺は身体に入ってきたフォースちゃんたちの意識を女の俺の意識がいた場所に呼び込んで、俺の幽体の欠けた部分を補ってくれる様子を感じ取っていた。

 闘争心と自制心は欠けていても、アスリーさんが持っていた技術自体が失われた訳じゃない。技術はアスリーさんから、闘争心は俺から供給することにして、役割分担では俺は戦術を練ることに専念して、実際の戦闘はフォースちゃんたちに任せることにした。


『セイラ、コールズの武術と光に火土風水の魔法は私の技術だけれど、身代わりや属性変化の魔法は私のものじゃない。たぶん、シューバの技術だと思う。』

 フォースちゃん、いや、アスリーさんは俺の記憶からコールズとの戦闘履歴を引っ張り出して確認すると俺にそう伝えてきた。

(オーケイ、それが明確に区分できれば、俺にも打つ手はある。)

 俺は戦闘はアスリーさんに任せて、オートモードセーブを唱えると、コールズから魔法を盗むことに専念し始めた。



総合評価500P。

物欲しげなことは言わないぞ、と強がっていても、やっぱり励みになるのは読んでくれているという実感です。

500Pなんてわずかかもしれないけれど、自分にとってはありがたいです。

本当にありがとうございます。


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