第84話 反撃(2)
少し短いですが、年内最後の掲載をするためにここまでとしました。
で、1つお詫びが……
”閑話:ここはセイラの地獄の一丁目。知らない間に王都で地獄行きになってた”で、ダイカルの戦力を”4万を超える”と書いていますが、計算間違いをしていまして、”6万を超える”に修正させて頂きます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。
自分の周りが光にに包まれているのを何ごとかと見回すと、自分の体を覆う光越しに体を覆っていた魔王妃の服の意匠が変化して行く様子が見えて、白地に赤い蔦と黒い蔦が遺伝子のように相互に絡み合って胸元と体の両脇に模様が入り、スカートにも襞の縁に赤い蔦と黒い蔦が交互に描かれドレスの襟や裾の縁には金色の刺繍が施された豪華な衣装へと替わった。
持っている刀も腰に差すサイズのままだが、元の剣の形と変わらない直刀から反りのある打刃へと成長して、腹に金色の線が走っていた。
いきなり衣装が豪華なものへと替わってどういうことだろうとステータス表を開くと、称号欄の”魔王妃”の称号が”真魔王妃”へと変化して点滅していた。
そして新魔王妃の項目の下に”装備:魔王妃月装”と”魔王から譲受される力の限度:無制限”の2つの項目が見えて、強さはレベル9万に迫っていた。
そして、これまでとは桁違いの魔力が潜んでいるのも感じる。
いける。
俺は確信と共に自分が得られる力の全てを汲み上げようと念じて、溢れ出してくる力を感じ取りながらさらに力を引き出していく。
と、シュン、と音がするような感じがして、いきなり体の感じが変わった。
あれ?
自分の体を見回すと、服の雰囲気がまた一変して、赤と黒の蔦の下地にベージュ色が加わって、何よりもドレスがズボンと上着に分かれていて、すごく懐かしいような感触が体にある。
あ、男の体。
自分のナニが戻ってきた。
◇◆◇◆
息を詰めてステータス表を見詰めるダイカルの体が光り出して、これが魔王妃に力を譲与する際の効果かと見守るうちに、シュンという音が聞こえた気がして、光の収まって。周りを見回すと何だかものの見える高さが違う。
「あ?」
上げた声の甲高さにびっくりして体を見下ろして、胸元から下を遮る膨らみに気が付いて、ダイカルは大凡の事態を察した。
「な、なんだ、これはーっ! 」
事態を察しながら胸を隠して蹲り、悲鳴のような叫び声を上げてしまったダイカルをまじまじと見詰めながら、宰相のゴシアント ジェゴスが驚愕の表情でぽつりと呟く。
「……ケイアナ様。」
ゴシアントの目に映るダイカルは、若き日のケイアナに瓜二つだった。
◇◆◇◆
”真魔王配”
ステータス表で表記が変わった自分の称号を確認して、確か王が女性の場合、夫は王配と呼ばれるんだっけ、とどこかで聞いた気がする知識を探りながら、何が起きたかの大体を察した。
──あとでダイカルに謝らなきゃ。
そう思ったものの、戦いに際して体力に不安のある女の体から男に戻ったのだ、今はまだ男の体を返すつもりはない。
視線をコールズに向けると、コールズはようやく炎を消化して焦げた体の治療を終えたところで、シューバたちは本体であるコールズの指示を待って、こちらの様子を窺っていた。
コールズは俺が女から男へと変わったのを見て考え込んでいた様子だったが、やがて詰まらなそうな顔をした。
「ちっ、魔王の嫁だと思ったが騙されたか。
だが、そんなことはどうでも良い、魔王に加担する奴だ。
ひでぇ目に遭わされたお返しはさせてもらうぜ。」
「お前、全人類の敵の手先になってなお勇者気取りで魔王と敵対することしか考えていないって、視野が狭いどころの話じゃないよね。
あんた、自分が自国である人族と敵対してるって自覚があるのか? 」
俺の問いに対して、コールズはにんまりと笑って答えなかった。
まるで隠したつもりの考えが顔に出てしまったような、お前たちが知らないだけだとでもいうようなコールズのにやにや笑い。それが俺には気になって、後で必ずダイカルにこの件を連絡しようと思った。
俺たちと会話する間にも、コールズはシューバを集めて俺たちへの包囲網を作り上げていく。
だが俺の今のレベルは、ダイカルの能力を全て吸い上げて、眷属の忠誠で得た全ての強さのうち、母様の分を除いた75パーセントを独占していて、その数値は10万に達している。
これだけの差があれば俺の魔力をコールズも感じているはずだが、焦った様子がないところを見ると、まだ何か隠している奥の手があるはずだ。
(うん、どうせ試してみるしか確認する方法はないしね。)
俺は母様たちと念話で相談をして、次の一手を打った。
俺がコールズの前に立ち、残る母様とティルクは左右に展開して、ヅィーニはティルクの補助に就いてコールズを取り囲み、逃がさない対策をしてから俺が交渉をはじめる。
「コールズさん、俺たちの目的はシューバ本体を手に入れて、シューバに囚われている幽体を解放することです。
そうすればコールズさんも自分の体に戻れるのではないですか。」
「戻ったとしても、俺の元の体は損傷を受けている。この任務を達成しなければ、治療は受けられない。」
「俺が完全に治療すると約束したら、どうです? 」 「……。」
少し動揺して考え始めたコールズだったが、やがて何かに気付いて笑い、皮肉げに答えた。
「無理だな。この体から安全に元に変える方法が判っていない。」
そうコールズが答えた途端、ミッシュの念話が皆の頭に響いた。
『シューバから幽体を解放する方法なら調べたぞ。
幽体と肉体が20キロ程度の範囲内にあれば、シューバが死ねば間違いなく元に戻る。だが、幽体と身体との距離が遠いほど幽体の残っている分量に復元率が左右される。
アスリーは今、俺の仲間がフェアリィデビルを乗せてそちらへ運んでいるから、時間的に見て、もう安全に復元できるはずだ。
それからジァニは収納空間に身体があるし、セイラも使途があるから大丈夫。
あとはコールズ、お前さんの事情次第だ。』
ミッシュの言葉を聞いて、コールズが溜め息を吐いた。
『復元の条件を調べてくれたのは、俺にとってもありがたいんだが、残念だな。
身体までの距離は残念ながら30キロあって、安全に元に戻れるとは言えない上に、俺の身体は指導者の側に安置されているんだよ。
ここはお前たちを倒して、褒美として指導者に復元して貰った方が良さそうだ。
だからさ、俺たちは敵同士だ。』
コールズがにやりと笑う。
こうなったら仕方がない。
俺は母様たちに念話で戦闘を始めることを伝えて、俺は居合いの体勢でコールズと向き合った。
皆様、良い年をお過ごしください。




