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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第82話 壊滅

えー、サブタイトルのとおり、胸クソ展開で終わっています。

次話を出来るだけ早く(何とか少なくとも年内には)用意しますので、苦手な方はそれまで読むのを控えてお待ちになるのが良いかもしれません。

「セイラ、間もなく次のシューバが来る。次が本番だ、作戦を考えるよ。」

 16体のシューバとの戦いが終わって、シューバに囚われた幽体の全部や一部が解放された場合にどうなるのか私は気に掛かったが、今はそれを確認している暇がなかった。

 母様は作戦と言うが、先ほどツリーを切断した一帯以外の周囲はシューバツリーで囲まれていて、こちらの動きが筒抜けになるので、私たちにはこの場に留まって戦う以外の選択肢はない。

 どうするのかと聞いていると、主にはゴダルグさんとエグリスさんの処遇だった。


 ゴダルグさんとエグリスさんのレベルは2,000に満たないので、このまま戦っていては庇う余裕もないだろうし生存が危うい。

 なので、2人には少し地面の下を掘って穴を開け、そこが潰れないように金魔法で金属の屋根を作ってからエグリスさんに収納空間を展開してもらい、中に入ってもらった。

 エグリスさんの魔力だと3時間ぐらいが収納空間を維持する限界だろうけれど、たぶん良くも悪くもそれまでに決着が付いているだろう。

「頑張るけど、もし、負けたら、ゴメンね。」

 ティルクが軽口を叩くと、ゴダルグさんが首を振って、とんでもないです、と応える。

「私は皆さんに魂を救ってもらいました。なので自分のことより、皆さんのご無事を信じて祈ることにします。」

 ゴダルグさんの言葉に笑って頷くと、エグリスさんも笑って手を振って、収納空間を展開して中に入って消えていった。


 2人が消えて、母様はさて、と言うと目を細めて私たちを見遣る。

「2人とヅィーニには一応、礼を言っておくよ。これまで楽しかった。

 でも、これからも楽しいことは沢山ある。皆でそれを楽しもうじゃないか。」

 私たちは母様に頷いて、戦力を集約されないように、それぞれ三方に散って身構えた。敵は四散ししてこちらへと向かっていて、恐らくその数は4掛ける15体の60体。

 戦力差15倍と、笑ってしまうほどの差だ。

 こんな状況では持って回った作戦なんかあんまり意味がない。

 ただ魔王妃の称号を持っていないティルクと私たち2人の力の差をできるだけ長く誤認させることと、一網打尽な魔法を撃たれることを避けるために間隔を開けて展開して敵を呼び込み、混戦になったらだんだんと間隔を詰めてお互いの背中を護り合うことを決めたくらい。

 でもシューバの戦闘の仕方と魔法などの手の内はさっきジァニさんらしき人が一通り教えてくれたし、私たちの手の内は隠すことができたはずだ。

 ならば、きっと何とかなる。私はそう信じて深呼吸をした。


◇◆◇◆


 私たちは、一斉に掛かってこようとするシューバを雷魔法と火魔法の壁を作って襲い掛かってくる数を制限し、できるだけ1体ずつに分断するようにして1体、2体と処理をしていった。

 私と母様は力を抑えて、ティルクとヅィーニが協力して私たちとほぼ同格だ、そう見えるように注意しながら戦っていた。


 でも、ティルクと私たち2人が同格に見えるということは、シューバたちと実力にあまり違いがないと見せなければならないということでもある。

 私たちはシューバと数合を打ち合って、何か相手を罠に嵌める作戦が必要との結論に達して念話で相談をして、私と母様が自分たちの背後にシューバたちが回り込むのを嫌がる素振りを演出することにした。


 シューバの一体が右中段から突いてきたのを回り込んで躱し、体勢を崩しながらでも魔法障壁で前へと押し返しながら、シューバが居もしない後方へと定期的に適当に土弾をばら撒く。

 シューバの指揮官は私たちの様子にすぐに気が付いたようで、シューバが複数で攻めてきて、1人が攻めてくる間に後から打ち合う素振りだけで私の背後に回り込み、それを食い止めようと土弾と火魔法で追撃する間に他のシューバが背後へと駆け抜ける。

 私はすぐにシューバに囲まれて全方位を囲まれて、集中攻撃を受ける瞬間に空へと飛び、上から土弾を円形に斉射した。

 空に飛んだ私にとっさに反応して剣を投げつけてきたシューバがいて、私は何とか顔と胸部を腕で防御したお陰で何とか致命傷は免れて腕と腹部に創傷を受けたが、シューバの3体が倒れて指揮系統に乱れが生じている間に距離を取ってティルク寄りに着地して、光魔法と神聖魔法で怪我を治す。


 これで私が倒したシューバは7体。半分近くを倒して、他の皆も同じペースで倒していれば、何とか活路が見えるはず──

 そう思ったときだった。

 けぷっ、と声がして、振り返ると空に髪を跳ね上げた頭が飛ぶのが見えた。

 見慣れた形の頭に、ピンクの頭髪が舞い上がっている。


「ティルクー!! 」

 私は戦闘も放り出して駆け出して、空中でティルクの頭部を受け止めて胸に抱いて抱え込んだ。

 地面を転がりながら腕の中のティルクを見ると、ティルクはこちらを見て、姉様、と口を動かして微笑んで、それからだんだんと眼の光が薄らいでいく。


「いやーっ!! ティルクッ!!! 」

 私は敵のことなど忘れて、首から血を噴出しているティルクの身体のところまで這うようにして辿り着いた。

 確か、脳が損傷するのは、脳に血が回らなくなって1分くらい経ってからと聞いたことがある。ティルクの首と胴体を早く繋がないと──

 私はそう考えてティルクの首と胴体を繋ごうとして、血に混じって泥だらけのティルクの頭部と首に気が付いて、自分と共に浄化して、ティルクの首と身体を繋ぎ合わせるために光魔法と神性魔法を発動して、ありったけの魔力でティルクの治療を始めた。


 ティルクの身体の上に覆い被さりながら治療を続けて、ふと、戦闘中であったことを思い出して、私は慌てて周りの状況を確認しようと周囲に気を配る。

 すぐ側にシューバとヅィーニがいて、少し離れて母様と多数のシューバの気配がある。


 ──私が抜けた穴を埋めて、私とティルクを護ってくれているんだ。

 安心して目を上げると、2メートルほどの距離で白いシューバが異様な強い気を放っていて、シューバの剣はヅィーニの腹を貫いて、身体をほぼ半分に切断していた。


 

 衝動的に行動した私とティルクを護るために、ティルクが相手をしていたシューバと私の間に割り込んできてくれたのだろうヅィーニの姿に衝撃を受けて、ごめん、ヅィーニ!、と思わず心で念じる。

 それから、目の前のシューバを敢えて無視して、ならば母様はどうしているかと視線を向けると、母様は腹に何本も剣を突き刺したまま膝立ちでシューバと戦っていた。


 呆然とする私の目の前に、白いシューバが近寄って来た。

「あははあ。お前が息子の嫁か。良い表情をしているな。」

 シューバがけらけらと笑う。

「悪を根絶するのが勇者の役目だ。喜べ。人間を裏切って魔王に媚びを売ったお前の罪を俺がこれから徹底的に浄化してやる。」

 形は人間に似ているが、目と口だけののっぺらぼうの顔から、言いようのない悪意が漏れ出てくる。

 この、明らかに他のシューバと色と威圧感の違う個体は、シューバ本体で間違いないだろう。ならば、今喋っているのは、元勇者のコールズだ。


 シューバと私たちが戦っている隙を突いて、この男がティルクの首を刎ねた。

 本来なら怒りが湧いてくるところだが、私にはもうその気力がなくなっていた。


(嘘だ、こんな結果になるはずがない。)

 私はまだ意識の戻らないティルクの冷たい身体を抱き抱え、下半身が千切れて藻掻くヅィーニと、今、両腕を切り落とされた母様を眼前にして、抵抗する気力も失って私は絶望に打ちひしがれた。


(助けて。誰か助けて。

 ミッシュ、リル、みんな、ダイカル…、誰でも良いから、私たちを助けて! )

 私は必死に念話で助けを求める。

 コールズはそんな私を見て楽しそうに剣を振り上げると、私が躱せないように私の下にいるティルクに向けて剣を突き刺す。

 力を抜いて突き刺してくる剣は、私はティルクの治療を止めることができにない私の身体を少しずつ傷つけて、私が苦痛に歪む姿を見る度にコールズは声を上げて喜んだ。

「うはははっ。お前が力尽きたら、お前もその女も死ぬぞ。

 ほれ、しっかり頑張って耐えて見せろっ。」

(助けて。誰でも良いから、私たちを助けて。) 

 コールズの嘲笑を頭上から浴びながら苦痛に身を捩らせて、私は助けを求め続けた。



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