第81話 ジァニの望み
ジァニがシューダに襲われて力及ばす破れて目覚めたとき、自分がどうなったのかが分からなかった。
目は見えるし聞くこともできる。だけど身体が動かない。
ジァニがシューダと遭遇した当時、突然変異により進化したシューダはまだ強さが4,000程度で、ジァニに辛勝した後にシューダは植物ながら生存戦略として結果して自分の後継を残す必要性を感じて、倒したジァニの幽体を取り込んで結実した。
シューダは元々は10センチ程度の小さな魔物や虫などを捕食するアメーバ様の植物だったが、川の側の岩の切り立った脱出の困難な場所へと落ちて、そこで仮死状態の人族と人族を捕食しようと躍起になっているカボチャ様の植物に遭遇した。
アメーバはカボチャ様の植物と生存を競うこととなり、なぜか捕食の試みが反射される人族の攻略を一時諦めてカボチャの制圧に専念した結果、カボチャの能力を取り込むことで勝利した。
その後アメーバは人族を捕食しようと足掻き、カボチャから奪った養分も足して人族の周りに取り憑いた結果、背が高く伸びて岩場を超えて身長が高くなり、岩場の上を飛び交う大型の魔物と接触することとなり、なんとか魔物を捕食しようとさらに足掻いて、カボチャが人族に届かせていた根から人族の血管に栄養を供給する代わりに人族から力を得られる様になって、アメーバは人族の姿に似せてカボチャの実で戦闘要員を作り、アメーバが操る戦闘要員が継続的に獲物を狩り地下茎を通じて本体が栄養を確保するよう進化した。
そしてジァニを取り込んでシューダが作った自分の後継は、地下茎で作った室の中でシューダ本体と同様になるまで育て保管して、自分に何かあったときに存在を引き継いで活動を始めるはずだった。
シューダが後継が育つまで活動を現状維持に留めている間、シューダの浸食地域はアスモダ東北地域の一部に止り獣人たちに地域の変化を気づかれることはなかったが、たまたま護衛を連れて調査にきていた魔族の研究者が見つけて、シューダを観察するために自分たちの感知を避ける魔道具を作って研究のために住み着いた。
だが後継が十分に育って自分の後継が確保できたシューダが活動を再開すると、周囲にシューダ以外の動植物がなくなって食糧確保に窮した研究者が同族のところへ避難難してきたことで魔族の指導者がシューダの存在を知ることとなり、指導者がシューダを襲い後継を確保した。
以来、後継を失ったシューダはアスモダ東北部から支配地域を広げながらシューバに向けて南下を続けていたのだった。
シューダの構造を解析した魔族の指導者は、シューバに入っていたシューダの意識のコピーを取り除いて、ジァニの幽体に多少の追加や制限を課してジァニが身体の操作を行えるようにした上で、ジァニの意識を切り取って元勇者コールズの幽体を切り出して置き換えた。
コールズは左の手足を失った状態で倒れているところを偶々魔族に発見され、指導者に拾われていたが、指導者から実験の成功後はコールズを元の体に戻して身体も復元することを約束されて、やむなく意識をシューダに移した。
しかし、元勇者コールズの能力は3,000ほどの平凡な数値でしかなかったために、戦闘能力の改善と検討中のガルテム王国侵攻計画が組み合わさって、現勇者アスリーの幽体を拐かす運びとなったのだった。
◇◆◇◆
ジァニは後継の身体の中でコールズを入れるために指導者と魔族が自分を改造する計画立てていることを聞いていて自分の幽体に細工したのだが、そのことは魔族が想定していない事態だった。
ジァニは魔族が自分に何をしようとしているかを知って、自分の幽体の完全性を保つために、指導者が細工しようとしている幽体の区画を複数複製してあちこちにちりばめて自分の意思の確保を図る一方で、元勇者コールズの意思を身体に伝える伝達経路には手を付けなかった。
ただ、何かの際に介入できるように、副次的な回路を形成してコールズが動作する際に並行して自分の意思をこっそりと行えることができるようにしただけ。それ以上をすると指導者に気取られて自分の意思を始末される。
そうして、ジァニは魔族に気付かれる前に少なくとも一回、自由に行動できる体制を確保した。
ジァニは長い年月の間、自分の意思を隠してコールズの手足としてコールズに違和感を感じさせないように動いてきたが、人と魔物という珍しい組み合わせの一行が御座所へとやってきて、そのメンバーの中に夫のヅィーニを発見して、ジァニは思わず偽装を忘れそうになった。
感動、嬉しさ、羨望、心配。押し寄せる感情を何とか押しとどめて、100体に余るシューバがヅィーニたちに押し寄せようとする局面で、ジァニは自分にできることを考えた。
◇◆◇◆
ヅィーニたちの戦力を見て、私、ジァニは素晴らしいと感嘆した。
ヅィーニは私がこの身体に囚われたときよりも老けていたが、私には夫が以前よりも風格が増したように感じられ、私よりも力が弱く挫けやすい性格がだったのが、たぶん私のことも含めていろんな経験をしながらレベル5,000くらいまで力を付けて、強くて容易に挫けない逞しさが感じられるようになって、私が望んだ夫の姿に近付いているようなヅィーニの様子に思わず笑みが零れる。
愛おしくて、私はここだと伝えたい気持ちを抑える。
倒すべき敵の中に私がいるとヅィーニが知れば、それはむしろマイナスだろう。
私はできることならば、ヅィーニが逃げ延びられるチャンスを作ってあげたいと思い、御座所に来たパーティを観察した。
珍しいことに人間と魔物たちは協調的で、ヅィーニたちとの間に差別や階級的な力関係があるようには見受けられなくて、ヅィーニは進んで人間に協力している。
それに、人間たちはヅィーニたちより明らかに強いのに、対等の関係でシューバたちに接している。
それに戦闘力を見ると、人間3人のうち2人は武力、魔法ともにシューバ本体より強いだろうと感じて感嘆したが、シューバ本体に戦闘力向上のために封じられた幽体は力よりも技術に長けていて、多数を相手にしたら危ないと感じる。
戦闘力としてカウントできるピンクの髪の人間は一番強いシューバの司令官と互角くらいで、ヅィーニはシューバよりも弱いだろう。
これは、ヅィーニ1体を逃がすよりもパーティ全体でシューバを打ち倒して逃げることを想定して対策を考えた方が良さそうだと私は思った。
技術に長けたシューバ100体以上が襲えば、あの力主体の戦い方では多彩な技術には幻惑されて深手を負うだろう、場合によっては致命傷を負うかもしれない。
ちょうど今、ヅィーニたちを相手にしようとしているのは、16体のシューバ。ヅィーニたちはシューバを囲い込み、シューバツリーを切断してシューバを孤立させようとしていた。
私はこれからのことを計算して、自分の対応を考える。
コールズの意志に従ってシューバ本体の身体の操作を行う役割を与えられている私には、シューバ本体への介入はできない。
魔族の指導者がシューバの幽体をそう設計したし、私はその抜け道を探してシューバの行動に紛れてそっと何かを追加する程度のことしかできない。それに、一度それを使えば私の意思は指導者に見つかって即座に潰されてしまうだろう。
私の思考部分のコピーは2つ。
これからも思考を維持したとして、ヅィーニたちを殺すための指示や行動をするのが私の役割となるだけ……それならば。
私は決意した。
シューバツリーを切断しようとする人間たちの動きを察知して、シューバツリーが切断される寸前に、私はシューバツリーを通じて自分の意識のコビーを2体のシューバの司令官に送り出すことにした。
もう後に私の意思は残っていないし、今ヅィーニたちと戦闘しているシューバたちはシューバ本体のネットワークから孤立しているから、私がシューバの意識を乗っ取っても問題はない。
私の見立てでは、ヅィーニたちのパーティはシューバたちの包囲網をを振り切って逃げ切ることは不可能ではないが、戦力の中心である人間たちがシューバの多彩な技に虚を突かれて深手を負えば、逃げ切ることが難しくなる。
ならば私がシューバ16体を使って人間たちの対応力の幅を広げて、逃げ切れる可能性を広げてあげればいい。
私の意識は全てこちらへと転送してしまったから、もうシューバ本体に戻る方法はないし、シューバはシューバツリーから独立して生き残る方策もない。
結果として、私の意識が存在したことがばれることもないから、心置きなく振る舞うことができる。
ヅィーニは塩水で防御しがらピンクの髪の人間のペアを主力に人間の男女が加勢してシューバと戦っていて、本当はヅィーニと少しでも話をしたいところだけど、そんな状況じゃないので仕方がない。
私の本来の意識がどうなったのかは分からないけれど、せめて今この瞬間、ここに私が元気でいたのだと、ヅィーニが気付いてくれることだけを願って私だけの古い印の結び方で戦う。
そして、人間たち。
格闘に対するセンスは悪くないのだけれど、やっぱり格闘も魔法もやや力任せだ。
外周にいた育ちの悪いシューバには対応できているようだけれど、その内側を担当する第3層のシューダの反撃は時々躱し切れていない。
だけど、戦闘の中心になっている2人の赤毛の女性のうちの1人は光魔法で、もう1人の赤毛とピンクの髪の毛の女性は、驚くことに指導者が魔族以外が使えないようにしたはずの聖魔法と光魔法で回復をしながら戦闘を継続している。
この人間たちの、即死の致命傷を追わない限りは戦線が崩壊しないタフなメンバー構成は驚嘆ものだ。
これならば、シューバの手の内をいくつか教えれば脱出は不可能じゃない。
今やシューバ2体に別れてしまった私は、お互いにアイコンタクトを取りながら、人間2人を中心に最初はシューバの個体の戦い方を、次に集団の戦い方をレクチャーしていき、人間たちも誰かがシューバのことを教えていることに気が付いているようだった。
何よりも、ヅィーニが戦いながら私の使う魔法印を凝視している。
伝わった。そのことが嬉しかった。
私は後続のシューダたちが近づいていることと、最低限の対応策は伝えられたことを確信して、教練を終えることにした。
ピンクの頭の人間に胸へと致命傷を与えられ、最期にヅィーニを見て、驚愕とどうして良いか分からずに潤んでいる瞳に笑みを送る。
ヅィーニは、私を、分かってくれた。
そのことに満足して、私は意識を手放した。
遅くなった言い訳です(-_-;;
身の上に色々あって、とにかく話を進めようと、書きにくい部分を先に送り続けていたツケが来ました。
何度も書き換えて情報をできるだけ読みやすく圧縮したつもりですが、読み難いと感じられたら、誠に申し訳ありません。




