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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第80話 シューバの微笑み

 ステータス表でケイアナの名前が微かに明滅し、しばらくして今度はセイラの文字が脈動するように揺れている。

 ダイカルはステータス表に現れるどんな変化も見逃すまいと固唾(かたず)を呑んで見詰めていた。

 アスリーと母上とセイラ。ダイカルが護り共に生きていきたいと願う対象同士が、たぶん命を掛けて戦っている。


 戦っている相手がアスリーの幽体の一部を含んでいることが、ダイカルの立場と判断を辛いものにしていることは間違いないが、世界のために、もしどちらかを選ぶべき判断を強いられるとしたら、現状、アスリーでないことは、ダイカルにも分かっていた。

 アスリーが死なないまでも、幽体の一部を失えばダイカルが愛した元のアスリーではいられないだろうことが分かっているだけに、自分が直接介入できない今の状況はダイカルにとって一層辛かった。


(そうだ、今は叔父に当たるS級冒険者のジアールが王都を中心として魔族討伐に積極的に協力してくれているし、王都の魔族を殲滅できる目処もついてきた。)

 ダイカルはこれまで取り組んできた対策と成果を思いを走らせる。


 ダイカルが叔父のジアールが密かに魔族を討伐していることをミゼル商会の会頭から聞き、ジアールに協力を要請して高位冒険者たちを組織して共闘態勢を組むことができてから、王都の魔族討伐は一足飛びに成果を上げた。

 王都の魔族はダイカルの偽装に騙されてダイカルの精神の乗っ取りが間近と信じていたために、次の攻撃段階に移れずにいるところを切り崩されて直接王都を制圧する体勢が取れなくなって、王都制圧に呼応するために各地で精神支配に成功していた領主等の重要人物に反乱を起こさせてガルテム王国を揺さ振ろうとした。

 自分はそうした反乱に対して、領主たちが魔族不当な関与によって本人の意思をねじ曲げられていることを明らかにして、反乱を起こした者の責任を一切問わずに早期収束に功のあった領家は逆に褒賞する旨を王命として発した。

 その結果、主がおかしな行動を取り始めたことを察知した家臣たちがすぐに王家へと報告を上げて王家の指示を受けながら主の反乱を早期に抑え込むという対応が各地で確立されて、魔族を追い込むのに絶大な効果を発揮した。


 こうして各地の混乱の終息に加えて王都内での実力者の王都召喚と魔王妃ケイアナ譲りの厳しい鍛錬を課して兵士を再教育したことによって、ようやくガルテム王国が魔族に対抗しうる態勢が整って、もう少々のことでは王都が落ちる危険性を考えなくて良くなった。

 そして、これでいよいよ自分がアスモダへ自分が直接赴く準備ができると考えて、ダイカルは魔族の王都内に残る拠点の同時殲滅の相談をしているところだった。

(もうすぐ、私が直にアスモダ戦に参加できる。

 母上たちには、ぜひそれまで耐えて欲しい。)

 ダイカルは祈るような気持ちでステータス表でケイアナとセイラの名前を見詰めながら、ケイアナたちの戦いが終結するのを待った。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 私が指揮官の一方に切り込もうとすると、目の前に敵の障壁が現れて、私は即座に属性を見極めて同じ属性で反対の効果をもたらす魔法を唱えて障壁を解消した。

 この技術はこれまで知らなかったけれど、さっきシューバにやられて何度も試しながら覚えた。

 そして今、シューバに試しているのは、私とティルクがシューバよりも多様な属性魔法を持っているから、火魔法の他にシューバに効く属性と魔法をがないかを確認するために魔法を順番に撃っている。

 自分たちの4倍近い数の同等の力を持つ敵に加えてさらに10倍以上の敵が後続としてやって来ているのだから、普通なら目の前の敵は最速で倒すべきなのだけど、敢えて敵を倒すのに手間を掛けている のは、あることに気が付いてそれを確信したからだ。


 シューバたちはシューバツリーでの通信後に私たちを襲ってきたから、私たちはシューバ本体に私たちの情報が盗まれることを懸念した。

 そして、シューバは体色と強さが連動していて、体色が薄緑から茶色へと色が濃くなるほど強いことにシューバと戦ううちに気が付いて、今戦っている指揮官が焦げ茶色で練度が最も高いことを警戒していた。

 だが司令官の練度があれば、シューバに遭遇した当初に多彩な技に不覚を取ったとき以上の多彩な攻めがあると厳しい予想をしていたのに、なぜか司令官の攻撃の精度が甘い。

 これは私たちの攻撃の種類や連携や攻撃パターンを読むための仕掛けなのかと思ったが、シューバの各個体が連携して私たちの攻撃の精度を試すような動きもなくて、どうも違うようだ。

 なんだろうと思いながら戦っていて、母様が気が付いた。

『アスリーだよ。あの娘はたぶん、シューバツリーが破壊される寸前にシューバに何かの指示を出して、私たちにシューバの能力の全てを見せようとしている。』

 そう言われてシューバの攻撃を検証して分かった。確かに司令官のシューバは私たちに技を披露してその正しい対策を講じやすいように、弱点でことさらに隙を見せる動きをしている。


 小ぶりな盾で防御する際は必ず剣や盾のエッジを立ててエッジの輝きが私の視線を引くように仕向けたり、手の動きや剣身を隠して自分の攻撃の意図を悟らせないトリッキーな手段の多彩さに引っかかって、私は魔法を不意打ちされたり魔法と剣のコラボを何度も喰らったけれど、決して動けなくなるような深手を負うことはなかった。

 これはシューバ本体に悟られないようにアスリーさんが私たちに伝授してくれるシューバ討伐のためのレッスン、そう思えた。

 それは短いレッスンだったけれど、剣技と力で押し切る母様の修行とは違って、多彩な剣技と魔法のコラボレーションは自分が身に付けるには間に合わないけれど、攻撃された場合の受けの懐を急速に広げることができた。

 そして、私がそう思ったタイミングでそれまで脇で大人しく待機していた司令官の配下であろうシューバたちが戦闘に参加してきて、フォーメーションを組みながら戦い始めた。


 シューバの土魔法で地味に足元を突いてくるのを風魔法で宙に浮かんで躱し、左右から炎弾をばら撒いてシューバの注意を引いておいて縦方向に回転してシューパの意表を突いてシューバを両断する。

 シューバから吹き出す半透明の体液を水魔法で嵩増しして風魔法を吹き付けて水分を打ち撒けて敵の注意を引くと同時に、吹き付けた風魔法の先端を反対方向から蹴って右斜め上方向への推進力に変え、上下逆さのままシューバの胴を薙ぎ、その後から襲いかかろうとしていた別のシューバを飛び越えるついでにその首を刎ね、頭上から司令官へと炎弾とシューバの水魔法を真似た水のビームを20発ほど打ち込んだ。

 司令官は水魔法を相殺しながら体を躱そうとしたが、躱しきれずに3発ほどの炎魔法を受けて衝撃で体が傾いだところへ私が右上段から剣を打ち下ろして両断した。

 司令官が倒れるときに右の親指を立てて拳を握るのを見て、私は誰からかの励ましを確かに受け取った。


(シューバに移されたアスリーさんの幽体は闘争心と自制心だけだとフォースちゃんは言っていた。)

 私はサクルクに置いてきたフォースの言葉やマーモちゃんたちのことを思い出しながら、今のシューバの行動について考えた。

 マーモちゃんたちは幽体からそれぞれ一部分だけを切り取られてフェアリィデビルに移植されたけれど、曲がりなりにも1体の生命体として生きていられるのは、ゴダルグさんの説明では、フェアリィデビルの幽体を加工して幽体を移植できるようにしているかららしい。

 だとすれば、シューバ本体にもフェアリィデビルと同じように幽体を動かすための基本システムのような幽体が必要なはずだ。

 シューバはシューダから改良されて生まれた植物だけれど、もしシューダが元からいまのような植物だったとすれば、今頃は生態系に壊滅的な影響が出ているはずだ。

 シューダが今のような植物でなかったとすれば、何がシューダ誕生の引き金になったのか。

 もしや、誰かがシューダ本体を改造して新たな植物として作り出したのではないか。ならば、シューダやシューバが幽体の一部を移植すれば動作するという機能は、どうやって生まれたのか。


 私が考え込んでいる先では、力業重視の母様が技巧派の司令官に苦戦して、ティルクとヅィーニを加えた3人で司令官が倒したところだったのだが、司令官と戦いながら何やら考え込んでいたヅィーニが目に入った。

 ヅィーニも私と同じことを考えているのだろうかと近寄ってみると、ヅィーニは私の視線に気付いて話し掛けてきた。

『さっきのシューバだがな、最期、俺に視線を向けて笑ったんだ。』

 呆然としたヅィーニの様子から、シューバを倒した衝撃が伝わってくる。

『あいつは魔法を発動するために、人差し指と薬指を畳んで親指と中指と小指の先端をくっつけた印を使っていたが、あんな古くて使いにくい印を組むのは俺は1人しか知らん。

 あのシューバを操っていたのはジァニで間違いないよ。』

 ヅィーニの言葉を聞いて母様とティルクが集まってきた。


『ジァニがシューダに幽体を奪われたのは、シューバを操る母体となる人格を作るためだろう。

 なら、シューバ本体を捕らえればジァニも取り戻せるというものだ。』

 活気づくヅィーニの言葉を聞きながら、私はューバ本体からアスリーさんやジァニさんの幽体を取り戻すのためにどうすれば良いのかをゴダルグさんとエグリスさんが示していないことを気にしていた。




すみません。

修正途中で当初設定した時間どおりに投稿しました。

後半、少し修正しています。

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