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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第78話 攻防戦(2)

 駆け付けた先には、シューバがうじゃうじゃといて、母様が必死で火魔法を放ってシューバを分断しようとしているが、シューバに個体差があることが却って敵の動きを読みにくくしていて、武力と魔法が予想しないところから飛んで来て母様を苦しめているようだ。

 そうか、母様は金魔法があるから、まるきりという訳ではないけれど、防御系の魔法をほとんど持っていないから、雷や火魔法の上位魔法である炎魔法が得意なのか。

 私たちの中で一番の攻撃力を持つのは母様だ。その母様の攻撃を充分に生かすにはどうしたら良いか、それを考えて私は取り敢えず防御魔法に徹することにした。

 母様の前に魔法障壁を設置して防御し、みんなにオーモードでそれぞれの意思を伝えながら攻撃の息を合わせる。

 だんだんとシューバの攻撃にも慣れてきて、シューバの放つレーザーのような水魔法も最初のうちは収納空間を展開して送り込む大がかりな対応をするしかなかったが、火魔法に指向性を持たせて瞬間的に吹き付けて水を蒸発させるやり方を試して成功させてからは脅威ではなくなった。

 そして、圧倒的な魔法量による防御力と眷属の総意によって底上げされた超越した力を以て敵の攻撃を防御し、()なし、(かわ)し、そして利用する──母様を中心に置いた私たちの反撃が通り始めた。


 母様を攻めてくるシューバたちに向かって私とティルクが攻め上がる幻影を投射してシューバの注意を分散させ、それでも母様に向かって放ってきた魔法攻撃のうち水魔法3つを私が蒸発させるついでに土魔法と火魔法を10ほど追加して返してシューバ1体の腕をもぎ取る。

 その間に母様は火魔法で相手の身体を発火させて3体のシューバを直に燃え上がらせ、負傷した4体の止めを差しに掛かり、それを阻止しようとしたシューバに私とティルクとヅィーニが母様の前に魔法障壁を築いて妨害し、母様がそれを蹴散らして攻撃を分散させて私たちに送る。

 私は敵の魔法攻撃に返す火魔法に追加してシューバに土弾を撃ち込み、シューバの懐に飛び込んで私が居合いで両断するのと平行して同じ幻影を各シューバに送って浮立たせ、順に4体のシューバを処理していく。

 ティルクは相手の攻撃してきた剣を躱しざま懐に飛び込んで首を()ね、あるいは相手の剣の束をこちらの剣の柄で引っかけて引き体勢を崩したところにヅィーニが塩弾を撃ち込み、衝撃で動きが止まったところを風魔法で切り裂く。


 私がオートモードに習熟するに従って、私たちはだんだんと互いの意識を汲み取って戦いを組み立てていくようになった。

 母様と私とティルクとヅィーニが、私が伝えるシューバの意図を受け取り目の前の情報を伝え、それぞれどうするかを選択しお互いの選択を知って選択の重複や穴の発生を防ぐ調整をしてシューバに戦いを挑んでいく。

 その私たちの意識が有機的に繋がった攻撃にシューバは圧倒され始め、14体のシューバを討ち果たした。


 これで半分、残り半分のシューバは──

 残りのシューバに意識を移した私は、残りのシューバが動きを止めて目立った活動を何もしていないのに気が付いた。

 何をしているのかを確認するために盛り上げた壁のところまで行って覗いてみて、シューバがじっと佇んでいるのを見つけた。

 シューバは佇んで腰から管を伸ばしてシューバツリーと呼んだ根に接続しているようだった。

 何をしているのかオートモードで意識を読もうとして、意識を繋げた瞬間、シューバたちが会話をしている相手が御座所にいるシューバ本体であることがわかってどうしようかと迷ったけれど、こちらはオートモードでシューバたちの意識を呼んでいるだけでシューバツリーにアクセスしている訳ではないことに気が付いて、情報収集を続けることにした。


 各シューバはシューバ本体と接続してそれぞれの情報を報告して、シューバ本体から指示を受けて役割を分担している。

 シューバは全員がシューバ本体と繋がっている訳ではなく、一番内側にいたシューバとその外にいたシューバがシューバ本体から指示を受けているようで、外側2列のシューバは単なる兵隊、内側から二番目のシューバは指揮官補佐で一番内側のシューバがそれぞれ指揮系統のトップにいるらしい。

 なるほど、一番外側のシューバと次のシューバが1単位として行動するから3の倍数で来ていた訳ねと納得したが、よく考えてみれば4列のシューバの数は15体で1チームのはずなのに、先ほどのグループとここにいるグループは14体ずつなので勘定が合わない。

 残り2体は、と周囲の気配を改めて注意深く探っていると、地下にそれらしき気配があって、壁のところから入って地下に掘り進めて私たちの真下に潜伏しようとしているらしい。

 遠くの気配を探ると40から50体が迫っていて、彼らが近づくまでを今いる14体が繋いで新たな戦力への対応に手を取られている虚を突いて、地下から2体が攻撃することを計画しているらしいことが分かった。


 実際問題として、先ほどの14体を倒すだけで限界に近く、それをもう14体倒すのは、限界まで能力を要求されそうだと思っていた。

 そこへ追加で50体が加わり、さらに予期せぬ方向からの奇襲を目論んでいる──奇襲は今のうちに場所を変えて避ければ良いだけだが、総勢70体近くを4人で相手取るのは無理だ。

 どうしたら良いかと尚もシューバの情報を探っていると、不意に強い視線を感じた。

 強烈な悪意を放ちながら愉快そうにこちらを()め付ける相手は、シューバ本体だった。

『うあははは。そうか、3人のうち2人はあいつの妻と息子の嫁か。

 これは楽しみだ。』

『……私たちが魔王の妻だから、何。』

 本当は私は嫁と違うし、と全力で主張したかったが、シューバ本体が”あいつ”と言うのが、母様の夫のザカールさんだと見当がつく以上、こいつが誰かを探るのが最優先、自分のことは後できっちり抗議することにする。

『勇者は魔王とその取り巻きを退治するのが任務だ。

 この身体では魔王妃を抱いて浄化する訳に行かないのが残念だが、なに、甚振(いたぶ)るのは同じことだ。

 盛大に、そして徹底的に楽しませてもらおうぞ。』

 シューバ本体が哄笑して私に投げつけてきた言葉の厭らしさに思わずぞわりとして、そんなことは、絶対にさせない、その言葉を後悔させてやるわ、とだけ言い捨てて、私は直ちにオートモードの対象からシューバを外した。


(シューバ本体が勇者を名乗っているということは、ザカールさんを不意打ちした前勇者がシューバ本体の主導権を握っていて、そいつは依然として勇者の立場に拘って前魔王のザカールさんを敵視しているってことね。

 そんな奴にアスリーさんの幽体が囚われて良いように使われている。

 アスリーさんの幽体は大丈夫なの? )

 湧き上がる疑問の前半に答えてくれたのは母様だった。

『あれはザカールを襲った前勇者のコールズだ。あいつ、ザカールと共に谷に落ちて死んだと思っていたのに、少なくとも幽体の一部は生き伸びていたんだね。ゴキブリ並みに生き汚ないことだ。』

 母様が吐き捨てるように言う言葉には、強い憎しみが込められていた。

『でも、直接ザカールや私たちが受けた損失に仇を討てるチャンスが巡ってきたんだ。存分に返させてもらうよ。』

 母様の言葉に励まされる。

 方法はまだ分からないけれど、絶対に負けてなんかやるもんか。


『ちょっと良いか。』

 ヅィーニが声を掛けて来た。控えめなヅィーニがこの急場に自分から発言するなんて珍しいと思って耳を澄ます。

『強さと技がアスリーさんのもので間違いないんなら、シューバ本体にはあいつ自体の強さが加算されていないことになる。

 恐らくあいつも幽体の一部しかシューバに移されていないんじゃないか。

 で、そうだとすれば、あの男の悪意の固まりのような意識と、皆から聞く潔癖なアスリーさんの意識とは同じ勇者であっても折り合わないはずだ。

 たぶん、それを調和させるために他にも幽体が囚われている。

 ここからは俺の希望混じり与太話だが、身体を自在に操作するために異質な思考の持ち主も受け容れられる懐の深い幽体が必要なら、俺の妻のジァニは打って付けだ。

 もし、ジァニがあいつの幽体にいたら、俺がジァニに働き掛けて目にものを見せてやれるかもしれん。』

『ああ、期待しておくよ。』

 母様がヅィーニに労るように声を掛け、ティルクが口を尖らせる。

『ちぇ、私だけ蚊帳の外なのが何か悔しいー。

 でも、狙いの中に入っていないってことは、自由に動けるってことですよね。

 私も母様と姉様とヅィーニのために、そしてセラムとの明るい将来のために、頑張りますから、絶対に勝ちましょうねっ。』

 ティルクの励ましも受けて、この絶望的な状況でどうすれば勝てるのかを私たちは必死で考え始めた。



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