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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第75話 撤退戦

少し短いです。

 御座所の調査が進んで、でも、これと言って有利な情報を得ることも、不利な情報を得ることも、役に立たない情報を得ることすらなかった。

 ただ日を重ねる成果のない日が続いて、ミシュルも疲労困憊の態で唇を噛むゴダルグさんとエグリスさんを見つめていた。

「何も情報が得られないと、力業で1体ずつシューバを引き剥がせるようにシューバを分散させる方法を考えて、本体を効果的に撃破する方法を試すしかないわ。

 もう少しシューダを倒すための情報が得られることを期待したんだけど、残念だけれど、無駄足だったわね。」

 溜め息とともに俺たちにそう言うと、ミシュルはこれ以上の調査を諦めた。


 母様とミッシュはギャジャさんと合流しながら今後、どの様な作戦とするかを相談し始めていて、ティルクと俺は顔を見合わせながら相談に加わる。

「滞在することにメリットがないのなら、一度撤収して、今後の対策を考えるわ。

 みんな、帰る準備を開始して。午後には出発するわよ。」

 母様の結論に各自頷いて、多くもない荷物を整理しながら昼食の準備をする。

 昼食後には全員で撤収を開始した。


 黙々と行進し、幾重にも重なったシューバの攻撃範囲をすり抜けて帰るはずだったが、100メートルほど離れたところで異常が起こった、

 初め、パリン、という小さな音が聞こえただけだったが、それから数秒して魔道具の杖が斜めに真っ二つに裂けた。

 静かだった森に風がぴぅと鳴り渡ると、周囲に魔力を削り取るような殺気が満ち始める。

「走って!! 」

 母様の号令と同時に全員が全力で走り始めた。


 シューバに囲まれる前に駆け抜けなければ──

 けれど粗い息を吐きながら駆けるアスモダグループが遅れ始めて、向こうから一体のシューバがやってくるのが見える。

 ヒスムさんが人間形態を解いて白蛇の姿でアスモダグループの右隣について、ザルグバルさんと視線を交わすが、ヒスムさんではシューバに敵わないだろうことが見て取れた。

 ヒスムさんとシューバが交差する前に、風魔法で俺が割り込んで、シューバに突き刺さるように蹴り込むと、ずぐっ、とものすごく高濃度に巻いたキャベツをどこか思わせる手応えがあって、シューバの腕がわずかに抉れた。

「早く逃げて! 」

 俺はアスモダグループに声を掛けて、眷属の総意を発動してシューバと初めて対峙した。


 シューバは人の呼吸など待たずに体勢を整えたときにはすでに眼前に迫っていて、流れで出した俺の剣とシューバの剣が打ち付け合ったと思った瞬間、シューバは剣の刃を斜めにして剣が打ち合う衝撃を殺し、俺の剣の刃にスライドさせながら距離を詰めると柄頭を打ち込んできた。

 予想していなかった巧妙な剣技を必死で躱して剣を突き上げて外しながら次打が来る前にシューバの前方に土魔法で弾丸を数発打ち込みながら胴を薙ごうと前に出たらシューバに大きく距離を取って退られた。

(手強い。アスリーさんの技だよね、剣技、体術共に抜群に戦い慣れてる。)

 俺を追ってきて後でシューバの隙を窺っているティルクでは敵わないだろう。

「ティルク、逃げて! 」

 俺はティルクに逃げるように指示すると、ティルクは一瞬躊躇したけれど、姉様、負けないで!、と声を残してギャジャさんたちを追った。


 ティルクのことに気を取られた一瞬、シューバは距離を詰めて上段から剣を振り下ろしてきているのに対応しようとして、俺の注意力の全てがシューバに向いていた訳ではなかったしっぺ返しが来た。

 シューバは上段に俺の注意力を引きつけて、下方向からシューバの細い根の先端を尖らせ、根が視線から点になるように死角を作って貫いて来た。

 眼窩(がんか)を貫かれ脳に達した瞬間、俺が回復できたのは、突き込まれた根が細すぎてたまたま脳の重要な場所の間を縫って突き抜けた偶然と、ヒスムさんとシューダの間に割り込んだときから予備的に光魔法と神聖魔法を立ち上げる準備をしていた幸運でしかなかった。

 やられた瞬間に闇魔法と光魔法で回復し、防がれた上段の剣を返して突き込んでくる追撃に再び腹を割かれ再び回復しながら、首元へ入り込むことができた剣でシューバの首を薙ぐ。

 膝立ちになって内臓の修復をしている視線の先には、ミッシュを目掛けて走ってくる3体のシューバの姿が見えていた。 


(くそっ! 強い! )

 相手を甘く見ていた自分を叱りながら怪我を治して立ち上がり、母様が迎撃に向かうのを見ながら駆け出す。

「ミッシュ、逃げて! ティルクはギャジャさんたちを護って! 」

 シューバがミッシュを狙う理由は、ミッシュが元神だと言っていたことに関係しているだろう。

 そして、敵に勝つためには、手段を尽くして立ち向かうミッシュを失うわけにいかないのだという確信が湧き上がった。


 ミッシュは俺の方を見て躊躇しながら、ミッシュは襲ってくるシューバたちを躱すだけで反撃しようとしていない。

 ──”俺は人間のする行為に対して直接介入したり、扇動するといった人に影響を与える行為ができず、契約した人間のためになるサポートしか許されていない。”

 ティルクがテルガで話していた言葉が思い出される。あれは以前話していたとおりに、ミッシュが現世の争いに直接介入できないために、襲われていても反撃ができないのだろう。

「ミッシュ、行って! 私たちは後から行くから!」

 それから口元を吊り上げて付け加える。

「もし私たちがやられたら、悪いけど、新しい反撃をお願い!

 この戦いには、絶対に勝つんだからね!! 」

 ミッシュはぐふ、と唸って走り出した。

「男のセイラなら、やられる仮定はしないぞ! サクルクで待ってる!! 」

 届いたミッシュの台詞に、(もっと)もだ、と俺は思いながらミッシュを追おうとしているシューバに向かって走り、土魔法で作った砲弾を打ち込んだ。


 ミッシュの遠ざかる後ろ姿を見詰めながら俺たちも後を追う。

 先頭のシューバは母様が一撃の下に胴体を両断して、首を()ねている。

「こいつら、植物ベースだからか、痛みを感じていない!

 頭を潰さないと動きが止まらないよっ!! 」

 母様の忠告を聞きながら俺が右のシューバに向かい、ティルクが左のシューバに向かう。

 ティルク1人で大丈夫かと視線をやると、ヅィーニが補助にティルクの後ろに付いていて、ヒスムはアスモダグループを補助しながら逃げていて、現状、たぶんこれが一番正解に近い判断だ。


 俺は向かってくるシューバに土の弾丸を撃ち込みながら風魔法で自分の体を横から突く。強制的に身体の位置をずらしてシューバの予測を外しながら左脚をずいと開いて体を沈めてシューバの体を両断してそのまま倒れ込んで脳を貫く。

 ビクビクと痙攣するシューバの反撃がないことを確かめると、俺はティルクの戦いの結果を確認した。

 ティルクは、ヅィーニが塩水を球状の弾にしてショットガンのようにばら撒いてシューバの動きを制限して、その先をティルクが土の弾丸で更に制限し、窮屈な反撃をしてくるシューバを討ち取るところだった。


「さあ、次が来ないうちにさっさと逃げるよっ! 」

 母様が周りを確認しながら俺たちに声を掛けてきて、俺たちは母様に続いて走り出す。

 後からはシューバが追いかけてくる気配が続々と感じられて、どこまで追いかけてくるつもりがあるのか分からないが、シューダが移動をしないで活動範囲を広げているところを見ると、本体との距離の制限があると思われる。

 俺たちはその距離が短いことに賭けて本体との距離を開け続けるしかないのが現状。

 御座所からの撤退戦が始まった。 



少しずつ投稿間隔は詰めていく予定(気持ち)ですが、年末と業務量増加が( ;-_-)

できるだけ頑張ります。

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