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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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閑話:姫様親衛隊、迷走する

前話でテュールが、シューバ討伐に行くと言っていますが、テュールはシューダ討伐にしか参加しません。

次のとおり直しましたので、ご了承願います。

修正前:「儂も討伐には小さい方から参加させてもらうんだ。」

修正後:「儂も討伐の大きい方には参加させてもらうんだ。」

「おいっ、聞いたか!

 ゲイズが舞姫さんに結婚を申し込んだらしいぞっ! 」

「「「「「「何だとーっ!!! ゲイズのヤロウ、ぶっ殺すっ!!!! 」」」」」」

 姫様親衛隊たちが一斉に沸騰して騒ぎ出す。


 俺たちが”姫様親衛隊”と酔った勢いで付けてしまったパーティ名は1から5までの5つがあり、ゲイズは5番目のパーティリーダーだった。

 それがアスモダとガルテム王国の連携を取るための人手が足りないからと引き抜かれて、冒険者は休業状態になっている。

 俺たちがサクルクで缶詰になっている間に抜け駆けをしていやがったのか、と姫様親衛隊の冒険者たちは騒いでいたが、実際はセイラと一緒に居たのはむしろ自分たちであり、冒険者たちが動けない間に抜け駆けをするような時間もほとんどなかった。

 要はゲイズが自分で考えてセイラに想いを伝えて2度に(わた)ってデートに連れ出すことに成功したあげくに玉砕(ぎょくさい)した、ただそれだけだ。


 だが、ゲイズが自分の思いをはっきりと伝えたという事実は、他の冒険者たちを打ちのめした。

「俺たちは姫様親衛隊なんて恥ずかしいパーティ名を付けたところが、戦姫さんと舞姫さんの功績が大きいためにむしろ納得して受け容れられていい気になっていた。

 それだけじゃねえ、親衛隊と名乗ることで自分たちが姫さんたちに手を出しちゃいけない気分に勝手になって、舞姫さんや舞小姫さんに告白する勇気がないことを誤魔化していたんだ。」

 キューダが問題を提起すると、皆黙って下を向いた。 

「俺たちは自分たちの存在意義と姫さんたちへの態度を曖昧にしたまま、仮に付けられた魔王妃の称号の前に萎縮しちまってたんだ。

 おいっ、このままで良いのか、俺たちは今考えないといけねえ。

 ほら、セルジュさんが教えてくれただろ。

 俺たちは田舎の下層民だ。功績を挙げて、一度だけ()(はや)されて取り立てられても、身の振り方を覚えていないと結局はずるずると右肩下りになって、気が付いたら破産して下層民に逆戻りだ。

 何ごともさ、なし崩しにしちゃいけないんだよ。」


 何だか理屈が噛み合っていない気もするが、言いたいことは伝わった。

 音楽の繋がりがあったとはいえ、自分の想いをセイラに打つけて前に進もうとしたゲイズが凄いんであって、俺たちが情けなかった。

 自分は、俺の愛する姫さんへの気持ちを偽って何をやっているんだろうか。

 ケイアナへの表に出せない思いを抱えている2人を除いて、残りの姫様親衛隊18人と落雷の(とどろき)きの2人を加えた20人は、このままで終われないとの思いを強くした。

 ただ、闘姫ミシュルに関してはすぐに決着が付いた。

 従来からミシュルが使い魔の化身であることを冒険者たちは知っていたのだが、冒険者たちの考えをサーチしていたミッシュがそれぞれに先手を打って、使い魔の自分は雄なので嫌だと告げたことと、ミシュルとして使っているのは女神リーアの神使なので手を出せば神罰が下ります、と言われれば諦めるしかなかった。


 これで、残り18人のうちセイラ推しの13人、ティルク推しの5人が残ったのだが、なぜかゲイズの後に続いて今行かないともう告白は無理、というテンションになって、セイラたち2人に我先にプロポーズをしかける雰囲気になってしまった。


◇◆◇◆


 まず動いたのは、ヴァルスだった。

 彼は女性と交際した経験もないのに恋愛に関するふんわりとした理想を持っていて、女性にプロポーズをするのなら、ムードが大事だから夜に雰囲気のあるところで告白するのが良いと信じていたし、その後は女性に自分の誠意を信じてもらえるように良い笑顔を一度見せたらあとは押しの一手だと考えた。

(まず、会うのならばムードのある場所がいい。セイラさんを呼び出して、というのはハードルが高いから、セイラさんが落ち着ける場所に1人でいるときを狙おう。

 告白はそれとなく予告して、相手が話題を認識したら間髪を入れずに最大の笑顔で告白をして、あれこれ考える間を置かずに返事をもらうのがベストだろう。

 そして、有望そうな様子があったら迷わずに押し切る、よし、これだ。)

 アプローチの考え方としては間違っていないのかもしれないが、ヴァルスには致命的なまでに女性経験が欠けていたし、やらかし体質は健在だった。


 夕食が終わり各自部屋に戻って湯浴みも済み、早い者は就寝し始める頃、ティルクが王太后様のところへ相談に行っている隙を(うかが)って、ヴァルスはセイラの部屋を訪れて、ノックもせずにドアを開けると寝間着のセイラに声を掛けた。

「夜更けに済みません。相談したいことがあるんですが、少しお時間を頂けませんか。」

「え? こんな時間にいきなり、どんな急用でしょうか。」

 ヴァルスにいきなりドアを開けられて面食らいながら寝間着を隠すためにさりげなく1枚羽織り、よほどの急用でもないなら、こんな時間に来るんじゃないわよ、との抗議をやんわりとオブラートに包んだセイラだったが、ヴァルスには届かなかった。


「とても大事な話があるんです。」

 ヴァルスは部屋に入ると内鍵を掛け、いきなりになって申し訳ありません、と一応断ってセイラの前に立った。

「素敵な夜ですね。私たちが新しい関係を築くにはふさわしい夜だ。」 

 口早にぼそぼそと言うとセイラに近寄って、重ね着をしたガウンに掛けていた手を握って、引こうとするも無視してセイラの目を見ながら至近距離でにっかりと、額に何本も皺を浮き上がらせ半眼で無理矢理に口角を引き上げた引き攣った笑顔とともに愛の言葉を口にする。

「セイラさん、愛しています。俺の妻になってください。」

 セイラが奇想天外な表情で言われた言葉にびっくりして、え?、と聞き返す声を上げると、

「OKですか、そうですか! 」

言うが早いかセイラを抱きしめて、抵抗を始めた腕を腋の下に抱え込んで密着すると、胴と尻に掴んでセイラをずりずりと後退らせながら後ろにあるベッドへと運んでいく。

 そのままセイラをベッドへと倒れ込ませて、ヴァルスはベッドからはみ出たセイラの両脚の間に潜り込んだ体を前へと送って体を近づけると、セイラの頭を一撫でして、キスをしようと首を伸ばし顔を近づけたところでこめかみに衝撃を受けて、ヴァルスは記憶を失った。


 土魔法で作った弾を風魔法で弱く当て、失神したヴァルスの下から苦労して這い出したセイラは、一体全体どうして、と考えて、ゲイズの先日の行動が冒険者たちに何らかの刺激になった可能性に思い至った。

 ヴァルスの行動がやっちゃった方向に迷惑なのは、もはやこの男のステータスだ。

 憤然(ふんぜん)として部屋を出てキューダの部屋の前まで行くと、ダンダンとドアを叩いて(ねむ)り始めていたキューダを叩き起こした。

「勝手に部屋に入って来て、私をベッドに押し倒そうとしたヴァルスを今すぐ引き取って! 」

 セイラの怒りの声を聞いて周囲の部屋からまるで待機でもしていたように冒険者たちが飛び出してきて、セイラと共にセイラの部屋に直行し、ベッドでうつ伏せになって気を失っているヴァルスを発見した。


 冒険者たちがヴァルスの両脚を掴むと容赦なく引っ張ってリビングまで戻ってきた頃には、騒動を聞いたセルジュとゲイズが飛んで来ていた。

 セルジュとゲイズが立ち会う前で、冒険者たちは皆一様に額に青筋を立ててヴァルスを睨んでいて、ゲイズは少し話題の方向を考えて躊躇っているようだったが、セイラはお構いなしにキューダに宣言する。

「ヴァルスさんがどんな噂を聞いてこんな行動に出たのかは知りませんが、私はみんなの誰と深い関係になるつもりももないし、特定の感情は持っていません!

 キューダさん、ティルクや他の人に対することも含めて、これを限りにするように指示を徹底してください。

 いいですね。」

 告白を試みる前に冒険者全員がバッサリと切られてしまった状況に、キューダはまず取りなしてその宣言自体をなかったことにしたかったが、怒り心頭に発しているセイラの目を見る勇気もなく、はい、と頭を垂れて受け容れるしかなかった。

 偶々(たまたま)だが、同時刻に母様の部屋から帰る途中のティルクを狙った、これまたヴァルスのパーティの魔法使いチュアルがティルクに告白をして、私には心に決めた人がいるから、と返されて(くずお)れたのが唯一の例外となった。


◇◆◇◆


 ヴァルスは体中の痛みで意識を取り戻した。

 先ほどセイラに首尾(しゅび)良く結婚の約束を取り付けて幸せの絶頂にいたのに、なぜ自分はこんなに体中が痛いんだろう、と周囲を見ると、向こうに鉄格子が見えて、その向こうで椅子に座っていた兵士がヴァルスが起きたのを見て走って出て行った。

 何が起こったのかと待っていると、セルジュ、ゲイズとキューダがやって来て地下牢の中に入ってきて、猛烈な殺気を放ち始めた。

「え? 何で俺、皆に殺されそうになってるの? 」

「「「セイラさんを力尽くで押し倒そうとして、何でと言うかっ! 」」」

 俺は舞姫さんに結婚の了解をもらった、と主張するヴァルスを小突きながら事情を聴取してセイラの言ったことと突き合わせをして、ヴァルスの供述から事実を確認するまでに丸1日が経過し、政務を放り出して取り調べに手を割いていたゲイズは溜め息を吐きながらキューダに問うた。

「こいつ、魔王妃様を汚そうとした罪で死罪で良いんじゃないかな。」


 同意するキューダたちに蒼白な顔で土下座を繰り返したヴァルスが許されたのは、後から差し入れられたセイラの口利きによる。

「ああいうことをしても認識していないのがヴァルスさんだから、仕方ないです。

 その代わり、ヴァルスさんには今後半径10メートル以内に近寄ることを禁止します。」

 地下牢から解放されたヴァルスが、告白する機会を奪われた16人の冒険者たちから怪我をする端から回復されながら、冒険者たちの気が済むまで袋叩きに遭うのは、その30分後のことだった。



今話、読者の方々が引いてないことを祈ります。

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