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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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閑話:アイザルは雌伏し、今はただ牙を研ぐ

見直しが甘くて、表現のおかしいところが後から気になりましたので、修正しています。

「アイザル、もうレベル3,000をとっくに超えてレベルの壁を超えつつあるのに、相変わらずテルガとテルモの間で旅人を助けてばかりだわね。

 ね、もうセイラさんのことは忘れて良いんじゃない? 」

 ジュアナは最近機嫌が良い。


 アイザルはこの間まで、セイラさん、セイラさんと、口にすると話題はそればかりだったのが、最近はジュアナの方を見てジュアナの父で王太后様の弟でもあるジアールの様子などに関心を持つようになってきた。

 訓練の旅に出て、最初から根性だけは認めざるを得なかったが体力は普通の人に毛が生えた程度で、これをアスモダに付くまでにレベル3,000を超えさせろという無茶なリクエストを父のジアールからぶん投げられて、ジュアナはブチ切れそうになりながら護衛と指導を続けた。

 ジュアナも15歳の若さでS級冒険者になっただけはあって忍耐心は非情に強く、不満を抑えてアイザルの指導を行い、体力不足からぼろ切れのようになりながらも瞳の光を(かげ)らせることなく頑張るアイザルに内心舌を巻いていた。


「ふん、少しは頑張るじゃない。」

 最初のテストでジュアナが褒めたつもりで掛けた言葉に、アイザルは満面の笑みを湛えてジュアナに説明をした。

「セイラさんが通った道です。体力がなくて1日に何度も回復の手数を掛けているのは申し訳ないが、男の俺が弱音を吐く訳にはいかないんです。」

 何だ、女絡みなのか、とジュアナが(いら)りとしたのは、テストで意外な男っぷりを見せられて気を許そうとした相手だったからなのか、それ以来、ジュアナはアイザルからセイラという名前を聞く度にイライラと落ち着かない思いをしていた。


 それでもアイザルはジュアナの回復で怪我だけは治してもらいながら日々鍛錬に取り組んできたお陰でようやくレベル2,000に近づき、テルガの町からテルモに移動しようとしていたときだった。

 かなりの大物と思われる魔物と複数の人の気配にアイザルとジュアナは緊張の度合いを高め、まだ人の気配に切羽詰まったものがないのを確認して、人が襲われる前にと魔物の前に躍り出て、魔物が人々のすぐ後にいるのを見て魔物に襲いかかった。

 ジュアナとアイザルは両側から魔物へと仕掛け、防御するだけの魔物に、これなら何とかなると2人で手分けして、属性の反する水と火の上位魔法である炎の魔法を同時に発動したのだが、魔物は両方に対して土魔法の楯を作って防御し、更なる攻撃に備えて身を縮めて防御の構えを取ったところで脇にいた旅人が声を上げた。

「わーっ、待ってくれ、冒険者さんっ!

 俺たちはこの魔物に護ってもらってるんだっ! 」


 タイダルと名乗った中年の魔人族の男に止められて、ジュアナは魔物に相当な実力があるはずなのに防御に専念して反撃の様子がなかったことを思い出して戦闘を止め、魔物が戦闘態勢を解いたことを確認した後に戦闘態勢を解除した。

 やがて魔物から念話で話かけられ、魔道具による映像を見せられて、魔物がテュールという名でテルガとテルモの間で旅人を護衛していること知り、テュールとジュアナたちは打ち解けていった。

 テュールから見せられた映像の人族が、アイザルが追っているセイラその人であることを知って、魔物に(くみ)して人々を護らせているセイラの行動力と発想の柔軟性にジュアナは驚き関心もしたのだが、アイザルの反応はそれ以上で、テュールに身振り手振りで話し掛け、根負けしたテュールから念話の使い方を教わりながら、セイラに関する情報をテュールから引き出していった。


 アイザルは最初、セイラの話に特定して、テュールからにセイラとの関係や関連する話を洗いざらい聞き出そうとして、ジュアナに、この男は、と猛烈にイライラとさせた。

 アイザルも商人だけあって、セイラのことに話題を限定するのはジュアナがみっともないと反感を持つらしいことに気づき、ジュアナの聞こえるところでセイラの話はしないように気をつけて、テュールとあれこれと情報を交換して過ごした。

 そうするうちにアイザルは、自分たちと遭遇したときにテュールが旅人たちと距離を置いて防御に専念したことに気付き、魔物というだけで人から警戒し討伐対象と見做(みな)される魔物と人が接する難しさと、それでも人に親近感を抱いて旅人を護ろうとしているテュールの心情に感銘を受けて、色々と話し込むようになっていった。


 テュールとアイザルたちが遭遇したその夜、テュールは護衛しているタイダルに強請(ねだ)られてもう一つの魔道具を取り出して、セイラの恋歌と呼ばれるようになる歌を聴かせてくれるのに同席していた。

 セイラの歌声は澄んで優しく、聞いたことのない歌を歌い上げていて、旅人たちに混じってアイザルとジュアナも聞き惚れて、タイダルたちに混じって何度も歌を強請って聞いた。


 セイラの歌について、後にテュールはアイザルだけのときに、歌を聴きながらぽつりと語った。

「セイラはこの世界の人ではなく、他の世界から来た人だ。

 この歌を魔道具に封じてくれるときに、セイラはこの歌はこの世界の歌ではないとを話してくれたよ。

 セイラが余所(よそ)から来た人間ならば、儂と同様にこの世界の人たちのために何かをしてあげねばならない理由はない。

 でも、セイラは、やらないと自分だけでなく多くの人が迷惑しているし、自分がやらなければならないのならついでだからとアスモダで暴れている得体の知れない怪物を討伐していくという。

 大変なことを言っているんだが、気負いもなくて前向きで面白いだろう?

 怪物は小さいのと大きいのがいるようでな、儂も討伐の大きい方には参加させてもらうんだ。」


 グルグルと鳴る喉は、それが愉快で堪らないと言う様子だった。

 アイザルはそうしたセイラとテュールの行動と今後の予定を聞いて、セイラに対する自分の関わり方を改めて考え始めた。

 違う世界から来て、城でメイドをしているセイラに父が出会ったのは、この世界で力を得るための修行をしていたからだったのか?

 そして、王太后様と2人でガルテム王国に起きた侵略に対抗するために王太后様の厳しい修行を受けながら、世界を救うためにセイラは今、必死で足掻(あが)き続けているのか?


(俺はセイラさんに一目惚れをして、自分の妻にすることしか考えていなかった。

 俺は、小さいな。)

 アイザルは世界を救おうと血を吐きながら戦い続けている人の尻を付け狙っている自分の矮小(わいしょう)さが(たま)らなく恥ずかしくなった。

 そして、周りを見回す。


(力を付けよう。

 セイラさんを追い回すのでなくて、セイラさんの助けとなれる自分になろう。)

 アイザルはそう決意し、テルガとテルモの間でレベルの壁を破り、その先でセイラの力となれる方法を模索し始める。


 やがてテュールは約束に従ってセイラの元へと行き、アイザルとジュアナはテュールの願いもあって街道に残って自身の鍛錬を続けながら旅人の保護活動を継続した。

 ジュアナは当初、アイザルが自分が定めた目標レベルにも達しないままテュールに付いてアスモダへと行かなかったことを喜んだが、アイザルの視線がかつてない熱と決意を持ってアスモダの方角を見詰め続けていることに、ジュアナは理由の分からない不安を覚えた。


◇◆◇◆


 アイザルとジュアナによる旅人たちの保護活動はじわじわと人々の知るところとなり、アイザルが困りごとがあればミゼル商会を尋ねるようにと旅人たちに支持していたこともあって、ミゼル商会は通常業務以外のところで大忙しとなったのだが、テルガとテルモの間を行き来する旅人の数は所詮(しょせん)は知れている。

 むしろ商会の副会頭が自ら人々を救護しているとの評判がミゼル商会への人々の信頼を厚くした。


 またミゼル商会は父のミゼルが一代で起こした商会だが、ガルテム王国全土の主要都市と近隣各国に支店を出している。

 各支店には抱えた従業員と運送業務をサポートするために業務内容を限定した期間契約者や護衛、冒険者などが多数いて、薄利多売で業容を拡大してきたために業務を行う者に対する要求は多いが、それを(こな)して急速に業務を拡大させられるだけの手厚い手当が裏付けとして行われている。

 これら従業員等は総数で20,000人余に上り、その忠誠心は厚くミゼル商会に向いていた。


 アイザルは修行の如何によっては、ミゼル商会への信頼を背景に自分が魔王の資格を得るかもしれないことを知りもしなかった。

 今はただ、人々を助けるために汗を掻き、日々の鍛錬に励む日を送り、その牙を研いでいる。




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