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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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閑話:ここはセイラの地獄の一丁目。知らない間に王都で地獄行きになってた

「ダイカル王、首尾良く行って良うございましたな。」

 魔族の拠点の1つを落として城へ戻ると、作戦から戻った私を宰相のゴシアント ジェゴスが迎えて声を掛けてきたので頷く。

 情報としてはカエンチャの領事館から聞いていたが、眷属の総意の効果は恐ろしいほどのものだった。


 眷属の総意が初めて発動したのは魔族討伐への御前会議の最中だった。

 いきなりぶわりとベージュの幻影がグラディエーションを描いてダイカルの周囲に立ち上がり、濃い赤の蔦がベージュに絡みついて、国王の正装を形作ったために議場は騒然となった。

 ダイカルも一瞬あっけにとられたが、ステータス表の称号欄に”真魔王”の称号と関連して現れた項目から、かねてカエンチャの領事館から存在が報告されていた第3の魔王妃の技、”眷属の総意”との関連性に気づき、議場に静粛を求めた。


「静まれ。母上とセイラが失伝していた第3の魔王妃の秘技の復活に成功したのだ。

 見よ! 魔王妃の秘技の復活に伴い、伝説の真魔王の正統な装備である魔王神装と魔王剣もまた復活した!

 只今より我の称号は”真魔王”である! 」

 真魔王とは、魔王月妃と共に魔人族の魔王の中で至高とされる存在であり、国王はその証として真魔王となるとされているのだが、魔人族の統一期に真魔王に至る秘術は失われたと伝説は語り、最後の真魔王とされる人物が存在自体があやふやであることもあって、いまでは政治上の都合で創出された架空の存在だというのが定説となって、真魔王の正装と聖剣とは伝説を模した物が用意されて、公式の席では国王はその正装と聖剣を帯びるのが儀式上の決め事とされていた。

 それが突然に、ダイカルの服装が、かつて真魔王が装備していたと伝えられる正統な戦衣装へと変わり、腰にはこれまた見事な聖剣が現れて、それらは伝説に謳われた真魔王の神装及び宝剣と寸分違わなかった。


 (どよ)めく重臣たちに、ダイカルは眷属の総意とその効果を説いて聞かせ、ダイカルが眷属の総意の力を得てステータス表で知った新たな事実の一部についても明らかにした。

「眷属の総意が発動することで、私はいつでも真魔王の神装を装備し使うことができる。

 魔王神装により我が力は倍加され、その力に眷属の総意による眷属の力が上乗せされる。

 私の現在の強さは6万を超えて、我々の知る生物の中では最強であると断言する! 」


 ダイカルの宣言により会議は異様な興奮が場を満たして中断され、魔王の発言の意味と真実が確認されるに至って、重臣たちは熱狂的に魔王を称え始め、当座の会議は自分たちが知った事実をどう取り扱うかを決めることがまず必要との認識に立ち返り、魔族との戦闘計画は根本から練り直されることになった。

 しかし、戦況の厳しさに苦悩していた重臣たちの表情は一気に明るさを取り戻して、政権の維持と優勢な戦力を持つ相手へのゲリラ戦ではなく、魔族の侵攻拠点への正面切っての反撃計画を練り始めた。


 こうした空気の転換に伴って王太后と暫定的な魔王妃であるセイラの功績が評価され賞賛され始めると、今後もガルテム王国を盛り上げていく推進力となることへの期待から、2人に対する圧倒的な支持が高まりつつあったのだが、ダイカルの指示によりアスモダへその事実が伝えられることはなかった。


◇◆◇◆


 ダイカルは魔王神装を重臣たちに公開すると同時に、魔王妃の伝説的な装備の装着に関する事実を意図的に公表しないよう措置した。

 その理由は、眷属の総意が発動した際にダイカルがステータス表で発見した項目にある。

 ステータス表には、名前、種族、称号の順に能力が記載されるが、その下に新たに装備の項目が現れ、こう記載されていた。

 魔王神装及び魔王剣ヴィガールの所有者 ダイカル ガルテム

 魔王妃月装及び魔王妃杖メザルバの所有者 ▶指名してください


 ▶の項目に触れるとケイアナとセイラの2人の名前が現れ、選択した魔王妃には自分と同様に、魔王妃月装と魔王妃杖が装備されることになっているのだろう。

 だが、装備の指名を一度行ってしまえば、当該魔王妃の存命中は変更できないだろうことに、ダイカルには確信があった。


 本来、魔王妃の称号と共にその装備を受けるべき相手はアスリーである。

 だが、アスリーは魔族の陰謀によって(さら)われ、女神リーアが関与するありうべからざる間違いによってセイラが魔王妃となり、ダイカルを真魔王へと導いた。

 その逸話を聞けば、国民たちはこぞってセイラが魔王妃となることを支持するだろう。

 それに、これからのアスリーを取り戻すためためのシューバとの戦い、さらには世界を守るためのシューダとの戦いのためにこそ、真魔王妃の装備は必要とされるのではないか──

 その戦いを制して凱旋した暁には、アスリーもまたセイラを正統な魔王妃として認めて第一王妃に推すだろうことに、ダイカルはまた確信があった。

 

 さらにはもう一方の問題として、ダイカルがセイラをどう説き伏せようと試みても、セイラは本来の男性に戻ることを切望して、ダイカルとの結婚に納得しないだろうことにも同じく確信があった。

 またそれ以前に、アスリーが幽体を取り戻せば、その時点でセイラには宿るべき肉体がない。

 セイラの使い魔であるミッシュがどこからか手に入れた女神リーアの神使を仮の体として利用できることはカエンチャ経由で聞いてはいる。だが女神の神聖なる使いの体を妻として戴くことは無理だと、領事館を通じて当のミッシュから注意を受けている。

 ならば代わりの体を用意するかという話になるが、幽体のない体というものは自然な環境下では生じること自体が稀な代物で、意図的に幽体を抜いてそういう体を作れないものではないが、セイラは他人を犠牲に作られた体に幽体を移そうとはしないだろう。

 このために、セイラがダイカルの求愛を受け容れることは事実上不可能となっている。

 

 現状、自分が正統な魔王妃として迎え入れようとしたアスリーへの支持が失われつつあり、世間がセイラを魔王妃として歓迎する方向に事態が向かっている。  

 もしダイカルがセイラを魔王妃に迎えなければ、すでに婚約関係にあると公表しているセイラを、アスリーが戻ってきたためにダイカルが遠ざけていると国民から見られる可能性が高く、ダイカルが功績あるセイラを不当に扱う愚王と国民から見られる流れになれば、どの様な事態がありうるかが、ダイカルが一番懸念していることだった。


 魔王とは通常は国王のことを指しているが、実は魔王の名称はレベルを超える者が一定数の支持者を得ることで称号を得ることのできる魔人族固有の魔法で、いつの時代にも魔王の称号を持つ複数の者が存在しているのが事実だった。

 そのため、ダイカルへの信望が薄れたとすれば隠れた魔王たちが新たな国王候補として現れて国は乱れ、魔族と戦争状態にある現状では、ガルテム王国の存続自体が危ぶまれる可能性すらある。


 セイラに自分の妻となることをどうやって受け容れさせるか──

 ダイカルはそのことに深く悩んでいた。 


◇◆◇◆

 

 ダイカルが真魔王となったことで、魔族との戦いの状況は、急激に改善した。

 これまで、魔族討伐はガルテム王国軍から選抜されたごく一握りと上級冒険者の一部とが協力して極秘に行われてきた。

 魔族たちにとっては環境が整うまで自分たちの侵略を世界に知られたくなかった事情もあるし、魔人族としても、正面切って戦えば正直、国の戦力の3割程度の損失で済めば大成功といえるほど個々の戦力差がある上に、ダイカルが精神攻撃を受けている事実を明らかにして、国内外の動揺を招きたくなかった事情もある。

 だが、ダイカルが真魔王となった際に魔王の防御力が嵩上げされ、魔族からの干渉が大幅に軽減され、最高戦力であるダイカルの戦力が衝撃的に増加したことで魔人族側の事情が大幅に改善された。


 これにより魔族は個々の戦力の優位に頼った作戦の展開が困難になり、魔人族から虱潰しの掃討戦を受けて、戦力を大幅に減少させるに至った。

 このため、魔族は正式な開戦に備えて温存していた、アルザの実で幽体に干渉して手駒とした各地域の魔人族の有力者を使い始めた。

 幽体の干渉を受けていた大半は貴族の当主で、魔族の攻撃は当主命令による反乱として行われたため、ガルテム王国はこれまでの事情を国民に開示して反乱を起こした当主に従わなければ罪に問わないことを宣言して事態の収束を図り、徐々に効果を現しつつあった。

 そして、国民は王太后ケイアナと魔王妃セイラのアスモダへの討伐行による業績の大きさと快挙を知って、広く熱狂的な支持が集まり始めた。



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