第14話 イジメの真実……ああ、問題点はそこ
今日も誤字報告を頂きました。それも2件。
大概読み直したつもりなんですけど、たくさんの目で見たら間違いがあるということですね。
ありがとうございます。
「セイラ、大変だったわね。」
外套を持って俺を留置所へ迎えに来てくれたティムニアが、衛兵の立ち会う中でにこりと笑う。
受渡所隣の部屋を調べに来た衛兵は、寝間着で突っ立っている俺の身柄をまず拘束し、半裸で気絶している資材受渡所の担当者と出入り商人を見つけてこれも拘束した。
そして現場に被害をもたらした犯人と思しき俺を取り調べ始め、深夜に王家のお偉いさんに伝言を伝えることは拒否された。
伝言依頼の他に一切の説明を拒否した俺は留置所で一晩を明かすことになったのだが、その人達を逃したら厳罰があるわよ、という俺の言葉を気にして、捕まえた男女も留め置いてくれた。
一夜が明けて、サファでもいいから、と王家の使用人に妙に詳しい俺に、もしかしたら、と衛兵の1人が王家へと伝言を伝えてくれて、ティムニアが飛んできてくれたのだった。
「ティムニアさん、ありがとうございます。実は一緒に捕まった2人が結婚式の夜にアスリー様がお使いの品に何かしたらしいんです。」
俺が昨夜の男女の会話の概略を伝えると、国王様に上奏するので絶対に2人を逃がさないように、と衛兵に頼んで、俺と一緒に急いで王家へと戻った。
王家では、ちょうど朝食を摂っているところだった。俺はカーテシーで、お食事中失礼します、と挨拶して、昨日の2人の会話内容を説明した。
「入浴後のオイルか。アスリーの体に香油を塗ったのはライラか? 」
「いえ、大事な日のお体でしたので、私とライラの2人でお塗りしました。」
ティムニアが魔王に答える。
「あれからもう一月以上が経つ。あのときの香油はもう残っていないだろうな。」
「はい。毎日、使った残りは廃棄しますから。」
俺、そんな贅沢してたのか。毎日塗ってもらっていた香油の価値を想像して思わず鳥肌が立つ。
「それならば、まずは2人の尋問だな。これは私が城の方で命じる。
それから、香油と魔法に詳しい者を探して呼んでくれ。これは城でやると騒ぎが大きくなるのでこちらで手配してくれ。いいな。」
ホーガーデンがお辞儀をするのに満足して、魔王がこちらを振り向いた。
「セイラ、まずはありがとう。アスリーが掠われた件で城内からは何も情報が得られていなかったが、これでとっかかりができたかもしれない。助かったよ。」
魔王は温和な顔でそう礼を言ってくれたのだが、次の瞬間に鬼の形相へと変わった。
「で、なぜ夜中に下着姿で城内を彷徨いていたか説明してもらおうか。
俺の大事なアスリーの体に何かあったらどうしてくれる! 」
(うわー、面倒くせえ。)
だがここで釈明を放り投げる訳にも行かないので、深呼吸して説明を始める。
「まず下着姿ではないです。室内着なので大手を振って城内を彷徨ける姿ではないのは事実で、外套くらいを着ておけば万全だったのは認めますが、人を無節操な変態みたいに言わないでください。」
外套を取って可愛いピンク基調の花柄の寝間着を見せ、抗議し始めた魔王の言葉を遮る。
「事情はこれから説明しますから、いちいち絡むのは止めてください。
昨晩、ミッシュと会話が通じるようになって、アスリーさんがどこへ掠われたか分からないことを聞き、アスリーさんが戻るまでこの体からMPの1割をもらう期間限定の契約を結ぶことを提案されました。
私が人気の無い場所を探していたのは、私の”強さ”とHPを上げられて私の代理で魔法を使ってくれるミッシュと契約をするためです。
昨夜2人を捕らえられたのは、ミッシュと契約した際の衝撃波で2人が気絶したからで、多少衣装に不備があったとしても、自由時間の少ないメイドが目立つ魔法契約を結ぶにはあの時間を使うしか無かったんです。
アスリーさんの体を保持することの大切さを思えば、私の行動の意味、分かってくださいますよね。」
俺が一気に説明すると、魔王は黙り込んで俺を見詰めていた。
「セイラ。あなた、短い間に随分と物言いがしっかりとして、少し雰囲気が変わったわね。」
お母様が目を細めてこちらを見る。
「お母様、我が儘を言ってごめんなさい。
でも、私がオートモードに頼っている限り、自分に自信を持ってきちんと物事に対処することができないと思ったんです。
ミッシュと契約もできて、”強さ”が上がるようになりましたから、帰ったらまた教えてくださいね。」
俺がにっこりと笑うとお母様は微笑んで、それからわざとと分かる動作で悪そうな笑顔を作り、手ぐすね引いて待ってるから、と囁いて、俺は背筋にゾクゾクと悪寒が走った。
「分かった。調べた結果はあとで誰かを遣って知らせる。ご苦労だった。」
魔王にそう労われて、俺は王家の食堂を後にして帰ろうとして、あ、ご飯、少しでも分けてもらえば良かった、と気が付いたのだが、そこはさすが俺の専属メイドのライラがお皿に取り分けた簡単な食事と、城詰めとは色違いの王家付きのメイド服を持って待っていてくれた。
さすが。ライラ、愛してる。
……えっと、女の子同士の社交辞令だから、引かないでくれる?
◇◆◇◆
城付きのメイド詰め所に戻って、アイシアさんに事情を説明しようとしたら、すごく険しい顔で睨まれた。
「今朝、ライラさんがサファという子を連れて来て、あなたがちょっとトラブルで遅くなるから、戻るまでの間この子を代わりに使ってくださいって、置いていったわよ。
王家付きのナンバー3が直々に来て代わりの子を置いていくなんて、セイラ、あなた何者なの。」
ライラ、ナンバー3だったのか。
まあ、魔王とお母様とジャガル君と俺とにそれぞれ専属メイドが付いてるんだから、ティムニアとでいずれにしろトップ5は間違いないのか。
ちょっとライラに恐縮しながら、アイシアさんには、そんな大事じゃなかったんです、成り行きで帰るのが遅くなってしまって、王太后様がお相手だったから、これはダメだと思って手配してくれたのでは……としどろもどろで説明したら、行っていいわよ、と許してくれた。
部屋に戻る途中でノーメに会ったが、こちらの黒いメイド服を見るなり自分の茶色とグレーの混じったトープのメイド服とを見比べて、
「え、セイラ、出世した? 来てわずか数日で追い抜かれて王家付きになっちゃった? 」
とショックで呆然としていたので、
「違うよ。昨夜急に呼ばれて寝間着だったから、戻って着替えるまでの間、貸してもらっただけだよ。」
と教えたら、良かった、とへなへなと座り込まれてしまった。
それほどのショックですか、と心のどこかがチクチク痛む気がするのはなぜだろう。
受渡所でメイド服の支給と引き換えに王家付きのメイド服の返還をお願いして、受け持ちの部屋に行ったら、サファが部屋の清掃に大車輪で活躍していた。
ありがとう、と言って洗濯物を受け取ろうとするが、50台の”強さ”では持つことができない。結局、洗い場まで付いてきてもらって洗濯を手伝ってもらってから、帰ってくれることになった。
なので、ついでにちょっと部屋の前で見張ってもらって、ミッシュに魔力を供給するために簡易魔法陣を使ってみる。
昨夜の契約の魔法陣みたいにすごい効果があるようなら何か対策を考えなくちゃいけないから、味方がいる間に確認しなきゃ。
結果、目に見える効果は何も起きなかった。ただ、体から魔力が抜け出ていく感じがするだけ。拍子抜けだった。
それからは洗濯物を運んで洗濯をし、洗濯の途中で周りに人がいないのを確認してから、昨夜ミッシュと契約して、”強さ”を上げられるようになったと説明したら、自分のことのように喜んでくれた。
さすが王家付きの娘は気立てがいいや、と感心した。
◇◆◇◆
昼からは、普通の日常業務に戻ってメイドのお仕事をこなして、昨夜からのことなどすっかり忘れていたら、夕食後にこの間睨まれた女の子達にずらりと取り囲まれた。数が増えて今日は10人以上いる。
あ、ヤバい、と思って回りを見渡したのだが、相手は場所とタイミングを慎重に選んでいたのだろう、他に人影が見当たらない。
わあ困ったな、と思っていたら、尖った声でこの間の娘が声を掛けてくる。
「1人で王宮へ行ったの? 」
王宮? 王宮なんて言葉、誰も使わないけど。
「答えて! あなたが今朝、近衛のメイド服を着てたって、見た子がいるのよ! 王宮へ行って、国王陛下にもおめもじしたんでしょ!! 」
近衛のメイド? なんか言葉がおかしい。
「ええ。王家の食堂で、少しだけ拝謁してお言葉を掛けていただいたわ。」
何だか相手のテンションがおかしい気がするが、王家付きのメイド服を着ていたのは事実なので、少し抑え気味に話す。
それを聞いて、俺に話し掛けてきた女の子だけでなく周りの子も一緒になって、真っ赤な顔でブルブルと震えてこちらを睨んでいる。
うわー、何を言われるんだろう。
警戒しているところへ、女の子達が集団で近寄って来た。恐い。
「ねえ! 王宮の中のこと、教えて! それに国王陛下がどんなことをしてらしたか、細大漏らさず教えて!! 」
「は? 」
「私達、国王陛下のファンなの! ねえ、国王陛下がどんなに凜々しくてキラキラしておられたか、全部教えてちょうだい! 」
あー。確かに魔王はイケメンだが、凜々しくてキラキラ……。よく分かんない。
だが俺は女の子達に引き摺られるようにして彼女達のたまり場へと連行され、同じ話を10回ほどもさせられた。
「そうじゃないでしょ。そこは国王陛下がにっこりと微笑まれたら口元から白い歯がキラキラと煌めいて、匂い立つような爽やかな空気が広がって、でしょ。はい、やり直し。」
しかも彼女達は妄想の挿入に余念が無い。
イジメられてる気がすごくするが、いわゆるイジメではなかったようだ。
例えるなら、派閥…これも派閥か?
いずれにしても、今後、俺が最も注意しなければならない集団と遭遇したのは確かなようだった。




