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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第70話 ギャジャさん、通報しますよ?

「それで、シューバの御座所までの中間地点の見晴らしの良い場所の側に、部下たちが中継所の設置に着手しました。」

 ギャジャさんが、シューバの居る場所─ゴダルグさんのいう御座所─に調査に行くまでの準備の状況を説明してくれる。

 ここいら辺の手配は、ギャジャさんの手勢がアスモダ国内での国軍の活動なので、任せきり、というより迂闊(うかつ)に手を出すと、他国の国軍の目の前で他国内を好き勝手に軍事行動をしていることになるので、ごく控えめに言って、失礼に当たる。


 俺がジァニを使うようになった翌日、ゴダルグさんの精査が済んで、やはり残っていた闇魔法によるゴダルグさんの意識に介入するためのバックドアはミッシュが除去し、合同会議にゴダルグさんも参加して、事実確認とシューバの実態確認遠征計画の詰めが行われた。

 ギャジャさんは、魔族の生き残りがいたことと必ずしも魔族が自らの意思で侵略を行っていないことを知り、驚くと共にゴダルグさんに対する信用と取扱いは母様たちの判断を受け容れて、仲間として今後の対策の相談を始めたようだった。


 俺たちも魔道具を使ったシューバの実態確認遠征には参加するので、当然のことながら会議には連日参加して、およそ片道5日かかる御座所までの中間地点に簡素な中継所を作り、魔獣や魔物に対する防御をしながら食事や物資の貯蔵を行うことにしたのだった。


 出陣メンバーはアスモダ側からギャジャさん、ダジッタさん、ザルグバルさんの3人、ガルテム王国から母様と俺とティルクの3人、魔物からミッシュとヅィーニとヒスムの3頭が参加することになり、これに研究者として魔族のゴダルグさんとエルフのエグリスさんが参加する。

 魔物ではミッシュは黒猫、ヅィーニはカワウソの姿のままだが、白蛇のヒスムさんは身長が6メートルと長くて魔道具の有効範囲から簡単にはみ出してしまうこともあって、ミッシュの収納空間から頭部だけを出して移動することになった。

 そして、魔道具だが、直径6メートルの範囲に人間8人と魔物3体は多すぎると、ミッシュが出力上昇の調整をしてくれて、直径10メートルが安全エリアとなった。


 参加メンバーはこの安全エリアから絶対に外れないように気をつけながら、シューバの御座所まで行き、ミッシュが所長が設置した鍵を解除して御座所に侵入できないかを探り、ゴダルグさんとエグリスさんがシューバに囚われたアスリーさんの幽体を解除する手掛かりがないかを探すことになっている。

 フォースたちアスリーさんの残りの幽体が入っているフェアリィデビルたちは、もちろん一緒に来たがったのだけれど、今回は危険度を含めた調査だからと言うことで納得してもらった。


 その日の会議の後、ミッシュが魔道具の調整をしているときに、ちょうど良い機会だと疑問に思っていたことを聞いてみた。

「ミッシュ。なんで女性型の神使が2体あることを黙ってたの? 」

『女性型の神使は一体しか持っていなかったよ。

 だが、この間、男性型の神使をセイラに使わせるために出掛けただろう?

 あのとき、セイラの男性の意識を回復させるには、俺が放棄した神力の一部を回収して神使に回す魔力を増加させる必要があると考えて、近くに放棄した神力の捨て場まで回収に出掛けていたんだ。

 その途中に女神リーアの別の祠があってな、魔物との意思交換やセイラが女型の神使に移動した後の俺の意思疎通に必要かと思って、追加で一体を借り受けてきたんだよ。』

 女性型の神使が2体ある件をミッシュに聞いたところ、重い口を開いて、憮然とした口調で返事が返ってきた。

 全て俺のためにわざわざやってくれていたのか。

 ご面倒をお掛けしました。


◇◆◇◆


 シューバ討伐の本体の計画も進んでいる。

 こちらは、御座所への直接侵入が無理との前提で、俺と母様がシューバの分身を相手して、空いたスペースからアスモダ軍とガルテム王国軍がシューバツリーを切断してシューバのネットワークを順次縮小していく計画になっていて、必要な物資などの準備が行われていた。

 特にギャジャさんは、ここでシューダ対策の取っ掛かりが見つかると期待して、大変な熱の入れようだった。


「セイラさん。あなたたちの眷属の総意がシューダに効かないとしたら、どんな戦い方が有効だと思いますか。」

 眷属の総意の力を体感してから、ギャジャさんからは十分すぎる敬意を持って接してもらっている。敬意だよね、と疑うときがあるくらいに。

 仮にもガルテム王国の王妃予定者にアスモダの王子が横恋慕を通したなんてことになったら戦争になるから、ないと信じているけれど。


「そうですね。シューダが、私たちが想定しているとおりに眷属の総意が効かないとしたら、素の戦闘力で母様はシューダの半分、私たちで3分の1の戦力差になりますけれど、一体でそれです。

 もしシューダが数百体、数千体居るのならば、戦闘で勝つというのは難しいでしょう、世界の全戦力が必要になります。」

 苦しげな表情のギャジャさんは、もちろんそのことを知っている。

「だから、魔物たちが教えてくれた知恵が必要です。その知恵をどれだけ私たちが現実にできるか、その勝負になります。

 シューバ討伐で是非ともその糸口を見つけられるように、周囲をよく観察しながら対処してゆきたいと思います。」

 相手が王子様なので、すこしだけ気遣った物言いが気取った感じになって堅苦しい。もう少し打ち解けられれば楽なんだけど、それは今度の遠征の課題になるだろう。


 ──と思っていたのだけれど。

「セイラさん、実は折り入ってお願いがあるのですが。」

 ギャジャさんの顔が、緊張で若干赤い。

(うぇっ、せっかくゲイズさんのことが終わって、私はまだちょっと心が痛いんだから、面倒ごとは止めてよっ。)

 ゲイズさんの事があってから、男女関係の話になるとやっぱり”俺”では心が付いていかなくなって、”私”を使っていることに気が付いたのは、つい先日だ。 

 何の面倒事よ、と内心構えていたら、ギャジャさんから申し入れがあったのは、魔物たちとの交流だった。


「先日もお話ししたのですが、私たち獣人は、祖先の一端である魔獣や魔物、それも力のある存在と平和裡に接触して交流ができるというのは一種の憧れなんです。

 セイラさんはミッシュやテュールを初めとして多くの魔物と交流しておられる。彼らと会議の畏まった場ではなくて、もっと砕けた場で交流できるように取り計らって頂けないでしょうか。」

 ああ、そんな話。ギャジャさんが俺への接し方が妙に圧が強いのって、そのせいなの?

 ややこしい関係を求められるんじゃなくて良かったと、俺は2つ返事で魔物たちと砕けた交流の場が持てるよう打診してみると約束したのだけど、彼の要望はちょっと困ったところにも話が流れてきた。


「それでっ、最近、城の側の池にカワウソのジァニという魔物が居ますよねっ。

 ガルテム王国の女性の皆さんがやっておられるように、ぜひ私もジァニを撫でてみたいんですが、どうでしょう。」

 え。いや、それは嫌です。

 威城のメイドの彼女たちやライラやサファやエグリスたちだから触らせているのであって、男に体を触らせたことは一度もない。

 だって、魔物だとはいえ、一応、女の子なのだ。

 男にいろいろ丸見えで触らせるって、あり得ないから。


 そんなことを考えていたものだから、眉間に皺が寄っていたらしい。

 ギャジャさんから、やはり無理でしょうか、と恐々と聞いてきた。

「……そうですね。ジァニは無理だと思います。

 今度、ヅィーニが来たときに、撫でさせてもらえるかどうかを訊いておくということでどうでしょうか。」

 俺の反応で無理かと諦めかけていたギャジャさんは、俺の返事にぱあっと顔を明るくした。

 ……ヅィーニ、許して。奥さんの体を守るためだし、愛想を売って人間を油断させるのは大事なことって言っていたヅィーニなら分かって犠牲になってくれるよね。

 という訳で、ヅィーニに押しつけることにした。


 シューバ御座所への遠征まで予定ではあと1週間。

 準備は急ピッチで進められていた。



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