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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第67話 <砂嵐>現在、受信できません。 いや放送して大丈夫です(大汗

 まずは普通に、ティルクに俺から魔力を吸い取って戦ってもらう。

 ティルクが俺の魔力を使って俺から魔力が減っても、元々俺の場合は魔力が桁違いに多いといわれている人の4、5倍の魔力があるのでほとんど影響がない。

 アスリーさんがアトルガイア王国でその圧倒的な魔法の素質で勇者候補として注目されたのは正にこの魔力量のためだ。

 そして、アスリーさんの資質のうちの魔力だけしか見なかったアトルガイア王国は、アスリーさんが高い知性と意志力で、勇者がアトルガイア王国の言う英雄などではなく暗殺者に過ぎないことを看破して魔王に投降したのが、俺にとっての全ての初まりな訳だけれど。


「ティルク、まずは魔王の加護から試してみよう。

 抵抗は一切しないから、俺を攻撃してみて。」

 ティルクの視線がすっと冷たくなって、構えてから間合いを詰めてくる様子に、あ、居合いだ、と思ったときにはもう袈裟懸(けさが)けに斬りつけられていた。

 いつものように、俺からはぶわりと白いグラディエーションに黒い花柄が立ち上がって、男が花背負(しょ)ってどうする、と思った瞬間、たなびく自分のスカートまでが見えてしまって諦める。

 自分の女装姿を想定しながら、それがティルクからどう見えているのかが気になるが、ティルクは俺の様子を見て口を押さえて小さく笑った。

 嫌な予感が押し寄せてきて、ねえ、俺、今どんな格好なの?、と聞くと、いつもの姉様ですよ、と闇魔法の幻影で俺の姿を見せてくれた。


 ティルクへ魔法を供給したら女の姿になってしまう面倒さと、何とか誤魔化さなきゃという厄介さを半々に感じながら、ティルクの方はどうだった、と聞くと、瞬間的でよく分からないけど、やっぱりレベル表示が消えた気がする、ということだったので、次は眷属の総意を発動してみる。

「ぶふっ! 姉様、それっ。ケホケホケホゲホッ! 」

 いつもの演出直後にティルクが盛大に吹き出して突っ伏した。

 ティルクが咳が止まらない様子なのを心配しながら、俺も目に入ってきた映像に動きが止まる。

 女性の胸はないのに胸がぶよ付いて、その下に突き出した腹が邪魔をしてその下が見えない。

 この姿、第三者からどう見えてるのか、確認したくないなー。


 ようやく落ち着いたティルクが闇魔法で見せてくれたのは、頭頂禿げに無精髭のぽっちゃりと腹の突き出たおっさんの女装姿で、これが俺の姿なのかと泣きそうになったが、本当の自分じゃないとの確信にわずかに救われる感じだ。

 ……正直に言えば、俺は将来、もしかしてこのおっさんに転移するのかという疑念が(よぎ)って、それなら女のままで良いと思ったことは否定しない。


『セイラ、どうなった? 』

 やっぱり遠くからこちらをモニターしていたらしいミッシュから連絡があって、ぶつくさと抗議しながら状況を説明すると、しばらくした後にミッシュから回答があった。

『ペンダントの魔法より魔王妃の魔法の方が強いから、ペンダント側が発動時に辻褄合わせをしようとして暴走しているんだろう。』

 そう答えた後に、それくらいで済んで良かったと呟くの、止めてくれないかな。

『そのペンダントなら俺が調整できる。

 ティルクへの魔力の出力調整で対応できると思うので、後で詳しく説明してやる。』

 そうミッシュが言うのを聞いて、おかしくなることを知ってたんなら、なぜ最初から対応しなかったのか疑問だったので聞いてみた。

『あー、すまん。ティルクに言われるまであの魔道具が影響することに気付かなかった。』

 ──こいつ、長生きしすぎて呆けてきてるんじゃないだろうな。

『能力が落ちてるだけだ。呆けてなんかないぞ──たぶん。』

 ”たぶん”って言った!

『こういう冗談が言えるようになるまで、俺がどれくらい時間が掛かったと思う? 』

 俺が衝撃を受けていると、ミッシュの笑い声が響いた。


◇◆◇◆


 一段落付いてお昼を()ることにして、ティルクと見晴らしの良い丘に敷物を敷いて座る。

 なだらかに下がる斜面は葉の落ちた灌木がまばらに生え、その向こうに枝のみとなった森が広がっていて、寒々しい山の光景となったが、青い空との対比が素晴らしい。

 ティルクが取り出したサンドウィッチとスープは、朝食に比べるまでもない力作で、うん、認める、ティルクはこういう丁寧な処理で雑味を取り除くのは俺より上手だ。


「ねえ、セイラさん、1つお願いがあるんだけど。」

 ティルクが改まってお願いをしてくる。

 何だろうとつい身構えていると、ティルクがついと下を向いて笑みを(こぼ)して覗き込んでくる瞳は、緊張させちゃったか、と笑っているのが分かる。

「あのね、セイラさんが女のときは姉様、男の時はセイラさんと呼んでいるけれど、セイラという名前を呼ぶと他の人の耳があるでしょう?

 だから、何か良い呼び方はないかと思って、それを相談したかったの。」

 なるほど。男の俺をティルクが”セイラ”と呼べば、他の人はなんだと思うだろうね。


「最初はね、姉様の名前の最後にそれとなく”ン”をつけて、姉様を”セイラン”と呼ぼうかと考えたんだけどね、男のセイラさんの呼び方が変わらないんだったら一緒だと気が付いて、男の名前の方を違う呼び方をした方が良いのかなって。」

 いつの間にか側に距離を詰めたティルクが覗き込むようにして顔を寄せてくる。

 うんー、んー。ティルクは今日もあざといくらいに可愛い。

 逆上(のぼ)せそうな頭を一生懸命に落ち着かせて、相槌を打つ。

「うん、そうだね── 」

 使っていない呼び方と言えば姓のアシタバがあるけど、親密な呼び方を求められて姓を呼ばせるって、(かえ)って距離を作ってるみたいで気が引ける。


 ティルクは女の俺をセイランと呼ぼうとしたって言ったな。

 じゃあ、セイラム…いや、いっそセラムくらいが元が分かりにくくて良いかな。

 ティルクにそう伝えると、ティルクは、本当の名前と違うけれど、良いの?、と聞いてくる。

「2人だけの間で使う名前なら、良いんじゃないかな。」

 そう答えてから、ティルクに教えた名前は、今は2人だけの秘密の呼び名なんだと気が付いてどきりとした。

 ティルクはそれを意識しているか分からないが、そう、なら、と言ってから、少し前に出てきて手を前で少しもじもじと組みながら、上目遣いに笑みを溢して俺に告げる。

「セラム。……大好き。」

 ティルクの声を聞いて、俺は頭が沸騰してしまって、その後どうしたのかよく覚えていない。

 ……一線は越えなかったとは、言い切れる、たぶん。


◇◆◇◆


 ああ、危なかった。

 姉さ、いえ、セラムがあそこでいきなり壊れるとは予想してなかった。


 セイラさんとの距離を詰めるにはどうしたら良いか、一生懸命に考えて、まず、男と女の意識の違う姉様の呼び方が難しいのに気が付いた。

 セイラさんと呼べば皆が姉様を探して振り返るし、常に姉様の側にいる私は印象に残るはずだ。

 男と女で姉様の呼び方を分けられないかと考えているうちに、もし男の姉様の呼び方を2人で決めたら、それは私だけが知る姉様の男の名前になると気が付いた。

 姉様は男のときも女のときも私のことはティルクと呼ぶ。

 もし姉様が私に男の姉様の名前を教えてくれたら、そのときは姉様に告白をしよう。

 そして、姉様が受け容れてくれたら、私も姉様の名前を呼び捨てて、恋人がするようにお互いの名を呼び捨てあって過ごそう、そう決めた。


「セラム。……大好き。」

 そう告白した途端に、姉様、いえセラムは一気に頭に血が上って何も言えなくなって私を抱きしめた。

 セラム?、びっくりしてそう問うた私にセラムは荒々しくキスをしてきて、口を離してまたキスをして、そしてまたキスをして……

 抱きしめられたまま分からないほどのキスをされて、この先のことを考えて、”一線を越えちゃダメ”という声が聞こえて、心の中で母様にごめんなさいと謝ったけれど、セラムはそれ以上のことはしてこなかった。

 2人して抱き合ったままずるずると座り込んで、セラムはふうふうと荒い息をしてぶるぶると震えながら、ずっと私を抱いていた。


 随分時間が経って、セラムはゆっくりと体を離してごめんと私に謝って、体を離した。

 口には、微かに甘い他人の唾液の名残を感じて、熱を持った若い男の人の体臭が空気に混ざり残っているのが、私にはすごく愛おしく感じられた。

「セラム。」

 呼ぶとセラムが振り返って照れ笑いをする。

 それが凄く頼りたい可愛らしさで……

 母様、私、いずれ悪い娘になるかもしれません。



放送しても大丈夫でしたよね?

(^◇^;)

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