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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第64話 人と魔物の合同会議は、有史以来たぶん初めて(ミッシュ談)


「人族の皆様には初めてご挨拶する顔ぶればかりなので、私からご紹介します。」

 アスモダ軍、ガルテム王国臨時組織軍に魔物勢が揃ってようやく会議が開催されることとなって、ガルテム王国と魔物に馴染みのあるミシュルが司会役を買って出て、魔物を紹介していく。

「まず、私はアスリー様の使い魔のミッシュの使う人形の1つでミシュルといい、今は一時的にセイラ様とティルク様の使い魔も兼ねています。」

 ミシュルが側に寝そべる黒猫型のミッシュを紹介しながら挨拶をするが、のっけからミシュルの自己紹介している内容の理解が難しい。

 俺に対する”様”付けなんか初めて聞くし。

 そして、消化不良を起こしたアスモダの面々が怪訝な表情で俺とティルクを見詰めるので、仕方なく俺が補足説明をする。


「ミッシュは本来はアスリーさんの使い魔なのですが、アスリーさんはこれまで未知だった方法で魔族に幽体が(さら)われました。

 ミッシュはアスリーさんを取り戻すために、同じ目的の私とティルクに一時的に力を貸してくれているんです。」

 ほお、と私たち元からのメンバー以外から感嘆の声が漏れる。

「私の足りないところを説明して頂いて、ありがとうございます。

 それで、テュールから獣人国アスモダには人と協力できる魔物が多いことをお聞きになったセイラ様は、私にこのエリアの魔物と連絡を取るようにお命じになられました。」

 ギャジャ王子を初めとしたアスモダからの面々の瞳に俺への尊敬の念が浮かぶのを見て、俺はミシュルの側に座っている黒猫の姿のミッシュを(にら)むが、ミッシュは知らん顔をしている。

 こいつは、と俺が睨むのもお構いなしにミッシュは、くぁ、と口を開けてあくびのついでにこちらに向ける瞳は、くそ、絶対に面白がってる。


 アスモダを代表するギャジャ王子は、本当なら母様やセルジュさんと話をすべきだと思うんだけど、ミッシュのせいでほら、俺に聞いてきた。

「失礼ながら、本来はガルテム王婚約者セイラ様とお呼びすべきなのでしょうが、軍の作戦中はそのような呼び方はできませんので、簡略な称号として魔王妃セイラ様とお呼びして差し支えないものか、称号についてもお教え願いたい。

 それから、善獣テュールについてですが、セイラ様はテュールをいつ従えられたのですか。」

 称号については、母様も俺もこの行動中は称号抜きで”さん”付けで通していることを俺から説明し、差し支えなければ行動中はそれで通してもらうようにお願いして、アスモダからの参加者たちが視線を交わして即座に了承された。

「次にテュールですが、ギャジャさん、私はテュールを従えてなどはいません。

 テルモの町から避難者を送り届ける途中で出会って、仲良くなっただけなんです。」


 ギャジャ王子は一瞬、たぶん”さん”付けされたことに驚き、それから、なるほど、と(つぶや)いて、改めてミシュルに会議を続けるように促した。

「ヅィーニはセイラさんとティルクさんが見つけた魔物で、水魔法が得意です。

 それから、ヒスムはテュールが連れてきた魔物で、シューバの現れた森林近くから逃げずに留まって、シューバを調べてくれていました。」

 直径30センチ近く、とぐろを巻いているので長さはよく分からないけれど5メートル以上は確実にありそうな白蛇が前に進み出てきて、わずかに頭部を下げるのに、皆少し引いていた。


「念話で大勢とやりとりをするのは大変ですので、一時的にこの体をヒスムに貸しますので、どうぞ話をなさってください。」

 ミシュルの言葉が終わるとともにミシュルの体が前のめりになって肘をついて体を支えていたが、ついと体を起こすと、人格が変わっているのが分かった。

 肘から先はテーブルについたまま体を起こているのだが、上半身の(たたず)まいが妙になだらかで、目がほ乳類のものではない輝きを放ち、下あごが突き出て()めつけられているような感じがするのは、蛇としての行動スタイルが反映されているからだろう。


「初めまして、私はヒスムです。

 人間の体を使うのは初めてですので、失礼があればご勘弁を。」

 ヒスムの声はミシュルと同じはずなのにやや(かす)れて聞こえ、視線を合わせたときに首を伸ばして頭だけがしなやかに角度を変えてこちらを見る様子がそのまま蛇だった。

 皆が息を呑んで見つめる中、ヒスムはシューバの説明を始めた。


「ご存じのとおり、シューバの本体は植物で、魔族たちが本尊と呼ぶ施設を中心に地下茎で勢力範囲を広げ、勢力範囲の限界近くの地面に皆さんがシューバと呼んでいる人型の果実──人の育てる野菜でいうとカボチャの実に相当すると思います──を育てます。

 その果実が実ると独自に動いて周囲の生き物と戦って生存領域を広げて、勢力範囲にある地上の全てのものを養分に替えて広がっているんです。」

 シューバはカボチャの実、というヒスムの説明に、俺はなんて迷惑な実なんだと思った。  


「でも、シューバには一般的な植物とは大きく違う点がいくつもあります。

 まず、シューバは独立して動き出した後も、地下(けい)に尻尾のようなものを刺して元の植物と栄養や強さや情報のやりとりしていて、本体との繋がりが切れていないみたいなんです。

 シューバは動くにつれて萎れてくると尾を地面に伸ばして4,5時間は動かなくなって、再び動き出したときには表皮の破損や皺がなくなって艶々(つやつや)として、しかも強さが上がっています。

 この辺の表現は、ミッシュと相談していて、ミッシュがセイラさんの知識を汲み取って説明を整理してくれました。

 地下茎や尻尾なんかは、セイラさんが呼びやすい名前を命名してくれるだろうとミシュ…ミッシュが言っていました。」

(ミッシュ、俺の記憶を読んだな。)


 内心で溜め息を吐きながら、命名する名前を考える。

「地下茎は栄養や情報を遣り取りする施設だからケーブル、尻尾はケーブルに刺して栄養や情報を遣り取りするんだからジャックだけど…うーん、ソケットの方が言いやすいかしら。

 それから栄養や強さの遣り取りはアップデート、と言うところかしらね。」

 命名した名前を概念と一緒に説明していくと、皆から納得の反応が返ってきた。


「特筆すべきはシューバの強さと数です。

 シューバのレベルは私が見たことのない領域にありますが、その、アップデートで完全に強さが(なら)される訳ではないのでしょう、推測ですが弱い個体でレベル7,000、強い個体で恐らく1万はあると思います。

 私が見た先週の時点では、シューバは約100体ほどで周りの魔獣たちを襲っていました。」

 レベル1万が100体!

 その数に皆が息を呑んだ。

 アスモダ軍200人とガルテム王国臨時組織軍100人の陣容では明らかに手に負えない、というか手に余る。

 ──だから、眷属の総意なのか。

 眷属の総意があれば、母様と俺で一度に戦うシューバの数を制限さえできればなんとか対抗できる。

 でも──

 シューバを討伐したとして、シューダはもっと強くて、しかも眷属の総意が効かないかもしれない。

 俺はこれからの道行きに目眩(めまい)を覚えた。


「しかし、シューバに欠点がない訳ではありません。  

 まず、ケーブルに接続できないシューバは6時間くらいで動けなくなる。

 それから、魔族が持っていた魔道具は、シューバに襲われずに本尊のところまでいけるはずですので、上手くすればシューバと戦わなくて済むかもしれないし、魔道具の数を増やすことができればシューバと戦わなくてならなかったとしても優位に立てるかも知れない。

 そして、何より──」

 言葉を切って、言い淀んでいるヒスムのところへミッシュが行き、ヒスム(ミシュルの体)に触れて励ますように、ナオ、と鳴いた。


「確証は皆様にしてもらう必要があるのですが、シューバの本体の方は、塩分に弱い可能性があります。」

 ──確かに、植物なら塩分には弱い可能性があるだろう。

 でも、この場でそうだと話す根拠は何だろう。

 俺たちはヒスムの更なる説明を待った。


「私が住処としていた近くに土に含まれる塩分の多い土地があるんです。

 私や付近の魔獣たちはミネラルを補給するために、定期的にそこで塩分を取っていたんですが、そこは土壌の脆い崖に囲まれるような地形になっているために、私と数種の魔獣がシューバ3体に襲われたときには逃げ道がありませんでした。

 私たちは崖下に集まってシューバが来たらせめても抵抗をしようと待ち構えていたんですが、彼らは攻めてこないので、マリンバという猿の魔獣が焦れてシューバに泥を投げつけたんですが、一度泥を被ってからは攻めてこようとせずに撤退していきました。

 シューバがいなくなって私たちも避難して、その時はそれだけだったんですが、しばらくして崖上からそこを見たら、その辺りだけシューバが避けて勢力範囲にしていないんです。

 シューバは塩分が苦手なんじゃないか、なら、ケーブルなんかは塩分で撤去できるかもしれません。

 もしケーブルが撤去できたら、新たなシューバの実が成る前にシューバの勢力範囲を削ることができるかもしれないんです。」



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