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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第63話 嫌な予感はしたけど、やっぱりやるんですね。それっ、シャララーン☆

 眷属の総意の効果はすぐに正式にガルテム王国の臨時組織軍に披露された。

 ──魔王の加護が立ち上がったときの効果が魔法少女みたいで恥ずかしかったと、ついぽろりと口にしてしまって、それはどういうことかと母様に突っ込まれて、説明する羽目になったのだけれど。

 子供向けのお話に魔法が使える少女たちが活躍するものがあって、変身シーンが見せ場であることを説明し、頼まれてそれらしいシーンを闇魔法の幻影で母様に伝えると、母様がすぐさまそれに食いついて、眷属の総意の効果をゴブリン族や鬼人族に披露するときに使うと決められてしまった。

 要はまだ眷属になっていない彼らを勧誘するために、闇魔法を使った幻想に光魔法を使った変身の効果音と色とりどりの光玉の効果を演出して、眷属の総意が発動したときの特別感を華やかな効果で上乗せして魔王妃への忠誠心を加速させようという、少し卑怯な作戦だ。


 集められ整列させられた臨時組織軍が何事かと見守る前で母様と2人で並んで立ち、

「「眷属の総意、固定!! 」」

と叫んでエフェクトを発動させる。

 シュワララーッ、とそれっぼい効果音が響く中、白と赤の光が広がって黒い花模様がシュルシュルと体に巻き付いてドレスを形成し、剣も淡い色を放って握りに控えめだが目立つ飾りの付いた姿に変化する様子は本当に魔法少女のようで、50人以上もの大きなお友達(?)が見詰める前で変身シーンを披露しながら、俺はいったいどこにたどり着いてしまったのかと考えると涙が(こぼ)れそうで、恥ずかしさでまぶたの下がぴりぴりと火照って痛い。


 変身シーンは地球では主に子供向けの受けを狙ってのものだが、しかしそういうショーに縁のないこの世界ではこの他愛のない演出が兵士志願者たちに効いた。

 眷属の総意が使えるようになってから、眷属になった人は体の輪郭に赤い線を引いたように濃い陰影ができるのですぐに分かるようになったのだが、この変身によってもたらされた力を披露すると、自分たちと隔絶した力を見たゴブリン族や鬼人族の人たちの、魔人族の血統を証明する濃いめの陰影がパパパパッと軒並み赤く染まっていき、レベル表示は一気に3万を超えた。


 ああ、もう!

 この湧き上がる力を誰か何とかして!

 殴るなり吹き飛ばすなり、力をぶつける相手が欲しくて、このままシューバのところまで飛んでいって戦いたい衝動をぐっと(こら)える。


 実は今日にもアスモダからギャジャ王子が援軍を率いて到着する予定になっていて、情報の公平性を期して欲しいとかいうよく分からない要請に基づいて、カワウソのヅィーニは白蛇のヒスムを連れてきたまま、ビアルヌの郊外のどこかで待機させられている。


 ヒスムはシューバが置かれた場所の近所に住んでいた魔物で、シューダのことを聞いていたヒスムは当初から距離を取ってシューバがどの様な魔物であるかを観察してきていて、シューバの状況と対策を説明してくれることになっている。

 シューバがどれくらいいて、どんな強さで、どうすれば討伐してアスリーさんを助けることができるのか、それをようやく具体的に聞くことができる。

 ミッシュは概ねのところを知っているみたいだけれど、俺は支援をするだけだ、といつもの素っ気ないスタンスで説明をしてくれない。

 でも、ミッシュが必要な段取りはすべて考えてくれているのはよく分かってる。

 ミッシュ、信頼してるからね。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕方が近づく頃に、ギャジャ王子の率いるアスモダ軍はやって来た。

「やあ、ご婦人方に揃って出迎えて頂くのは華やかで嬉しいものですな。」

 そして、私たちを飾りとしか見ていない。

 母様と俺に一礼をすると、で、実際の指揮官はどなたか、と聞いてきた。

 母様が総指揮官でガルテム王国軍の指揮官は私と伝えている筈ですとギャジャ王子に伝えると、ギャジャ王子は鼻で笑った。

「体力で男性に劣る女性が戦い続けられる訳がないでしょう。

 確かにお二人とも高い戦闘力をお持ちのようだ。

 だが、特に長年王家で過ごされてきた王太后様に長時間を戦い続けられるスタミナがある訳がない。

 失礼ながら、戦場に出るのです、見栄を張るのはお止めになられた方が良い。」

 頭ごなしの決めつけにカチンときた俺がすぐに口を挟もうとしたけれど、それを抑えて母様が口を開く。

「ならば、戦闘力は今この場で確認致しましょう。

 それで戦闘力に納得頂けるようなら、明日は皆様は長旅でお疲れでしょうからお休み頂きながら、私たちが終日実戦しているところをご覧頂きましょう。

 それで良いですね。」

 母様がギャジャ王子に今日と明日のスケジュールを一方的に提示し、口を挟みたがる素振りのギャジャ王子に、戦闘力を見るだけならすぐに終わりますよ?、と挑発して、有無を言わさずにギャジャ王子に頷かせた。


(母様、やるう。)

 俺が母様の提案に唇を引き絞って微かな笑みをガルテム軍の皆に向けると、全員が頷く。

 まずは眷属の総意は使わずに母様、俺対全員で乱取りを行うことにして、新しく加わった眷属に冒険者たちを加えた約90人の眷属が半分に別れて間隔を開けた母様と俺を取り囲む。

 眷属たちのレベルは平均が3,500と低めだが、数十人が一気に押し寄せてくれば当然戦闘の(てい)をなさない。

 なので、土魔法と風魔法を併用して周囲に壁を作り前面右方向だけを開けて剣の刃の部分を土魔法で覆った刃引き状態で斬り進み、相手が空いた空間を認識して対応しようとしてくるのを感じたら開けた方向を変えて突入していく。

 俺の意図を読んで空いた空間から蒸し焼きにするように火魔法を投げ込んできた相手がいたので、とっさに風魔法で火魔法の周囲の空気を抜いて空へ飛び立ち、そのまま回転しながら落下して下にいた相手3人を打ち据えて潰して足から着地し、再び壁を作って斬り進んでしばらく、全員を打ち据えた母様と俺だけが転がる眷属の中に立っていた。


 どう?、と視線を向ける先で、ギャジャ王子は、訳知り顔で笑いながら、

「良く訓練されたお仲間ですな。この非常時にこんな見世物のために時間を使わされて、彼らもご苦労なことだ。」

と軽蔑の視線を向けてくる。

 その言い方はっ、と声を上げかけた俺を母様が手を挙げて抑えて、笑みを溢した。

「戦いの質の真贋(しんがん)を見抜く眼力は戦場で(あざむ)かれないためにも必要だと存じますよ。

 それに私も友軍の実力は理解しておくべきと思います。

 これから私とセイラ対アスモダ軍全軍でいかがかしら。」

 ギャジャ王子が馬鹿なことをと一笑に付そうとするのを、負けるのが怖いんですの、と母様が畳み掛ける。

「その代わりに、私たちも取って置きの奥の手を使わせて頂きます。

 全軍で相手して完敗した上に、女相手だから手加減した、の言い訳はみっとものうございますわよね。」

 母様にここまで挑発されては、王子は退路を断たたれたも同然、今さら止めるの選択肢はなかった。


「「眷属の総意、固定。」」

 母様と並んで眷属の総意を起動して効果を発動すると、行きますよ、と一声掛けて風魔法を纏ってぶつかる相手の範囲を広げながら2人で突撃していく。

 ただ走り抜けて風魔法の盾をぶつけるだけの何の工夫もない攻撃、それだけでアスモダ軍は全員が吹き飛び、倒れ伏した。

「これで納得頂けたかしら。」

 溜め息とともに発した母様の言葉に反応する相手はいない。

 アスモダ軍は全員が意識を失っていた。  


 冒険者たちと手分けして眷属に光魔法を掛けて治療を終えた私たちは、引き続きアスモダ軍の兵士たちの治療を始めたのだが、アスモダ軍でも光魔法の使える何人かが意識を取り戻して仲間の治療に加わったのだが、しばらくして顔色を変えてこちらに声を掛けて来た。

「誰か、強力な治療魔法が仕える人はいませんか。」

 声のしたところへ駆け付けてみると、兵士の1人が腹に剣を貫通させて血を吐いていた。

 吹き飛んだ弾みで傷つけてしまったのだろうが、剣は明らかに内臓を抉っており、通常の光魔法では治癒ができない。

 それなら俺が、と魔法を使おうと思ったらティルクが小走りにやってきて、光魔法と神聖魔法を起動して治癒を始めたので、こちらに来た兵士に、大丈夫ですよ、ほら、と手を広げて案内すると、ちょうど兵士が起き上がるところで、治療担当の兵士は息を呑んで何が行われたのかと呆然としていた。


◇◆◇◆


 全員の手当が終わり、アスモダ軍はビアルヌの町の広場で野営の準備を始め、ギャジャ王子他数人がビアルヌ城へとやって来たのは、食事を摂るにはもう遅い時間になっていた。

 さすがにギャジャ王子に先ほどまでの上から目線の対応はない。

「先ほどは大変失礼を致しました。

 王太后様とセイラ様のお力と魔王妃の技には驚くばかりです。

 是非ともアスモダを救って頂きたい。」

 まず謝罪があり、母様と俺がそれを受け容れ、ビアルヌ男爵とセルジュさんの取りなしがあって非礼は許され、食事は(なご)やかに進んだ。

 詳しい話は後ほどとしながらも、母様からは私たちの主要なメンバーの紹介と魔王妃の持つ力の説明があり、ギャジャ王子たちに驚きを持って迎えられた。


 夕食後に主要メンバーによる会議が開かれることになったのだけれど、問題はヅィーニとテュールとヒスムとミッシュをどのように城に受け容れるかなんだよね。

 彼らは魔物だから、城の中はともかく、公式にはそのままの姿で町に入ることができない。

 急いで人に飼われている印を用意しなきゃ、と思っていたら、ミッシュの手引きですでに全員がビアルヌ城に入城していた。

 正規のルートとは違う方補で入城していて、彼らがいることは門番も知らなかったようで、やや引き()ったビアルヌ男爵とギャジャ王子の顔が印象的だった。



今作では説明してなかったですが、ルビはできるだけ振るようにしています。

そんなの読めるという方には申し訳ないのですが、去年、鳥肉がどうとかいうタイトルの番組を見て、衝撃を受けたもので。

ただ、自分が15歳当時に読めなかったよね、という字にルビが振ってない場合もある気がしています。

ご要望があればご一報ください。

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