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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第62話 キララーン☆ いや、その演出は魔法で可能だけど、やるつもりはないから

18時に設定していましたが、今、不定時更新だし、お昼の時間の暇つぶしにちょうどいい方もいるだろうと、見直したついでに設定変更して投下します。

 アスモダの首都から王子ギャジャが兵士を連れて移動してくるまでに半月近くが掛かることが分かり、私たちはガルテム王国の森から来た志願者を組み入れて訓練を行っていた。

 訓練の目的は眷属の総意を発動させるために冒険者たちのレベル上げを急ぐことと新たに加わったメンバーを魔王の眷属に引き入れること。

 そのためにはとにかく地道に魔獣を討伐して私たちの繋がりを強化していくしかない。

 母様から知識として教えてもらってはいても、これまでろくに使うことがなかったガルテム王国の臨時組織軍の指揮を四苦八苦しながら執って、ビアルヌの北東方向から逃げてくる魔獣を討伐し続けていたある日、私たちはついに眷属の総意が立ち上がるのを経験した。


 ずわりとどこからか力が集まってくる感覚があって、体が薄く輝き始める。

 白と赤の光が複雑な模様を描きながら地面に広がって、足元から黒い花模様が俺の体を駆け上がるとその隙間に白と赤の光が入り込んで手首までの袖と襟元の閉じた細身のブラウスを形作り、残りの光がぶわりとひだの多い三層のスカートを形作る。

 目に入らないようにポニーテイルにして軽くお団子にしていた頭髪が解れて視界に広がって地髪の赤毛に白い房が斑に混じっているのが見え、手にした剣がピンクに輝いて握りの後に大きな玉が付いているのが、地球での知識がある俺だけの感覚だと思うのだけれど、魔法少女を連想させて恥ずかしい。


 思わず剣の束を隠して周りを見たら、数メートル先に同じ格好をした母様がいた。

 母様は興味津々と言った態でこちらを見て自分がどんな格好をしているのか確認して、それから剣を何度か振って能力を確認していたが、母様の格好は多少若作りな感じはあるけれど、堂に入った仕草がその格好を浮いたものにしない説得力を備えていた。

 そして、母様が何度か自分の格好をチェックしているうちに服の形や色合いが少しずつ変化して、赤色を地の色として黒い花柄がそれを支え、ときおり入る白い生地が王太后らしい威厳と貫禄を示す意匠へと変化していて、剣も刀身に付与した水魔法の青い光が淡く反射して、握りの玉は邪魔にならないまで小さくなって、中に瞳でも入っているような赤い(きら)めきを見せていた。


 母様のその様子を見て、あ、調整できるんだ、と気が付いて、俺もデザインの修正を始めて、白色を基調に控えめに黒い模様が入り、襟元や袖の襞などにワンポイント的に赤色が入るドレスができあがった。

 んー。母様と並ぶと清楚な感じが際立って、つい”きれいなお姉さんは──”という、どこかで聞いたフレーズが蘇って、元男子高校生の記憶がある自分としては何となく落ち着かない。

 剣は刀の形に変わり、母様と同じ水魔法と青い猫目のような握り玉が微かに存在を主張しているのが、やはり清楚感を強調している気がする。

 うわー、この姿で戦うのかー、と忸怩(じくじ)たる思いを感じながら散けた頭髪をまとめていると、俺たちの姿をまじまじと見つめていたティルクが興奮して叫んだ。


「うわあ。母様と姉様、格好も素敵だけれど、感じる圧力が半端じゃないね。」

 え、そう?、と答えてステータスを見たら、レベルが17,486と表示されていて驚いた。

 俺の本来のレベルは4,978。眷属のレベル10万の2割5分を母様と半分ずつ分けたということなんだろう。

 セルジュさんがダイカルには通知してくれているけれど、彼はいきなりレベルが4万ほどになって驚いているはずだ。


 眷属の総意が発動してまず覚えなければいけないのは力の調整なんだけれど、その前にちょっと待て。

 ミッシュからは眷属の力の2割5分と聞いていたけれど、今見たの、レベルの数字が2割5分の半分になってなかったか。

 恐る恐るステータス表を見直すと、各項目とも信じられない伸びをしているけれど、レベルどおりならばこんなものじゃないはずで、母様と突き合わせをしていたら、ミッシュがやって来て、各項目とも眷属の数値の12.5パーセントを単に足してあるだけのようだと教えてくれて、なんだ、とがっかりしながらも安心した。


 力の使い方も分かっていなかったのだが、眷属が戦闘態勢に入って力を込めた戦力の合計が10万を超えたときに発動するものらしく、発動条件ギリギリだとオンオフがさかんに入れ替わって力の増減の波が激しすぎて、攻防の一瞬に力が1万以上減ったらと思うと怖くて戦えなかったのだが、ステータス表を見ていて、恒常的に力を得られる設定があるのに気が付いた。

 ”眷属の総意、固定”と唱えることでその時点の眷属のステータスを固定でき、”眷属の総意、リアル”と唱えればその時々の眷属の力が反映されるようだ。

 安定した力を振るうためには眷属からの力を固定する必要があるけれど、ここ一番で眷属が溜めた力の瞬発力を利用するためにはリアルな眷属の力を反映する必要があるということなんだろう。

 でも、リアルで眷属のタイミングを統一するのってすごく大変そう。

 また、日常で眷属の力が乗っていると生活に支障を来すだろうけれど、そちらは”眷属の総意、解除”と唱えれば、眷属の力と無関係に自分の力のみで行動することもできるみたいだ。


「テントで眠っている間に二人でティルクをバラバラにしてしまうようなことにでもなると困るしね。」

 眷属の総意の条件設定項目を確認して、いつか自分が言われたような怖い冗談を母様が言うのを聞きながら安堵の溜め息を漏らして2人で微笑み合うのを見て、ティルクがぽつりと呟くのが聞こえた。

「いいなあ、私も魔王妃の称号が欲しいなあ。」

 それはまた、聞きようによってはずいぶんな台詞だな。

 ティルク、良かったら、代わってくれる?


 使い方の確認ができて、いよいよ使ってみる。

 眷属の総意を固定にして型稽古をしてみたのだけど、意識の向き方の速度や思考の速さが違うことにまず気が付いた。

 これまでの修行でもレベルが上がるにつれて思考速度や反応速度が上昇していることは感じられた。

 レベルが1,000や2,000のときでもそれは感じていたけれど、3,000を超え、レベルの壁を超えるときに別物になって、2分の1のスロー再生に対応するような感覚になる。

 それが今回は10分の1、20分の1のスロー再生に対応しているようになって、相手の攻撃の合間に何でもできそうな超越感がある。

 そして、武力や魔法力も格段に上昇しているのが感じられる。


(──これは、ヤバい。)

 込み上げる全能感を押さえ込もうと努力しながら、なるほど、こんな力を日常的に感じ続けていれば、自分が人間だという認識の枠が外れてしまうだろうと思った。

 そして魔族の指導者とやらは、ミッシュによると神の残滓を掻き集めてこれ以上の力を手にして、人間の枠を超えようとしているのだろう。


 型稽古が終わって、森の奥からやって来た3頭の狼に気が付いて母様に声を掛ける。

 2人で森の奥へと駆けて、母様が先頭の1頭を両断し、俺が2頭目の首を刎ねる間に拘束魔法で地面から飛び出した蔦が3頭目を縛った瞬間に肉が骨ごと切断された。

 相手は3,000前後のレベルしかなかったとはいえ、こんな一瞬で勝負が決まるのはまともじゃない。

 素手で殴っただけで魔獣を倒すのは楽勝だったろう。

 だけど女神リーアがこの力を用意したというのなら、恐らくシューバを倒すためにはそれだけの能力が必要なのだ。


「ティルク、シューバとの戦いでは前に出ないでね。きっと命がないわ。」

「……今のままでは私は足手纏いなのね。」

 俺の指示をティルクは切なげに聞いて、俺にぽつりと呟くのが聞こえて、え、と見るとティルクの瞳にじわりと涙が滲んで、俺を見詰め反してくる。

 ティルクは唇を噛んだまま俺を見詰め続けていて、その思い詰めた様子に俺が目を離せないでいると、ティルクの青い瞳が濃紺に染まり、ちかりと微かに生じた光が次第に光量を上げてくる。

「分かった。方法を見つける。絶対に姉様に付いていくから。」

 ティルクの決然とした言い振りに俺は何と言っていいか分からなかった。

 ティルクの眷族の力にはまだ解明されていない伸び(しろ)があるけれど、ティルクがどう足掻こうと、いますぐに俺たちとの差を詰めるのは無理だ。

 俺は何かティルクの力になれるものはないかと探して、ふと手元の赤と黒のブレスレットに気が付いた。

 ティルクのお父さんからティルクの護衛の報酬としてもらったもので、それぞれ体力と速さを5,000ほど上げる効果がある希少品だ。

「今のティルクには大した足しにはならないだろうけど、せめてこれを付けていて。」 

 俺はブレスレットを外してティルクに渡すと、ブレスレットをしばらく凝視した後で俺に笑いかけてきた。

「うん。今はこれでセイラ君に守ってもらうね。」

 一度引いた涙がまた滲んでくる。

「でも、私は必ず役に立ってみせる。だって… 」

 ティルクはその後を言わずに唇を噛んで笑みを広げた。



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