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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第60話 ゆく河の流れは絶えずして しかももとの水にあらず。ティルク、そういうことだから

 酒場での出来事は、俺がいつもの度を超えて親しく接したことで彼なりに満足したようで、翌朝、ゲイズさんは憑き物が落ちたような精悍な顔でセルジュさんと仕事をしていた。

「セイラさん、昨夜は無理なお願いに付き合ってもらってありがとうございました。

 夢を求めるのを諦めた訳ではないですが、セイラさんにあそこまで付き合ってもらえて、自分なりに気持ちの整理が付きました。

 また付き合ってくれたら嬉しいです。」


 和やかに微笑むゲイズさんに、そう、と答えながら、あんたバカだよね、と俺は心の中で呟く。

 昨夜は油断していたところを場の雰囲気とゲイズさんの伴奏に口説かれて、勢いに押されて身を任せても良いと納得してしまっていた。

 第三者が見てもそれが分かるほどになっていた様子だったのに、ゲイズさんはその絶好のチャンスで生真面目に筋を通した。

 自分の幸せを考えるのなら、あそこは押しの一手だと俺も思う。


(ゲイズさん、また歌に付き合っても良いけれど、もうあんなことは起きないからね。)

 押されそうになった気分はまだ少し引き摺ってはいるけれど、心の整理が付いた今ではもう割り切れていて、ごめんね、と視線で一度詫びを入れた後はいつもと同じに対応できた。

 うん、もう大丈夫。


◇◆◇◆


 今日は午前中はビアルヌ男爵に頼まれて、サクルクに配備される人員の中から神聖魔法を付与できそうなメクバーを選んで、フェアリィデビルと守備隊との仲立ちができるように魔法属性を獲得する手伝いをして、午後からは母様たちとシューバ討伐出陣に向けた打ち合わせをすることになっている。


 まずは今日魔法を教える予定の人たちと面会をする。

 訪れた部屋には10人ほどの男女が直立不動で起立したまま待っていて、その原因が自分のガルテム王国王妃予定者という身分からきていると気付いて、固くなる必要はないので座ってくださいと案内する自分の慣れた対応に内心ため息が出る。

 新しい魔法が覚えられるというのは世間の常識に反している。

 なので、サクルク行きが決まった人たちには絶対に口外無用という誓いだけをしてもらって集まってもらって、魔法の適性を見極めながら説明をしようと思っていた。

 集まってもらった人たちのうちで魔力量が多めな人は3人。そのうちの1人は光魔法が使える。

 神聖魔法と光魔法を同時に起動するには少し足りないかもという人が3人いるのが少し悩ましいけど、6人もの人が神聖魔法を覚えられるならフェアリィデビルとの意思疎通の問題は解決する。


 良かったとメンバーの顔を見回していてふと気が付いた。

 女性の3人には見覚えがある。

 あのシューバもどきの中に入っていた冒険者たちが勇気がなくて告白できずにいた女の子たちだ。

(そう、やっぱり彼らの気持ちは彼女たちに通じていたのね。)

 俺は嬉しい気持ちを隠しながら彼女たちに声を掛ける。


「ソムエナさん、だったかしら。

 あなたはなぜサクルクに志願したの? 」

「冒険者を捕まえては実験の被検体にしている連中の研究施設が発見されて、彼らがこれ以上アスモダに対して理不尽な対応をしないように施設を研究しながら防衛する、一線で戦えるほどの戦闘経験がない私でもできることがあると聞いて、志願しました。」

 そう真面目くさって答えてから、少しはにかんで付け加える。

「私、今回見つかった冒険者の中に知り合いがいるんです。

 一緒のパーティではなかったけれど大事な仲間で、これからも2人一緒にビアルヌのために役立てるのなら嬉しいです。」

 そう、と答えて残りの2人にも声を掛けていく。

(彼女たちにとって素敵な体験が待っていますように。)

 俺はそう念じてから魔力の十分なソムエナさん、光魔法か神聖魔法のどちらかならば使いこなせそうな残りの2人にまずは魔法属性を得る手伝いをして、その後に魔法の使い方のできるだけの訓練をした。

 彼女たちは午前中のうちに素直に手際よく魔法を覚え、明るい表情でサクルクに向かう準備に取りかかっていった。


 そんな彼女たちの様子を見て嬉しく思っているとティルクが側に来て俺の顔を覗き込む。

「姉様、昨日までと微妙にキャラが変わってますよね。

 ゲイズさんと何があったんですか。

 まさかとは思いますが、操を失ったりしてませんよね。」

 ──勘が良いな。危うかったけれど失ってはいないから。

 口にできない部分でティルクの勘の鋭さに感心していたのだが、もちろん、そんな生易しいことで追求が収まるはずもなく、俺はこの後2日間、徹底的に問い詰められることになる。

 口は割らなかったけれどね。


◇◆◇◆


 午後になって、セルジュさんと母様からまず情勢の説明があった。

 母様の思惑どおり、ガルテム王国とアスモダが共同でシューバとシューガの討伐に当たることになり、取りあえずの責任者をセルジュさん、副責任者をゲイズさんが務め、アスモダ側や他の各国から参加があった場合の体制や魔物側の代表者は今後の検討となるそう。

 そして、今回のシューバ討伐は総指揮を母様、ガルテム王国側の指揮を俺が、アスモダ側の指揮を王都から急遽こちらへと向かっているギャジャという王子と指揮下の30人ほどが執り、魔物側の指揮をテュールが執ることになっているそうだ。


 ギャジャという王子はシューダのために逃げてくる魔獣、魔物対応の最先鋒の1人ということで、彼とその部隊は全員がSランクの実力の持ち主だとかで、俺を初めとしてガルテム側の実力が少し見劣りすることと、シューダ討伐の主力はアスモダ軍でシューバ討伐はオマケと考えている節があると聞こえているのが少し不安かな。

 テュールとヅィー二はもう一頭、単独での戦闘を避けていた蛇型の魔物と連絡を取ったそうで、合流地点の調整をしているところだそうだ。


「それで、ゴダルグさんにテュールとヅィー二から聞いたシューバの情報なのですが」

 ミシュルがシューバの説明を始める。

「シューバが植物由来の魔物だというのはすでにご存じのとおりで、シューバはサクルクでシューバもどきとして発見されたあの人型とほぼ同じ形をしているということですが、それだけならば周辺一帯の魔獣や魔物が逃げ出す事態にはなりません。

 シューバは地下茎で繋がって繁殖し、元のシューバと同じ能力のシューバを地下に作るそうです。

 そして得た力の何千分の一だかをどうやってか元のシューバに還元して、元のシューバはその力で底上げされたシェーバを作るけれど、繁殖能力は本体にしかなくて、本体は元の場所で寝たままだそうよ。」


 ミシュルの説明どおりだとすれば、アスリーさんと同じ能力のシューバが無数にいることになる。

 世界二位の実力者が何十人に増殖して待ち受けている状態を想像する。

(……ああ、ちょっと無理かな。)

 無力感に黙り込んだ一同にミシュルが爆弾を落とす。

「ゴダルグさんによると、サクルクでシューバもどきを作っていた研究の目的は、本体以外のシューバをうまく活用すること。

 中でもシューバもどきに冒険者を入れていた連中の研究テーマは、シューバもどきの能力を維持したまま人の意識で操れるようにすることと、繁殖能力を持たせることの2つだそうで、両方とも一定の成果を挙げて指導者に報告されていて、研究員の強化がされる直前だったらしいわ。」


 詳しく話を聞いて、シューバは研究員の言うことを聞き分けるように改良がされていることや、シューバもどきはサクルクで私たちが抑えた以外に存在しないこと、シューダの制御困難な部分を再度調整するには相当の時間が掛かるという話を聞いた。

 ──つまり、シューバを早いうちに始末しないと、サクルクへの襲撃やシューバから標本を作られてしまう可能性があるってこと。


(こんちくしょう、煽ってくれる。)

 やや憔悴した一同に、ミシュルが声を掛けてくる。

「大丈夫。今、秘策を練っているから、もう少し待って。

 きっといい報告ができると思うわ。」



先日ご報告しました6月の手術のために5月下旬から投稿に余裕がなく、文体の一貫性に問題があると思いながら投稿を続けておりましたが、少し余裕ができてきたように感じますので、すでに判明している全体の用語統一などと合わせて手を入れていきたいと思います。

話を変えるつもりはないのですが、矛盾する箇所等が出てきた際にはその都度ご連絡致しますのでご容赦ください。


例(この程度なら報告しないかもしれません):

第57話 ティルクとデート(3)

リルとフェンはサクルクで留守番をすることになっていますが、ヅィー二との会話ではシューバ討伐に行くことになっているのを修正しました。

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