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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第56話 ティルクとデート(2)

”申し訳ありませんが、家のほうで急用ができまして、1週間ほど更新できないと思われます”──と書いたのですが、幸いなことにそちらの用事は終わることができました。


この際ですので、筆者の状況を少し詳しくご報告しておきますと、6月中旬に手術を受けまして、傷口に負担が行くために長時間パソコンの前に座っているのはまだ少し辛いです。

 もうしばらくはまったり目な更新頻度になると思いますが、ご容赦ください。

 俺とティルクはビアルヌ城を出て町の方へと出掛けることにした。

 門を通ると俺の存在を説明できないので、2人で目立たない場所を探して窓から空へと飛び立つ。

 秋風が少し肌寒いのでティルクの方を見ると、薄桃色の長袖のブラウスの袖が風になびいているけれど、胸から胴体に掛けて胸を象る少し厚めの茶色い布を支えるようにして継ぎ合わせた白く縁取られた赤い生地が胴から腰にかけて優雅なラインを形作って、そこから脚に張り付いてひらひらと揺れるスカートから目が離せなくなる。


(わあ、すごく女の子らしくて、可っ愛い。)

 男と女、どちらの目線から見ていてるのかよく分からないけれど、今日のティルクがすごく女の子をしているのはよく分かる。


 問題は、それをエスコートする俺なんだけれど──地球にいた頃はもちろん女の子とデートした経験なんかないので、当時のうろ覚えのテンプレ情報が頼りだ。

 ええと、確か、まずは映画でも見るか水族館でも行った後に軽く食事かお茶をして感想を言い合って馴染んでからショッピング……

 出だしがまず不可能で、食事かお茶は居酒屋か大衆食堂……うわあ、無理無理っ。


 どうしようかと街並みに視線を巡らせていたら、ティルクが、ねえ、と繋いだ手を強く握ってきて、前方に小さな商店が立ち並ぶ市場が見えた。

(うん、そうだね、この世界、街中だと名所を見るか市場に行くのが一番の娯楽だよね。)


「ティルク、ここで少しパンを買って城の外へ行かない? 」

 一瞬、市場で買い物をして時間を過ごそうかと思ったけれど、名所という言葉に思いついてティルクを城外へと誘うことにした。

 人目の付かないところに着地して、朝のできたてのパンから柔らかくて美味しそうなものをいくつか選ぶと城門を越えてから再び空へと飛び上がる。


 ティルクの手を引いて北に向かって飛んでいくと、しばらくして予想どおり、森の植生が変わってきた。

 そんなに距離が離れている訳ではないのに地理的に何か要因があるのか、サクルクがある辺りは蒸し暑い熱帯的な気候だけれどガルテム王国からビアルヌまでは温帯的な気候だった。

 そして、セイラがマーモちゃんとリンゴに似たサングの実を取った辺りまで来ると左手に高い山が見えて、そこから大きく渓谷が切れ込んでいて、吹き込む風でひときわ涼しい。


 周囲の広葉樹は色づき始めていて、この先の山に向かってだんだんと色を濃くしている。

「ねえ、この辺で食べ物を探して何か作って、どこか景色の良いところで食べようよ。」

 ティルクは二の句もなく食材を探し始めた。


 この辺りは山の恵みが濃いだろうと俺も当たりを付けてはいたが、森の食べ物にはティルクの方が詳しい。

 ティルクはすぐに木になっている果実や蔓を見分けて、食べられる果実や蔓を辿って丸々とした地下茎を土魔法で掘り出してくれた。

 収納空間から取り出して薄切りにした肉を塩こしょうでさっと炙って甘辛い味付けをして、薄くスライスした長芋のような地下茎とをスライスしたパンに交互に並べて挟む。

 果実は収納空間に入れ、サンドウィッチは持ったままパンに挟んだ食材が馴染むまで移動することにして、左手の山に向けて飛んでいくと、だんだんと木々の色が濃くなっていき、4合目ほどのところにある峠を越えた途端に一帯が色鮮やかな紅葉に覆われた。


 わあ、と2人で嘆声を挙げながらひときわ紅葉の強い頂上付近に降りると周囲を見回す。

 峠から角度を変えてなだらかに広がる雑木林の木の種類ごとに色合いや彩度を変えて重なるちぎり絵のような景色の奥で山肌が抉れて数十メートルの滝壺になっていて、1キロ近い距離があると想うのだけれど、ドドドド、という落水の音がここまで響いている。


 俺とティルクは峠の日当たりの良い草むらに敷物を敷いて並んで座り、見事な景色を堪能しながら持参した昼ご飯を食べた。

 いつもならお互いの顔が見えるように少し距離を置いて、サンドウィッチを抓みながらあれこれと言い合って景色を堪能するところだけれど、今日は触れ合った肩と脇腹、腰から伝わるお互いの体温を意識しながらどちらからともなく闇魔法で思念を触れ合わせて黙り込んだまま、心の響き合いに意識を向けている。


 ティルクが微かに体をこちらに傾けて体を寄せてくるとこちらのほうが体が小さいせいで押し倒されそうになるのを、ティルクの腰に手を回してなんとか踏ん張る。

 そうやってお互いの存在を異性として意識しながらも、お互いを異性として受け容れるにはまだ時間が必要なことも理解し合った。

 2人はもう毎日寝食を共にする仲なのだ、異性として会う時間をもっと重ねてお互いを異性と意識しなければ、これまでの関係に変化なんか生まれない。


 2人は暗黙のうちにその認識で一致して、ミッシュが1週間に1回、セイラが男になれるように手配してくれたのならば、その機会を最大限に活用するつもりでいた。


◇◆◇◆


 昼食が終わって、私たちは手を繋いで紅葉を楽しみながら滝に向かって散歩を始めたのだけれど、周囲を観察する様子にはどこか狩人の視線が混じっている。

 紅葉が盛りのこの森なら、きっと木の実やキノコが豊富に実り、動物たちは冬支度の最終段階にいる。

 デートの最中に色気のないこと(おびただ)しいけれど、長い間狩猟生活をやっていた影響で、ここにあるだろう果実や脂ののった新鮮な食材が手に入るのならぜひ欲しいと思っちゃったのだ。


 俺は周囲の気配を探りながら心持ちティルクの前方に出て周囲の気配を探った。

 男なんだから女の子を護らなくちゃと言う意識が自然と俺に出てきていて、右手に剣を握り左手を体の後ろに回してティルクの手を握っていて、ティルクが俺に身を寄せる気配に、ティルクを護り抜くという高揚感がこみ上げてきて俺の集中力を高めていた。


 一方でセイラに右手を握られ封じられたティルクは、2人で散開して索敵するいつもの動きと違う態勢に戸惑ったのだが、せっかく握られた手を振り解くのは勿体ない気がして動きを工夫した結果、セイラに体を寄せて動きを同調させて進行方向の左側を監視するのが一番良さそうだという結論に落ち着いた。

 そうしてセイラに手を引かれてしばらく進むうちに、いつだったか自分たちが住む森に強めの魔獣が流れてきていたときに、やむを得ず外出する母を護ろうと父が母の手を引いて出掛けて行った体勢が今の自分たちとそっくりだったことを思いだして、セイラがなぜ自分の手を引いているのかをふいに理解した。


(私はセイラ君と同じくらい強いんだから、そんなにガチガチになって護ろうとしてくれなくても良いのに。)

 でも、セイラ君は男として自分を護ろうとしてくれているんだ──

 そう思うとくすぐったくて、ティルクは口元が緩むのを止められず、顔を赤らめてくすくすと笑いが漏れそうてセイラに気付かれないように堪えて隠した。


 実際問題として、急に芽生えた男らしさに無駄な力が入っているセイラとセイラの気持ちに気付いて照れているティルクの2人組がきちんとした警戒ができている訳もなく、大半の魔獣は幸せそうに空回る気配に気付いて早々に逃げてしまっていたのだが、その空回る気配の健全さゆえに逃げることを止めて待ち構えていた魔物がいた。


『お前たちはあの狂った魔物を作っている奴らとは違うのか? 』

 いきなり飛んで来た念話にセイラとティルクは歩みを止めて周囲を探し、前方の滝壺の中に高レベルの魔物がいることに気が付いた。


 魔物は総じて魔獣より強いが、それでもレベルが5,000を超える魔物が少ないのは、知能が高くなければレベルの壁を超えることができないからで、逆に言うとレベル5,000を超える魔物は高い知性を持っていて、テュールやリルのように話し合える余地がある代わりに油断がならない。


『お前たちはあの連中とは違うのだな。』

 俺とティルクが滝壺の中の魔物の動静を窺っているのを察して、魔物から重ねて確認の念話が飛んできた。

 どうやらこの魔物は話が通じる相手らしい。


『南で魔物を作っていた奴らは俺たちが討伐して、今は魔物を討伐する準備をしているところだ。』

『ほう。それは是非とも詳しい話を聞かせて欲しいものだな。』

 滝の中の魔物は俺の返事に興味を示すと滝壺の中から姿を現した。



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