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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第54話 サクルクを引き継いで、私たちは次へ進みます。次はシューb「デート!」 え?

 ミッシュが姿を消して3日目というのは、サクルクでの滞在に一区切りを付けてビアルヌでシューバ討伐に赴くための移動期間と一致していた。

 つまり昨日が1日目で今日が2日目、午後にはサクルクに移動するはずだったのだけれど、フェアリィデビルのことが心配で私たちはまだサクルクにいる。


 トーマちゃんたちの知能はだいたい5,6歳程度だと思われ、地球で犬が2、3歳といわれていたことを考えると随分と賢いのだけれど、それだけに感情が豊かで悪戯好きだ。

 フェアリィデビルとの冒険者たちから兵士に代わって陣取り合戦をしてみたのだけれど、フェアリィデビルたちのメンバーを入れ替えてボスクラスから少し下の子が出てくると、やっぱりときどき、我を忘れて夢中で攻撃してくる。


 いまは俺が監督しているので、事故が起きそうになったら察知して威力を相殺できるし万が一怪我をしても回復できるのだけれど、兵士も一線級は魔獣討伐に出張っていて、男爵が掻き集めてきたメンバーは少し弱い。

 それをフェアリィデビルは見極めていて、ボスクラスは分かって加減してくれるのだけど、若い子は生意気盛りで俺の目を盗んでは兵士にちょっかいをかけていて、このまま私たちがいなくなると、人間を舐めてしまって上手くいかなくなる気がする。


 どうしようかな、と困っていると、リルが横から参加して兵士たちをサポートしてくれた。

 フェアリィデビルの様子をよく見ていて、苛立ったり興奮した子がいると攻撃を風弾でインターセプトして弱い水弾を顔に掛けて頭を冷やさせる。

 それでも言うことを聞かない子には強い念話と軽い魔法での体罰でがっつりと押さえ込んだ。


 取りあえず、この場が収まったことをリルに感謝すると、驚いたことにリルがフェンと共に居残りを志願してきてくれた。

『セイラ。次の戦い、きっと敵は強い。

 フェンを行かせたくないから、リルはここにいても良い。』

 確かに、シューバにアスリーさんの能力が入っているんだったらその強さは母様を上回る。

 そこへ冒険者よりも力が下のフェンを行かせるのは、リルには心配なのだろう。

 俺としても、フェンの他にも置いて行きたいメンバーがいる。

 ライラやサファはまず無理だし、ジューダ君もフェンより弱いから連れて行けない。

 戦力としてリルがいなくなるのはちょっと痛いけれど、フェンとリルが残ってくれるなら格好の説得材料になるんだよね。


 本当は威城のメイドの4人も置いて行きたいんだけれど、彼女たちは母様たちと相談して、自分たちは頭を使う側じゃないから冒険者の世話係でも何ででも一緒に行くと言っているので、マイナたちには修行の他に冒険者たちの世話もしてもらうことになっている。

 マイナたちがこれからの修行で魔族やシューバと互していける強さを手に入れらるように願うし、彼女たちが発動している魔王の特技自体は、テルガにいた冒険者の祖先の魔王たちとは違う系統の技なので、冒険者たちと上手く噛み合うとかして居場所が確立されるといいんだけどね。


 ライラやサファ、ジューダ君をどうするかは、母様やティルクとも一緒に面談して説得することになって、母様は根気よく3人を説得してくれた。

 みんな、口にはできないけれど、シューバもどきの有様とシューバにアスリーさんの幽体の一部が使われていると聞いてから寡黙になった母様のことを、すごく心配している。


 シューバがアスリーさんなら、シューバの元になったアスモダの東にいるモンスターにも誰か入っているんじゃないかって誰でも考えるし、事実、それだけの戦闘力がありそうだと分かっている行方不明の人が1人いるのだ。

 その場合にモンスターに幽体を提供している人の体や残りの幽体はどうなっているのか、など考えるべき点はたくさんあるけれど、私たちは少なくともシューバくらいは軽く倒してアスリーさんの残りの幽体も難なく回収して見せて、なんとかなりますよと強がって、母様の心配ごとを減らしてあげなければいけない。

 母様が説得する合間に視線を交わし合って、私たち全員が同じ思いを共有していることを確認して、3人はサクルクに残ってくれることになった。


◇◆◇◆


「ダヤルタ。兵士に加えてフェアリィデビルやフェンリルのサポートもある。後の護りは頼んだぞ。」

 昼食の後に、私たちはビアルヌ男爵と共にサクルクを出発することになった。

「ガルテム王国からは望外の加勢をたくさん頂きました。

 後は息子が自分の運命を切り開くでしょう。」

 ビアルヌ男爵は、ダヤルタ君の初任務がアスモダの威信が掛かるような大任務になっちゃったことに当惑しながらも、次代を担う嫡子が早くも大手柄を挙げるチャンスに巡り会ったことに喜んでもいるようだった。


 まあ、リルだけでシューバと戦えそうなくらいの戦闘力があるものね。

 リルとフェンの機動力にフェアリィデビルたちの攻撃力があれば、魔族が責めてきたとしても少々の攻撃ではサクルクを奪い返せないだろうし、いざとなればリルの念話がビアルヌまでなら届きそうということも分かったので、ビアルヌ男爵が安心して嬉しそうなのはよく分かる。


 でもビアルヌ男爵は戦闘力としては不足しているから隊列の真ん中にしてその周 りに男爵の護衛を置き、冒険者が周囲を囲んでビアルヌへと進んでいく。

 沈みがちな母様は冒険者のすぐ外側で通常のレベルを超えた魔獣が来ていないか警戒していて、先頭を俺とティルクが探っていく。


「姉様っ、右前方から3,500程度が5、先頭の2頭が急接近!

 私が行きますっ。」

 ティルクは皆に聞こえるようにそう報告すると右前方へと駆けていく。

 森には下生えがまばらに生えていて、中に皮膚を切るような葉や棘の生えた灌木もあるが、ティルクは風魔法でそれを押して体に接触しないようにして走っていて、ときおり風で押し切れない剛性の高い枝があったりするのだけれど、それは前に突き出した水魔法を纏った剣で切断している。


 やって来たのは頭部の丸さに猫の要素が多めの虎で、大きめの1頭のやや左後方からもう1頭が少し間隔を開けて迫っている。

 残り3頭は右側から来ることになるから、先頭がティルクの頭を抑えて後続が襲いかかりやすいように布陣しているのだろう。


 ティルクは自分の倍はありそうな先頭の虎に向き直って距離を詰めていたが、下生えの中に隠れていた蔓がブチブチと地面から根を切りながら伸びてティルクの体に食い込もうとし、それを嫌がったティルクが進路を左に変えた、と見えた瞬間、伸びきった蔦が切れて右側後方の虎へと飛んでいった。

 蔦の直撃を受けて弾かれ、ヴォウッ、と吠えながら転がる虎を後に、左側へ回るかと見えた体を反してティルクは先頭の虎へ急接近する。

 そして、虎が右前足を叩き付けてこようとするのを引き足の加減で距離を調整し、前足が通り過ぎるのに合わせて前に出る。

 間合いに入った瞬間に首を薙いですれ違うとそのまま起き上がった2頭目の討伐に向かった。


 ティルクはよほど調子が良いらしい。

 レベルを超えた切れの良い動きに俺が感心しているうちにも、ティルクは後からやって来た3頭が逃走に入ったのを見極めて進路を遮りに掛かっていて、俺は虎たちが反転して戻っていくのに備えてスピードを上げた。


 結局、1頭が足止めをしている間に逃げようとした残りの2頭は俺が回り込んで倒すことになったのだけど、2頭目を倒したときにはティルクはもう目の前で待機していた。

「ティルク、絶好調ね。」

 俺が声を掛けると、ティルクはぱあ、と顔を綻ばせ、それから少し頬を赤くして、えへへ、と笑う。


「だって、明日のことを考えたら、楽しみで。

 姉様、明日はいつから出掛けますか? 」

 俺もこの間のことがあったから、ティルクが俺とのデートを楽しみにしてるんだってことはもう分かってる。

 でも、俺はあれからミッシュと会ってないから、どういうタイミングで男に戻れるのか、まだ分かってないんだよね。


『大丈夫。詳しいことは後で教えてやるから、ティルクに朝食後にと答えておけ。』

 そのことをティルクに伝えようとしたら、ミッシュから念話が入った。

 このぼやけた感じからすると、まだ大分距離がありそうで、いったいどこから私たちのことを探知していたのやら。


 ──ともかく。

「今、ミッシュから連絡があってね。

 明日の朝食後には大丈夫みたいよ。」

 そう伝えると、ティルクは目をキラキラさせて喜んだ。



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