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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第52話 月と童謡、もしくは愚痴と動揺。影でミッシュは気を配っていたらしい

愛情を感じる早よ書けの誤字報告、本当にありがとうございます。

(本心からそう受け取って感謝しております。)


 熱帯のジャングルを思わせる森の大きな木のてっぺんに近い枝に座って、植物の葉の緑の匂いと花の甘い香りと果実の熟れた濃厚な匂いに包まれて、俺はクワクワクワ、という鳥の声が幾つも重なって響いてくるのを聞いていた。

 はあ、と溜め息を吐きながら暗闇の中を探って、木の下の方や地上で繰り広げられている弱肉強食のせめぎ合いのレベルが自分には到底及ばないのを確認して意識から押し出すと、さっき、なぜ俺はあんなに動揺してしまったのだろうと考えた。


 男の意識が結晶化されて、俺の意識が女のものだけになっているのはよく分かっていて、何か言われても動じない覚悟をしていたつもりだったのに、ティルクが男性と仲睦まじくしていると思ったことで男性は異性だと生々しく感じてその覚悟が揺らぎ、マイナたちに自分がダイカルになびくのでないかと噂をされているのに直面して、皆にそんな風に見られていると思ったら耐えられなくなってしまった。

 曲がりなりにも半年以上も女性の体を使い、体の影響を受けた意識を自覚している今、たしかに女性として男性の匂いや筋肉や体格や声なんかにどきりとするときがあるし、そこに惹かれることがあるのも不本意ながら認める。


 だけど、自分の意識が女の子の成分を含んでいると自覚することと異性との交際が現実問題になることの間には天と地くらいの開きがあって、そこに踏み込むつもりは一切ない。

 ていうか、そこに踏み込んじゃったら、自分は男性だというアイデンティティがゲームオーバーしちゃうからね。

 だから動揺するんだと思う。


 さわさわとした秋の風が少し肌寒く吹き付けてくるのを風魔法で何カ所か壁を作ってその隙間から流れてくる風を間引いて心地よい温度に調整しながら、この世界にも1つある月を見上げる。

 この世界の月では兎が餅つきなどしていないが、左横に女神のキスと呼ばれる唇型の影があって、月がどんな表情に見えるかで見る人を占うのだそうだ。


(……(にこ)やかに笑ってら。

 ふん。人をこんな境遇に追い込んでおいて、随分と楽しそうだよね。)

 そもそも女神リーアのせいでこんなことになってるんじゃないかあ。

 そう思うと、イライラが募って、誰かを罵りたくなってくる。

「ティルクの裏切り者。マイナさんや威城のメイドのみんなの裏切り者。母様の裏切り者、ライラにサファにミシュルにエグリスさんの裏切り者。マーモちゃんに、セカンドにサードにフォースにトーマちゃんに……」

 1人を裏切り者と陰口でけなしたら、止まらなくなって、全員を裏切り者呼ばわりする。

 ティルクや母様やミシュルには、ある意味本当に裏切られているのだとは想像もしなかったが、みんなを切って捨てるようなことを口にすると、少し気が紛れる。


「それもこれも、全部、女神リーア<<はくしゅっ! >> 」

 そして、女性陣と可愛がっている相手全部を悪く言ってから、頬を膨らませて暗がりをまた見回して、総仕上げに女神リーアの裏切りのせいだ、と口にしようとして、いきなりのくしゃみに遮られた。

 え、と一瞬びっくりして周りを見回して体調を調べて、問題がないことを確認してから、不敬、冒涜の言葉を口にするのは止めておいた。


 俺が男だったときには決して考えもしなかった周りへの小さな裏切りと癇癪だったが、衝動的にやったら少しすっきりして、月を改めて見て、小さい頃に再生して何度も見た幼児向けの番組でお姉さんが歌っていた月の出てくる童謡を思い出して口ずさむ。

 たわいのない可愛らしい歌だけど、今はその可愛さが気に入って、当時に聞いた童謡から同じような雰囲気の歌を選んで歌っていく。


 サクルクの入口で見張りに立っていた冒険者がそれに気付いて建物内の仲間に声を掛け、入口の側では冒険者たちが椅子やテーブルを運んできて俺の歌を聴いていたようだ。

「今日の舞姫さんの歌は随分と可愛らしいな。

 ま、今日は酒も飲めねえし、偶にはこういうのも良いねえ。」

 戦地ではアルコール禁止なので、冒険者たちはそんなことを言い合いながらお菓子を抓みお茶を飲んではほっこりとしていたことなど、俺は知らなかった。


 そして、ミシュルは俺が落ち込んで皆の悪口を言うのを女神のところでそっと介入して止めたものの、何曲も歌を歌って現実を少し脇に置いて逃避している姿を、サクルクの窓から黒猫姿で見ていたらしい。

『ああ、現実への執着心が薄れて、セイラが男に戻るのは諦めるとか言い始められると今はまだ困る。

 気は進まないが、対処しておくか。』

 ミッシュは窓枠から俺の様子を窺うとティルクのところへ念話を送った後で、黒豹へと姿を変えながらカエンチャの町を目指して走り去り、ミッシュから連絡を受けたティルクは、鼻歌混じりに目を輝かせて部屋で俺が戻るのを待っていたようだ。

 結局、木の上で夜更けまで過ごしてティルクが眠ってしまった後に帰った俺が、ティルクからその知らせを聞いたのは、翌朝だった。


「3日後に男の神使が使えるように工夫をしてくるってミッシュから連絡があったの! 」

 ティルクが嬉しそうに俺に報告してくれたが、俺はピンときていなかった。

 これまで神使の男の体自体を自分が自由にできたことはほとんどなかったし、いきなり言われて、男の体と男の意識が戻ってくるとどうなのかという実感もなかった。

 ただ、なぜティルクはこんなに嬉しそうなんだろうと疑問が湧いて、それをティルクに聞く直前になって、そういえばデートの約束をしたんだったとかろうじて思い出したくらい、実感がない話になっていることに自分でびっくりしたのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 朝食後に3階のシューバもどきの収容施設で会ったゴダルグを見て俺は驚いた。

 ゴダルグの思慮深げな視線と落ち着いた態度は昨日とは別人で、俺を見るなり昨日の醜態と手間を取らせたことを詫びてきた。

「思考を制限されていたとはいえ、自分がやったことと、それをやるときに考えていた内容は覚えています。

 私は間違いなくここで許されないことをやり、獣人族や魔人族を害した。

 そのことを昨夜は直視ができずに恥ずかしいところをお目にかけ、ご迷惑をおかけしました。

 誠に面目次第もありません。」


 予想もしていなかったゴダルグ、いやゴダルグさんの厳しい自己批判と潔い謝罪に気圧されて俺はしどろもどろになりながらシューバもどきから獣人族を解放する手伝いを始めた。

 ゴダルグさんの判断と対応は的確で、俺は間もなく3人の獣人の幽体が復元されてそれぞれの体に戻されるのを手伝い、獣人たちが意識を取り戻すのに立ち会った。


 彼らの意識ははっきりとしていたけれど体の方は2、3か月に亘って最低限の手当だけを受けて放置されていたために起き上がることもできない状態だったのだけれど、獣人たちが安心したことに、意識回復の知らせを受けてやって来たビアルヌ男爵が体が回復するまで面倒を見ると約束してくれた。


 ゴダルグさんの取扱いは、当面は様子を監視しながらセルジュさんの配下に置いて幽体関連の問題を担当してもらうことにするそうだ。


(セルジュさん、魔族対応の組織を本気で立ち上げるつもりなんだ。)


 聞くとビアルヌ男爵もカエンチャを経由して首都ダーンディアへ報告書を送ったようで、古株の貫禄と笑っていたけれど、少なくともこの地方の代表として参画することになるようだった。

 動き出した獣人族と魔人族の協議体にはこれからも近隣種族からの参加が見込まれるそうで、シューバの討伐にゴダルグさんが協力してくれた後は、セルジュさんたちは私たちと少しずつ距離ができることになりそうだった。



体調不良は解消傾向ですが、ちょっと忙しくなったところへ持ってきて、ここしばらくの話の進展がリハビリにするには重かったこともあって、ご迷惑をお掛けしております。


話のスピードはこれから上がると思いますが、体調と忙しさに未知数の要素がありまして……

申し訳ない、頑張ります(-_-;)

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