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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第49話 神聖魔法講習会開催。獣耳美少年を追加します

 翌日、私たちはサクルクで魔族の研究資材を漁っては彼らが何をやっていたかを整理しながら探っていた。

 その中でも気掛かりだったのは、昨日、シューパを改造したシューバもどきの幽体と共に発見された獣人たちの体で、威城のメイドやライラとサファが面倒を看た甲斐があってかなり落ち着いた状態になっていて、ビアルヌからビアルヌ男爵配下の者に状況を確認してもらい次第、俺とティルクが光魔法と神聖魔法とで肉体を復元するための準備を整えていた。


 1人1人の獣人の健康状態を確認して、神聖魔法で同化して体に残っている幽体の状況をチェックしているが、精神衛生など考慮しないで必要な部分のみを切り出した結果として、どの獣人も1つの人格として意識を維持できる状態にはなく、焦点の合わない口に柔らかめの食べ物を押し込んで水で流し込み、垂れ流しの体を拭いて衛生を保っている状態で、今は清潔な環境にあるが、昨日彼らを発見したときには決してそうではなかった。

 一方で、俺が戦闘から意識を逸らして恋人たちとの夢の中へと誘い込んだシューバもどきたちの方は、そうっとしておくしかない。

 シューパが植物由来の魔物なのか、食物を取り込む口に相当する者が見当たらず、ヒトデと木の根が合成されてモンスターに変化したような、うねうねと気持ちの悪い姿をしているためにどうして良いか分からなくて、むしろ動かないでいてくれてラッキーというような具合だった。


 何だか昨夜から側で上機嫌で手伝いをしてくれているティルクの補助を受けながら、俺はシューバもどきを調べて、機能に異常がありそうなところをチェックして、最低限の復元を行っていた。

 できることならばシューバもどきのから獣人へと早く幽体を融合させて、この気味の悪い生命の模造品から手を切りたい、そう思いつつ獣人とシューパの意識を探りながらゴダルグの到着を待っていたのだが、そんな俺のところへエグリスさんとジューダ君がにこにことしながらやって来た。

「セイラ姉、ケイアナさんとミシュルさんが、俺も神聖魔法を教えてもらって良いって! 」

(え? ジューダ君は魔族だから敵の親玉に取り込まれる恐れがあるからって、神聖魔法を教えたがらなかったのはミシュルじゃなかったっけ。)


 俺の疑問を読んでだろう、ミッシュから思念が飛んで来た。

『誰が神聖魔法を覚えても魔族から目を付けられる状況にあるのなら、もうジューダを避ける理由もない。教えてやってくれ。』

 ああ、はい、そうですか。

 俺は気を取り直して、2人に神聖魔法を教えることにした。


 オートモードリバースも随分と使ったからなのか、最近は術を教えるのに必要な時間が短くなってきている。

 この間、ティルクに神性魔法を教えたときなどは、集中的に使ったことと、すでに覚えている魔法の上位魔法だったことが関係しているのかもしれないが、体感的には戦いのさ中に30分ほどで覚えてしまったと思っている。

 エグリスさんはともかく、ジューダ君は早いだろうな、と思ったら、ジューダ君は40分ほど、エグリスさんは2時間ほど掛かって魔法を覚えた。

 まあ、魔族でも魔力に注目されていたジューダ君に比べてエグリスさんは魔力もカツカツだったし、そもそも1回の魔法の起動に掛かる時間が2倍ほども掛かっていたので仕方ないことではある。


◇◆◇◆


 昼食が終わろうかという時になってセルジュさんがビアルヌ男爵とその部下十数名を連れて戻ってきた。

 急遽、机の並び替えと料理の追加が準備されて、固辞する男爵の部下たちを母様が男爵に頼み込む形で全員が同席して食事会を延長しながらそれぞれのメンバーの紹介とこれまでのあらましが説明されて、食後のお茶の準備が終わったところで会議が本格的に始まることになった。


「ビアルヌ男爵、ご多忙のところでしょうに、このようなところまでたくさんの人員だけでなくご自身までお越し頂き、本当に感謝いたします。」

「こちらこそとんでもない。

 自分の領地に敵にこのような施設を作られていることにも気がつかなかったことには面目(めんぼく)次第もございません。

 昨日は、王太后様ご一行に魔族の基地を討伐して頂いただけでなく後の措置について相談したいとご連絡を頂いたことには本当に感謝しております。」

 母様の改めての挨拶に、ビアルヌ男爵が恥じながら感謝の言葉で応えて、両者の立場と認識が再確認された。


 先日の対応といい、ビアルヌ男爵はずいぶんと実直で実務優先の人らしい。

 セルジュさんは、昨日のうちにカエンチャの町にある領事館に連絡をする手筈を整えてくれたそうで、母様は領事館を通じてガルテム王国と獣人国家アスモダとの折衝を行うのと並行して、ビアルヌ男爵に当面のサクルクの施設と設備の管理を委ねるつもりのようで、ビアルヌ男爵とサクルクの管理方法の協議に入った。

 基本的にはビアルヌ男爵配下の兵士から何人かを割いてサクルクの警備に当てることになるのだが、魔族の襲撃に耐えるだけの十分な戦力をサクルクに常駐させることは不可欠であるにも拘わらず、魔獣の移動と真反対の方向に限られた戦力を割くことは大変に厳しい選択になる。

 それを解決する方策として考えられたのは、フェアリィデビルの活用だった。


「フェアリィデビル除けはサクルクを襲撃する際に全部壊しちゃったことを考えると、これが最善よね。」

 母様とセルジュさんの考えは、男爵の部下から魔獣を慣らせるテイマーを派遣してもらい、俺がトーマちゃんとの橋渡しをして協力関係を作ることだったが、男爵は果敢だった。

「サクルクを我々が管理して魔族の侵略を立証できる状態にしておくことは今後の人類の生命線にもなります。

 昨夜、セルジュさんと膝詰めで相談をして、神聖魔法を覚える方法があるとお聞きしました。

 残念ながら私には魔法の才能がありませんが、幸い私の長男ダヤルタが多少魔法が使えますし、レベルは足りないと存じますが、魔獣狩りにも参加してレベル2,967を持っております。

 ダヤルタをここの守備責任者として配置したいと思いますので、どうかよろしくお願いします。」


 男爵が会釈をして首を向けた先を見ると、少し日に焼けてはいるが亜麻色の短髪に焦げ茶の丸めの耳がよく似合う13、14歳くらいの少年が立ち上がって鯱張(しゃちほこば)ってこちらへと頭を下げてきた。

 身長は俺と同じくらいで少し細身、整った顔にはお父さんに似た実直そうな感じと(なり)を潜めてきた腕白そうな子どもらしさがまだ同居していて、視線が合ったとたんにダヤルタ君の視線が泳いで、頬をぼう、と赤くしながら視線を彷徨わせる様子から、揶揄ったらどうにでも振り回せそうな初々しさが匂っている。

(わあ、かっわいい。)

 思わず笑みが(こぼ)れそうになって、きゅ、と表情を引き締める。

 危ない、危ない。

 美少年に(なご)んでる場合じゃないから。

 母様に目を遣ると、優先処理でお願いね、と視線が飛んで来たので、了解、と頷いた。


 本来だとエグリスさんとジューダ君に神聖魔法の使い方の練習をしてもらって、その後にゴダルグの尋問に入る予定だったのだけど、順序を変更して午前中に引き続いてダヤルタ君に神聖魔法の習得訓練を付ける。

 レベルが約3,000というだけあって、ダヤルタ君は1時間と少しで神聖魔法を覚えたので、そこからはエグリスさんとジューダ君にも参加してもらって神聖魔法の使い方の練習をした。

 それぞれのレベル差も他のメンバーとやるよりは少ないので、3人で順に同化の練習をしてもらって、意思の疎通が思念でするようにアプローチしてもらうのだけれど、これがなかなか思念が通らない。

 なぜだろう、と練習の合間に彼らの意識の隙を狙って横からそっと確認してみたら……

 あー、思春期の男の子が妙齢の女性と思念を交換して自分が考えていることを読んでもらうって、ムリだわ。


 男だったからこそ分かる2人の男の子の思念に漂う雑念の名残を見ながら、どうしようかなあ、と考える。 

 練習を始めて少し時間も経っていたことだし、ちょっと休憩しましょうか、とお茶を用意してテーブルを囲んで雑談をして、それから練習再開のときに思いついたように提案をしてみる。

「私を入れればちょうど男女2人ずつだから、男性と女性に別れて練習をしましょうか。」

 今度は練習は上手くいって、ジューダ君はダヤルタ君のことを”ダヤル兄”と呼んで懐き始めたようだった。



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