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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第48話 証拠固めと外堀埋め。え、どういう意味です?

大変遅くなりました。



「…他に質問はありますか。」

 俺の問いにエグリスさんは首を横に振った。

 これで、アスリーさんとダイカルの2人の幽体を拉致できる施設を魔族が所有していることが立証された。

 証人としてマーモちゃんたちの姿では説得力に欠けるけれど、明日、セルジュさんがゴダルグを連れてきて人格の分割方法と復元方法が分かり、シェーパを攻略してアスリーさんの幽体全部を集めて復元して俺の体に戻せば、魔族がガルテム王国やアスモダをを侵略しようとしたことはもはや言い逃れができない。

 ダイカルが各国と協議して共同戦線を立ち上げて魔族討伐の戦争が始まるというのが母様の読みだった。


 ──で、母様の読みはちょっとこっちに置いて、俺はそわそわとしていた。

 その、ごく私的な用を足したいかなー、と思うのだけれどアスリーさんの幽体が入ったフェアリィデビルたちが俺から離れてくれなくて、仕方がないので分かるように伝える。

「あの、トイレに行きたいから離れてもらえないかな。」

「私にとっては自分の体が用を足すだけなので、気にしないでそのままどうぞ。」

 できるわけないでしょ。

 素体はアスリーさんかもしれないけれど、用を足してるのは俺な訳で、それを4頭のフェアリィデビルが立ち会うって、何の罰よ。


 でもこれ、どう言えば通じるだろう、と俺が躊躇っているのをフォースちゃんが感じ取って譲歩してくれた。

「私たちは幽体を分割されたことで、人の感じ方が理解できていないところがあると思うから、セイラの希望に従うことにする。ここで待ってましょう。」

 ほかのフェアリィデビルたちはフォースちゃんの言うことを聞いて俺の肩から降りてくれたが、マーモちゃん、彼らの呼び方で言うとファーストちゃんだけが動かないで俺の顔を覗き込んでくる。

「マーモちゃん、お願い、ここで待ってて。」

 俺が頼むと、マーモちゃんは、きゃきゃ、と(さえず)って降りてくれた。

「ファーストは、あなたの側にいるのが本当に好きなんでしょうね。」

 フォースちゃんの言葉を聞きながら俺はマーモちゃんの頭を撫でて、マーモちゃんが甘えた表情を見せるのに手を振りながら小走りでトイレへと向かった。


◇◆◇◆


 セルジュさんはビアルヌの町へ行って今日は戻る予定はないが、セルジュさんが教えてくれようとした意図はゲイズさんには伝わっていたらしい。

 恐らくゲイズさんが他の冒険者にセルジュさんの意図を噛み砕いて説明したのだろう、食事の頃になるとゲイズさんが仕切って冒険者に各種スタイルによる貴族のテーブルマナーの講義をしながら食事の準備と食事をして、冒険者たちは食事の準備と食事をギクシャクとこなしながらもテーブルマナーを少しずつ覚えていった。

 それを会わせて私たち女性陣も彼らの選んだ様式によるテーブルマナーで食事をすることにして──威城のメイドの4人にはときどき講義をしなければならないために多少カクカクとしていたのだけど──母様の教育の賜で優雅に食事を楽しむことができた。


 一番こだわりなく食事を楽しんでいたのは、俺たちが持ち込んだ食料から新鮮な肉と果実を分けてもらったフェンリルとフェアリィデビル、それにまーもちゃんたちだろう、彼らは食堂脇のテラスにそれぞれの集団ごとに集まって楽しそうに食事をしていた。


◇◆◇◆


 夕食の終わりにミシュルから呼び出しがあって、俺の他に母様、ティルク、威城のメイドにライラとサファ、それからエグリスさんの女性陣に、冒険者の男性たちから落雷の轟きのカウスさんにキューダさん、マイスさん、ヴァルスさん、ソルグさん、ゲイズさんの各パーティリーダーが集まった。

 

 なんだろうと思っていると、ミシュルからは、昼に俺がエグリスさんに講義をしながら考えていたのと同様に、魔族が他の人類に対して計画的に苛烈な侵略行為を行っている証拠が集まりつつある情勢を説明し始めた。

「まずサクルクの存在と研究内容が、魔族がアスモダとガルテム王国に侵略を行うために仕掛けた魔獣の移動事件とガルテムの国王と魔王妃を襲撃した事件の何よりの物証になります。

 これに加えて、シューパの製造方法とアスリーさんの幽体分割の罪が立証されれば、魔族は各国共通の敵として認定される可能性が高いです。」


 ミシュルはそう説明すると、明日、セルジュさんが連れて来るはずのゴダルグがアスリーさんの幽体を分割した実行犯であることを説明した上で、俺に話を振ってきた。

「セイラ、明日、ゴダルグが到着してからの確認で良いけれど、幽体の分割にはおそらく神聖魔法が関係しているわ。

 現在、分かっているだけで、神聖魔法には幽体操作ができ、光魔法と併用することで肉体の復元ができるという特異な力があります。

 でも、サクルクの所長が知る限りでは、魔族が確保していない神聖魔法が使える人間はセイラとティルクだけだった。

 もし他にもできることがあって、魔族が神聖魔法を自分たちだけで独占して優位に立とうとしているのだとしたら、神聖魔法がなくては対抗できない場合があるかもしれません。」


 ミシュルはそう説明して、今日、諮りたい本題を私たちに告げた。

「神聖魔法を覚えた人は魔族に付け狙われることになる可能性が高いので、それぞれの意見を伺いたいの。

 魔法が使えるメンバーから何人か、神聖魔法を覚えてよいという人を募集したいと思うのだけれど、どうかしら。」

 ミシュルの提案を聞いて躊躇(ためら)うことなくエグリスさんが手を挙げた。

「私はミシュルさんの読みを信頼します。

 幽体の分割と統合には神聖魔法が必要とミシュルさんが思ったのならば、私はできれば明日、ゴダルグが来る前までに少なくとも神聖魔法を、できるならば真性魔法までを覚えたいです。」

「エグリス、今のレベルでは神聖魔法と光魔法の同時起動でさえほど遠い状況です、欲張っても身につきませんよ。」

 ミシュルに窘められてエグリスさんは少し頭が冷えたようだった。

「ああ、そうですね。私ったら気ばかりが先走って。」


 ミシュルはエグリスさんに微笑むと、改めて説明をした。

「アスリーの件があるので、実を言うとエグリスが神聖魔法を覚えたいと言ってくれることはすごく助かります。

 でも、もう覚えてしまったセイラとティルクは別として、身の安全に関わることですので、ケイアナが了解する形で議論を進めて頂きたいと思っています。」

 そう言って、母様に預ける形でミシュルは議論を締めて、会合は解散となった。


 ……と思ったのだが、母様から呼ばれて、女性だけで少し打ち合わせがあった。

 議題は、俺がこの世界に召喚される前は男だったという件で、この世界に稀にあるという前世の記憶持ちの人たちの説明を受けた。

「セイラが男だったことを否定しようというつもりはないの。

 でも、セイラの事情を知る人は増えていくし、セイラが自分を男と認識していて、男に戻ることを目指している、という認識が広まれば、それを妨害しようとする人たちが出てくるわ。

 それを避けるためにも、セイラには、前世の記憶持ちと同程度の感覚で、”召喚される前は男だった記憶があるんですよ、不思議ですよね”、くらいで流して欲しいの。」


 母様のいきなりの提案に、どうなんだろ、と考えていると、ミシュルからアドバイスがあった。

「セイラは自分が”歌謡ショー”と呼んだ歌会を冒険者たちにやったことがあるけれど、あれを男がやっていたと思われるよりは不思議な記憶がある女性がやったと思われた方が良いでしょう? 」

 ミシュルが”歌謡ショー”といったのは、いつぞや母様にテンションを上げさせられて大仰な振りを付けて歌ったのを、往年の演歌歌手かロックスターかと表現してしまったときのことだ。

 ……ドレスを膝までたくし上げて脹ら脛に冒険者たちの視線を釘付けにしたことがすごく嬉しくて……

 そこまで思い出して、俺はぶるぶるっと身を震わせて母様に同意した。

「そ、それでお願いしますっ。男の記憶がある女の子で結構です! 」

(あ、あれを男がやったと言われたら、生きていけない。)


 話が決まった後、マーモちゃんたちを連れてティルクとお風呂に入ったのだけれどなぜかティルクが上機嫌で、寝るまでの間、すごく嬉しそうにしていたのが妙に記憶に残った。


 

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