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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第46話 密約。何でみんな、私に内緒で話を進めちゃいますか? (3)

大変遅くなりました。

リハビリとして書くには中身がありすぎて、書き込むにつれて話が逸れていって、5、6回書き直してこんな感じに。

正直のところ、今話は纏まらないかと思いました。

 ミシュルの指摘を受けて、母様は姉様の性格が女性寄りに抑えられているとの話を聞いた場面を思い返していたようで、腑に落ちない様子でミシュルに確認していた。

「さっきの場面は兄さんとセイラの遣り取りにミシュルが割り込んだのだから、私は直接関係がないのだけど、なぜ私がいたことが問題になるのかしら。」

 確かに、姉様がセルジュさんに(もてあそ)ばれていたのをミシュルが止めただけなので、母様には何の関わりもなかったのに、と私も首を傾げていると、ミシュルは苦笑交じりに微笑んで説明をしてくれた。

「そのとおりですし、今回だけのことならば問題はないと思います。

 でも私が予測したところでは、今後もセイラの事情を知る関係者が増える流れは変えられない情勢ですし、さっきのは、王太后であるケイアナがセイラの事情を知っていると周囲が思った最初の場面だったんだと思います。」

  

「セイラは自分の事情が拡散するのをすごく嫌がっているし、たぶんこれからもできる限り説明はしないわよね。

 それでもセイラの事情を知っている人は増えるというのね。」

 母様が考えながら疑問を口にするのを、ミシュルは肯定した。

「ええ。威城のメイドやセルジュにエグリスなどは、ダイカル側から情報が漏れているでしょう?

 セイラの身近な人や政府関係者の中に事情を知る人が増えることは仕方がないと思います。」

 母様と私は溜め息を吐いた。

 姉様が自分の事情が漏れるのを嫌がるのは当然だ。

 姉様がどんなに淑女になってもあれは男だと考える人が存在すれば姉様のアイデンティティの根幹に関わってくるし、そういう人達がたくさんいるという認識が姉様の精神をガリガリと削るんだろうから。


「ただ、セイラの事情を知っている政府の関係者なんか増えると王太后の意向よりも国王ダイカルに(おもね)ようとする勢力の方が増えてきて、ケイアナやダイカルの考えを理解しないまま、国王に取り入るのに良さそうな処理をしようとする者が増えるだろうことが問題になるんです。」

(ああ、忖度とか言うんだっけ。

 見返りが得られるかもしれないことを期待して誰かの利益になりそうな融通を勝手に利かせ始める最低の人たち。)


 私が場違いな物思いに耽っていると母様の鋭い視線を感じてちょっとビビった。

「困ったね。

 私たちはこれから、シューバやアスモダ東部のモンスターだかの討伐に向かうことになる。

 もしそれが成功して魔獣の移動が解決でもすれば、私に同行している皆は一躍英雄扱いされて、特にダイカルの婚約者セイラの注目度は上がる。

 ミシュルの言うとおりになるなら、これは大きな火種になるわ。」

(うん。さっき、私の姉様への気持ちが母様にばれるまで問題があるなんて少しも考えなかっけど、これ、私が関係してることが分かったら、鬼人族もガルテム王国と戦争になったりするんじゃ…… )


 母様と私の想像は悪い方にばかり向かって、場の空気はだんだんと重たくなっていった。


◇◆◇◆


「ああ、止め止め。ちょっと気分を変えるわよ。」

 母様がお茶にすることを提案してくれて、隣室の応接室に私たち全員で移動して、お茶とお茶菓子を用意して応接セットに座り直し、少し雑談を楽しむことにした。


「それで、セイラとティルクの仲はどんな進展具合になっているの? 」

(あの、母様。話題を変えたんですよね? )

「あ、あの、姉様は今は男の意識を眠らせているので……」

 しどろもどろになった私をミシュルがフォローしてくれる。

「セイラは女性の体に浄化される勢いで男の意識が減っていて、近いうちに男としての意識が消失するのが避けられないところまで来ていたの。

 それで、状況を改善するために取りあえずセイラの男の意識を凍結して、今、セイラは男の意識がない状態で過ごしているのよ。」


 それ、大丈夫なの?、と問う母様にミシュルは首を横に振った。

「今はセイラの気持ちだけで持ち堪えている状態で、長くは続かないわ。

 前に使った男の人形があるでしょう?

 月に一度、あれにセイラを移したときにだけ男の意識を戻して男の意識を増やすことにしているの。」

「セイラが選択の余地もなく女になることだけは私は嫌なの。

 あの子には自分で納得できる人生を生きて欲しいわ。

 ミシュル、ティルク、セイラをお願いね。」

 母様に頭を下げられて、私はうわずった声で、はい、と返事をした。


 母様から勿体ないような言葉を聞いたと私がせっかく感動していたのに、母様は何だかにまにまと意味ありげな視線を私に向けると爆弾を放り込んできた。

「でも、そういうことなら、ティルクは今後、重大な任務を任されることになるわね。」

(??? )

「セイラが男性の人形に入ったときには、ティルクがセイラをエスコートして、セイラの男の自覚が高まるように、女の子として精一杯お手伝いをしてあげるんでしょう? 」

「か、か、か、母様!? 」

 ぼふっと音を立てるように顔が一気に火照って狼狽(うろた)える私を母様とミシュルが楽しそうに見詰めている。


 以前にどさくさに紛れてちょっと触った姉様のアレのことが思い浮かんできて、ああどうしよう、と困惑し始めた私に、母様が真面目な顔に戻って釘を刺してくる。

「でも、お父様からお預かりした大事な体だからね。

 ティルク、一線は超えちゃ駄目よ。」

(そう思うなら(あお)らないでください…… )

 一気に疲れた私だったのだけれど、私たちの会話を側で訊いていたミシュルが、あ、そうか、と呟いた。


「セイラの召喚前の記憶のことは、ケイアナとティルクの間の話のタネのレベルで済ませてしまいましょう。」

 はい?、と首を捻る母様と私にミシュルが焼き菓子をかじりながら説明する。

「セイラの記憶は、女神リーアが干渉して、忘れた訳ではないけれど、少し距離感のある記憶と感じるように操作されているのよ。

 だからついでにセイラとも口裏を合わせて、召喚前のセイラの経験を前世の記憶持ちと同じレベルの話にしてしまうの。」

 前世の記憶持ちってなんだったけ、たしか、前世の記憶を持っている人がたまにいて、笑い話のネタになっているとかなんとか……と、よく思い出せないでいる様子の私を見たミシュルが説明してくれた。


「生き物の幽体は、そこら中に自然分布している幽体因子というものが集まって形成されていて、生命が生まれる都度、近くの幽体因子が必要量集まって形作られ、死ぬとバラバラの幽体因子に戻るとされているわ。

 それで、たくさんの幽体因子が必要な人などの場合は、たまたま付近の幽体因子が少なくて、近くでさっき死んだ人の幽体因子があったとかの偶然が重なったりして、死んだ人と同じ幽体因子の割合が高い幽体ができてしまったために、以前の幽体のときの記憶の一部を引き継いでいることがあるのよ。

 それで、前世の記憶持ちは女好きの中年男の記憶がある少女や、娼婦の記憶がある神父とかの、とんでもない組み合わせが面白半分で話題になってきたの。

 今では様々な研究や経験則から、前世の記憶は具体的な経験から切り離された夢のようなもので、真面目に考える必要もないし、本人の性格とは関係がないことが常識とされているわ。」


 そういう訳で、とミシュルの説明に頷く母様と驚く私を見ながら、ミシュルは私たちに提案をしてきた。

「セイラを説得して、表向きはセイラの召喚前の記憶のことも、前世の記憶持ちと同じレベルの話ということにしたいと思います。

 少しだけ男に戻る確率が減るけれど、情報管理を気にする必要もなくなるし、母様やティルクやセイラに対する不要なちょっかいも減るし、総合的に考えればその法が良いとセイラも納得すると思うの。

 2人とも、他の皆を説得して、口裏合わせに協力してね。」


 母様はミシュルの提案に頷きながら、私にもう一つの提案をしてきた。

「ティルク、あなたとセイラが男女の仲で結ばれるのならば、私は祝福します。

 でも、そうできなかったときは私はダイカルのことを考えなければいけません。

 もしティルクがセイラと男女の仲になれずに、それでもセイラと一緒にいたいと思ったときには、2人でダイカルの妻になるようセイラの説得に協力してくれるかしら。」

 母様の提案に驚き、え、私がですか?、と尋ねると、母様は更に説得を重ねてきた。

「セイラが目立っているけれど、ティルクもセイラと同等の功績と美しさや気品を持っていることは私が保証するわ。

 鬼人族との関係強化にも繋がるし、私もティルクを本当の娘にできるチャンスだし、ダイカルに自信を持って推薦できるわ。」

 母様の提案を考えて──私は母様の後押しが得られると思ってきっと舞い上がっていたのだと思う──私は母様の提案を受け容れた。


 そうして、姉様に秘密の約束をした私たち3人は微笑みあって、今後の対応について相談し始めた。



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