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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第44話 密約。何でみんな、私に内緒で話を進めちゃいますか? (1)

誤字報告の労を執ってくださった方、話が進められずに落ち込みがちな状況で、ものすごく励みになりました。

大変ありがとうございした。

 セルジュさんの男女の扱いを議論していたはずが、セルジュさんが攻勢に転じてから俺は何だか動揺してしまって防戦一方になった。

「そういえば、セイラさんはなぜまだ男に戻りたいんです? 」

「な、なぜって、元々が男なんだから、男に戻りたいと思うのが当然でしょ? 」

「召喚されたこの世界では最初から女性だったんですよね。

 いわばこの世界では女性としての経験しか積んでいない訳だし、女性の体や生活にももう随分と馴染んでしまっていますよね? 」

「馴染んでいようがいまいが、やっぱり男の方が良いんですっ。」

「勿体ない。あなたは女性として皆が羨むような気品と魅力を身につけているんだから、今さら男に戻らなくても良いでしょう? 」

「み、み、魅力や品があるかどうかは他人の判断であって、私自身はそう言われても全然嬉しくないんですっ。」

「本当ですか? 頬も耳も真っ赤になってますよ。」

「本当ですってば! これはセルジュさんが…… 」

 ……

 いいようにセルジュさんに遊ばれていた。


 見かねたミシュルが助け船を出してくれる。

「セイラはある事情があって、今は性格があえて女性寄りに抑えられているんです。

 なので、あんまりそこを突いて(いじ)めないでくれると助かります。」

 それを聞いて、セルジュさんがへえという顔をし、母様がなんだろうと興味のある素振りを見せたが、男としての意識を故意に眠らせている話をすることに危機感を覚えた俺は、この話題をスルーしてくれるように目線で母様に必死でお願いした。

 俺の願いは通じて母様は敢えてそれ以上は踏み込まないことにしてくれたのだが、俺の事情を脇に置いた母様が次に興味を持ったのは、ミシュルが俺の事情を説明し始めたのに慌てて俺の後でスカートの裾を一生懸命に引っ張って俺の注意を引こうとしているティルクの姿だった。


◇◆◇◆


「……あんまりそこを突いて苛めないでくれると助かります。」

 ミシュルが兄さんに説明しているのを、私はやや意外な気持ちで聞いていた。

 私とミッシュの間に契約関係はないが、私が娘と可愛がっているセイラやティルクに関する情報について、2人の使い魔であるミッシュはかなりよく話してくれていると感じていたので、説明されていない事項があるというのがすぐに飲み込めなかったのだ。


 まあ、ミッシュがセイラに関する何もかもを私たちに知らせる必要がないのは当然なのかもしれないわと思い直して受け止めようとしたのだが、ふとティルクの姿が目に入って、ティルクがセイラの事情を知っていたらしいことに気が付いた。

 私は訓練に関しては厳しいけれど、セイラとティルクとは本当の母娘のように思い接していて、お互いに信頼の絆で結ばれていると思っていただけに、セイラの現在の性格が女の子寄りに抑えられているという件について、私だけが蚊帳の外だったと知ったのは少しショックだった。


(セイラが女の子寄りの性格になっていることを私が知るのは、セイラにとっていけないことなの? )

 傷ついた気持ちを抱えて自問しながらそのことを表情や視線から気取られないように、2人に向ける視線を尖らせないように注意しながら2人の仕草を眺めていて、私はある違和感に気が付いた。


 セイラが前に立ちティルクが後という立ち位置はいつもと同じように見えて、ティルクがセイラの背中に隠れて怯えたようにこちらの反応を窺う姿は、まるで男女のカップルのような……

(……え? )

 疑いが立って、改めて2人を検分する。

 ティルクの守られながら隙あらば反撃しようとするような姿には、正に恋人であろうとする女の子の匂いがして、そう思えばセイラの立ち姿はティルクを男性として護っているように見えなくもない。


(そういえば2人は毎晩一緒に寝ているのよね。)

 もしや2人は──

 はっとして改めて見詰める私の視線をティルクが気遣わしげに窺う。

 私はセイラとティルクの女性であると主張する体のあちこちを見比べ、関係の深さを測ろうと点検していて、ティルクがふいに私の視線の意味を悟ったのに気が付いた。


 さーっとティルクの顔から見る間に血の気が引いて、でもセイラの方へと親密な関係を示すような近寄り方をしようとしたのを途中で止めて呆然としている様子から、自分が隠している秘密を知られてしまったという感情が渦巻いているのが生々しいほどに読み取れる。

 そのことに私は2人の関係に確信を抱いてセイラへと視線を移したのだが、意外なことに、セイラの仕草や表情にはティルクに対する特別な感情の何も映してはいなかった。

 ティルクがこれほど分かり易く愛情を向けているのに、セイラが反応していないのはなぜだろうと考えて気が付いたのは、セイラが男に戻るために自分の女性の体からは潔癖であろうとしてきたことだった。


(ああそうか、元々セイラの恋愛観は頑ななまでにノーマルで、しかも異性の今の体に流されることを恐れていたわね。

 それなら、セイラとティルクの今の関係は…… )

 いろいろと考えて、今の2人にぴったりな状況に推測がついた。

 ”セイラは男に戻ったときの恋愛対象としてティルクのことを考えて良い程度にはティルクを思っているが、ティルクはもう少し踏み込んでしまっている。”

 恐らくこれで間違いないだろう。


 私としては、セイラがダイカルと結ばれてくれるのならば言うことはないが、だからといってセイラが男に戻ることを邪魔するつもりはないし、まして男に戻ったときの連れ合いに干渉するつもりは全くない。

 もしティルクがセイラとの関係を望むのならば、そのことはティルクにも知っておいてもらいたい。

 だから、今は交通整理だけをしておこう。


 私はティルクにセイラとの交際は基本的には問題がないことを伝えるつもりでティルクに近寄り、ティルクが蒼白な顔色でガタガタと震えていることに気が付いた。

 これは早くティルクを安心させてあげなければと、ねえ、ティルク、と私はやや急いで呼びかけて──

 私の呼びかけを聞いた瞬間、ティルクの黒目がくるりと上がって白目を剥き、顎がゆっくりと突き上げられて細い首が晒されて、しばらくして首がゆらりと揺れたと思うと急に上半身が(くずお)れて、ガタンと大きな音を立ててティルクが椅子から転がり落ちた。


 よほど強いストレスが掛かったのか、ティルクは完全に意識を失っていて、首と後頭部が鋭角に曲がる危険な角度で倒れたのだが、幸い、もう出掛けるつもりで立ち上がっていた兄さんがティルクが床に落ちる前に慌てて抱き留めてくれて私は胸を撫で下ろした。


(これは、やはり一度、ティルクときちんと話をするべきだわね。)

 ビアルヌへ行くに当たって、兄さんはフェアリィデビルのことで話をしたかったようなので、セイラのことは兄さんに任せて、私はティルクをベッドに運び、ついでにティルクと話をすることにした。

 ティルクを運ぼうとする私を見て、ライラたちが手伝いを申し入れてくれたのだが、私が軽く目配せをして自分がティルクを連れて行くことを伝えると、ライラたちは私に何か用件があることを察してさりげなく引き下がってくれた。


 私はティルクを抱き抱えて寝室に行くと、ティルクをベッドに寝かせながらどうしようかと考える。

 セイラやティルクと契約しているミッシュに秘密は意味がないだろうからそれは仕方がない。

 大事なのは、ティルクやミッシュに対して、セイラが男に戻ることやセイラが男として将来を築こうとすることには私が介入する気がないことをきちんと理解してもらうことだ。

 私はベッドサイドでティルクが目覚めるのを待ちながら、さあどう整理しようかしら、と考えを巡らせた。



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