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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第43話 後始末は大変。懇切丁寧をモットーとしております(2)

 俺は女性たちと厨房にいたので、セルジュさんが冒険者たちを教育する現場を直接見ていた訳ではないけれど、女性から距離を取ってサポートをしていたセルジュさんが、男性に対してはかなり遠慮のない教育をしたのだろうことが窺えた。


(セルジュさん、女性にはあんなに優しかったのに、男性が相手だととたんに容赦がないんだなあ。)

 ゲイズさんがかなり深刻な表情で落ち込んでいるところを見れば、俺は間違いなく女扱いされてちゃっていることが分かって少しだけ腹は立つけれど、言ってしまえばいまさらではあるし、精神を削られずにすんでいることは単純にちょっとほっとしてしまうな。


◇◆◇◆


 食事を終えてお茶を飲みながら、母様から今回の討伐における俺とティルクの報告を求められた。

 私たちは俺が話しティルクがサポートする形で報告を進め、実態は不明ながら、神聖魔法に闇魔法を添えて同化することで彼らの表現を借りると”こちらの魔力を一瞬で食っていた”ことや、神聖属性を昇華した神性属性によって、同化した人の記憶を読みながら意のままに操ることができることなどを説明した。


「神聖属性は属性として登場したこと自体が割と最近でね、使い手が少なくて、よく分からないところがある魔法なのよ。

 少なくとも私が魔法に精通していた当時にはなかった魔法だわ。」

 ミシュルがさりげなく現れて解説をしてくれる。

(つまり、ミッシュが神を名乗っていた頃や神の力の大半を捨ててしまうまでの間にはなかった魔法属性ということよね。

 これ、ミッシュの神の力を集めて回ったという敵が何かして作り出した魔法属性っていうことなのかな。)


 気が付いた疑問はミッシュの前歴や敵の力に関する事柄になるために口に出すことができない。

 なので思念を込めてミシュルに送ると、ミシュルはこちらを見て頷いた。

(──魔法属性自体が敵が開発した属性なんだ!

 それならばこの属性、もっと詳しく調べないといけないよね。)

 俺が神聖属性の取扱いを考えていると、ミッシュから思念が飛んできた。

『さっきも言ったとおり神聖属性は敵の開発した魔法だ、何が仕込まれているか分からないところがある。

 特に神性属性は俺も興味があるが、ティルクも含めて、当面は俺が調べたいと言うときまでは使わないようにしてくれ。』

 俺はミシュルにそっと頷いた。


 神聖属性についてはそれで話は終わったが、魔族以外の種族に少数いるという神聖属性持ちに魔族が対応策を講じていた話が残っている。

 俺はドグニゴー所長が触れた話として、魔族があらかじめ他種族の神聖属性持ちを個別に調査・把握していて、侵略に先立って彼らの誘拐を完了済みだになっていることを話した。

「そういうことだったの。」

 この話を聞いた母様は思い当たることがあるようで、表情を一気に険しくして呟いた。


「以前に特定の地域や家系に被害者の多い誘拐事件が多発して、何かあるんじゃないかと噂になって、国でも調べたことがあるの。

 私も詳しくは知らないのだけれど、組織的な関与が疑われるけれど、で終わったんじゃなかったかしら。」

 母様がそう言うと、後をセルジュさんが引き継いだ。

「そうだね。私もエルフの神聖属性持ちの誘拐を調査したが、決して思いつきや行き当たりばったりではできないほどに、どの犯行も手が込んでいる。

 単独や少数でできそうな感じもないのに、手掛かりがどこにも残されていないんだ。

 どの事件もまるで1人の意思に完璧に制御された集団が何組もいるようなあり得ない感覚だったが、神性属性でできることを聞いた今ならば理解できるな。

 サクルク所長のドグニゴーは自爆させられて死んでしまったが、ドグニゴーの証言と状況が魔族の犯行を裏付けている。

 神聖属性持ちの誘拐は神聖属性を使った魔族の仕業で間違いないだろうな。」


「兄さん、それ、魔族が他種族の全てを対象として侵略を行っている証拠が出てきていたということでいいわね。」

 母様はセルジュさんに確認すると、再び考え始めた。

「これは私たちだけで抱えていていい問題ではないわね。


 セイラ、ティルク、ミッシュ。

 明日、詳細は後で打ち合わせるから、3人でカエンチャまで飛んで、アスモダの政府筋やガルテム王国の領事館に連絡を取って、彼らに早急にここまで来てもらうように手配してもらえないかしら。

 それと、兄様はビアルヌ男爵のほうに連絡を取って、このサクルクの管理をお願いできるように相談してもらえないかしら。

 私たちが出て行った後に、ここを放置する訳にはいかないもの。」


「了解だ、ケイアナ。この後すぐにでも行ってこよう。」

「セルジュさん、ちょっと良いですか。」

 セルジュさんのすぐにでも、の返事に母様が苦笑しているのを見ていて、ふとシューバもどきと同化したときに知った冒険者たちのことを思い出していた俺は、ついセルジュさんに声を掛けてしまっていた。

 何ごとかとこちらを見るセルジュさんに伝える。


「ここのシューバもどきに幽体を閉じ込められているビアルヌの町の冒険者たち3人の名前を教えますので、ビアルヌの町へ伝えてあげてください。」

 続いて俺が3人の名前を挙げると、セルジュさんから問うような視線を浴びた。

「シューバもどきに手を出して冒険者たちに影響がないのかが分からなかったので、彼らの闘争心を抑えるために同化したんですが、その時に心の中に現れた私を見て、彼らは私を自分の恋人たちだと思って呼びかけてきたんです。

 しかたがないので、私も彼らの恋人たち─2人は片思いでした─の振りをしてそれぞれの名前を確認しました。」

「──男の君が彼らの恋人の振りをするのは気持ちの上で大変だったろうに。」


 興味混じりに問うてくるセルジュさんに実態を悟られたくなくて、俺はことさらにこともなげな振りをして答えた。

「彼らが失おうとしたもののことを考えれば、それくらいは何でもないです。

 大事なのは彼らができるだけ後遺症もなく元に元に戻って、彼らの周りにできてしまった日常との距離をなくそうと努力することだと思いますから。」

 セルジュさんはじっと俺を見ていたが、なるほど、と言うと納得したような笑顔を見せた。

「やはり君は勇者なんだな。

 私にはできそうもないよ。」


 俺は、この嘘つき、と思った。

 実のところ、セルジュさんは男性にも女性にも優しい。

 功成り名を遂げて貴族に叙せられた冒険者の実に7割以上が家督を維持することができずに潰れているのは、俺が母様からの講義で習った事実だ。

 残りの3割のうちの大半は元が貴族で実家なりの伝手で腕の良い家令を配することができたために家督を継続することができているに他ならない。

 セルジュさんはそのことを知っていて、元貴族のゲイズさんですら再び貴族に叙せられたとしても、単独では家督を維持でないことを教え、冒険者の皆が将来きちんと身を立てて行かれるように教育を始めようとしていたのだということが、教養と神聖属性を持った俺になら分かる。


 そして、セルジュさんの過度な女性への甘さは跡継ぎたる妹を壊れ物のように大事にしてきた彼の態度が、過剰とも思える男性への厳しさは一緒に家を出てS級冒険者へと育て上げて再度貴族へと家を興させた弟への彼の態度が、一番楽なスタンスとしてセルジュさんの身についてしまっているだけなのを、神聖属性で先日同化して治療した俺は知ってしまっている。


「セルジュさんは、こんなに優しいのに、タールモア家を母様に譲り、弟さんを貴族にした後は物事が流れるに任せて、ご自分のための人生を生きておられないじゃないですか。」

 神聖属性でつい読んでしまったセルジュさんの境遇、これが俺は大いに不満だった。

「私に、もっと足掻いて見せろと言うんだね?」

 俺は頷いた。


「私も男か女かで足掻いていて、セルジュさんを見ていたら分かるんです。

 セルジュさんは男性にも女性にも等しく優しいのに、ただその優しさを人に理解してもらうように上手く繕おうともしないでただ引き籠もってらっしゃるじゃないですか。

 でもここの冒険者は、先ほどセルジュさんが何を教えてくれようとしたのかは朧気(おぼろげ)に理解しています。

 ここには母様もいますし、この際です。

 私たちと一緒にもう一度ガルテム王国でセルジュさんの家を興しましょうよ。」

 俺が口を尖らせムキになって食ってかかるのを、セルジュさんは面白そうな表情で見詰め返してきて、まるで今まで気が付かなかった新しい一面を見つけたとばかりに興味深げに俺のことをじっくりと検分し始めた。

 それから母様の方を向くと、俺のことなど無視して母様と相談を始めた。


「ケイアナ、私はどうも大きな見落としをしていたようだ。

 セイラさんのこの態度を見ていると、この際、委細構わず我が甥とセイラさんを結婚させてしまってから問題を考えるのが最良だと思ってしまうのだがね。」

「全くだわねえ。」

 顎の下で組んだ両手を左右に揺らせながら間髪を入れずに返ってきた母様のあんまりな返事に、俺は助けを求めて周囲に視線を彷徨わせた。

 そして、感情に走ってセルジュさんに向かって声を張り上げ始めたときから一生懸命にスカートを引いて、俺の注意を引こうとしていたティルクに気が付いた。 



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