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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第41話 サクルク制圧~碌でなしどもを懲らしめろ!

 姉様が私の手を握って引っ張って皆の元へと駆ける。

 私は、ドグ何とかという名のさっきの男に操られてしてしまった姉様とのキスの感触の名残に意識が集中して、唇が腫れ上がるんじゃないかと思うくらい、そこを指で撫で回していた。

 姉様に手を曳かれた体がふわふわとして、自分のものじゃないみたいなのに姉様はいつもどおりに振るまう。


 私が持っている姉様への好意をドグ何とかに利用されたことは姉様も分かっている筈なのに、姉様は何も聞いてこない。

 私はそのことをどう考えて反応すれば良いんだろう。

 怒る?、いじける?、拗ねる?、悲しむ?、それとも、笑う?

 どれも違っているし、どれも当たっていると思う。


 たぶん姉様は、姉様が男の姿に戻ったときのことを私が気に掛けているのを知っているから、そのことに絡めてどこかに着地点を見つけて納得したんだと思う。

 私としては姉様がどんな風に納得したのかがすごく気になるけど、姉様がどう納得して平気な顔をしているのかなんて、怖くて直接聞けないよ!


 私が少なくとも男の姉様に好意だか関心を持っていることを姉様は知っているし、そのことを拒否された訳では全然ない。 

(なんだ、大丈夫じゃない! )

 何が大丈夫なのかは分からないけれど、私が拒否される状況じゃないと確認できてすごく元気が出た。


 よおし。

 うん、何でも来い!

 ……あんまり怖くないやつ。


◇◆◇◆


 俺とティルクはマーモちゃんたちを2頭ずつフードに入って肩の左右から顔を出してもらう形で移動を開始した。

 ちなみに俺の右肩にマーモちゃん、左肩にフォースちゃんがいて、ティルクの左右の肩にはセカンドちゃんとサードちゃんがいる。

 念話の内容はマーモちゃん以外はしっかりと大人で、本当はちゃん付けはおかしいのだけれど、可愛らしい姿を見るとどうしてもちゃん付けしたくなる。


 サクルクのドグニゴー所長は倒したのだけれど、警備要員はまだ10人近くがいるはずで、それがどうなったのかを私たちは知らない。

 だから用心しいしい、シューバに接近するための魔道具を探すことにしたのだが、3階の廊下を回って反対側の部屋の端の方に、監禁部屋の護衛の男から得た魔道具置き場のイメージと同じ部屋が見つかった。

 鍵を使って部屋を開けて中に入り、魔道具やら何かの研究成果やらを全部収納空間へと放り込んで外に出ると、トーマちゃんを先頭にフェアリィデビルたちが集まっていた。


「きゅきゃきゃきゃ、きゅきゃ、きゅきゅ、きゃ! 」

 トーマちゃんが高らかに何かを訴えてくるけれどさすがに解らないので、念話で何を言っているのかを確認した。

『僕がボスになって、この辺に敵がいないのを確認した!』

 おお、トーマちゃん、ボスになったのか。

 トーマちゃんは、俺とティルクのフードにいるアスリーさんのフェアリィデビルたちと顔を合わせるとほかのフェアリィデビルたちに向かって何かを指示して、1頭ずつやってきてマーモちゃんたちに声を掛けていく。

 なんかの挨拶をやっているんだろう、後でフォースちゃんに聞いてみよう。


 下の階に降りると、戦いにはすでにほぼ決着が付いていたのだが、1室の前ではまだ小競り合いが続いていた。

『ああ、セイラにティルク、待っていたんだ。』

 ドグニゴーとの戦いで注意してくれたミッシュが今度はここで待っていた。

 ミッシュはドアの下からニュルリと出てきては引っ込む鞭のようなモノを横目で睨みながら話し始めた。

『部屋の入口を守っている魔物が何体かいるようなんだが、あれはシューバの改良種のようでな、人間の幽体が入っているのでないかと手を出しかねているんだ。

 それから、そいつらを操っている研究者らしき奴らも中に立てこもっていてな、やはり手が出せない。

 悪いが、セイラたちの同化の能力で捕まえてくれないか。』


 俺とティルクは顔を見合わせて頷くと、少し相談をした。

「ティルク、私がオートモードリバースで神性魔法を使うから、私の魔法を受け取って練習して。

 元になる属性があるしそんなに難易度は高くないから、すぐに覚えられると思うわ。

 それでね── 」


 打ち合わせが終わって、手分けして攻略を始める。

 俺がシューバもどきを責め、ティルクが研究者を責める分担だ。

 アスリーさんと同じ部分の幽体がシューバもどきに使われているのならば、闘争心と自制心が魔物を動かす原動力になっているはずで、だから俺がそれを満たしてやる。

 彼らが暴れなければ元の体に戻れることを説得し、闘争心の向く先を彼らをこんな目に遭わせている者達との戦いに向けられるように同化して働きかけていく。


 彼らは3人いたのだがそれぞれが好きだと思っている女性の姿を思い浮かべ始め、俺は親密さの度合いが分からない彼らの思い人の代わりを務められるよう、慎重に、そして控えめに演じた。

『ああ、○○、愛している! 』

『私もよ。だからお願い、無事に帰ってきて! 』

 知らない男たちの恋人の振りをすることの恥ずかしさに身を捩って頬を染め、心にずうんと来るダメージに歯を食いしばりながら、男たちには軽く抱き締められたところではにかむような愛想笑いを浮かべ、それ以上には進めさせせずに戦闘からの翻意に意識を向けさせていく。

(ああ、もう、こんちくしょう。

 こんなこと、絶対にティルクになんかやらせられるもんか!! )


 俺が心が折れそうになりながら、純情なティルクにはこんなことはさせられないと頑張っている間に、研究者たちはティルクから神性魔法に似た攻撃を受け、所長であるドグニゴーに裏切られたと信じて騒いでいた。

『あ? ここはどこだ!

 まさか──。

 大変だ、俺たちは所長に売られたに違いない! 

 所長! 聞いているんでしょう?

 この裏切りは許されませんよ!!

 我らの聖なる指導者は…… 』


 疑心暗鬼になってドグニゴー所長への抗議を繰り返す研究者たちに向かって、ティルクは俺がドグニゴーにやったのと同様、研究者たちの心に同化するために、ドンドンドン、と叩き付けるように魔法を起動しながらもう一段深いところまでの同化を目指していた。

 その結果として、研究者たちはティルクが作り上げた別の世界に精神を拉致されて至近距離で爆撃が繰り返されているような塩梅になっていて、もう心が折れそうになっているのがわかるのだが、むしろここはティルクが神性魔法を身につけるまでの練習台としてもう少し踏ん張って欲しい。


 現実には、立てこもった部屋のドアの向こうで研究者が青い顔で痙攣しながら助けを求めているのだが、冒険者たちがドアを壊して研究者たちを確保しようとするのを慌てて押しとどめて部屋の中へ押し込みながら、ティルクが後どれくらいで魔法を習得できそうかを推測する。

 研究者たちの様子を見て心配そうな顔をした冒険者たちに、代わりに練習台になってくれる?、と聞いて、ぶんぶんと首を振る様子を確認して、じゃあ、もう少しだけ待って、と押しとどめて、もうちょっと頑張れ、と研究者たちの踏ん張りに期待していたら、バシュウッとティルクが神性魔法を習得した音がした。


「ティルク!

 今、エグリスさんを呼ぶからそいつらを失神させるんじゃないよっ! 」

 すかさず母様から指示が飛んで、ティルクは光魔法を併用して研究者を治癒したのだが、精神攻撃を受ける形になってしまった研究者の精神は相当に削られたようで、呆然と目を見開いたまま、エグリスさんの尋問にほとんど反応できない研究者もいたけれど、まあ、仕方ないよね。


 詳細はまた精神が回復した後で尋問することにして、研究者たちが立てこもった部屋の奥にいた獣人たちの体と幽体をどう復元するかに絞ってエグリスさんは尋問を続けてくれて、休ませてくれ、考えさせてくれと哀願する研究者を引き摺って連れ出し、水浸しの状態で連れ戻して尋問を再開していたのは、ゲイズさんだ。

 ゲイズさんはかなり怒っていて、その原因はと見ると、俺たちに見えないように隠してくれていたのだが、部屋の奥にシューバもどきに使った残りの幽体を持った獣人たちが監禁されていた状態がかなり酷かったようだ。

 神性魔法を使うよと言って冒険者たちが嫌々話してくれたところでは、彼らはシューバもどきに影響しないように幽体全部が生きていることのみを考慮した結果として、マーモちゃんたちとは違って残った幽体の形を考慮せずに、単なる残り物として生きていることしか重視していなかったらしい。

 そのために、彼らは皆理性のない生き物として涎や排泄物を垂れ流し、檻の中で薄汚れた格好のまま蹲って、ろくに食事も与えられていない為に針金のような痩せ方だった。


(あれほど殺気立ったゲイズさんを見るのは初めてだな。)

 そんなことを考えたのが最後だったろうか。

 俺はティルクの手を握ってマーモちゃんたちを膝の乗せたまま、ティルクと2人で疲れて眠っていたようだった。

 目が覚めたときにはもうサクルクの制圧は終わっていて、俺とティルクはサクルクの中でもひときわ上等な来客用のベッドで目が覚めた。



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